2014年12月7日日曜日

ジャン・ティロール 『国際金融危機の経済学』

Tiroleは今年のノーベル経済学賞ですね。
Tiroleの『国際金融危機の経済学』、オアゾの丸善だと洋書が6840円で翻訳が2000円。
「IMF改革、国際的な最後の貸し手機能、および融資形態等のトピックについては、著名な経済学者の間で白熱したやりとりもあり、最近多く議論されてきている。議論すること自体は健全ではあるが、過度に敵対する立場をとるのはあまり建設的なこととは思えない」
「経済学者はいまだに基本的には資本移動の自由化を支持している。しかし危機の解釈に関しては意見が大きく分かれている。とくに危機に際して資本管理や国際金融制度のガバナンスをいかに行うかについては、意見が分かれている」
「このような危機は、本来望ましい資本移動の完全自由化にともなって起こる、望ましくはないが避けがたい副産物にすぎないのであろうか。世界は、試練が日常茶飯事に起こっている企業モデルに近づくべきか、それとも破綻はほとんど起こらない地方債モデルへと近づくべきだろうか(たとえば、対外直接投資やポートフォリオ投資の自由化と、短期資本移動の自由化前における金融仲介業を監督する強力な機関の設立)。」
「短期資本移動に対しては、暫定的あるいは永続的な規制を課すべきだろうか。これらを外国為替制度とどううまく折り合いをつければいいだろうか。危機は適切に対処されたのだろうか。そして、国際金融制度は改革されるべきなのだろうか」
「本書は、このテーマについて私がどれだけ理解しているか問い直したことをきっかけに執筆したものである。ここ数年の間に何度か、説得的で論理的な提案へと考えが揺れ動いたこともあれば、同じく雄弁ながら単純で一貫性のない議論にも同じくらい説得力があるように思えた」
「これはたんに私の思索が不十分であるからかもしれないが、同時に深く尊敬している経済学者たちが、事実認識に関しては幅広く合意に達しているのに、それを説明する理論については強く対立していることを知って不思議に思ったことも事実である。」
「本書では、国際金融機関の本来の任務を規定した原則に立ち戻り、市場の失敗の具体的な形を特定化し、危機の防止と国際金融制度設計についての指針を提示したい。他のアプローチや補完的なものを排除するものではない。いうまでもなく、ここにとりあげた特定の視点が、問題を明確化するうえで役立つことと信じている」

トマ・ピケティ 『21世紀の資本』

会社の帰りにオアゾの丸善によったらピケティの『21世紀の資本』、もう売っていた。
分厚いけど、意外と軽いです。
あと、Tiroleの『国際金融危機の経済学』も売っていた(洋書が6840円で翻訳が2000円)。
ピケティは翻訳の文体がクルーグマン本みたいなチャラい感じではなくてよかった。ということで、ピケティとティロールを買って帰る。


みすず書房の表紙のデザインと質感は相変わらず素晴らしい。よく見ると"LE CAPITAL"の字が二つに分断されていて本の主張を象徴している。

帯のコピー。「本書の唯一の目的は、過去からいくつか将来に対する慎ましい鍵を引き出すことだ」

『21世紀の資本』の日本語ホームページ
http://cruel.org/books/capital21c/

"The World Top Income Database"
http://topincomes.g-mond.parisschoolofeconomics.eu/

ピケティ「歴史分析と、ちょっと広い時間的な視野の助けを借りると、産業革命以来、格差を減らすことができる力というのは世界大戦だけだったことがわかる。」

やはり、個人的にはピケティ『21世紀の資本』の翻訳の文体は好きではない。

「マルクスは、(1848年の)その結論を正当化するように研究を進めたのだ。マルクスは一目見てわかる通り、すさまじい政治的な熱意をもって書いたので、時に仕方ないとはいえ拙速な断言をいろいろやってしまった。だからこそ、経済理論はなるべく完全な歴史的情報源に基づかなければならないのだ」

「19世紀の経済学者は終末論的な予言をやたら気に入っていたが、今度はおとぎ話を気にるようになったらしい。クズネッツに言わせると、辛坊さえすればやがて成長が万人に利益をもたらす。当時の哲学は次の一文でまとめられている。「成長は上げ潮であり、あらゆる船を持ち上げる」。」

「クズネッツの理論が80年代と90年代にもたらした大きな影響を正しく伝えるには、それがこの種の理論として初めてまともな統計手法を使ったものなのだということを強調せねばならない。」

「実は、所得分配統計の時系列データが初めて整備されたのは、1953年にクズネッツが記念碑的な『所得と貯蓄における高所得グループの比率』を刊行したときなのだ。」

「13年から48年にかけての米国の所得(格差)が大幅に圧縮されたのは、ほとんど偶然の産物だということをクズネッツ自身もよく知っていた。これは大恐慌と第二次世界大戦が引き起こした複数のショックにより生じたものがほとんどであり、自然または自動的なプロセスによるものはほとんどなかった」

「14年から45年にかけてほとんどの富裕国で見られた、急激な所得格差の低下は、何よりも二度の世界大戦と、それに伴う激しい経済政治的なショック(特に大きな財産を持っていた人々に対するもの)のおかげだった」


