2011年10月22日土曜日

「ユーロ 危機の中の統一通貨」 田中素香

2章にユーロ導入までの道のりが書かれている。通貨統合を決定的にしたのは「ドイツ統合という戦後の世界政治の大転換であった。」
通貨統合前の西ドイツの「世論調査では常に60%以上が通貨統合に反対であった。」
「『EC統合とはドイツ問題である』といわれた。ドイツは20世紀、イギリス、フランスの植民地帝国主義に対抗して中欧地域に覇を唱え、二度のヨーロッパ戦争・世界大戦の口火を切った。EC統合は第二次世界大戦後に西ドイツを西欧に包摂して、仏独不戦体制の構築を目的にスタートした。ECとは西ドイツを平和のうちに西側体制に包摂するための知恵と努力の結晶であった。」
しかし1989年11月のドイツ再統一によって欧州情勢は全面的に転換した。主権を回復したドイツがECを離れてソ連(あるいはロシア)と取引し、再び中欧に支配権を確立するような次のヨーロッパ戦争につながるかもしれないという警戒感がEC各国を支配した。
「イギリス・サッチャー首相とフランス・ミッテラン大統領はドイツ統一に反対したが、ソ連の再強化を警戒したアメリカは強く統一を支持し、ソ連のゴルバチョフ大統領も統一に反対しなかった。米ソが支持するとなれば、イギリス、フランスが阻止するのは不可能であった。不可能とわかると条件闘争になる。
EC諸国はドイツ統一を無条件に承認し、東ドイツを即ECに迎え入れ、また西ドイツの中央銀行制度を模範に通貨同盟を組織するという約束をした。その代償としてドイツはマルクを放棄し単一通貨を採用する。マルク放棄とドイツ財政のECレベルでの規制によって「独り歩き」を封じる。
この取引をコール首相に代表されるドイツ支配層は受け入れた。ドイツ財務省の手になる当時のユーロ解説文献には、「マルクを放棄する以外に統一ドイツが他のEC諸国に受け入れられる道はなかった」と書かれている。
マルク放棄を決意した西ドイツ政府は、統一通貨を西ドイツ風に制度化することを要求した。統一通貨はマルク同様に物価安定を目標とすること、欧州中央銀行制度は西ドイツ連銀制度をモデルにすること、などである。ECBの所在地がドイツの金融センターであるフランクフルトに決まったのも、その一環と考えられる。」
「ドイツ統一がなければ、あれほどすんなりとドイツ型の通貨同盟が受け入れられることはなかったであろう。通貨統合を時代の風が後押ししていたのである。そしてこのことは、ユーロが『政治的通貨』というDNAを継承していることを物語っている。
さらにコール首相の決断が非常に重要であった。コール首相は世論調査の結果が通貨統合に不利であってもまったく動揺しなかった。『欧州統合は平和か戦争かの問題だ』と繰り返し、世論を押し切った。統一ドイツが統一通貨の制度に組み込まれなければ、また戦争に向かうかもしれないという危機感をもっていたのである。ドイツ南部で敗戦の日を迎えた若きコールは鉄道が麻痺していたため故郷の街まで徒歩で帰ったのだが、その途上で見たドイツの町々は空襲で見るも無惨に破壊されていた。『ドイツは二度と戦争をしてはならない』と念じて彼は政治家になった。」
2010年6月に開かれた80歳の祝賀会においてコールは「ドイツ人がドイツのことだけを考え、ギリシャやユーロ圏全体のことを考えないことに警告を発した。戦争体験世代が政界からいなくなった21世紀のヨーロッパに危機感を抱く人は少なくない。」


「メジャー級アメリカ経済学に挑んで 佐藤隆三」(2)

佐藤隆三名誉教授はクルーグマンとは30年間におよぶ家族ぐるみの付き合いだそうだ。「彼は伊豆の私の別荘の岩風呂が気に入り、それ以来すっかり温泉および”日本式フロ”ファンになってしまった」そうだ。

