2012年10月28日日曜日

"Hedge Funds: An Analytic Perspective" by Andrew Lo


Andrew Loの"Hedge Funds"を本格的に読み始めようと思っている。それで調べてみたらほとんどの章は過去の論文がほぼそのまま掲載されていて、過去の論文もネット上に公開されている。本を持ち歩かなくてもいいように、リンクをここに整理しておく。

2.3 Shifting through the wreckage: Lesson from recent hedge-fund liquidations(PDF)
3 An econometric analysis of serial correlation and illiquidity in Hedge-Fund returns(PDF)
4 It’s 11pm ? do you know where your liquidity is the mean-variance-liquidity frontier(PDF)

5 Can hedge fund returns be replicated?(PDF)
6 Where do alphas come from?: A new measurement of active investment management(PDF)
7 Do hedge funds increase systemic risk(PDF)
7 Systemic risk and hedge funds(PDF)
9.3 The adaptive markets hypothesis(PDF)
10 What happened to the quants in august 2007(PDF)


そういえば、ようやく日本でもKindleが発売された。Kindle Paperwhite 8,480円、Kindle Fire 12,800円、Kindle Fire 15,800円。安いですね。でも残念ながら洋書の値段は逆に高くなるようです。日本Kindleストアオープンと同時に、日本からAmazon.comのKindle本を買う場合の値段が上がったようです。その理由について大原ケイさんが解説しています。

なぜアマゾンで洋書Eブックの値段が上がったのか?





2012年10月20日土曜日

山中さんノーベル賞、森口氏臨床虚偽、『論文捏造』(村松秀)

今月8日、ノーベル医学・生理学賞受賞が決まった京都大学・山中伸弥教授。生命科学の常識を覆し、体のさまざまな組織や臓器になるとされる「iPS細胞」を開発してからわずか6年という異例の速さでの受賞。挫折と失敗を繰り返しながら研究を続けてきた山中教授のNHKスペシャルが2012年10月21日(日)午後9時00分~9時58分に放送されるので、これは見なければ。


一方で、東京大は19日、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の臨床応用の大半を虚偽と認めた同大病院特任研究員の森口尚史氏(48)を懲戒解雇処分にした。
森口氏の事件がきっかけになって、積読のままだった『論文捏造』(村松秀)を読み始めたら面白くて止められなくなった。

