2016年7月3日日曜日

『最新 日本経済入門』 小峰 隆夫, 村田 啓子


日本経済についての良い入門書。データに基づいて日本経済を様々な視点からバランス良く見る目が養えると思います。紙は5版、kindleは4版まで出ているようです。私が読んだのは3版。

「日本経済を考えるということは、経済学の応用問題だと言えます。経済学が教えてくれる理論や経済的なものの考え方を踏まえて、日本経済の姿を見直してみると、それを踏まえないよりはずっと明瞭に経済の動きを理解することができます」

小峰氏が考える「経済の基本」は次の四つ。
・整理して考えよう
・データに基づいて考えよう
・「自由」が経済の基本
・一般均衡的なものの考え方をしよう

「整理して考えよう」

経済は一般に考えられているより範囲はずっと広い。こうした多様な経済問題を考えるとき、「誰が行うのか」という経済主体軸、「どんな経済活動を行うのか」という経済活動軸、「国内問題か国際問題か」という国境軸、「どんなタイムスパンか」の時間軸の4つで整理する。

「データに基づいて考えよう」

「経済問題を議論するときはできるだけ客観的なデータに基づいた議論を展開することが重要です。この「データに基づいて考える」ということは、経済を観察する上で大変重要なことです。これは、私の見るところ、経済学の本質的な部分に根差しているように思われます。」
物理などの自然科学と比べると、経済学などの、「社会科学という学問の大きな特徴は、「唯一の正解はない」ということであることが分かります。その証拠に、世の中には山のように経済的問題があふれていますが、論じる人によって問題解決のための処方箋は異なっています。これは社会科学は「実験ができない」という根本的な限界があるためだと思います。自然科学であれば、条件をコントロールした実験を行うことによって、因果関係を厳密に証明することができ、疑問に思った人は追試をすればよいのです。
しかし、社会科学ではそうは行きません。そこで、たくさんの議論がある中で、自分の主張を納得してもらうためにはどうしてもデータで裏付ける必要があるのです」
「経済問題というものは「誰もが論じることができる」という特徴があります。(中略)私は、「データで根拠を示しているか」ということは、その議論が単なる「茶飲み話」か、きちんとした「経済的な議論」かを区別する一つの基準となるものだと考えています。しかし、データは分かりやすいだけに、誤った結論を人々に信じさせる場合もあります。(中略)データを活用した議論は、切れ味の良い包丁のようなものです。正しく使えば美味しい料理を作るための便利な道具となりますが、使い方を誤るととんでもない凶器ともなるのです。データを説明しはじめると、「細かい議論はいいから、結論だけ言ってくれ」と言いたげな反応を示す人もたくさんいます。しかし、データを凶器に変えないためには、我々一人一人がデータの内容を吟味しながら経済の議論に加わっていくことが必要です」

「自由が経済の基本」

一定の前提の下、自らの利益の最大化を目指して行動することが、社会的に見ても資源の最適配分が実現するという価格理論は経済学の基礎だが、現実の日本経済を論じる場合も基礎となる。経済的な目的はインセンティブで誘導したほうが良いし、少ない規制、小さな政府が望ましい

「一般均衡的なものの考え方をしよう」

「「部分均衡的に考える」ということは、何か一部が変化した時、他の部分は一定として、その変化した部分の影響だけを考えるという考え方です。一方、「一般均衡的に考える」ということは、何かが変化したとき、できるだけ多様な変化の経路を考慮して、全てが変化し終わったときに何が起きるのかという考え方です。」
「「できるだけ部分均衡的な考え方をしないようにする」、これは経済問題を考えるときの一つの鉄
則だと思います」

そういう意味では、黒田日銀の「マネタリーベースを2倍にすれば、2年で消費者物価上昇率2%」というのは、「データに基づかない」、「部分均衡的な考え方」の典型例ですね。