「筆者が米国で博士号を取得したころ、『3S』の語が流行していた。日本の学者が国際会議に参加した折の言動を揶揄したものだった。日本人の学者は国際会議で一切発言をしない(Silent)。話しかけられると黙って笑うだけ(Smile)。そして会議中はほとんどウトウト寝ている(Sleep)というものだ。国際会議のあとで日本に帰国すると、彼らは、鞄一杯につめた英語の資料や論文を直ちに翻訳してその国際会議に関する報告とする。昔の学者の英語力はこの程度のものだったらしい。」
「数学の授業には英語の表現力はあまり必要ではない。米国人の友人の話によると、日本人のT教授は優秀な数学者だったがその顔はほとんど憶えていない、という。教授は授業中は黒板に向かって黙々と数式を書き続けて、学生の方を向いて物を言うことはほとんどなかったというのだ。」
「スタンフォード大学でPh.D.を取った米国人の若い助教授が、あるアイヴィー・リーグ校に就職した折、入門コースを教えさせられて、いきなりポントリャーギンの最大値原理を使って、資源の最適配分の理論を教え始めたらしい。このことで学生が学部長に訴え出て大騒ぎになったというエピソードもある。それ以後は、入門科目は若い助教授に任せるのではなく業績のあるシニア・プロフェッサーの担当とした学部もある。」
「米国の入門教科書は、サミュエルソンのEconomicsをはじめとして、ほとんどすべてが部厚くて重い。日本語の薄い教科書とは対照的だ。これにはちゃんとした理由がある。米国の入門コース担当の教授は、目の前にある山のような教材を、いかに要領よくかいつまんで学生に教え込むかに工夫を凝らす。自信のある学生はクラスのペースに加えて、部厚い教科書を自力で全部読破することも許されている。つまり部厚い教科書は必要とされる教育のアプローチすべてを網羅していて、入門担当教授の腕の見せどころは、どう最重要箇所を拾い出していくか、なのである。
日本の場合、教科書とは通常、膨大な学問の中の、ほぼアウトラインに等しい。担当の教授が時には名人芸を使って、肉付けをしていく。教科書にない知識をクラスの学生の能力に合わせて補足していく。このやり方如何に教授の人気や名声がかかっている。」

日経の【投信ウオッチ】 「クオンツ型が首位に」

2011年10月20日の日経夕刊【投信ウオッチ】に過去5年間の代替投資型の騰落率ランキングが出ている(「クオンツ型が首位に」)。1位は「クレディ・スイスGTAAファンド(CSアルファ)」
クレディ・スイス投信っていつのまにかアバディーン投信投資顧問になっていたのか!...
代替投資型2位は『大和住銀ジャパン・スペシャル ニュートラル・コース(ヘッジあり) :愛称「ギアチェンジ」』先物で常にショートしているのね。ちゃんとアルファを生み出していて感心...
また22日の【日経朝刊】には「ヘッジファンド1.6兆円流出」「株・商品安で成績悪化」の記事。北米89億ドル、欧州72億ドル流出。「世界のヘッジファンドの運用残高は9月末に1兆7644億ドル」となった。マンは26億ドル流出、ポールソンは9月の下落率2割で年来5割、GSはクオンツHFを償還。

2011年10月20日木曜日

ベクトル自己回帰モデル (VAR)

