2017年4月8日土曜日

アング『資産運用の本質』第4章 長期投資

動的なポートフォリオ選択の背後にある理論は、Samuelson (1969)とMerton (1969, 1971)によって最初に定式化された。動的なポートフォリオ選択問題の解は、デリバティブ商品評価と緊密に関係しており、両者とも同じ経済的概念と解法テクニックを用いる。

"Lifetime Portfolio Selection By Dynamic Stochastic Programming"
Paul A. Samuelson(1969)

"Lifetime Portfolio Selection under Uncertainty: The Continuous-Time Case" 
Merton(1969)

"Optimum Consumption and Portfolio Rules in a Continuous-Time Model" 
Merton(1971)


「動的ポートフォリオ選択問題は、一種の最適制御問題である。これは動的計画法によって解くことができ、同じ手法は原子力発電所や月へのロケット移送、複雑なデリバティブ証券の価格評価にも使われている(最後の例は他の二つよりも興味を引かないだろうが)。このことからもわかる通り、ポートフォリオ選択は、文字通りロケット科学なのである」

「動的計画法は、長期投資期間の問題を一期間の問題の繰り返しへ変換する。動的計画法は極めて強力な手法で、サミュエルソンはこれを経済学の多くの分野へ導入することで1970年にノーベル賞を受賞した。連続時間におけるこの問題の価値関数はハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式と呼ばれる偏微分方程式に対する解によって与えられる。さらに一般的な形態はファインマン・カッツ定理と呼ばれ、熱力学において広く用いられている。これらは、航空機と弾道ミサイルの制御にも用いられる非常に重要な物理と数学の概念である。ポートフォリオ選択はロケット科学なのである」

ファインマン・カッツだからね。Feynman–Kacを「ファインマン・カック」と読むとカッく悪いから。

長期投資期間におけるポートフォリオ選択問題に対する動的計画法の解法を知ることで、長期投資に関して広く信じられている二つの誤解を解くことができる。それは「バイ・アンド・ホールドは最適ではない」ということと「長期投資は短期投資である」ということ。

「バイ・アンド・ホールドは、毎期取引を行う最適な動的戦略に劣後するため、長期投資家はバイ・アンド・ホールドではなく、購入と売却を繰り返すことになる。バイ・アンド・ホールドにまつわる混乱は、ジェレミー・シーゲルによる1994年初版の有名な書籍『Stocks for the Long Run(株式投資 長期投資で成功するための完全ガイド)』を多くの人が誤って解釈してしまったことにも部分的に起因する。この書籍はしばしば「バイ・アンド・ホールドのバイブル」と評される。シーゲルは株式への長期にわたる配分にこだわることを唱えており、もしその配分が一定なら、それは一定配分比率を維持するために、投資家は株式が下落すれば株式に追加配分する。すなわち、長期投資家はバイ・アンド・ホールドするのではなく、常に売買するのである」

「長期の投資期間を想定するから、長期投資家は近視眼的な短期投資家と根本的に異なる」というのも、動的計画法の解によればこれは明らかに間違い。

「動的計画法は、長期投資におけるポートフォリオ選択問題を連続した短期投資問題として解く。すなわち、長期投資家は何よりもまず短期投資家なのである。彼らは、短期投資家が行うすべてのことを行い、長期の投資期間という利点があるからそれ以上のことを行うことができる」

「動的計画法の解は、長期投資家として成功するためには、短期投資家として成功することから始めるべきであることを示唆している。著者が述べたいことは、これができてから長期の投資期間がもたらすすべての利点を享受すべきだ、ということなのである」

「リバランスをすることは、最も基本的かつ欠かすことのできない長期投資戦略であり、それは自然に逆張りとなる。最適リバランスの重要な帰結によれば、長期投資家は能動的に、過去に上昇した資産クラスまたは株式を減らし、価格の下落した資産クラスまたは株式のウェイトを高めるべきである。こうして、リバランスはバリュー投資戦略の一種となり、長期投資家は紛れもなくバリュー投資家なのである」

