2017年3月11日土曜日

『資産運用の本質』15章 資産運用を外部にアウトソースする場合のプリンシパル・エージェント問題

アングの『資産運用の本質』15章の投資運用委託で、資産運用を外部にアウトソースする場合のプリンシパル・エージェント問題が取り上げられている。エージェンシー問題を解決するためのアングの提案は以下の通り。

①(S&P500指数のような)伝統的な静的ベンチマークを利用した線形の契約は、それ自身、役に立たないばかりか、最悪の場合、運用者が価値を台無しにしてしまう(これが、結果の無関連性である)。

②よりスマートなベンチマーク、特にファクター・ベンチマークは、線形の契約において用いられた場合に、エージェンシー問題を緩和するであろう。

③非線形の、オプション型の報酬契約は、ファンド運用者を動機づけるのに最適である。

④様々な制約は契約において重要な役割を果たす。才能が優れているファンド運用者には、あまり制約は必要ない。

⑤情報開示は最重要事項である。最適な契約は、できる限り透明性の高いものであるべきである。

⑥個人投資家に対する1%(機関投資家に対する50bp)という運用資産額に基づく報酬は法外である。運用資産額に基づく報酬支払は最小化すべきである。

⑦ファイナンシャル・アドバイザーに対してインセンティブを付与する成功報酬は、報酬全体の一部にとどめておくべきである。個人投資家は定額の固定報酬か時間決めで報酬を支払うべきである。

⑧単純で固定的なインデックス・ファンドの組合わせを利用して、ファイナンシャル・アドバイザーにベンチマークを与えるべきである。

関連論文
"Outsourcing Mutual Fund Management: Firm Boundaries, Incentives and Performance" Chen, Kubik, Hong(2011)

"Multitask Principal-Agent Analyses: Incentive Contracts, Asset Ownership, and Job Design" Holmstrom and Milgrom(1991)

"The Economic Theory of Agency: The Principal's Problem" Ross(1973)


2017年3月2日木曜日

「原因と結果」の経済学

『「原因と結果」の経済学』、因果推論の「入門の入門」ととらえれば良い本なのではないですかね。これをきっかけに本格的な計量経済学の本に進んでいけばいいですね。

「日常生活の中でも、因果関係と相関関係の違いを理解し、「本当に因果関係があるか」を考えるトレーニングをしておけば、思い込みや根拠のない通説にとらわれることなく、正しい判断ができるだろう」

2つの変数の関係が因果関係なのか、相関関係なのかを確認するために、次の3つを疑う。

①「まったくの偶然」ではないか
②「第3の変数」は存在していないか
③「逆の因果関係」は存在していないか

特に「第3の変数の存在」は常に疑うべきですね。

因果推論については、本の中ではランダム化比較試験、自然実験、差の差分析、操作変数法、回帰不連続デザイン、マッチング法、回帰分析が紹介されていて、そういった手法の限界についてもきちんと説明されていますね。

まったくの偶然による見せかけの相関の例として「ジブリの呪い」が紹介してある。日本のテレビでジブリの映画が放映されると、アメリカの株価が下がるという法則(?)。「ジブリの呪い」は投資家クラスタ内の内輪の話かと思っていたので、ちょっと驚いた。ウォールストリートジャーナルも取り上げたことがあるらしい。

本の中で参照されている論文もそれぞれ興味深いので、原論文を読めば一粒で二度おいしい。