今日の日経・経済教室でノーベル賞を取ったシムズとサージェントの業績が解説されていました。シムズが提唱したVARも注目度が上がっているようです。そこでVARに関連した本を紹介します。
私が初めてVARを知ったのは北川源四郎の「時系列解析プログラミング」でした。私にとってはバイブルのような本で、いまでもしばしば参照します。この本は現在絶版ですが、モンテカルロ・フィルターの章を加えて、Fortranのコードを除いた形で「時系列解析入門」として発売されています(コードは著者のウェブからDLできる)。右の本はAICで有名な赤池弘次の「ダイナミックシステムの統計的解析と制御」です。日本でおそらく最初のVARの応用であるセメントキルンの制御を題材にVARが詳しく書かれています。
「時系列解析の方法」は時系列分析を概観した入門書です。ここまでは工学系の本でしたが、「経済の時系列分析」は時系列分析の経済分析への応用に関して書かれた比較的初期の本です。
経済への時系列分析の応用を念頭に書かれた本としては、やはりハミルトンの「時系列解析」がバイブルといえます。日本語訳は絶版のようですが、英語版はまだ売っています。分厚いので、持ち運ぶ気にはなりません。

実際に、時系列モデルで経済を分析した本としては宮尾龍臓の「マクロ金融政策の時系列分析」があります。係数に制約を置いた「構造VARモデル」を利用したさまざまな分析が載せてあり、大変参考になります。Juseliusの「The Cointegrated VAR Model」は共和分VARモデルを使った経済分析の手法が丁寧に解説してあります。
VARモデルは、今ではEViewsなどの計量分析ソフトにはデフォルトで入っているので簡単に利用できます。