2017年4月1日土曜日

『GPIF 世界最大の機関投資家』 小幡績

小幡績氏の『GPIF』を今さらながら読んだけれど、意外ときちんと書かれていていろいろと参考になる。

GPIFの基本ポートフォリオの考え方

平成16年財政再計算における経済前提
・賃金上昇率 2.1%
・物価上昇率 1.0%
・運用利回り 3.2%

これに対し
・名目長期金利 3.0%
・分散投資効果 0.2%


年金のオーナーである国民が、どこまでリスクを許容するのか、これまで何も議論してこなかった。
「これがGPIFの最大の弱点であり、欠陥なのです。そして、現在のGPIF改革にもっとも欠けていることなのです」

2017年3月11日土曜日

『資産運用の本質』15章 資産運用を外部にアウトソースする場合のプリンシパル・エージェント問題

アングの『資産運用の本質』15章の投資運用委託で、資産運用を外部にアウトソースする場合のプリンシパル・エージェント問題が取り上げられている。エージェンシー問題を解決するためのアングの提案は以下の通り。

①(S&P500指数のような)伝統的な静的ベンチマークを利用した線形の契約は、それ自身、役に立たないばかりか、最悪の場合、運用者が価値を台無しにしてしまう(これが、結果の無関連性である)。

②よりスマートなベンチマーク、特にファクター・ベンチマークは、線形の契約において用いられた場合に、エージェンシー問題を緩和するであろう。

③非線形の、オプション型の報酬契約は、ファンド運用者を動機づけるのに最適である。

④様々な制約は契約において重要な役割を果たす。才能が優れているファンド運用者には、あまり制約は必要ない。

⑤情報開示は最重要事項である。最適な契約は、できる限り透明性の高いものであるべきである。

⑥個人投資家に対する1%(機関投資家に対する50bp)という運用資産額に基づく報酬は法外である。運用資産額に基づく報酬支払は最小化すべきである。

⑦ファイナンシャル・アドバイザーに対してインセンティブを付与する成功報酬は、報酬全体の一部にとどめておくべきである。個人投資家は定額の固定報酬か時間決めで報酬を支払うべきである。

⑧単純で固定的なインデックス・ファンドの組合わせを利用して、ファイナンシャル・アドバイザーにベンチマークを与えるべきである。

関連論文
"Outsourcing Mutual Fund Management: Firm Boundaries, Incentives and Performance" Chen, Kubik, Hong(2011)

"Multitask Principal-Agent Analyses: Incentive Contracts, Asset Ownership, and Job Design" Holmstrom and Milgrom(1991)

"The Economic Theory of Agency: The Principal's Problem" Ross(1973)


2017年3月2日木曜日

「原因と結果」の経済学

『「原因と結果」の経済学』、因果推論の「入門の入門」ととらえれば良い本なのではないですかね。これをきっかけに本格的な計量経済学の本に進んでいけばいいですね。

「日常生活の中でも、因果関係と相関関係の違いを理解し、「本当に因果関係があるか」を考えるトレーニングをしておけば、思い込みや根拠のない通説にとらわれることなく、正しい判断ができるだろう」

2つの変数の関係が因果関係なのか、相関関係なのかを確認するために、次の3つを疑う。

①「まったくの偶然」ではないか
②「第3の変数」は存在していないか
③「逆の因果関係」は存在していないか

特に「第3の変数の存在」は常に疑うべきですね。

因果推論については、本の中ではランダム化比較試験、自然実験、差の差分析、操作変数法、回帰不連続デザイン、マッチング法、回帰分析が紹介されていて、そういった手法の限界についてもきちんと説明されていますね。

まったくの偶然による見せかけの相関の例として「ジブリの呪い」が紹介してある。日本のテレビでジブリの映画が放映されると、アメリカの株価が下がるという法則(?)。「ジブリの呪い」は投資家クラスタ内の内輪の話かと思っていたので、ちょっと驚いた。ウォールストリートジャーナルも取り上げたことがあるらしい。

本の中で参照されている論文もそれぞれ興味深いので、原論文を読めば一粒で二度おいしい。

2017年2月25日土曜日

岩波の『世界』3月号の細野祐二さんの「東芝・債務超過の悪夢」

岩波の『世界』3月号の細野祐二さんの「東芝・債務超過の悪夢」、たしかに面白いので一読をお勧め。

「東芝の誤算は、2015年に発覚した粉飾決算事件を受けて、2016年4月1日から開始する連結決算事業年度の会計監査法人が、今までの新日本監査法人からPwCあらた有限責任監査法人に変更になったことに始まる」