『論文捏造』(村松秀)は、面白い。お薦めです。ベル研究所でヤン・ヘンドリック・シェーンが起こした超伝導に関する空前の論文捏造。研究チームのリーダー、共著者の責任の範囲。科学ジャーナルのいい加減さ。大学と民間研究所の違い。物理において「嘘」を証明することの難しさ。残された課題は多い。
シェーンの論文は2年半の間に『ネイチャー』に7本、『サイエンス』に9本掲載。科学ジャーナルは、実は再現性も正確性も全く保証していない。編集者にその能力はない。実は、レフェリーの一人は疑問を編集者に投げかけていたのだが、レフェリーの意見は無視されてそのままシェーンの論文は掲載された。他誌との競争の中、センセーショナルな論文をえり分け、急いで掲載する流れが明らかにある。
『ネイチャー』『サイエンス』に論文が掲載されることは科学者にとって名誉で大きな実績として認知される。この実績は科学者の評価基準となり、より魅力的なポストにつくのに不可欠。研究施設側からも評価の目安になる。国などの公的な研究費の審査に際しても大変重要な価値として認められることになる。超一流雑誌に掲載されれば、それが担保のように次のポストや研究費獲得につながるわけだが、実はその担保には科学的な裏づけが取られていなかった。雑誌がインパクトファクターを重要視するあまり、内容よりもとにかくセンセーショナルな論文を求めたがり、チェックも緩いままに掲載してしまう傾向がある。
日本が世界に誇る有機物超伝導の大家、東北大学大学院の谷垣勝巳教授の有機物超伝導は有機物にアルカリ金属をごく僅かに混ぜる手法。『ネイチャー』に掲載された論文で超伝導が実現した温度は、マイナス240度(33K)。一方、シェーンの手法は有機物の上に薄い酸化アルミの膜を載せるというもの。シェーンの方法は世界中の研究者が誰も再現できなかった。酸化膜を載せるのはトランジスタの世界では常識だったが有機物の人にはなじみがない。世界の研究者は、有機物の上に酸化膜をつくる自分の技術が劣っていて、ベル研究所ならそれができるのだろうと思っていた。一方、ベル研内では、シェーンがドイツのコンスタンツ大学で作っていたと思っており、コンスタンツ大学には魔法のような装置があるのだろうと思われていた。普通なら、論文の「間違い」を疑われるが、ベル研究所、しかも第一人者のバートラム・バトログが参加していたことが大きかった。「科学の世界では嘘ということを完全に証明することは難しい」。否定するにも詰めが甘かったらベル研から訴訟をおこされて研究者生命を断たれかねない。
「科学者は正しいことを言う。科学的真実のみを正しく報告する。そうした性善説に基づいた科学者同士の『信頼』が、科学社会には存在している。その社会の基本ルールを逸脱している人間がいることを、前提として考えていない」
実はベル研内でもモンローが内部告発をしているが、大スターのシェーンを守ろうとして、本腰を入れて調査をしていない。
ベル研も昔の姿からどんどん変質(劣化?)していますね。特に事件が起きた当時はITバブル崩壊で親会社のルーセントテクノロジーが苦境にあり、ベル研の研究者も短期的に成果を出すように強いプレッシャーを感じていたようです。ベル研の偉い人で、シェーン研究とは何の関係もない人が、シェーンの研究の特許申請に名を連ねたりしている。
結局、プリンストンの物理学者リディア・ゾーンの留守電にベル研の若い研究者から「これはあなたへの宿題です。シェーンのふたつの論文をよく見てください」という謎のメッセージが吹き込まれたことがきっかけになってシェーンの捏造が発覚していくことになる。
ベル研を解雇された後、シェーンは消息を絶っていた。村松さんはシェーンが南ドイツの中小企業で働いていることをつきとめ、間借りをしている家まで行って、メディアとして事件後初のインタビューを試みたが断られている。
アメリカ研究公正局(ORI)。バイオ研究で不正がないかの調査裁定機関。NIHから発展的独立。バイオの場合、物理よりも不正が多く、一般市民が捏造の犠牲者になってしまう可能性があることから必要に迫られてORIが作られた。
ORIは誰かの研究に捏造や盗作などの不正の告発を受け付けて綿密な調査摘発を行う。年間200件の告発があり30~40が調査対象に。不正と判断されるのは10~15件ほど。不正が認められた場合、数年程度の公的機関からの研究費配布を禁じられ、実質的にキャリアが閉ざされる。
物理学会にはORIのような告発を受け付ける組織は存在しない。「不正行為はバイオ関係の研究で生じるもので、物理学のようなハードサイエンスでは起こりえないという感覚が一貫してある。仮説を立証していく過程が直接的で再現性もかなり厳密に必要となるので捏造など起こりえないという感覚」
「物理学の世界に実際にORIのような組織ができたら研究者達は非常に窮屈に感じ、研究も自由さを失うのではないか、結果が見えやすいものしか求められなくなっていくのではないか、発想豊かな斬新な研究や挑戦的な良い研究成果を得ることが難しくなるのではないかと危惧する」
「科学界は自由闊達な空気、学問の自由を保障する開かれた社会を礎に発展を遂げてきた。規制や取締りの強化には疑問もある。戦争や全体主義の状況下で学問や科学は規制によって歪められた苦々しい過去がある。だからこそ先人達は学問の自由の意義を声高に叫び、その自由を享受しようとしてきた」

2012年10月13日土曜日

林 計量経済学 Lecture 2: ML

2回目は最尤法。データ数T個の確率過程の実現値zのサンプルがあって、そのサンプルのjoint frequency or density functionがパラメータ・ベクトルθとzの関数L(z_1,...z_T;θ_0)という既知の関数だと仮定する。このL()をパラメータ・ベクトルθの関数と見なす。関数L(z_1,...z_T;θ)は尤度関数(likelihood function)と呼ばれる。この関数の対数をとったものが対数尤度(log likelihood)である。θのうち、対数尤度を最大にするものがθ_0の最尤推定値(ML estoimator) θ^_Tである。
例としてi.i.d.の正規分布の場合、パラメータ・ベクトルθ=(μ,σ^2)'である。