2011年10月19日水曜日

「メジャー級アメリカ経済学に挑んで」佐藤隆三


米国経済学界のエピソードを楽しみながら、50年にわたる経済学の変遷を俯瞰できる
第Ⅰ部が「米国経済学界の50年」で米国経済学界のエピソードを楽しみながら、50年にわたる経済学の変遷を俯瞰できる。第Ⅱ部は「日米経済の50年」で日米経済摩擦、日米の政治家、企業家の話題が語られていて興味深い。第Ⅲ部で「震災後の経済政策」として著者の研究を生かした日本復活へのメッセージが語られる。
個人的には第Ⅰ部が特におもしろかった。米国の経済学者、大学・大学院のエピソードが豊富に紹介されており、米国で経済学・ファイナンスのPhD取得を考えている人には大変参考になる。
50年にわたる米国の経済学の変遷を俯瞰できる。「戦後の経済学の潮流は二つに大別することができる。一つはゲーム理論化の流れで、もう一つは動学的最適化である。」
MIT・ハーバード学派とシカゴ学派の対立。サミュエルソンを中心とした錚々たる交友関係に圧倒される。スティグリッツ、マートン、ブラインダー、シーゲル、シラー、クルーグマン、フィグルスキー、サミュエルソンの実弟ロバート・サマーズとその子息ラりー・サマーズ。ソロー。クズネッツ、ヒックス、レオンチェフ、トービン、モジリアニ、フォーゲル、ミラー、スペンス、ヴァーノン・スミス、エングル、マスキン。ほとんどがノーベル賞受賞者である。
マートンはコロンビア大学の学部で数学とエンジニアリングを専攻した後に、カリフォルニア工科大学で応用数学の修士を取った。マートンの父はサミュエルソンの親友。「MITのPh.D.プログラムに入ったのはサミュエルソンの薦めによるものだろう。」
サミュエルソンの「経済分析の基礎」の訳本で教授の名前を(サミュエルソン本人の希望により)サミュエルソンとしたところ、「サムエルソン」としていた都留教授から「なぜサムエルソンをサミュエルソンと変えたのか」と突然電話がかかってきたそうだ。この裏話をシンポジウムで披露すると、スティグリッツやクルーブマンたちが、われわれの日本語表記はどうなっているのか心配になってきた、と言い出して一般参加者の笑いを誘った。
サミュエルソンが熱海で迷子になったとき「後ろから見ると日本人は全部同じに見えた(だからお前を見失ったんだヨ)」と言っていた。
サミュエルソン教授の持論は「天才と凡人の差はその集中力の差に過ぎない」
米国大学受験と留学の現状。学部の入学プロセス。「米国の一流名門校に入るためには、名門高校のトップ10番以内の成績をとっていること、そしてSATで満点もしくはそれに近い高い点数をとっていることが必要となる。」例外的な枠として、「同窓生子弟の枠、マイノリティーの枠、そして大金持ち・有名人の枠等がこれに当たる。」
米国のトップ名門校はまずアイヴィーリーグ八校。ダートマス、ハーバード、ブラウン、コーネル、イェール、コロンビア、プリンストン、ペンシルバニア。ほかにMIT、ジョンズ・ホプキンス、ニューヨーク(NYU)、カーベギーメロン、デューク、シカゴ、ノースウェスタン、スタンフォード、カリフォルニア大バークレー校、UCLA、ミシガン、ミネソタ、ウィスコンシン、やや劣るがライス、テューレーン。
「大学院のしくみ。米国の私立名門校には日本の大学院との決定的相違点がある。それは、学部卒業(学士号取得)後、いきなり博士号(Ph.D.)取得プログラムに入ることである。つまり日本式な博士課程前期(修士)、博士課程後期(博士号)がないことである。ちなみに博士号Ph.D.はDoctor of Philosophyの略だが、日本で通用しているドクターコースの呼名ではなく、あくまでPh.D.コースと呼ばれる(ドクターコースというと医者のコースと勘違いされる)。
日本の学生が米国の一流校の大学院に留学希望する場合、競争相手は全米大学の学部をトップで卒業したばかりの学士号保持者である。その多くは前述のアイヴィーリーグ等の一流校の卒業生で、学部時代には経済学は言うに及ばず、物理、高額、コンピューター・サイエンス、数学、応用数学を専攻した学生達だ。初めから学部卒業後、就職の道を選ばないで学者になろうとしているアンビシャスな人々である。」
「学部レベルではカネがあれば入学も可能だが、一流の大学院となると、もうカネは物を言わなくなる。これこそが米国の知的社会における徹底した実力主義を示している。」
「五十年前に筆者がPh.D.コースに留学した頃は、東洋人の留学生といえば日本人と決まっていた。いまはだいぶ事情が変わってきた。東洋人で最も優秀なのは中国人、韓国人、インド人で彼らは日本人よりも勉強熱心だ、との印象が定着している。それはGREやTOEFLのスコアが平均的に日本人より高く、GREの数学部門で満点の学生も多いからだ。」
留学のための五箇条
「第一に、GREやTOEFLのスコアを何が何でも満点を目標に伸ばすことである。第二に、日本のいまの制度から、博士号前期は日本の大学院で過ごし、その期間にたとえ数理経済の分野に進む意思のない者も、数学と理論の実力を養っておくことである。」
「第三に、日本からの留学生は、学部を出たばかりの米国人学生と比べても年齢も上で大学院生活の経験もある。その有利性をいかに示すか、博士号前期(修士)や後期で習得した研究を一つの論文にまとめて入学願書の添付することだ。」
「第四に、どこの大学を選ぶかがポイントになる。すべり留めとして一流大学以外を一つか二つ選ぶのが無難だ。また、日本の教授が個人的に推薦してくれる等のきっかけとひっかかりがある大学を選ぶことだ。」
「第五に、自分の能力を正確かつ正直に書いてくれる人を推薦者としてえらぶこと。ブラウン時代に日本の首相の推薦状を提出した学生は、即刻不合格になった。」
Who's Who in Economics(主要経済学者名士録)に選ばれることとノーベル賞との関係やノーベル賞の選考過程、豆知識なども語られている。「正式にはノーベル経済学賞の名称はどこにも存在しない。経済学賞については、1968年にスウェーデン中央銀行が創立300年を記念して基金を寄付し設置したものである。正式な賞の名称は「経済科学に対するアルフレッド・ノーベル記念スウェーデン中央銀行賞」である。」ハイエクとミュルダールは「ノーベル経済学賞」に反対していたそうだ。貰うべき人で漏れている人などについても語られていて興味深い。
ノーベル経済学賞を目指している人は特に必読かも...。

