2015年10月31日土曜日

『ブックガイド心理学』

図書館で借りてきた『ブックガイド心理学』を読んでるところ。

ユングは人間のこころのエネルギー(ユングはリピドーと呼ぶ)が、もっぱら外界に向うか、内界に向うかで、物の見え方や考え方が全く異なることに着眼して、全社を外向型、後者を内向型と名づけた。

外向型においては、客体が、内向型においては、主体が、決定的に重要な意味を持つ。前者は、興味・関心がもっぱら外界の他者や物にあり、あらゆるこころの動きは、それらによって微妙に影響を受けるのに対し、後者では、興味・関心はもっぱら内界にあるため、周囲のものには影響を受けない。

外向型は、いつでも、どこでも、初めて会った人とすら、以前からの知己のごとく、いともたやすく友好的な話ができるので、社交的に見えることが多い。一方、内向型は、ほとんど他人の存在に気がなく、引っ込み思案で、容易に胸襟を開かず、猜疑心が強いため、けむたがられることが多い。
ユングはその二つのタイプに加えて、4つの基本機能を想定した。合理的機能としての、「思考」と「感情」、非合理的機能としての、「感覚」と「直感」というふうに、二つの軸上で、おたがいに相補的な関係にあるとする点が、ユングの独創的なところ。

感情は、通常は、非合理的なものと考えられやすいが、ユングは感情を合理的機能とした。
ユングは、感情を「自我と与えられた内容との間に生じる活動であり、しかも、その内容に対して、受け入れるか、拒むか(つまり、快か、不快か)、という意味で、一定の価値を付与する活動である」とした。感情は、きわめて合理的な価値判断の機能だとするのである。

思考とは、「それ固有の法則に即して、与えられた様々な表象内容を(概念的に)連関づける」心的機能であり、感覚とは、「物理的な刺激を知覚に伝える」心的機能であり、それゆえ、知覚と同じである。よって「なによりもまず、五感による感覚、すなわち感覚器官や身体感覚による知覚」である。そして、直感とは「知覚を無意識的な方法によって伝える」心的機能だとする。これは一種の本能的把握である。直観の内容は、感覚のそれと同様に、「すでに与えられている」という性格をもっており、感情内容や、思考内容のごとく、「派生したもの」あるいは「作り出されたもの」という性格とは対立。

二つの根本態度と四つの基本機能によって、たとえば「外向的直観型」とか、「内向的思考型」とか、「内向的感覚型」というようにいくつかのタイプが分けられる。さらにユングの独創的な点は「優越機能」と「劣等機能」という考えや、「意識と無意識の補償関係」といったダイナミックな考え方にある。つまり、思考が優越機能の人は、同じ合理軸の感情が劣等機能に、感覚が優越機能の人は、同じ非合理機能の直感が劣等機能になる。また、意識があまりに「外向的」に傾き過ぎると、無意識のほうは逆に「内向的」に働くし、意識が「内向的」に向いている人は、無意識が「外向的」になる。

ユングは、内向型の、一見するところ、きわめてとっつきにくい人間が、ひとたび、その内界に魅せられた場合、いかに奥行きの深い、すてきな存在となりうるか、を身をもって証したのが本書『人間のタイプ』なのである。

2015年10月25日日曜日

エニグマ アラン・チューリング伝

アラン・チューリングを描いた「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」という映画でベネディクト・カンバーバッチがチューリングを演じている。王様のブランチで紹介していた司会の谷原章介が「昔からチューリングが好きだった」と言っていて、なかなか侮れない。

チューリングはコンピュータの論理的な原型を生み出した論理数学者。第二次大戦では秘密裏に英国でドイツ軍の暗号「エニグマ」を破る仕事で中心的役割を果たした。当時は罪だった同性愛で有罪となりホルモン治療を経た後、42歳を前に自殺。