2014年10月26日日曜日

『経済学に何ができるか』 猪木武徳 6章、7章

「人間の満足度の構造について鋭い分析を加えた研究として、アダム・スミスやヒュームの人間本性と道徳感情の分析がある。アダム・スミスの議論から、当面のわれわれの問題意識と関連する諸点を三つほど採り出しておく。
ひとつは、他人の所得や地位の向上に対して人々が抱く気持ちは、その所得や地位の向上がどれほどのスピードで起こったのか、どれほどの地道な努力の結果達成されたのか、どのような運に左右されたのものなのか等に大きく依存している。
第二に、格差そのものによって社会の秩序や安定性が保たれているという側面も無視できない。人間は誰しも富者や権力者への賛美の感情を持つからだ。言い換えると、格差が消滅してしまった社会は、かえって、わずかな違いをめぐる嫉妬と怨望によって極度に不安定になる恐れがあるということである。
第三に、人間生活の悲惨と混乱の最も大きな原因は、自分の境遇と他人の境遇を比較することから始まるが、ある恒常的境遇と他の恒常的境遇との差異を過大に評価することによって、さらに悲惨の度合いは強まるであろう。」
ある目的を持って追及された問題の解決が不可能と分かった段階で、結果として科学の新しい概念や原理の定立に至る例として、錬金術と永久機関の追及があげてある。ちなみに、分裂気質の人が永久機関の夢想をよく抱くらしい。
「学問の歴史の中で、重要な発見や発明は、意図しないところから『偶然』生まれ出たというケースが多い。偶然を必然へと転化する力量は、研究者の「探す能力」と「関連付ける能力」であろう。だからこそ、偶然に賭けるという余地を残すために、知的な自由は確保されなければならないのだ。」
青色LEDでノーベル賞を受賞した天野浩氏も、偶然に窯の調子が悪かったことで良質な結晶を作れたんですよねえ。
「いかなる学問分野でも、人間は完全な知識に到達したわけではない。人文学・社会科学の分野においては特にそうであろう。だからこそ、獲得された知識を「絶対的なもの」として、他を排除する姿勢は、学問の進歩にとって有害なのである。」

パウル・クレーの矢印の意味

パウル・クレー『落ちる鳥』

パウル・クレー『Birds Swooping Down and Arrows』
見ようによっては、飛行機が爆弾を落としているように見えなくもない。

日経『美の美』はフランツ・マルクと私の好きなパウル・クレー。マルクはWW1で戦死。クレーは徴兵されたけれど父親や妻がバイエルン王に、クレーが戦線に出ないように手紙を書いたおかげで戦線には出ないで飛行学校に赴任。クレーは戦争については描かなかった。

この頃、クレーの作風は具象から抽象の方向へと進んでいた。「戦争という恐ろしい現実の中で過ごす人々にとって、何を描いているかが分かりにくい抽象絵画はむしろ受け入れやすかったのではないか」と呉氏。

大戦勃発以降、クレーの作品に多く登場するようになる矢印は様々な意味を持ち、「飛ぶ」ことを象徴している。飛行学校にいたクレーは、戦争をまったく絵の題材にしなかったのではなく、「飛ぶことを作品の主題にした」とデュヒティング氏は指摘。

あの矢印ってそうだったのか!

2014年10月25日土曜日

10/24の日経スクランブル、『頼りない日本株投信』

10/24の日経スクランブル「頼りない日本株投信」。
「震源地の米国株に比べ相場の戻りはいまひとつ。割安な銘柄を拾う国内投資家の層の薄さが大きな原因で、中でも日本株投資信託の存在感の無さは際立つ。日本人が買わない日本株投信は、海外要因で揺れ続ける日本株市場の問題の核心かもしれない」
「「日本株投信ですか?正直、売れ行きはあまりよくないです。理由はいろいろありますが、日本株が長期的に上がるイメージをいまだに抱けないのが最大の原因でしょう」。投信販売の最前線に立つ野村証券のある支店長はこう話す」
「公募投信は全体の残高が過去最高を更新中だが、押し上げ役はもっぱら海外株投信や海外REITファンドだ。日本株投信はカヤの外で、市場全体に占める残高比率は9.3%(9月末)と15年前のおよそ半分の水準に低下した。」
「残高全体の約8割を米国株ファンドが占める米投信市場とは大違いで、これでは相場の下支え約になりようがない。なぜかくも人気がないのか。原因を探る過程で、ある象徴的なファンドを見つけた。野村アセットマネジメントが2000年に設定した「ストラテジック・バリュー・オープン」だ。」
「実はこのファンド、プロの日本株運用者の間では長期間、安定的にベンチマークを上回る成績を上げてきたことで知られる。設定以来、年間でベンチマークの東証株価指数に負けたのは1年だけだ」。優れた成績なのに国内では売れていない。類似ファンドを足しても残高は60億円にすぎない。
「興味深いのが、このファンドは海外で爆発的に売れているのだ」。08年に応手で販売開始。パフォーマンスの高さから年金基金が資金を委託。今では公募投信として欧州、アジア、南米の17カ国で販売、海外投資家分の残高は約4500億円に達する。
「海外投資家は過去のパフォーマンスとその再現可能性を念入りに調べ、納得がいけば資金を預けてくれる」。河野光成シニア・ポートフォリオマネージャーは言う。
「運用成績がいい投信がちゃんと売れる市場を作ること。それが証券界の大きな課題だ」。日本証券業協会の稲野和利会長は言う。
ストラテジック・バリュー・オープンのパフォーマンス。しかし、フィデリティ日本成長株って、TOPIXインデックスなのかと思うくらいTOPIXに連動していますね。


