2014年5月10日土曜日

フリーのMatlabクローン、Scilabをインストール

PCを買い替えたので、フリーのMatlabクローンであるScilabをインストール。MatlabとScilabのコードはほとんど同じです。少しだけ違います。詳しくは『MATLAB/Scilabで理解する数値計算』桜井 鉄也などをご覧ください。
Matlab、S-PLUSが商用でかなり高価なのに対して、Scilab、R、Octaveはフリー(無料)です。
Scilabのホームページ。ここからダウンロードできる。 http://www.scilab.org/



Scilab、Win版は32ビット用と64ビット用があります。私のOSはWindows8.1 64bitsなので64ビット用をダウンロードしてインストール。
試しに、今読んでいる『入門ベイズ統計学』中妻照雄(2007)の朝倉書店のウェブサイトから、同じプログラムをMatlab用とScilab用に書いたコードをDLして比較できるので、どれだけ似ているか確認できると思います。Scilabのサンプル・プログラムをダウンロードして試してみる。
ギブズ・サンプラーのプログラム「i2bs_gsex.sci」をScilabで動かすと、ちゃんと結果が出る。

S-PLUSとRも似ている。
『はじめてのS‐PLUS/R言語プログラミング―例題で学ぶS‐PLUS/R言語の基本』 竹内 俊彦 
Rだけでいいという人はこのウェブサイト
とその書籍化 『The R Tips―データ解析環境Rの基本技・グラフィックス活用集』 舟尾 暢男がいいと思います。 

2014年5月4日日曜日

『金融システムと金融規制の経済分析』


図書館から借りてきた『金融システムと金融規制の経済分析』の第4章「金融危機と金融規制(金融危機と市場型間接金融―「影の銀行システム」の経済分析」はこの論文が元になっていますね。

「金融危機と市場型金融の将来」 池尾和人(2010)

「経常収支黒字国から経常収支赤字国に資本移動が円滑に起こる仕組みができあがっていたからこそ、グローバル・インバランスの急拡大は可能になった。その仕組み(影の銀行システム)がうまく回らなくなったときに、サブプライム・ローン問題という形で危機が生起することになった」

欧米の大手金融機関が破綻や大打撃を受けたのは、「サブプライム・ローン関連を含む証券化商品を自ら(あるいは、投資ヴィークルを通じて)保有していたからである。」

「投資家に直接に証券化商品を販売するのではなく、担保付負債を発行するということで、金融機関はレバレッジを高めるとともに、投資家に対して流動性を供給するという機能を果たすことになっていた。証券化商品の太宗が資金仲介システムの内部で保有されていたという事実は重要である。」

一時期、「証券化悪玉論」がまことしやかに語られたが、実際はそれが事態の中心ではなかった。本当に転売して、投資家にリスクを転嫁していたのなら、いずれかの機関投資家が破たんしたとしても、リーマンのような投資銀行が破たんすることはなかった。

「危機の原因は、証券化という仕組み自体にあるというよりも、アメリカ(およびヨーロッパ)の大手金融機関の内部統制とリスク管理の体制にあったと理解すべきだということになる」

「1990年代以降、事業会社や機関投資家による大口の短期資金の安全運用ニーズが急拡大した。証券化の技術だけでは安全資産は提供できても、短期の流動性は提供できない。レポ取引の拡大は、こうした短期安全資産の不足という問題に応えるという意義を持っていた。」

「銀行預金がマネーなら、レポはそれ以上に立派なマネーだと考える必要がある。そして、影の銀行システムは、レポという大串のマネーを提供するシステムとして存在意義を持つようになったといえる。」

「短期の流動的な安全資産に対する運用需要の高まりに直面して、アメリカの金融サービス産業は、証券化と自ら短期で借りて長期で運用する行動をとることによって、その需要に応える供給を行ったわけである。」

アメリカの投資銀行等がきわめてリスクの凝縮された劣後部分を自ら保有する等の危険な行動をどうしてとっていたのか。理由の一つはアメリカ住宅価格の全国的下落はありえないというある種の慢心の広がり。もう一つはHFやIBのインセンティブ構造の歪みを指摘。

「現代の金融に関しては、リスクを分散・再配分する機能の方が重要になっているといえる」

〈参考文献〉
"The Changing Nature of Financial Intermediation and the Financial Crisis of 2007-09"
Adrian and Shin(2010) (PDF)

"Shadow Banking" Pozsar, Adrian, Ashcraft, and Boesky(2012)

"A Model of Shadow Banking" GENNAIOLI, SHLEIFER, and VISHNY(2013)(PDF)

"The "Other" Imbalance and the Financial Crisis"  Caballero(2010)

"The Subprime Panic" Gorton(2008)

"Market Liquidity and Funding Liquidity" Brunnermeier and Pedersen (2009) (PDF)

「日本銀行のマクロプルーデンス面での取組み」 日本銀行(2011) (PDF)

