2017年12月16日土曜日

植野剛「機械学習とは何か?」

証券アナリストジャーナル2017/8月号の植野剛「機械学習とは何か?」。AIとは現段階では機械学習のことであり、それはイコール統計学だと明快に述べている。「機械が学習するとは(中略)データから予測や意思決定モデルのパラメータを統計的に推定することである」
「言い換えれば、機械学習と統計学は学習と推定という異なる言葉を使っているが数理的には全く同じ問題を扱っている」
植野氏は、機械学習は数理的には統計学であるが、科学的アプローチではなく工学的アプローチであり、これが真実を知るツールとして適当か否か熟考するように強く問うている。
「機械学習と統計学の違いはその目的にある。統計学はデータ解析を通して「対象とする現象を理解すること」に重きを置いている。よって、可読性の高い単純なモデルー線形モデルを用いて、予測・意思決定の性能だけでなく、その背後のメカニズムを科学的に分析する。
機械学習は高精度な予測・意思決定を実現することに重きを置いている。性能向上につながるならば、線形モデルに固執することなくブラックボックス性の高い複雑なモデルを利用する。このときモデルの可読性は完全に失われどのようにして予測、意思決定がなされているかを解釈することは不可能となる」

ヴァプニック「アインシュタインは「答えが単純であるとき、神が答えている」と言った。これは法則が単純であれば、見つけることができることを意味している。また、「考慮する要因が多いとき、科学的手法は失敗する」とも言っている」

「さて、実世界とは単純なのか?それとも複雑なのか? 複雑な世界を扱うときはこれまでと全く異なるアプローチをとるべきである。例えば、複雑な世界ではよりよい予測を実現するためには、説明可能性を諦めるべきである。」

「確率最適制御は、モデルを介してシステムの確率過程を同定し、その同定したモデルから効用関数を最大にする意思決定則を導出する。一方、強化学習はシステムの確率過程の同定を行わず、適当な意思決定則を用いてデータを収集し、そのデータを基に効用関数が大きくなるように意志決定則を学習する。
このデータ収集ーサンプリングと学習を繰り返すことで最適な意思決定則を導出する。つまり、強化学習は確率最適制御と異なり、システムの確率過程について知らなくても(同定しなくても)最適な意思決定則を見つけることができる。この研究を発展させたのがディープマインド社によって開発された囲碁AI「アルファ碁」である。
強化学習は強力な手法であるが、大きな欠点も併せ持つ。それは学習をするために多くのサンプリングを必要とする点である。ゲームAIは計算機上でシミュレーションができるため、大量のサンプリングを実現することができる。しかし、精巧なシミュレーションが存在せず、データの入手が困難な問題、例えば資産運用に適用しても学習は機能しない。強化学習をこのような問題に適用するためには、なんらかのデータの不足を補うアイディアが必要となる」

「市場のダイナミクスを効率よく予測できたと仮定して、その予測のメカニズムは果たして人間に理解できるようなものなのか?別の言い方をすれば「人間に理解できる程度の論理で市場のダイナミクスを説明できるのだろうか?」」

「今後、金融において機械学習と付き合っていくならば、この透明性の議論は避けては通れない。市場のような複雑な世界と対峙していくのに当たって、透明性を求めていくには限界がある。従来の方法のようにシンプルなモデルによる完全な透明性を求めるのではなく、ホワイトボックスの部分とブラックボックスの部分が混在するハイブリッドなモデルを介して部分的な解釈性を求めるアプローチなどが有力なのではないかと筆者は考えている。」

"Statistical Modeling: The Two Cultures" Leo Breiman(2001)

"“Learning Has Just Started” – an interview with Prof. Vladimir Vapnik"

"Reducing the Dimensionality of Data with Neural Networks"
G. E. Hinton* and R. R. Salakhutdinov(2006)

"Deep learning" Yann LeCun, Yoshua Bengio & Geoffrey Hinton(2015)

2017年12月4日月曜日

川口マラソン2017

10kmとはいえ人生初マラソンだったのだけれど、目標としていた60分を切ることができて満足。練習だと概ね1時間10分だった。周りが速いペースでも前半我慢して自分のペースで走れたので後半もいい感じで走れて余力を残してフィニッシュ。来年はもっと速く走りたい。



2017年10月29日日曜日

『脱線FRB』 ジョン・B・テイラー

テイラー・ルールの提唱者として有名なジョン・B・テイラーは次期FRB議長候補にもなっている。図書館で彼の『脱線FRB』という本を借りてきて読み始める。

《テイラー・ルール》 政策金利=中立名目金利+α(今期インフレ率ーインフレ目標)+β(GDPギャップ) 中立名目金利(自然実質金利+インフレ目標)とインフレ目標をそれぞれ4%と2%、αとβをそれぞれ1.5と0.5とすると1980年代から2000年にかけての政策金利を説明できると。

本の内容は以下の彼の講演や論文の寄せ集め。

"HOUSING AND MONETARY POLICY" John B. Taylor(2007)
http://www.nber.org/papers/w13682.pdf

