2012年12月30日日曜日

『現代経済学の名著』

『現代経済学の名著』は1989年の本で、随分昔に買ったまま積読。佐和氏は編集だけで、実際の執筆は根井雅弘(ヴェブレン、シュムペーター、ロビンズ等)、吉田雅明(ケインズ、レオンティエフ)、小島專孝(ハイエク)、菊谷達弥(アロー、ベッカー等)、秋田次郎(ハロッド、サミュエルソン等)。
アローは『社会的選択と個人的評価』 Kenneth Joshph Arrow "Social Choice and Individual Values"(1951)。

「市場型経済においては、多種多様な初期資源や能力、好みをもつ多数の経済主体が、自己の利益のみを考えて行動し、それが市場に集計されて、相互の行動が調整され均衡がもたらされる。
民主主義社会において最も重要な政治手続きである選挙制度は、投票者の意思を集計して、社会全体としての決定をなす一つの手段である。
『社会的選択と個人的評価』は「投票と市場機構の間の区別は無視し、両方とも集団的な社会的選択という一層一般的な範疇の特別な場合とみなす」という立場に立って、この一般化された社会的選択の機構の特性を、厳密な方法論的基礎の上に分析するものである。」

アローの提起する問題の適用領域はきわめて幅広い。まず各種の会議や選挙においてなんらかの投票方法を用い、メンバーの意思にもとづいて決定を行う場合。次にある経済政策が現状より望ましい社会状態をもたらすか否か、を判定しようとする場合。さらに組織や国家の構成員の自発的合意にもとづいて社会的選択を行う際のルールの整合性といった、社会の構成原理に関わる領域。

「アローは、これらの未知の広大な領域に、記号論理学を用いた公理的方法という武器を持って分け入った。そして、民主的なルールにもとづいて諸個人の合理的な判断を集計することによって、社会としての合理的な判断を導くことは不可能である、という驚くべき命題を証明したのである。これが『アローの一般可能性定理』として知られる結論であり、その否定的含意、理論的射程の広さ、斬新な方法論によって、経済学にとどまらず、政治学や社会学の諸分野にも強いインパクトを与えた。」

アローは二つの顔を持っている。「ひとつは一般均衡論の旗手としてのそれである。限界革命をへて、新古典派経済学の彫琢をめざす理論経済学の分野において、ヒックス、サミュエルソンたちが先頭集団をなしたとすると、その後をついだアロー、ドブルー、ハーヴィッツといった人々はさらに高度な数理的手法を用いてワルラス体系の精緻化を行った。1950年台のスタンフォード大学は、若きアローやハーヴィッツによって高度数理派のメッカとなり、気鋭の経済学者たちの世界的巡礼の地であった。競争均衡解の存在証明(ドブルーと共同)、解の大域的安定性の解明(ハーヴィッツと共同)をはじめとして、いわゆるアロー=ドブルー経済と呼ばれる、不確実性下の経済を扱う手法の確立など、この分野における彼の先駆的功績は広く知られている。

しかしアローの関心はそれにとどまらない。彼は新古典派経済学の理論的限界に正面から取り組むという第二の顔を持つ。不確実性が存在するとき、市場における競争システムでは効率的な資源配分が達成できないとする一連の論文において、医療の経済分析や研究開発活動の分析を行っている。『社会的選択と個人的評価』はアローの処女作であるが、個人の意思決定を尊重することと、社会としての集団的意思決定を合理的に行うことは両立しえないと主張する。このように、市場システムを万能なものとしがちな新古典派経済学の限界を早くから指摘した。」

「彼の姿勢を一貫して貫くものは、経済分析者(エコノミスト)としてのそれであり、『正式に訓練を受けたエコノミストは、自分自身を、合理性の守護者、他の人に対して合理性を説く人、そして社会に対して合理性を処方する人、とみなす』(『組織の限界』の第一章「個人的合理性と社会的合理性」)。彼はこの立場から、価格システムの機能の長所とその不完全性とを、公平に見据えるのである。」