2011年10月15日土曜日

金融数理の基礎 第2回

集合
  • 集合とは、外延的定義、内包的定義
  • 無限集合:自然数N、整数全体Z、有理数Q、実数全体R
  • 空集合(empty set)。 
集合の基本的演算
  • 部分集合、互いに素(disjoint)、和集合、差集合、対称差(symmetric difference)
  • 論理規則としての分配率
  • 集合の計算規則:可換則、結合則、分配則、de Morganの法則
  • 空集合は全ての集合の部分集合。
写像(map)
  • 任意のx∈Aに対して、あるy∈Bを1つ対応させる規則fを「AからBへの写像f」と呼ぶ。
  • B=Rのとき、fを関数(function)と呼ぶ。
  • 逆像(inverse image):大事。逆像のほうがきれいなことが多い。可測などの話に繋がる。
  • 逆像は一般に、写像ではない。
  • 単射(injection)、全射(surjection)、全単射(bijection)
  • 写像と集合の計算規則
区間
  • 開区間、閉区間

関数解析:位相に関係する言葉

位相に関係する言葉の定義をノルム空間に則した形で復習。

閉集合 Xの部分集合Aが閉集合であるとは、Aの集積点がすべて、Aに属することである。
開集合 Aが開集合であるとは、Aの補集合A^c=X\Aが閉集合であることである。これは次のことと同値である:任意のa∈Aに対して、δ>0を十分小さくとればB(a, δ)⊂Aが成り立つ。
閉包 Aを含む最小の閉集合をAの閉包という。記号ではA ̄またはA^aで表す。Aの閉包はAにAの集積点を全部付け加えたものである。
緻密 A ̄=Xであるとき、AはXで緻密であるという。AがXで緻密であるための必要十分条件は、任意のu∈XがAに属する点列で近似されること、すなわち、uに対して、u_n∈A, u_n→uであるような列{u_n}が存在することである。また、Aの部分集合A_0がAで緻密であるとは、任意のu∈Aに対して、u_n∈A_0, u_n→uであるような列{u_n}が存在することをいう。
コンパクト集合 ノルム空間Xの部分集合Aがコンパクトであるとは、Aに属する任意の点列は、Aの中に極限をもつような部分点列を含むことである。Aの閉包がコンパクトであるとき、Aは相対コンパクトであるという。
有界集合 Xの部分集合Aが有界集合であるとは、Aの上でノルムが有界なこと、すなわちM≧0を適当にとって、任意のu∈Aに対して||u||≦Mが成り立つようにできることである。
可分 Xの部分集合Aが可分(separable)であるとは、Aの部分集合A_0で、たかだか可算個の点からなり、かつAで緻密なものが存在することをいう。
集積点 一つの集合Xに関してある点Aが集積点であるとは、点Aにどれほど近いところにもXに属する点が無数にあることをさしていう。ただしAが集合Xに属するというのではない。

2011年10月10日月曜日

ノーベル経済学賞にサージェントとシムズ


今年のノーベル経済学賞に、アメリカのニューヨーク大学のトーマス・サージェント教授と、同じくアメリカのプリンストン大学のクリストファー・シムズ教授の2人が選ばれました。
ちょうど、今月の経済セミナーの「マクロ経済学における動的最適化」の記事で神戸大学の上東貴志教授がサージェントの本を紹介されています。
"Dynamic Macroeconomic Theory" Thomas J. Sargent
「少し古いですが、離散時間モデルの最初の取っ掛かりとして、細かいことを気にせずに読むのがいいと思います」
"Recursive Macroeconomic Theory" Lars Ljungqvist and Thomas J. Sargent
「離散時間モデルを使ったマクロ経済学に関しては、これが標準的なテキストといえますが、最初は多少難しいかもしれません」
むむ、多少というより、相当難しいです...