"Globalization and Monetary Policy: Missions Impossible"
John B. Taylor(2009)
http://www.nber.org/chapters/c0787

"A Black Swan in the Money Market" John B. Taylor, John C. Williams(2008)
http://www.nber.org/papers/w13943

"The State of the Economy and Principles for Fiscal Stimulus"
John B. Taylor(2008)
https://web.stanford.edu/~johntayl/Principles%20for%20Fiscal%20Stimulus.pdf

"The Costs and Benefits of Deviating from the Systematic Component of Monetary Policy"  
John B. Taylor(2008)
http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.436.4115&rep=rep1&type=pdf

"The Way Back to Stability and Growth in the Global Economy"
John B. Taylor(2008)
https://www.imes.boj.or.jp/english/publication/mes/2008/me26-4.pdf

"THE FINANCIAL CRISIS AND THE POLICY RESPONSES:
AN EMPIRICAL ANALYSIS OF WHAT WENT WRONG"
John B. Taylor(2009)
https://www.perimeterinstitute.ca/images/conferences/taylor_policy_responses.pdf

これに対して、解説で大津敬介氏がウッドフォード(2001)を紹介している。

"The Taylor Rule and Optimal Monetary Policy" Michael Woodford(2001)
http://www.columbia.edu/~mw2230/taylor.pdf

ウッドフォード(2001)は、典型的なケインジアン粘着価格モデルにおいて、テイラー・ルールが、経済厚生損失関数を最小化させる最適金融政策ルールであることを証明した。

注意点として、GDPギャップは現実のGDPと潜在GDPとの乖離率として定義されるが、もともとテイラーは現実のGDPの時系列トレンドからの乖離率としてGDPギャップを計算した。時系列トレンドが潜在GDPと等しい限り問題はないが、乖離しているとGDPギャップを過大評価してしまう。
また、テイラー・ルールでは中立名目金利が4%と設定されているが、自然実質金利は一定ではなく、毎期の経済状況の影響を受ける。
目標インフレが2%と設定されているが、この経済学的根拠は乏しい。経済厚生の観点からすると、インフレ税やメニューコストの負の効果を避けるため、インフレが存在しないことが望ましいはずである。そう考えると、インフレ目標はゼロであるはずである。

2017年9月16日土曜日

『日本経済再生 25年の計』1章 金融政策

池尾氏の第1章「金融政策」は、アベノミクスの量的質的金融緩和の経緯を振り返りそうした政策が理論通りに景気刺激策としてほとんど追加的効果を持たなかったことを議論。私の意見は池尾和人氏と全く同じです。

円高是正、株高、景気回復など「こうした経済の好転を大胆な金融緩和の成果であると主張して、この間の金融政策運営を正当化しようという向きもあるが、どのような波及経路で(当初の意図のようにインフレ期待や実際の物価は上がらなかったにもかかわらず)好転につながったのかを説明すべきであろう」

2001年3月から06年3月にかけて日銀が世界で最初に実施した量的緩和政策は、端的にいうと短期国債と準備預金の交換を行うもので、政策金利がゼロになっている状況では短期国債と準備預金はほとんど同等だから、それらを交換しても特段の効果が生じず、景気刺激効果はほとんどない。

長期国債と準備預金であれば、金融資産としての特性にはまだ違いがあるが、「QQE開始時点ですでに長期金利は1%を割り込む水準にあったために、定量的には大きな追加的効果が見込まれるものではなかった」

当初のQQEの狙いの中心は、人々のインフレ期待に働きかけることにあり、長期金利の低下を図ることは副次的なものだった。しかしどうしてQQEに「市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる効果が期待できる」のか。そうした主張はきわめてずさんな論理に基づくものでしかない。

その論理というのは、中央銀行が「責任をもって約束」を行い、それを裏付ける行動としてマネタリーベースを増加させれば、予想インフレ率が上昇するというものである。これはあまりに精神論的な議論である。

中央銀行が2%のインフレ目標に強くコミットするといっても、それを達成する手立てをもっていなければ、単なる決意表明にすぎず、それを信じるに値するものだとはいえないことを無視している。

ゼロ金利制約に直面しているときには、信用乗数メカニズムも、貨幣数量説的関係も、ともに成立するとは考えられない。したがって、ゼロ金利制約に直面しているときに、マネタリーベースが増えたからといってインフレ期待を引き上げる合理的な根拠は存在しない。

2012年11月以降の円高是正、株価上昇は人々や企業のマインド改善に寄与したが、「それらがもっぱら日本の経済政策の結果であると考えることは正しくない。とくに為替は、相手のある話で、日本側の要因だけで決まるものではない」

為替レートに影響する重要な要因は①ファンダメンタルズ、②内外金利差、③リスク・プレミアム。このうち内外金利差については90年代以降、日本の短期金利はゼロ近傍にありそれ以下の低下余地は存在しないので、もっぱら米国の金利要因によって決定されるかたちになってきた。

「リーマンショックの直後は米国金利の急激な低下と世界的なリスク回避傾向の強まりから、著しいドル安円高がもたらされることとなった。このリーマンショック直後のドル安円高に対して日本側でとれる有効な対抗措置はなかったと筆者は考えている」