映画『イミテーション・ゲーム』の元になったチューリングの30年前の伝記がようやく翻訳された。それがアンドルー・ホッジスの『エニグマ アラン・チューリング伝』。著者は数学者らしいのでチューリングの研究内容も詳しく解説されている。

膨大な情報量に加え、訳者の言うように文体が(誰が何をどう考えたか思索しながら)粘着的なのでなかなか進まない。しかし頑張って読む価値は十分にある。

アンドルー・ホッジスの『エニグマ アラン・チューリング伝』を読んだ後では、チューリングを扱った映画『イミテーション・ゲーム』も物足りなさを感じる。


天才数学者アラン・チューリングは、英国政府の機密作戦に参加し、ドイツ軍の誇る暗号エニグマ解読に挑むことになる。エニグマが“世界最強”と言われる理由は、その組み合わせの数にあった。暗号のパターン数は、10人の人間が1日24時間働き続けても全組合せを調べ終わるまでに2000万年かかる

チューリングは1936年に、ゲーデルが不完全性定理を証明したのと同じ24歳の若さで『計算可能性とその決定問題への応用』を発表。すべての命令を一定の規則に基づく記号列に置き換えて計算する『チューリング・マシン』の概念は現在のコンピュータに実現されている。

チューリングはケンブリッジ大学の奨学金でプリンストン大学大学院に留学していて、ノイマン、ゲーデル、チューリングの三人の天才が一堂に集まっていたが、チューリングは一度もゲーデルと会った形跡がない。ノイマンは何度もチューリングと会っていて助手に誘ったがチューリングは帰国して軍に志願。

チューリングはイギリス情報局秘密情報部の暗号機関ブレッチリー・パークに赴任して、難攻不落と呼ばれるナチス・ドイツの暗号機エニグマの解読に取りかかった。彼は36機のエニグマの動作を同時にシミュレートできる解読機ボンブを開発し、ついにその解読を成功させた。

チューリングは、連合国軍を勝利に導いた英雄とみなされ、チャーチルから大英帝国勲章を授与された。しかし、エニグマに関する情報公開は固く禁じられ、1970年代まで国家機密にされていたため、チューリングの偉業については、母親でさえ知らされなかった。

チューリングは少年時代から同性愛者だった。1952年、映画館で知り合った19歳の青年を自宅に招いて宿泊させた。数週間後、その青年と彼のゲイ仲間がチューリングの家に泥棒に入り、裁判の過程でチューリングが同性愛者であることが暴露されてしまった。

当時のイギリスでは同性愛そのものが「違法」であり、彼には「定期的な女性ホルモン投与」という屈辱的な刑罰が与えられた。大学教授のスキャンダルは、新聞にも大きく報道された。その二年後、チューリングは、41歳の若さで自殺した。

『エニグマ アラン・チューリング伝』、2章でヒルベルトやゲーデルについて少し解説してある。

アラン・チューリングはケンブリッジでウィトゲンシュタインの数学の基礎に関する授業に出ている。受講者はすべての講義に出席すると誓わなければならない。受講生はまず、ウィトゲンシュタインの個人面談を受けなければならない。「この面談は印象に残るほど長い沈黙で有名だ」


『エニグマ アラン・チューリング伝』を読むと、とりあえずアラン・チューリングはガチホモということは分かった。

コロッサスの技術的成功からチューリングは真空管を何千個も同時に一緒に利用できることを知った。次にいわば素手でディライラに取り組んだ。「彼の狂気にはつねに一貫性がある」

アラン・チューリングは「真理以外のものすべてに対する敬意を欠いていた」

チューリングの業績をまとめた"http://AlanTuring.net"なんてのがあったのね。
http://www.alanturing.net/

チューリングの代表的な論文 

『計算可能数について:決定問題への応用を含めて』
"On Computable Numbers, with an Application to the Entscheidungsproblem"  (1936)(pdf)

『計算機械と知性』チューリング(1950)
"Computing Machinery and Intelligence" (1950)(pdf)
http://www.csee.umbc.edu/courses/471/paers/turing.pdf