「いかなる瞬間においても、個人は必然的に彼の個人的欲望と、社会の要求との間の対立に直面しているという観点に立って、アローはいう。『あらゆる瞬間において、われわれのとる価値は、妥協の産物でなければならない。というのは、他人が違った価値をもつからであり、そしていかなる社会的行動も、なんらかの共同の要素、とくに協定(アグリーメント)の要素なしには不可能だからである』。」

《アローの一般可能性定理》
【公理1 選好順序の完全性】
【公理2 選好順序の推移性】
【条件1 広範製の要求】
【条件2 パレート原理】
【条件3 無関係な選択対象からの独立性】
【条件4 非独裁制の要求】
[アローの一般可能性定理] 選択の対象となる社会状態が三つ以上存在し、個人の選好順序が公理1と公理2を満たすとすれば、条件1~4を満たす社会的選択関数は存在しない。

この定理は、社会的選択関数の存在が、一般的に「不」可能であることを主張するものであるが、広くアローの一般「可能」性定理と呼ばれている。

2012年12月9日日曜日

マクロ経済学(齊藤、岩本、太田、柴田)

学部レベルのマクロ経済学の本としてお薦めです。これを読んでおけば、安倍総裁のようにトンデモ経済学に騙されることもないと思います。

《POINT 6-7》 貨幣とは? 中央銀行とは? 貨幣供給とは?
マクロ経済学や金融論では貨幣を次のように分類している。
(1)紙幣・硬貨
(2)準備預金(中央銀行の当座預金)
(3)民間銀行の要求払預金(普通預金プラス当座預金)
(4)民間銀行の定期預金(CDを含むこともある)

貨幣供給量、あるいはマネーサプライという場合には、中央銀行が発行している(1)と(2)をあわせて「ハイパワード・マネー」と呼ばれている。ハイパワード・マネーは「マネタリー・ベース」と呼ばれることも多い。ハイパワード・マネーに(3)を加えた貨幣供給量は「M1」と呼ばれる。さらに(4)を加えたものは「M2」と呼ばれる。

「M1の決定にはマクロ経済のさまざまな要因が反映している。一方、中央銀行が直接的に制御できるのは、たかだかハイパワード・マネーのレベルである。
名目貨幣供給量を中央銀行が決定する外性変数としているIS-LMモデルでは、このへんのところが非常にあいまいで、そのためにモデルと現実との対比がつきにくいのである。外生変数として取り扱える貨幣供給量は、せいぜいハイパワード・マネーのレベルなのに、IS-LMモデルが想定しているのは、マクロ経済において決済手段や価値貯蔵手段として機能しているM1のレベルなのである。しかし、マクロ経済の諸要因が反映しているM1のレベルの貨幣供給量は、内生変数として取り扱うほうがずっと自然である。中央銀行ができることは、ハイパワード・マネーを制御しながら、M1を間接的にコントロールすることが精一杯であろう。」