日銀がマネタリーベースを米国と比肩するペースで増やさなかったから円高が進行したとの批判が存在するが、通貨の供給量の大小が為替レートに影響するとすれば狭義の通貨供給量であるマネタリーベースではなくより広義の通貨供給量が想定されなければならない。

ゼロ金利制約に直面していて「信用乗数が大きく変動する状況においては、そうした相関は期待できない。実際に、日米のいずれかが量的緩和政策をとっていた時期には、ソロス・チャートは成り立っていない。それゆえ、上記のような批判は根拠のないものである」

東日本大震災で原発の稼働が停止し、化石燃料の輸入が増加したことから、日本の貿易収支は黒字から赤字基調が定着し、経常収支の黒字幅もわずかなものに転じた。為替レートもファンダメンタルズの変化に応じて円安になってしかるべきだったが、実際には円高基調のままミスプライシングになっていた。

安倍政権の登場とアベノミクスの提唱はミスプライシング是正のきっかけを与えるものとなった。欧州の信用不安小康から海外投資家がリスク・オンに転換したことも円高是正に貢献した。2013年4月からQQEが開始されてたが、マネタリーベースが実際に増える前に円高是正は止まった。

2013年度は高い実質経済成長率を達成したが2014年4月に消費税が5%から8%に引き上げられると、経済成長は失速した。これは消費増税前の駆け込み需要が発生したため2013年度が上振れし増税後にその反動が起きたため。消費税引き上げで民間の失った購買力は政府によって支出される。

2年程度で決着をつけて手仕舞うという公算は外れ、短期決戦から否応なしに持久戦にならざるを得なくなったが、年間80兆円ペースの国債購入は何年にもわたって続けられるものではなくQQEは持久戦に不向き。そこで2016年1月末に唐突にマイナス金利政策が導入された。

問題はマイナス金利がQQEに上乗せされるかたちで実施されたこと。日銀の潜在的な損失(招待の償還差損)は増大。多くの金融機関にとっては運用金利の低下で収益を圧迫されることになり、マイナス金利の評判はきわめて芳しくない。

筆者は、単独でみたQQEの追加的効果はきわめて限定的だと考えている。やっていることは、民間が保有する公債の満期構成を短縮化しているだけだから。効果は乏しいから副作用もそんなに心配することはない。ハイパーインフレになるとも思えない。

ただし、財政政策、国債管理政策としてみると、やっていることは足元の景気刺激効果だけを期待した短期志向なものになっており、持続可能性を欠いたままの状況が続いている。金利上昇が起こると、問題が急激に顕在化する懸念がある。金融緩和の結果としてのインフレはないが財政インフレのリスクはある。

2017年8月20日日曜日

屋久島で縄文杉トレッキングとシュノーケリング

夏休みに屋久島へ行きました。縄文杉トレッキングとシュノーケリングを楽しみました。山も海も楽しめる屋久島、最高!また行きたい。

乗り換えの鹿児島空港に縄文杉の写真があって気分が高まる。
鹿児島空港でのトランジットに時間があったのでミニ黒豚カツどん定食で腹ごしらえ。
鹿児島空港からはプロペラ機のATR42-600。
空港までシーサイドホテル屋久島の人がお迎えにきてくれました。
 ホテルの前の海岸は火サスの撮影に使えそう。
 真ん中の白い建物が屋久島環境文化村センター
 晩ごはん
夕暮れ
登山口までのシャトルバスから虹が見えました。
最初の屋久杉。 屋久杉とは樹齢1000年以上のもの。
苔がよい雰囲気。ちなみにここではないのですが、白谷雲水峡のこのような風景が『もののけ姫』の風景のモデルになったそうです。
小杉谷橋。いくつか橋があるのですが、けっこう怖いです。川の水はとても澄んでいてきれいです。
小杉谷集落跡。昔は学校等もあったそうです。
ベテランのガイドの 岩川さん。大変お世話になりました。トークも面白かったです。
防空壕だそうです。
 仁王杉
翁杉。2010年に折れたそうです。
ウィルソン株。
下から見るとハート型。
夫婦杉かな?
メデューサのような杉
 大王杉
ついに縄文杉へ!
横から
 帰り道に再びウィルソン株。
シャトルバスで登山口から屋久杉自然館まで戻り、ガイドさんの車でホテルに帰りました。
ホテルのロビー
翌日は時間があったので志戸子ガジュマル公園へ。
ガジュマル園の前の海。
その後は一湊海水浴場へ。急なシュノーケリングのお願いにも関わらず、ダイブアンカーのまなみさんは快く引き受けてくださいました。感謝。
屋久島の海は信じられないくらいきれいで、魚もたくさんいて楽しめました。残念ながら海ガメは見れなかった。
生れて初めてウエットスーツを着用。着るのが大変。
 GPS時計を持って行ったので小杉谷集落から縄文杉までのトレッキングを記録。帰路の途中で電池切れとなりました。トロッコ道が長すぎて辛い。