Ramon Marimonによるサージェントとシムズに関するエッセイ

日経 「ヘッジファンド型投信」

2011年10月10日の日経・資産運用面で「ヘッジファンド型投信」を取り上げている。

「現在は108本が運用されている。リーマンショックからの3年間で比較可能な48本の平均は8%強のマイナスで同期間の日経平均32%下落とくらべると、下げ相場で耐えるという特徴が表れる。プラスは13本。マーケット・ニュートラル好調。住信アセット「LSオープン」(11%、2億円強)、日興アセット「日本株コアα」(7%、5億円弱、来年4月に繰り上げ償還)。他のヘッジファンド型投信も昨年までに設定された投信は大半が100億円に満たない。
投信市場では新興・資源国の資産で運用し、毎月高額の分配金を出す商品に人気が集中してきた。ヘッジファンド型投信は『特に日本株型は期待収益率が低く、資金が集まりにくい』(住信アセット)ことに加え、運用内容が複雑で対外的な情報発信が不十分なことも多い。『収益の源泉が分かりにくいことから、個人に本格的に普及していない』(マネックス証券)
野村アセットの「グローバルトレンド」はシリーズ合計残高が2000億円を超えた。日興アセットの「フォーシーズン」は地銀などが扱う。『個人向け商品で最も大事なのは透明性』(辻村アクティブ運用本部長)との考えから、運用は相場動向が把握しやすい先進国通貨のロング・ショート。
『個人の多くはまだ、ヘッジファンドが資産を守るための商品だと認識していない』(大和証券の関根投信部長)。「『いまもうかりそう』ではなく、『ポートフォリオを組む上で必要』という発想で選ばれるようにならないと定着しないだろう」(福田啓太FP)。」
今年設定の主なヘッジファンド型投信として、他にも『GTE資産成長型(東京海上アセット)』、『GAMエマージングストラテジー(日興アセット)』、『日本株ロング・ショート戦略(ユナイテッド)』、『エマージング・ロングショート(ブラックロック)』など。
注意点として、初期費用・コストが高めなことも指摘。

ファイナンスのための関数解析 第1回

金融数理の基礎の次のコマで隔週で開催予定。Aさんの公開博士ゼミの位置づけ。関数解析は、一回きちんと勉強したいと思っていたので、できるだけ参加したい。
  • 集合(set)、群(group)、環(ring)、体(field)、線形代数、内積空間、ノルム空間、Banach空間、Hilbert空間、カントール
  • 位相空間(topological space)、距離空間(metric space)
  • 測度空間、確率空間
距離空間の定義
  • 単位元、逆元、可換群
線形独立性と次元、基底

金融数理の基礎 第1回

Introductionということで、基礎的な概念の確認。
条件と命題
  • 命題、条件、かつ、または、否定、ド・モルガンの法則
p⇒qの形の命題
  • ならば、逆(命題)、対偶
  • 三段論法、対偶法、背理法
  • 必要条件、十分条件
All(任意の、全ての)とSome(適当な、ある)
  • 「任意の」および「適当な」の否定
命題の真偽表
和分数訳、数文和訳

2011年10月1日土曜日

金融政策と為替レート(翁邦雄)


