上場株式の取引所取引集中義務撤廃は1998年証券ビッグバンの目玉だった。2010年の東証アローヘッド稼動を契機にPTSのシェアが拡大してきた。
ネガティブな要因
①証券会社に課されている最良執行義務は、過去の出来高の大きい市場を主市場と定めるといった慣行としている。機関投資家は取引所での取引を優先してきた。
②TOB5%ルールの問題が解決しておらず、機関投資家の多くはPTS市場で買い注文を執行していない。
ポジティブな要因
①2010年7月からPTS市場で売買した銘柄の受け渡し決済を取引所取引での売買と同様に日本証券クリアリング機構で行えるように変更された(これが大きかった)。機関投資家の売買行動にインパクトを与えた。
②有力なPTS業者であるCHi-Xが日本での営業を開始した。
③東証アローヘッドの稼動で取引スピードがアップしていた。
PTS2社と東証の大きな違いは呼び値制度。SBI-Japannextが東証の1/10、CHi-Xが5千円まで10銭、10万円まで1円、10万円以上10円に対して、東証は3千円まで1円、5千円まで5円等、高い。また取引フィーの体系は、SBI-JapannextがTaker Fee 0.2BP、Maker Fee 0.2BP、CHi-XがTaker Fee 0.2BP、Maker Fee 0.8BP、東証は場口銭0.29BP+アクセス量+基本量+システム利用料。
Latency
- 注文処理速度は、証券会社からのメッセージをゲートウェイで受付けてから、処理してゲートウェイで完了メッセージを出すまでを計測するが、東証アローヘッドのスピードは2ミリ秒としている。
- Japannextは約1ミリ秒
- Chi-Xは、ゲ-トウェイに注文伝文が到着しマッチングエンジン内に入り約定してゲートウェイ出口に戻るまでの一連のプロセスの処理を平均500マイクロ秒以下で行っている。
- 計測方法が違うので厳密な順序はつけられないが、PTSのほうが東証よりも早いといえそうだ。
先行研究
- 初期はマーケットは一つに集中したほうがよいとするものが多い。Garbade and Silber(1979)、Coehn et al.(1982)。
- O'Hara and Ye(2009)は、TRFデータを用いて市場分断は一般に取引コストを低減し、執行スピードを短縮すると報告。
- 過去の Fragmentation 研究の結論が一致しないのは、市場のインフラや参加者の取引能力、市場規制や投資ガイドラインなどの異なる環境を見ているからで、 Fragmentationの影響を一様に論じることが危険であることを物語っている。
仮説
- PTS市場で売買される銘柄は、HFT業者の好みを反映しているか
- 先行研究ではHFTマーケットメイカーは約定回数が多く、スプレッドが広めの銘柄を好むと言われている(Brogaard 2010、Menkvelt 2011)
- 呼値格差率が大きい銘柄ほどPTS市場で頻繁に取引されている
- PTS市場への注文流出が大きいほど、取引所市場の流動性や価格形成に悪い影響を与えている
サンプル
2011年1月ー6月東証1部上場銘柄、日経平均採用銘柄、東証、SBI Japannext(出来高)、CHi-X(出来高)
銘柄別PTSシェアの決定要因
- PTSshare t=(PTS2市場の日次出来高合計t)/東証日次出来高t
- 対象銘柄は日経平均採用銘柄
- 取引所ビッド・アスク・スプレッドは SPRDP=(Ask-Big)/仲値
- 取引所のデプス DPTH=(Askサイドのデプス金額+Bidサイドのデプス金額)/2の対数値
- Ticdif呼値格差=(取引所呼値ーPTS呼値)/VWAP
- VOL=(取引所、各PTS市場)の前日出来高の対数値
PTSシェアの高い銘柄の特徴
銘柄固定効果モデルを採用したパネル分析の結果では、
- 取引所スプレッドが広いときシェアが上昇する。
- 取引所デプスが薄いときにシェアが上昇する(3月データとダミーを追加すると係数が反転)
- 呼値格差が大きいほどシェアが高い
- 取引所出来高が増えるとシェアは低下する
同じ銘柄について、PTSシェアが高くなるほど出来高(件数)は低下する。スプレッドは広がり、デプスは薄くなる=シェアの変動と諸指標間に相互関係がある。
まとめ
- 日本株のFragmentationの実態は日経225採用銘柄などを中心に増大しているが、シェア(PTS出来高/取引所出来高)の上昇は取引所出来高が比較的低調なときに生じている。取引所取引が活況名時はPTS出来高は追いつけなくなるという傾向がある。
- TOB規制に抵触することを恐れて機関投資家がほとんど参加していないほか、個人投資家もPTS市場に発注するのはまれである。
PTS市場取引高や出来高シェアが取引所取引に与える影響
- Diference-in-difference分析の結果は、PTSシェアが高いのはスプレッドがひろい銘柄である。
- デプスが厚い銘柄でもPTSへ発注し優先権を高めようとする傾向が見られる
- PTSマーケットの呼値戦略は効果を挙げている
- PTSシェアが高い銘柄は、ボラティリティの影響ではマイナスであり、取引所取引は情報イベント時にシェアが拡大し、そうでないときにはPTSシェアが高まる傾向がある。