2014年5月3日土曜日

『非伝統的金融政策の経済分析 資産価格からみた効果の検証』 竹田陽介 矢嶋康次

四連休だし、この本を少しずつ読み始めている。

「代表的なニュー・ケインジアンのフィリップス曲線ではCalvo(1983)型の企業の価格設定モデルを前提とするため、価格水準自体の硬直性は生まれるが、インフレ率の硬直性は説明できない」

「現実に観察されるインフレ率の硬直性を説明するため、Calvo(1983)に代わる様々な理論モデルが提案されてきた。そのひとつに、合理的無反応(Rational inattention)の議論がある」

「Sims(2003)や Reis(2006)は、シャノンらの情報理論に基づき、情報の集積によって生じるエントロピーが閾値を超える場合に初めて、経済主体が情報獲得に動くという仮説に基づき、Mankiw and Reis(2002)の硬直的情報モデルを正当化した。」

「合理的無反応」のモデルだと「今期のインフレ率が依存するのが、今期のインフレ率に対する過去の時点における予測であり、Calvo(1983)型の硬直価格モデルにおいては、将来のインフレ率に対する今期の予測であるのとは対照的である」

"「予測市場」に向けて" 竹田陽介(2007)ニッセイ基礎研所報 vol47 
E-stability の下では、PLMから ALMへの写像が、最小二乗学習の下での合理的期待均衡(REE)の漸近的安定性を保証する。

"Staggered Prices in a Utility-Maximizing Framework"  Calvo(1983) (PDF)

「日本の90 年代におけるフィリップス曲線」 竹田、小巻、矢嶋(2001)ニッセイ基礎研所報vol17

「日本におけるニュー・ケインジアン・フィリップス曲線の推定」 竹田、小巻、矢嶋 (PDF)
(個人的には、潜在成長率をHPフィルタで推定してGDPギャップを求めるやり方は好きではない)

"Communication and Monetary Policy" Amato, Morris, and Shin (2003) BIS Working Paper No.123 (PDF)

Amato他(2003)によると、「中央銀行が金融資産均衡価格から情報を抽出し、金融政策に活かすようにすると、市場参加者は自前で獲得した情報に依存せず、金融政策において中央銀行が発する情報に依存して、金融資産価格形成を行うようになる。」

「そのため、金融市場には、情報集約機能が働かなくなり、均衡価格の持つ情報量がノイズを持つようになる。ノイズを持つ均衡価格から得られる情報では、中央銀行が適切な金融政策運営を行うことが困難になり、中央銀行は自前の獲得情報に基づき金融政策を行うようになる。」

「したがって、中央銀行による市場との対話では、Grossman and Stiglitz(1980)と同様、一方向的な情報発信は均衡とならない。」
今のJGBと日銀なんて(ry

"Information and Competitive Price Systems" Grossman and Stiglitz (1976) (PDF)

"On the Impossibility of Informationally Efficient Markets"  Grossman and Stiglitz (1980) (PDF)

『ゼロ金利政策下における時間軸効果:1999-2000年の短期金融市場データによる検証』 白塚 重典・藤木 裕(2001)

『国債流通市場における情報に基づく物価連動債の評価』 北村行伸(2006) (PDF)

ちなみに竹田・小巻・矢嶋(2005)によると、英国の中銀および民間予測機関とも、物価連動債価格の持つ情報を抽出しているのに対して、FRBは物価連動債を利用していないそうだ。米国では英国に比べてノイズが相対的に大きいことに起因すると考えられると。

「わが国のデフレーションに際しても、デフレーションを克服するための政策の処方箋として、期待に働きかける政策が盛んに主張されてきた(Eggertsson and Woodford[2003]:Svensson[2003]:Auerbach and Obstfeld[2005])」
「しかし、デフレ期待そのものがどのようなメカニズムに基づき推移してきたかについて分析された例は見当たらない。Fisher1933はデフレの負債を通じたマクロ経済的影響を分析。債権者と債務者の間に消費性向の差を仮定、マクロ経済全体の消費が予期せぬデフレによって変動する可能性を指摘」

"The Debt-Deflation Theory of Great Depressions" Fisher(1933) (PDF)

1933年のEconometricaの論文がすぐに読めるなんて、いい時代になったものです。

"The Zero Bound on Interest Rates and Optimal Monetary Policy" Eggertsson and Woodford (2003)

"Escaping from a Liquidity Trap and Deflation: The Foolproof Way and Others" Svensson(2003)

"The Case for Open-Market Purchases in a Liquidity Trap" Auerbach and Obstfeld(2005)

"The Proof and Measurement of Association between Two Things" C. Spearman(1904) (PDF)

スピアマンの順位相関の1904年の論文が読めるなんていい時代になったものです。

竹田・矢嶋(2013)では、Carlson and Parkin(1975)を可変パラメータモデルに一般化してカルマンフィルタで推定するNardo(2003)の手法を用いて日本の期待インフレ率を推定しています。