まあ、海外要因というか、米国株要因で動くのは、日本だけじゃなくて、欧州や新興国の株式市場も同じだと思いますけどね。

2014年10月18日土曜日

『桶川ストーカー殺人事件 -遺言』

「桶川ストーカー殺人事件」を読むと、いざというときに警察はまったく頼りにならないということが良くわかる。埼玉県警上尾署、ひどい。「告訴状」を勝手に「届出」に改竄するなんてありえない。被害者には告訴は取り下げてもまたできると嘘を教えているが刑事訴訟法では一度取り下げると告訴できない。

ストーカーというと単独犯のイメージだけど、桶川ストーカーの異常さは、ストーカーがその筋の人にお金を払ってい集団で嫌がらせや殺人をさせたこと。そして警察がちゃんと捜査しようとしないこと。

桶川の事件は、写真週刊誌FOCUSのスクープだったんだけど、それがテレビで取り上げられ、政治家が取り上げたことでストーカー規制法が成立するんだね。やはりテレビの影響力は大きい。

告訴状をつき返した上尾署のM次長は、後にM次長によって左遷させられたという警察官によって放火されている。その警察官は刑務所で自殺している。

「桶川ストーカー殺人事件」の著者、清水潔氏によると、全国の警察のうち雑誌取材の対応ぶりワーストスリーは埼玉県警、京都府警、北海道警なのだそうだ。

2014年9月1日月曜日

『アベノミクスの終焉』 服部茂幸

データを丁寧に分析しながら、いわゆるアベノミクスと呼ばれる経済政策の効果を検証した良書です。その結果、第一章において以下のように異次元緩和が成功したという証拠はないと結論づけています。

(1)異次元緩和が始まると、経済成長率は低迷した。しかも、低い成長率を支えるのは、政府支出と消費増税による駆け込み需要である。異次元緩和が日本経済を復活させているという証拠はない。

(2)消費者物価の上昇も、輸入インフレによるところが大きい。円安の停止により輸入インフレが止まれば、消費者物価の上昇も止まる可能性が高い。実際、2013年末より消費者物価は上昇していない(14年4月の消費増税による物価上昇は除く)

(3)そもそも、アベノミクスの前の日本経済は全体的に世界同時不況から回復してきていた。

(4)アメリカやヨーロッパとの比較においても、日本のほうが経済回復のペースは速い。就業率についても、日本は危機前のピークをすでに越えているのに対して、アメリカでは08年の危機で急低下したまま、ほとんど回復していない。アメリカで成功しているとはいえない政策を日本で行って、日本経済が復活する保障はない。

アベノミクスの黒田=岩田日銀に対しても厳しい評価ですが、ミンスキーの流れをくむ著者らしく、不動産バブルを発生させて破裂させて世界的な金融不況を引き起こしたとして米国の中央銀行総裁のグリーンスパン、バーナンキに対しても厳しく批判しています。

2014年8月16日土曜日

『日銀、「出口」なし!』 加藤出

加藤出さん、さすがの面白さです。
日本や欧米の金融政策を概観できて、お盆休みの暇つぶしに最適ですね。

2章によると、バーナンキ、コーン、イエレン、FRBスタッフの間では、マネタリーベースを拡大する日銀の量的緩和は効果がないと既に結論づけていたそうだ。
FRBの政策はマネタリーベースを増加させることを目的としていないので、量的緩和策と区別するため大規模資産購入策LSAPと呼ばれた。
FRBがこの信用緩和策を大規模に実施すると、結果的に銀行システムに準備預金が大量に供給される。しかしFRBは、準備預金の増加はあくまで政策の副産物であって、それ自体は経済を刺激しないと明確に述べている。

バーナンキ「量的緩和は貨幣流通量に影響しない。銀行がFRBに預けた電子的金額が大きく増えただけで、それはそこに居続けている。それがインフレを引き起こす兆候は見えない」
"Q&A testimony to House"


3章で元IMFエコノミストのピーター・ステラ氏のコラムが紹介されている。今日、信用創造は準備預金残高に結び付けられていない。現代における準備預金の唯一の真の役割は、銀行間の資金決済にある。

「準備預金とマネーサプライの関係は、あなたが学校でおそらく学んだものとは異なっている」
"Exit-path implications for collateral chains" | vox

ステラ氏は、2013年5月のコラム「日本銀行劇場:これは能の後の歌舞伎か?」で日銀のマネタリーベース・ターゲットに懐疑的な見方を示した。

「日本銀行劇場:これは能の後の歌舞伎か?」ピーター・ステラ
http://stellarconsultllc.com/blog/?p=133

また、植田和男氏の講演も紹介してある。
『非伝統的金融政策、1998年―2014年:重要な金融的摩擦と「期待」の役割』 植田和男
2014年5月24日金融学会講演(PDF)