《POINT 6-8》 日本経済の貨幣市場
M1の貨幣供給量を用いて、標準的な貨幣需要関数によって日本の貨幣市場が説明できるのか見ている。ここではM1をGDPデフレーターで実質化したものを実質貨幣供給量としている。実質貨幣供給量を実質GDPで除すことで、実質GDPの影響を取り除く。これは「マーシャルのk」と呼ばれていて、M1を名目GDPで除したものに等しくなる。マーシャルのkの逆数が「貨幣の流通速度」と呼ばれるのは、市場にある名目貨幣残高が何回転すれば、名目GDPに匹敵する取引を行うことができるかを表しているから。
もし貨幣需要関数が実際の貨幣市場の需給を説明できるとすると、実質GDPの影響を取り除いた実質貨幣残高に相当するマーシャルのkが、貨幣の保有コストである名目金利の上昇(低下)とともに減少(増加)しなければならない。
翌日物コールレートを名目金利とした場合、実質貨幣残高と名目金利との間で負の相関が認められるが、コールレートが10%から1%の間では、名目金利が低下しても、マーシャルのkで見た実質貨幣残高がわずかにしか増加しない。しかしコールレートが年率0.5%から0%の間で低下する局面では、実質貨幣残高が急激に増えている。
ゼロ金利近傍では、貨幣需要の利子率弾力性が非常に高くなっていることを示している。言い換えると、名目金利がゼロ水準に近づくと、貨幣の流通速度が極端に低下して貨幣が市場に滞留する。
名目利子率が非常に低くなると貨幣需要の利子弾力性が高まる主な理由は、金利がゼロ近傍であると、貨幣の保有コストをほとんど無視できるので、わずかな金利がつく定期預金などから金利のつかない現預金に資金がいっせいにシフトしていくと考えてよいのではないか。
昔の貯金箱は豚の形をしていたからか、金利がつかなくても、普通預金や当座預金などの要求払預金に資金を積み上げておくことを「豚積み」と呼んでいる。
貨幣需要の金利弾力性が極度に高まる状態は、「流動性の罠」と呼ばれる。「大量の資金が現預金の形で貨幣市場にじっと滞留している状態」が、「罠に引っかかって動けなくなる様」にたとえられているからである。

LMモデルでは貨幣市場の需給均衡が名目金利を決定。新しいケインズ(New Keynesian)・モデルでは中央銀行が名目金利を直接設定していくケースを想定している。これは中央銀行が制御するのが貨幣供給なのか、名目金利なのかという問題に対応している。

2012年11月25日日曜日

統計学を拓いた異才たち



『統計学を拓いた異才たち』によると、統計学の基礎的な概念は生物学に関係していたんですね。「平均への回帰」「相関係数」はフランシス・ゴールトン、「分布族」などのカール・ピアソン。かれらはバイオメトリカ誌を発刊することになる。せいぜい100年前くらいなので統計学は意外に歴史が浅い。

「ほかのことはともかく、すべての科学者がゴセットの『平均についての起こりうる誤差』というタイトルの短い論文の恩恵を受けている。その論文は1908年にバイオメトリカ誌に発表された。この注目すべき論文の一般的な含意を指摘したのは、ロナルド・エイルマー・フィッシャーだった」

ウィリアム・シーリー・ゴセットはギネスビール社で麦芽汁を発酵させるために必要な酵母の濃度をより正確に評価する方法を考案し、会社はより安定した品質の製品を生産できるようになった。酵母は生き物なので絶えず増殖・分裂するが、ゴセットはデータを調べ、酵母細胞の数をポアソン分布でモデル化。

ゴセットはバイオメトリカ誌の編集者だったピアソンと親密になり、ピアソンはゴセットの論文を掲載したがったが、ギネス社は従業員での発表を禁止していた。そこでゴセットは「ステューデント」というペンネームで論文を発表した。

「以後30年以上にわたって、ステューデントは一連のきわめて重要な論文を書き、そのほとんどすべてがバイオメトリカ誌に掲載された」。ステューデントのt検定で有名ですね。仕事の多くは勤務時間後自宅に戻って行われていた。ゴセットは他人の気持ちを敏感に察し親切で思慮深い人だったそうです。

ゴセットは、そもそもの観測データは正規分布に従うと仮定していたが、実はもとの観測データが正規分布に従うかどうかにかかわらず、ステューデントのtが同じ分布を持つことが後にスタンフォード大学のブラッドリー・エフロンによって証明されている。

2012年11月24日土曜日

世界の経営学者はいま何を考えているのか―知られざるビジネスの知のフロンティア


入山章栄さんの『世界の経営学者はいま何を考えているのか』はおもしろい。お薦めです。海外の最新の経営学をまとめて紹介する本は、今までなかったのでとても貴重だと思います。ヤバイ、経営学もちゃんと勉強したくなってきた。最前線というか知のフロンティアってどこもおもしろいよね。とくに経営学は仕事にも直接関係してくるし...