粉飾決算の結果、新日本から変更になった「PwCあらた監査法人にとっては、当たり前のことを当たり前に言っても、優良顧客喪失のリスクがないばかりか、むしろ社会全体がPwCあらた監査法人を評価してくれるのである」

「東芝が今回減損で計上すべき特別損失額は7772億円となり、S&Wの追加原価次第では、この金額はさらに拡大する可能性がある」

細野祐二氏の『法廷会計学vs粉飾決算』と『公認会計士vs特捜検察』を図書館で借りてきた。

2017年2月12日日曜日

映画『ハドソン川の奇跡(原題:Sully)』

映画『ハドソン川の奇跡(原題:Sully)』、よくできている。イーストウッドは相変わらずうまいなあと感心する。お勧めです。

コンピューター・シミュレーションだと空港に戻れたという結果が出て、公聴会で機長たちのエラーの可能性を問われる。”人的要素”が排除されているシミュレーションは不適切で、モデルを使った分析をする場合は前提条件に常に気をつけたい。

映画『ハドソン川の奇跡』でフライト・アテンダントが"Brace brace brace! Heads down, stay down."とお経のように繰り返すのは、そうするように訓練されてのことだろうけど、映画的には非日常性を高めてサスペンスを盛り上げる効果があった。

下にリンクを張ったサイトによるとフライト・アテンダントの描写は100%正しいそうだ。

THE NEW “SULLY” MOVIE: HOW ACCURATE?


Sully’s announcement, “This is the Captain. Brace for impact,” followed by the flight attendants shouting in unison, “Brace for impact! Heads down—stay down!” is again 100% accurate for the brace commands at the time.

2017年2月11日土曜日

『イーロン・マスク 未来を創る男』 アシュリー・バンス

イーロン・マスク、面白いなあ。人間として面白い。

『イーロン・マスク 未来を創る男』ではイーロン・マスクが生まれてから、Zip2、ペイパルで成功した後、ロケット事業のスペースX、電気自動車のテスラ、電力事業のソーラーシティを経営するまでが描かれています。当初は著者がマスクを直接取材することができなかったので、マスクの関係者を取材していたのですが、最後にはマスクからOKが出てマスクに直接取材しています。マスクが他の経営者と違うのはビジョンのスケールが大きいこと。本気で人類の火星移住を目指している。

イーロン・マスク 「インターネットとか財務とか法務に詳しい賢い人間が多すぎると思うんだ。そういうことも、イノベーションがじゃんじゃん生まれてこない理由なんじゃないかな」

「初期のフェイスブックを支えたエンジニア、ジェフ・ハマーバッカーは「同世代の賢そうな連中はみな、どうしたら広告をクリックしてもらえるかしか考えていない。本当にロクでもない」と切り捨てる。シリコンバレーのハリウッド化である」

「官僚的なピラミッド構造とは無縁の急成長企業の背後で、シリコンバレー本来の倫理観を受け継いだ男がたしかにそこにいた。日夜、巨大なマシンの改良に取り組み、真のブレークスルーの可能性を秘めながら見過ごされていた技術を追い続けている男が」

イーロン・マスク、かっこいいなあ

「土曜日なのにたくさんの社員が出社していて驚いたと伝えたところ、彼(マスク)の見方はまるで違っていた。週末に遅くまで働く社員が減る一方だとこぼすのだ。「すっかり軟弱になっちゃってね。こんな甘えた状態でいいのかと全社にメールで活を入れようと思っていたところですよ」」

マスクが、とあるベンチャーキャピタルに語った言葉がある。「私はサムライの心を持っています。失敗で終わるくらいなら切腹します」

「インターン時代に彼(マスク)が得た最大の収穫は、「銀行には金があるが、無能な連中ばかり」ということだった。だからこそ膨大なチャンスがあると踏んだのである」

映画『アイアンマン』のモデルはイーロン・マスク。

「ゲイツとジョブズの二人を掛け合わせてバージョンアップしたのがマスクだ」とベンチャーキャピタリストとして、スペースX、テスラ、ソーラーシティに投資するスティーブ・ジャーベットソン。

イーロン・マスク、リナックスよりもVisual C++押しなのも好感が持てる。