そのなかでクルーグマンとウッドフォードの意見が紹介してある。

クルーグマン「私の理解では、日本が以前(2000年代前半に)、大規模な量的緩和を行った際は準備預金の増額にすぎず、効果をもたらさなかった。一方、米国型とは、非伝統的な資産の大量購入を指す。特に日本の場合は、国債金利があまりに低く、これを買っても効果は小さい。ほかの資産の購入がどの程度の効果を生むのかは誰にも分からず、議論も分かれるが、やっても失うものはないのだから、試すべきだ」

個人的には、安倍政権も、実質賃金低下が政権に与える負の影響を気にし始めている気はしますね。

物価目標と並ぶ異次元緩和のもう一つの柱となった「マネタリーベースを2年で倍増させる」との目標。こちらの評価はどうか。ウッドフォード教授に問うと「それも、私だったらやらない」との答えだった。
「(物価上昇率とマネタリーベースの)2つの目標の存在は混乱を招く。それに大きな効果を生まなかった過去の量的緩和の手段と極めて似ている。量的緩和が目標にしたのは当座預金の残高でマネタリーベースとは違うが、両者の動きは密接に関係している。有効でなかった目標をなぜ再び持ち出したのか」

加藤氏はJohn H. Rogersも紹介しています。
"Evaluating Asset-Market Effects of Unconventional Monetary Policy: A Cross-Country Comparison" Rogers et al,(2014)
「FRB、BOE、ECB、日銀の異例の金融政策が債券利回り、株価、為替に与えた影響を分析。日中や一日の短い変化では効果が認められたが、株価、為替への効果は利回り低下を通じてというよりアナウンスメント効果の方が大きい。さらに持続的効果を検証したらそれはゆっくりと消えてしまっていた」
ちなみに、John H. RogersはFRBの中の人。

3章、日銀の01年のようにBSを大きくしてマネタリーベースの供給を増やすことを意図した政策をQE0、08~09年に多くの先進国の中銀が行った、金融市場のパニックを鎮めるための資産購入策をQE1、その後のポートフォリオリバランスを狙った政策をQE2と呼んでみる。

「米国では、金融危機時に行われたQE1は資産価格によく効いた。しかしQE2の効果は不明瞭である。表面的には株価の上昇が見られたが、それは経済情勢の好転によるもので、それを除くとQE2の効果は限られる。
しかし、QE1があまりに効いたため、ヘッジファンドなど海外投資家の間で、「QEは効果がある」という誤解が続いた。彼らは、実はQE0、QE1、QE2の区別がついていないのである。
日銀の今回の量的質的緩和策は、QE1ではなく、QE2。だが、このような海外投資家の誤解が存在するため、同政策の導入で株価は一時上昇した。ヘッジファンドにしてみれば、自分たちの理解が理論的に正しいかどうかは実は重要ではなく、周りの投資家がどう動くかが大事。皆が誤解して動けばOK。

海外の投資家に接することの多いであろう加藤さんの話なので、まあそうなんだろうなあと思います。黒田さんもその辺を分かっていてあえて「マネタリー・シャーマン」的な演技をしてるんでしょう。


(おまけ)
Guest Contribution: Myron Scholes on Whether QE2 Will Work

2014年8月9日土曜日

ハミルトン『時系列解析』の分析をRで一部再現するパッケージを試す

PDFと音楽のデータをPCからスマフォにコピーしているときに、昔ダウンロードして放置していた「RcompHam94」というRのパッケージを見つけた。これはJ.D.ハミルトンの名著『時系列解析』の一部のサンプルをRで再現するというものらしいので、早速試してみた。

まず以下のリンク先のzipファイルをPCの任意の場所に解凍しないでそのまま保存する。

http://dss.ucsd.edu/~jhamilto/RcompHam94_0.1.zip

ここではD:\sampleというフォルダに保存した。
 zipパッケージのなかにCompanion.pdfという解説のファイルがあるので参考にそれを開いておくと便利。表紙のタイトルは"An R Companion to James Hamilton's Time Series Analysis with R"。
zipファイルのdemoというフォルダの中をみると16個のRのデモ・プログラムがある。
まず、Rに「RcompHam94」のパッケージをインストールする。そのためRを立ち上げるときにアイコンの上で右クリックをして 「管理者として実行」を選ぶ。
Rを立ち上げたら、「パッケージ 」のメニューから「ローカルにあるzipファイルからのパッケージインストール」を選ぶ。
 保存しておいた「RcompHam94_0.1.zip」を選ぶ。
無事にパッケージがインストールされた。
デモを動かすにはコンソール画面で「demo(topic="p112",package="RcompHam94")」 と入力。topicはさっきのdemoのフォルダにあったRのプログラムの一つ。
デモ"p112"の実行画面。左が実行されたRのコマンドと出力結果。右が出力結果のグラフで上が自己相関係数、下が偏自己相関係数。
いくつか動かないサンプル・プログラムもあるので、時間のあるときに中身を詳しく調べてみたい。