入山さん、本の冒頭、経営学についての三つ勘違いの最初に「アメリカの経営学者はドラッカーを読まない」を持ってきていて、「つかみはOK」ですね。日本人がなぜこれほどドラッカーが好きなのかは本当に謎です。
「これは確信を持って言いますが、アメリカの経営学の最前線にいるほぼすべての経営学者は、ドラッカーの本をほとんど読んでいません」
「アメリカのビジネススクールの教授の大半は、ドラッカーの本を『学問としての経営学の本』とは認識していないし、研究においてもドラッカーの影響は受けていない、ということです」「おそらくドラッカーの言葉は『名言ではあっても、科学ではない』からではないでしょうか」

「ビジネススクールにいる経営学者のするべき仕事とは、『企業経営を科学的な方法で分析し、その結果得られた成果を、教育を通じて社会に還元していく』ことであると、アメリカの主要なビジネススクールでは考えられているのです」
「真理の探究のためには、可能なかぎり頑健な理論を構築し、それを信頼できるデータと手法でテストすることが何よりも重要です。これは、他の科学分野、たとえば物理学や化学、あるいは経済学でも同じことです」

現在の世界のマクロ分野の経営学は主に三つの理論ディシプリンから構成されているそうだ。1)経済学ディシプリン、2)認知心理学ディシプリン、3)社会学ディシプリン。マイケル・ポーター、オリバー・ウィリアムソンは1、ハーバード・サイモン、ジェームス・マーチ、ダニエル・レビンサールは2。
近年は企業間でハイパー・コンペティションが進展していて、もはやライバルとの競争を避けるというポーターの競争戦略では不十分らしい。ユニークなポジションを取りつつ攻めの競争行動が有効である可能性があると。

情報の共有化は重要だが、組織全員が同じ知識を持つことは非効率であり、むしろだれがどの知識を持っているかを組織メンバーが正確に把握することが重要だと。日本企業では、たとえば総合商社が優れたトランザクティブ・メモリーを持っているのではないかと。
元コンサルとかの著名ブロガーが書く、独善的な「なんちゃって経営論」や「とんでもビジネス論」を読む時間があれば、入山さんが紹介しているアメリカの経営学者の論文を読む方がはるかに有益ですね。でも社会人だとなかなか論文にアクセスできないかも。

『Myles Shaverが1998年に「海外子会社設立時に独自資本と買収のどちらがいいか」についての論文で指摘するまで、経営学者が「内生性の問題」に無関心だった』というのは、驚くべきことだなぁ。
「『当面の事業が成功すればするほど、知の探索をおこたりがちになり、結果として中長期的なイノベーションが停滞する』というリスクが、企業組織には本質的に内在しているのです。これが『コンピテンシー・トラップ』と呼ばれる命題です」
『コンピテンシー・トラップ』の命題を、5年前の某弊社に捧げよう...

経営学のコンセンサスの一つに「イノベーションを生み出す一つの方法は、すでに存在している知と知を組み合わせることである」ということがあるそうだ。実はこれと全く同じ事を星新一が自分の小説を書く方法として語っている。また、イノベーションという概念の生みの親ともいえるシュンペーターも次のように述べているそうだ。
「他のものを創造すること、あるいは同じものを異なる方法で創造することは、これらの構成素材・影響要素を異なるやり方で組み合わせることである。いわゆる開発とは、新しい組合せを試みることにほかならない」

欧米亜ではビジネスを科学的に研究しようとしてますが、なぜか日本では少ないようですね。
日本、米国、欧州はそれぞれ企業文化も違うので、ビジネスの科学的な研究の結果をそのまま日本に持ち込んでもうまくいかないかもしれませんが、少なくとも科学的に研究する手法には学ぶべき点は多いと思います。
日本企業では、一人ひとりはとても優秀なのに、それを活かせなくて全体としてはパフォーマンスが悪いという例が多いんじゃないかと思います。マネジメントを科学的に研究する米国の手法をうまく活かせば、日本企業にはまだ伸びしろがあるんじゃなかろうかと感じているところです。

