2016年12月11日日曜日

『非伝統的金融政策 -- 政策当事者としての視点』宮尾龍蔵

日本の非伝統的金融政策の効果を構造ベクトル自己回帰モデルで分析
経済学者であり、日本銀行政策委員会審議委員を2010年~2015年の間務めた宮尾龍蔵氏による非伝統的金融政策の解説と政策の効果の実証分析をまとめたものです。
宮尾氏の分析手法は時系列分析の構造ベクトル自己回帰(Structural VAR)モデルを利用したものです。構造ベクトル自己回帰モデルとは、複数の経済変数の相互依存関係をシンプルな(主として各変数の過去の値に依存するような)連立方程式体系で描写し、各式の誤差項を「構造ショック」とみなします。
宮尾氏は構造VARモデルで日本の非伝統的金融政策の効果を分析した結果、「2001年から2015年初めまでの日本のマクロ経済データを用いて検証した結果、マネタリーベースの増加は、長期金利の低下と資産価格の上昇 ―株価の上昇やドル/円為替レートの上昇(ドル高・円安)― を通じて、日本のGDPを持続的に引き上げ、また消費者物価上昇率にも持続的なプラスの効果をもたらすことが確認された」と結論づけています。
一方で「本章で示される分析結果が、日本の非伝統的金融政策の効果に関して確定的な最終結果を表すというものではありません。今後のデータの蓄積によって、また潜在的に起こりうる経済構造の変化によって、実証的な評価は変わりうるものです。むしろ、ここでの検証は、シンプルかつ再現可能な科学的分析を示すことで、今後のより詳細な分析につながり実証結果が蓄積されていく、そして非伝統的金融政策の効果の全体像に少しでも近づく、そうした試みの1つとして位置づけられるものと考えます」と断り書きをしており、経済学者としての真摯な姿勢が感じられます。
分析結果については日銀審議委員だった立場上、全く効果がなかったという結論は出しにくいでしょうし、VARモデルは使う変数の選び方やデータ期間によって結果が変わってくるので、いろいろと議論はあるかと思います。ただ、一流の経済学者が日本の金融政策の実証分析の手法を分かりやすく説明し、分析結果の見方を解説してみせた意義は大いにあるのではないかと思います。
なお、構造ベクトル自己回帰(Structural VAR)を使った分析については、前著の『マクロ金融政策の時系列分析』の方がより詳細に書かれているので、興味を持たれた方は『マクロ金融政策の時系列分析』を読むことをお勧めします。

また、アカデミックな参考文献をきちんと紹介されているのも大変参考になります。