2014年7月26日土曜日

初心者がVisual C++で"Hello World"を表示させる方法

初心者にとってはC++の入門用の教科書の簡単なサンプルコードをVisual C++で動かすのも簡単ではないと思います。ここではVisual C++2013で"Hello World"と表示させてみます。

Visual C++はMicrosoftのVisual Studio 2013に含まれています。Visual Studio 2013にはVisual BasicやC#も含まれています。無償版をMicrosoftのウェブサイトからダウンロードしてインストールすることができます。ここではすでにVisual Studio 2013無償版がインストールされているとします。

C++の教科書の簡単なサンプルコードをVisual C++で動かす方法はふたつあります。一つは「空のプロジェクト」を作る方法、もう一つはVisual Studioが用意するコンソール・プリケーションのテンプレートを利用する方法です。

まず、「空のプロジェクト」を作る方法を示します。メニューから「ファイル/新しいプロジェクト」を選びます。
左側のテンプレートで「Visual C++」を選び、「Win32 コンソール アプリケーション」を選びます。下のところでプロジェクトの「名前」や「場所」を適当に決めます。
アプリケーションの設定で「コンソール アプリケーション」を選び、追加のオプションを「空のプロジェクト」として「完了」ボタンを押します。
メニューから「プロジェクト/既存項目の追加」を選びます。
「C++ ファイル(.cpp)」を選び、名前を付けます。ここでは「Hello.cpp」とします。
教科書のサンプルコードを書き込みます。ここでは
サンプルコード
------------------------------------------------------------
 #include  <iostream>
 using namespace std;

 int main() {
   cout << "Hello World" << endl;
 }
------------------------------------------------------------
と打ち込みます。
打ち込んだら、メニューから「デバッグ/デバッグなしで開始」を選びます。
「ビルドしますか?」で「はい」を選びます。
するとコンソール画面にめでたく「Hello World」と表示されます。
以上が一つ目の方法です。二つ目の方法として、コンソール・プリケーションのテンプレートを利用する方法があります。
先ほどのアプリケーションの設定のところで「コンソール アプリケーション」を選び、追加のオプションで「空のプロジェクト」のチェックを外して「完了」ボタンを押します。
するとVisual Studioが空のコンソール・アプリを準備します。

次の二文を「_tmain」の前に加えます。
--------------------------------------------------------------
 #include <iostream>
 using namespace std;
--------------------------------------------------------------
そして「_tmain」の { } の中の「return 0;」の前に次の文を加えます。ちなみに「_tmain」が通常のC++の「main」に該当します。
--------------------------------------------------------------
   cout << "Hello World" << endl;
--------------------------------------------------------------
メニューから「デバッグ/デバッグなしで開始」を選びます。

2014年7月12日土曜日

須田美矢子氏の『リスクとの闘いー日銀政策委員会の10年を振り返る』は必読

日銀の政策委員会の審議委員を10年間務めた経済学者の須田美矢子氏の『リスクとの闘いー日銀政策委員会の10年を振り返る』は、著者の意見が驚くほど率直に散りばめられた第一級の資料に仕上がっている。

どれほど率直かは、たとえば「はじめに」のなかの以下の文章を読むだけでも感じられるだろう。

「このように金融・経済情勢がめまぐるしく変化する中で、計量的に算出した過去の平均的な姿を単純に先行きに当てはめて予測をしても、それが実際に役立つとは限らない。また、理論でしばしば仮定するように、人々の先行き予想は定常均衡に向かって収束していくという単純化は現実的ではなかった。人によって予想は異なるし、様々なニュースに反応して大きく振れることもあって、それを簡単にコントロールできるものではなかった。さらに、政策を行う上で非常に大事な信認の維持は、既存の理論で簡単に取り扱える問題ではなかった。市場動向、日々出てくる指数や先行きを示すサーベイデータや内外の政策変更をチェックし、金融市場や経済・物価情勢に関する足許の変化から、先行きに対するインプリケーションを的確に読み取り、リアルタイムでそれらを金融政策運営で活かしていく―こうした実務は、言葉でいうほど簡単ではなかった。それにもかかわらず、内外を問わず著名な学者が望ましい政策論を断定的に展開しているのを見聞きすると、なぜそのようなことが簡単にいえるのかというのが率直な感想であった。それに加えて、その取り上げられ方に、もっと大きな問題を感じていた。」

この本がカバーしている範囲も著者が関わった日銀法改正から政策委員会、量的緩和、質的緩和、インフレーション・ターゲティング、コミュニケーション・ポリシー、マクロ・プルーデンスの視点など多岐にわたっており、しかもそれぞれのテーマについて著者の忌憚のない意見が述べられている。

日銀の金融政策に興味のある人は必読だろう。

2014年6月28日土曜日

日経ヴェリタス6.15「GPIF 国内株編重への疑問」

日経ヴェリタス6.15「GPIF 国内株編重への疑問」において、臼杵政治 名古屋市立大学教授が正論を展開して伊藤隆敏座長らの年金改革案を全否定しているので、誰かこれを印刷して伊藤氏に手渡してほしい。