  • θ^_Tがθ_0に確率収束するとき、推定値θ^_Tはconsistentと言われる。
  • √T(θ^_T-θ_0)がN(0,∑)に分布収束するとき、推定値θ^_Tは漸近正規(asymptotically normal)です。∑は推定値のasymptotic varianceと呼ばれ、Avar(θ^_T)と書く。
  • consistentでasymptotically normalのことをCANと呼ぶときがある。
  • θ_kをθのk番目の要素とする。すると√T(θ^_Tk-θ_0k)はN(0,Avar(θ^_T)の(k,k)要素)に分布収束する。
  • Slutskyの定理より√T(θ^_Tk-θ_0k)をAvar(θ^_T)の(k,k)要素の平方根で割ったものはN(0,1)に分布収束する。この比がt値である。分母は(asymptotic) standard errorと呼ばれる。
一般のML、有限サンプルの場合

  • score vector 対数尤度をパラメータベクトルで1階偏微分したものをスコア・ベクトルと定義
  • Hessian 対数尤度をパラメータベクトルで2階偏微分したものをヘシアンと定義
  • Information Matrix θ_0におけるスコアベクトルとその転置をかけたものの期待値を情報行列と定義

  • weak set of conditionsの下で、θ_0におけるスコア・ベクトルの期待値は0、θ_0におけるヘシアンの期待値を負にしたもはθ_0における情報行列に等しい。
  • certain set of conditionsの下で、最尤推定値θ^_TはCANで、Avar(θ^_T)は情報行列をサンプル数で割ったものの極限の逆行列になる。

2012年10月11日木曜日

本多先生の特別講演

ICSへの寄付募集とゼミのOB会を兼ねた本多先生の特別講演を聞いてきた。タイトルは「リスクとリターン」.

  • Fama and French(1993)にならって5×5の25個のポートフォリオで日本の株式のデータを検証しても、リスクとリターンのトレードオフが見られない。
  • Black, Jensen, Scholes (1972)のゼロベータ・ポートフォリオ(マーケット・ポートフォリオとの共分散がゼロ)のリターンが高い。
  • 接点ポートフォリオは非常に高リスク高リターン
  • マーケット・ポートフォリオのパフォーマンスが悪く、等ウエイトや最小分散ポートフォリオに負けている。マーケット・ポートフォリオ(時価総額加重)が効率的でない場合、ベンチマークには適さないのでは?
  • 他にJorion(1991)、Demiguel, Garlappi, Uppal(2009)
  • Roll(1992)の批判。最適解は、ベンチマークとは独立に選ばれ、またベンチマークにリスクを上乗せさせるようなポートフォリオが選ばれる。
Rollのペーパーはこちらでも見れる。

2012年10月8日月曜日

林文夫 計量経済学 Lecture 1: A Warm-up

林先生の計量経済学の授業、1回目。コースの全体像、参考書など。予習をする必要はない。テキストはCampbell, Lo and MacKinlay(1997)の"The Econometrics of Financial Markets"。自慢が多くてあまり良い本ではないですね、とのこと。レファレンスとして"Econometrics"(Hayashi 2000)と"Asset Pricing"(Cochrane 2005)だが、テキスト、レファレンスとも読む必要はない。授業の復習をすればいい、とのこと。最低限必要な数学的要件は林先生がまとめたノートの"Matrix Algebra"と"Mixing Linear Algebra with Calculus and Probability Theory"で、みたところ非常に基礎的な内容。あとはMatlab, R, EViewsで分析できること。
コース・スケジュールは最尤法、GMM、CLMの8章 異時点間均衡モデル、CCAPM、10章 債券、11章 期間構造モデル、 12章 ARCH、GARCH、最後にコモディティ先物とFX。

Lecture1:

  • 確率収束 convergence in probability、概収束 almost sure convergence。plimは非線形変換でもsurviveするので便利。
  • Laws of Large Numbers(LLNs)
  • Stationarity and Ergodicity, Ergodic Theorem: 林先生の"Econometrics(2000)"のErgodicityの定義は間違っていると。
  • Convergence in distribution
  • 確率収束と分布収束の混合. Slutsky's Theorem. Delta Method
  • Central Limit Theorem(CLT). The Lindeberg-Levy CLT. .正規分布
  • Random Walks and Martingales
  • CLT for Ergodic Stationary Sequences. Ergodic Stationary Martingale Differences CLT (Billingsley(1961))