「経済セミナー」2011年10・11月号(No.662)は「最適化」の特集。また楠岡先生と武隈先生の対談「数学からみる経済学」も載っている。

「金融政策の新潮流」という翁さんの連載は「金融政策と為替レート -為替レート決定理論とソロス・チャート」。
第1節は「為替レートの水準を決めるものは何か:理論的整理」。購買力平価説、マネタリー・アプローチ、オーバーシューティング・モデルを概観。「為替レートの変動は短期的にはモデルでは予測困難なことが次第に明らかになってきた。こうした傾向は円・ドルレートのみならず、主要為替レートに例外なくあてはまり、これまでのところ為替レートを説明する理論モデルの予測力は、いずれも(前期の為替レートを今期の為替レートとほぼ同じと予想する)ランダム・ウォーク・モデルを確実に上回るにいたっていない」
株や土地、為替レートなどの資産価格について「美人投票」原理の問題が起きる。「この場合、投資家にとって重要なのは、本来的な資産の価値(ファンダメンタル・バリューなどと呼ばれる)ではなく、他の投資家が当該資産の価値をどう評価するか、という『予想についての予想』であり、それが実際の資産価格を決めるという意味で自己実現的な性格を持つ。」
第2節は「為替レートと金融政策」で事例研究として「為替レートとソロス・チャート」、「為替レートに対する日米中央銀行の立場」。
「為替レートと金融政策の直接的な結びつきを主張するために、日本でしばしば持ち出されるものとしてソロス・チャートがある。これは、ヘッジ・ファンドの運用者として著名なジョージ・ソロスが考案したとされ、2国間のマネタリー・ベースの比率と為替レートには因果関係がある、とするものである。(中略)この説明はマネタリー・アプローチに沿ったもので、直感的に理解しやすく、為替レートを押し下げようとする日米の金融緩和競争という構図も明確である。
しかし、 (1)マネタリー・アプローチの前提である購買力平価は成立するとしてもきわめて長い時間がかかる(PPPパズル)、 (2)マネタリー・アプローチで念頭に置かれてきた通貨供給量は物価との関連性からM2など広義通貨集計量であり、マネタリーベースではない、 (3)M2と物価の関連性は世界的に低下ないし不安定化している、 (4)マネタリーベースとM2の相関はきわめて低く、マネタリーベースはM2の安定的な代理変数ではない、といった点に照らすと、70年代型のマネタリー・アプローチによる説明には無理がある。」
「もし、円・ドルレートがソロス・チャートに沿って動くことがある、とすれば期待を通じて資産選択に影響を与える経路、すなわち (1)マネタリーベースが将来の金融政策ひいては将来の為替レートの予想値と関連がある、 (2)美人投票的な投資家の自己実現的期待による、という2つの可能性のいずれかが考えられる。」として、以下の点を指摘している。
「(1)為替レートとマネタリーベース比率の間には、概ね相関している時期と全く相関していない時期がある。換言すれば両者の関係はきわめて不安定であり、計測期間の取り方で、相関係数は大きく変化する。
(2)日本銀行が金融政策として量的緩和を行った2003年~2006年は、グラフと為替レートは逆行している。これに対し、バランスシートの拡大が金融緩和の代理変数にはなりえず、金融市場の状況次第では逆相関もありうることをバーナンキが明言した(Bernanke 2009)。
これらの点から、マネタリーベースの比率を購買力平価のように長期に予想為替レートに安定的な影響を持ちうる変数として解釈するのには無理がある。他方、
(1)投資家への説明のしやすさ(マネタリー・モデルは実証的には破綻したが、その直感的な説得性はきわめて大きい)
(2)ソロスのカリスマ性の高さ
などに照らすと、ソロス・チャートが時期によって投資家の自己実現的予言の拠り所として、為替レートに影響を与える可能性は否定できない。」
「ただ、円・ドル相場以外の主要通貨間の為替レートとマネタリーベース比率の関係は希薄で、そのせいかGoogleで検索する限り、英語ではソロス・チャートにあたるものについての議論は、何通りか検索を試みた限りでは、ヒットしなかった。円・ドルに限って自己実現的な予言の拠り所になることがあるとすれば、それはなぜなのか、という点についてはさらに追加的な検討が必要であろう。
このようにソロス・チャートの基盤は脆弱であり、為替投機には使えても、アカウンタブルな金融政策の基盤にはなりえないだろう。」
また、為替のコントロールについては、「米国では実際の介入業務はニューヨーク連銀が行っているが、財務省とFRBが介入権限を持っている。日本では財務省に介入権限があり、日本銀行は政府の代理人として介入実務に携わっているに過ぎない。」