「海外の年金にならうというのなら、日本株への配分増には大きな疑問がある。まず、人口構成の違いなどを無視して、外国の資産配分の数値をまねる国はない。ポートフォリオのリターンだけでなくリスクも含め、保険料や給付にどう影響するか、年金の資産負債分析をもとに配分を決めるのが常識だ

年金のバランスシートの資産側の大半は将来の賃金から支払われる保険料である。国内経済の成長率が低ければこの部分が減少し年金財政が悪化する。それにもかかわらず、同じく国内経済の影響を受ける国内株式への配分を増やすのはリスク分散に反する。

大きな国内市場を持つ米国を除き、主要な公的年金で株式の半分を国内株が占める例はない。21世紀の株式市場は急速にグローバル化しており、内外の別にこだわる理由はなくなっているのだ。金利上昇に備えて国内債券の配分を減らすとしても、それに対応して増やすべきはグローバル株式であろう。

経済政策のために公的年金が自国株式への投資を拡大した例も耳にしたことがない。株価対策のために公的年金が株式投資をする国だという評判が立てば、価格形成の透明性を損ない、長期的には海外投資家を遠ざけることになろう。

経済活性化を目的とした日本株投資の増額は、厚生年金保険法にも定められ、欧米の年金基金の常識でもある「加入者の利益のための運用」に合致するのか疑問である。政府やGPIFの冷徹な議論を期待したい。」

2014年6月21日土曜日

『ベッカー教授、ポズナー判事の常識破りの経済学』

『ベッカー教授、ポズナー判事の常識破りの経済学』の元ネタになったブログ。


ブログがそのまま本になるなんて、クオリティが高いですね。ベッカー教授は日本語版への序文で日本についても触れています。

「日本がかつての経済的強さを取り戻すための最善策は、高い経済成長を達成することである。しかしこの高い成長を妨げる、根本的で是正の難しい問題が人口の状況だ」


2014年6月1日日曜日

『超金融緩和のジレンマ』梅田雅信


基本的な考えは、「日本のデフレの正体は賃金水準の低下と交易条件の悪化である。その背景には、製造業の産業競争力の低下がある。デフレ脱却には、金融政策だけでなく、産業のダイナミズムを取り戻すための取り組みも重要である。」

日米英欧4中銀の総資産対GDP比率の推移

日米英欧4中銀の保有長期国債対GDP
2013年3月発行の本なので、データは2012年9月までですかね。

マネタリーベース対GDP比率。日銀を嫌いな人達がリーマンショック前を100にそろえて意図的にいかにも日銀の金融緩和が中途半端という印象を与えようとしていたものですが、あれは悪質でしたね。

マネーストック対GDP比率

ソロスチャートが依拠しているマネタリーアプローチは理論の前提が崩れているうえ実証的な説明力も失っている。為替ディーラーが使うツールの一つにも位置付けられないし、金融政策と為替の長期的な関係を論ずるツールとして使うのには慎重であるべき。

              













リーマンショック後の日米中銀の金融政策動向


〈参照されている主な論文〉
"Ultra Easy Monetary Policy and the Law of Unintended Consequences" White(2012)

September 15, 2012
Richmond Fed President Lacker Comments on FOMC Dissent

Speeches by Richard W. Fisher
Remarks before the Harvard Club of New York City
September 19, 2012

"Economic Outlook and Monetary Policy"
Charles I. Plosser, President and CEO, FRB of Philadelphia
September 25, 2012

Evans "Perspectives on Current Economic Issues" - Federal Reserve Bank of Chicago

"What Does the Change in the FOMC’s Statement of Objectives Mean?"
Thornton (2011) (PDF)

白川総裁記者会見要旨 2008年10月31日 (PDF)

「流動性の罠と金融政策」  植田(2001.9.29)

「日本の消費者物価指数の諸特性と金融政策運営」  梅田雅信(2009)(PDF)


"Fairness as a Constraint on Profit Seeking: Entitlements in the Market" Kahneman, Knetsch, Thaler(1986)(PDF)

"Why Has Wage Growth Stayed Strong?" Mary Daly, Bart Hobijn, and Brian Lucking(2012)

「米国は日本のようなデフレにはならない」  根津利三郎(2010)

"Japan as “Role Model” Krugman(2012.5.30)

"Sticky Wages and the Macro Story" Krugman(2013.7.22)

"Japan as a Role Model?" Richard G. Anderson(2013)

平成24年度版「通商白書」第1章第2節「債務危機により混迷を深めた欧州経済」(PDF)

"The Zero Bound on Interest Rates and Optimal Monetary Policy"
Eggertsson and Woodford (2003)これはよく引用されるね。

"Conventional and Unconventional Monetary Policy" Curdia and Woodford (2010)(PDF)

Curdia and Woodford(2010)は、
1)リザーブの増加が中銀の国債保有増によって賄われる、2)将来の金利政策に関する人々の期待が不変である、といった2つの制約下で、量的緩和政策は総需要を刺激することができないという「量的緩和の無効性命題」を主張している。

"Monetary Transmission at Low Inflatiion: Some Clues from Japan in the 1990s" Meltzer(2001)(PDF)

"The effect of the increase in the monetary base on Japan’s economy at zero interest rates:
an empirical analysis"

"Evaluating Monetary Policy When Nominal Interest Rates are Almost Zero" Fujiwara(2004)(PDF)

"Monetary Policy, Money, and Inflation"
John C. Williams(2012)

「量的緩和政策」 本多、黒木、立花(2010)(PDF)

"The Estimated Macroeconomic Effects of the Fed's Large-Scale Treasury Purchase Program"
Fuhrer, Olivei(2011)(PDF)

"Methods of Policy Accommodation at the Interest-Rate Lower Bound"
Michael Woodford(2012)(PDF)

2014年5月10日土曜日

フリーのMatlabクローン、Scilabをインストール

PCを買い替えたので、フリーのMatlabクローンであるScilabをインストール。MatlabとScilabのコードはほとんど同じです。少しだけ違います。詳しくは『MATLAB/Scilabで理解する数値計算』桜井 鉄也などをご覧ください。
Matlab、S-PLUSが商用でかなり高価なのに対して、Scilab、R、Octaveはフリー(無料)です。
Scilabのホームページ。ここからダウンロードできる。 http://www.scilab.org/



Scilab、Win版は32ビット用と64ビット用があります。私のOSはWindows8.1 64bitsなので64ビット用をダウンロードしてインストール。
試しに、今読んでいる『入門ベイズ統計学』中妻照雄(2007)の朝倉書店のウェブサイトから、同じプログラムをMatlab用とScilab用に書いたコードをDLして比較できるので、どれだけ似ているか確認できると思います。Scilabのサンプル・プログラムをダウンロードして試してみる。
ギブズ・サンプラーのプログラム「i2bs_gsex.sci」をScilabで動かすと、ちゃんと結果が出る。

S-PLUSとRも似ている。
『はじめてのS‐PLUS/R言語プログラミング―例題で学ぶS‐PLUS/R言語の基本』 竹内 俊彦 
Rだけでいいという人はこのウェブサイト
とその書籍化 『The R Tips―データ解析環境Rの基本技・グラフィックス活用集』 舟尾 暢男がいいと思います。 

2014年5月4日日曜日

『金融システムと金融規制の経済分析』


図書館から借りてきた『金融システムと金融規制の経済分析』の第4章「金融危機と金融規制(金融危機と市場型間接金融―「影の銀行システム」の経済分析」はこの論文が元になっていますね。

「金融危機と市場型金融の将来」 池尾和人(2010)

「経常収支黒字国から経常収支赤字国に資本移動が円滑に起こる仕組みができあがっていたからこそ、グローバル・インバランスの急拡大は可能になった。その仕組み(影の銀行システム)がうまく回らなくなったときに、サブプライム・ローン問題という形で危機が生起することになった」

欧米の大手金融機関が破綻や大打撃を受けたのは、「サブプライム・ローン関連を含む証券化商品を自ら(あるいは、投資ヴィークルを通じて)保有していたからである。」

「投資家に直接に証券化商品を販売するのではなく、担保付負債を発行するということで、金融機関はレバレッジを高めるとともに、投資家に対して流動性を供給するという機能を果たすことになっていた。証券化商品の太宗が資金仲介システムの内部で保有されていたという事実は重要である。」

一時期、「証券化悪玉論」がまことしやかに語られたが、実際はそれが事態の中心ではなかった。本当に転売して、投資家にリスクを転嫁していたのなら、いずれかの機関投資家が破たんしたとしても、リーマンのような投資銀行が破たんすることはなかった。

「危機の原因は、証券化という仕組み自体にあるというよりも、アメリカ(およびヨーロッパ)の大手金融機関の内部統制とリスク管理の体制にあったと理解すべきだということになる」

「1990年代以降、事業会社や機関投資家による大口の短期資金の安全運用ニーズが急拡大した。証券化の技術だけでは安全資産は提供できても、短期の流動性は提供できない。レポ取引の拡大は、こうした短期安全資産の不足という問題に応えるという意義を持っていた。」

「銀行預金がマネーなら、レポはそれ以上に立派なマネーだと考える必要がある。そして、影の銀行システムは、レポという大串のマネーを提供するシステムとして存在意義を持つようになったといえる。」

「短期の流動的な安全資産に対する運用需要の高まりに直面して、アメリカの金融サービス産業は、証券化と自ら短期で借りて長期で運用する行動をとることによって、その需要に応える供給を行ったわけである。」

アメリカの投資銀行等がきわめてリスクの凝縮された劣後部分を自ら保有する等の危険な行動をどうしてとっていたのか。理由の一つはアメリカ住宅価格の全国的下落はありえないというある種の慢心の広がり。もう一つはHFやIBのインセンティブ構造の歪みを指摘。

「現代の金融に関しては、リスクを分散・再配分する機能の方が重要になっているといえる」

〈参考文献〉
"The Changing Nature of Financial Intermediation and the Financial Crisis of 2007-09"
Adrian and Shin(2010) (PDF)

"Shadow Banking" Pozsar, Adrian, Ashcraft, and Boesky(2012)

"A Model of Shadow Banking" GENNAIOLI, SHLEIFER, and VISHNY(2013)(PDF)

"The "Other" Imbalance and the Financial Crisis"  Caballero(2010)

"The Subprime Panic" Gorton(2008)

"Market Liquidity and Funding Liquidity" Brunnermeier and Pedersen (2009) (PDF)

「日本銀行のマクロプルーデンス面での取組み」 日本銀行(2011) (PDF)

2014年5月3日土曜日

『非伝統的金融政策の経済分析 資産価格からみた効果の検証』 竹田陽介 矢嶋康次

四連休だし、この本を少しずつ読み始めている。

「代表的なニュー・ケインジアンのフィリップス曲線ではCalvo(1983)型の企業の価格設定モデルを前提とするため、価格水準自体の硬直性は生まれるが、インフレ率の硬直性は説明できない」

「現実に観察されるインフレ率の硬直性を説明するため、Calvo(1983)に代わる様々な理論モデルが提案されてきた。そのひとつに、合理的無反応(Rational inattention)の議論がある」

「Sims(2003)や Reis(2006)は、シャノンらの情報理論に基づき、情報の集積によって生じるエントロピーが閾値を超える場合に初めて、経済主体が情報獲得に動くという仮説に基づき、Mankiw and Reis(2002)の硬直的情報モデルを正当化した。」

「合理的無反応」のモデルだと「今期のインフレ率が依存するのが、今期のインフレ率に対する過去の時点における予測であり、Calvo(1983)型の硬直価格モデルにおいては、将来のインフレ率に対する今期の予測であるのとは対照的である」

"「予測市場」に向けて" 竹田陽介(2007)ニッセイ基礎研所報 vol47 
E-stability の下では、PLMから ALMへの写像が、最小二乗学習の下での合理的期待均衡(REE)の漸近的安定性を保証する。

"Staggered Prices in a Utility-Maximizing Framework"  Calvo(1983) (PDF)

「日本の90 年代におけるフィリップス曲線」 竹田、小巻、矢嶋(2001)ニッセイ基礎研所報vol17

「日本におけるニュー・ケインジアン・フィリップス曲線の推定」 竹田、小巻、矢嶋 (PDF)
(個人的には、潜在成長率をHPフィルタで推定してGDPギャップを求めるやり方は好きではない)

"Communication and Monetary Policy" Amato, Morris, and Shin (2003) BIS Working Paper No.123 (PDF)

Amato他(2003)によると、「中央銀行が金融資産均衡価格から情報を抽出し、金融政策に活かすようにすると、市場参加者は自前で獲得した情報に依存せず、金融政策において中央銀行が発する情報に依存して、金融資産価格形成を行うようになる。」

「そのため、金融市場には、情報集約機能が働かなくなり、均衡価格の持つ情報量がノイズを持つようになる。ノイズを持つ均衡価格から得られる情報では、中央銀行が適切な金融政策運営を行うことが困難になり、中央銀行は自前の獲得情報に基づき金融政策を行うようになる。」

「したがって、中央銀行による市場との対話では、Grossman and Stiglitz(1980)と同様、一方向的な情報発信は均衡とならない。」
今のJGBと日銀なんて(ry

"Information and Competitive Price Systems" Grossman and Stiglitz (1976) (PDF)

"On the Impossibility of Informationally Efficient Markets"  Grossman and Stiglitz (1980) (PDF)

『ゼロ金利政策下における時間軸効果:1999-2000年の短期金融市場データによる検証』 白塚 重典・藤木 裕(2001)

『国債流通市場における情報に基づく物価連動債の評価』 北村行伸(2006) (PDF)

ちなみに竹田・小巻・矢嶋(2005)によると、英国の中銀および民間予測機関とも、物価連動債価格の持つ情報を抽出しているのに対して、FRBは物価連動債を利用していないそうだ。米国では英国に比べてノイズが相対的に大きいことに起因すると考えられると。

「わが国のデフレーションに際しても、デフレーションを克服するための政策の処方箋として、期待に働きかける政策が盛んに主張されてきた(Eggertsson and Woodford[2003]:Svensson[2003]:Auerbach and Obstfeld[2005])」
「しかし、デフレ期待そのものがどのようなメカニズムに基づき推移してきたかについて分析された例は見当たらない。Fisher1933はデフレの負債を通じたマクロ経済的影響を分析。債権者と債務者の間に消費性向の差を仮定、マクロ経済全体の消費が予期せぬデフレによって変動する可能性を指摘」

"The Debt-Deflation Theory of Great Depressions" Fisher(1933) (PDF)

1933年のEconometricaの論文がすぐに読めるなんて、いい時代になったものです。

"The Zero Bound on Interest Rates and Optimal Monetary Policy" Eggertsson and Woodford (2003)

"Escaping from a Liquidity Trap and Deflation: The Foolproof Way and Others" Svensson(2003)

"The Case for Open-Market Purchases in a Liquidity Trap" Auerbach and Obstfeld(2005)

"The Proof and Measurement of Association between Two Things" C. Spearman(1904) (PDF)

スピアマンの順位相関の1904年の論文が読めるなんていい時代になったものです。

竹田・矢嶋(2013)では、Carlson and Parkin(1975)を可変パラメータモデルに一般化してカルマンフィルタで推定するNardo(2003)の手法を用いて日本の期待インフレ率を推定しています。