2012年11月5日月曜日

行動経済学と行動ファイナンス

池尾和人さんの「社会科学的な経済学と行動科学的な経済学」は、刺激的で面白かった。
「よく「合成の誤謬」といったことに言及されるように、個別の主体の行動がそのまま社会的に帰結につながるわけではない。しかるに、いまの行動経済学は、それが記述するような行動バイアスを持つ人間が相互に作用したときに、どのような帰結が生まれることになるのかについてほとんど何も語っていない。そうである限りは、行動経済学は、よくて伝統的な経済学を補完するものであって、後者を置き換えるようなものでは絶対にあり得ない。レビン(David K. Levine)の主張の核心は、まさにこの点にある。」

私は行動経済学についてなにも知らないので「行動経済学は、よくて伝統的な経済学を補完するものであって、後者を置き換えるようなものでは絶対にあり得ない」という池尾さん、レビンの主張について私は判断できないけど、キャンベルが行動ファイナンスについて似たようなことを言っていたのを思い出した。

「我々は行動ファイナンスについて、投資家の行動のある種の典型や、おそらくは資産価格のある種の傾向を説明できる可能性を持つ有望な研究分野として認識している。しかしながら、規範的なアセットアロケーションの理論に対して、確かな基本原理を与えるものとは考えていない。
第一に、多くの行動モデルの動機となっている実験結果は、リスクに対する個人の反応にもとづくものであるが、このリスクは必然的に小さい。生涯にわたって蓄財している個人に対して、彼らが直面する大きなリスクの実験を企てることは不可能である。
第二に、たとえ行動ファイナンスが、投資家がどのように振舞っているのかを性格に描写できたとしても、どのように振舞うべきかを描写することはできないであろう。投資家がファイナンス教育やFPのアドバイスの恩恵を受ければ、投資家は行動バイアスを捨てるかもしれないのである。
標準的なファイナンス理論の利用は、投資家の行動を実証的に描写する行動ファイナンスとは矛盾しない。実際、投資家がすでに成功裡に最適ポートフォリオの決定を行っている場合よりも、投資家が行動バイアスに支配されている場合の方が、規範的な分析に対する動機はより強い。」


2012年10月28日日曜日

"Hedge Funds: An Analytic Perspective" by Andrew Lo


Andrew Loの"Hedge Funds"を本格的に読み始めようと思っている。それで調べてみたらほとんどの章は過去の論文がほぼそのまま掲載されていて、過去の論文もネット上に公開されている。本を持ち歩かなくてもいいように、リンクをここに整理しておく。

2.3 Shifting through the wreckage: Lesson from recent hedge-fund liquidations(PDF)
3 An econometric analysis of serial correlation and illiquidity in Hedge-Fund returns(PDF)
4 It’s 11pm ? do you know where your liquidity is the mean-variance-liquidity frontier(PDF)

5 Can hedge fund returns be replicated?(PDF)
6 Where do alphas come from?: A new measurement of active investment management(PDF)
7 Do hedge funds increase systemic risk(PDF)
7 Systemic risk and hedge funds(PDF)
9.3 The adaptive markets hypothesis(PDF)
10 What happened to the quants in august 2007(PDF)


そういえば、ようやく日本でもKindleが発売された。Kindle Paperwhite 8,480円、Kindle Fire 12,800円、Kindle Fire 15,800円。安いですね。でも残念ながら洋書の値段は逆に高くなるようです。日本Kindleストアオープンと同時に、日本からAmazon.comのKindle本を買う場合の値段が上がったようです。その理由について大原ケイさんが解説しています。

なぜアマゾンで洋書Eブックの値段が上がったのか?





2012年10月20日土曜日

山中さんノーベル賞、森口氏臨床虚偽、『論文捏造』(村松秀)

今月8日、ノーベル医学・生理学賞受賞が決まった京都大学・山中伸弥教授。生命科学の常識を覆し、体のさまざまな組織や臓器になるとされる「iPS細胞」を開発してからわずか6年という異例の速さでの受賞。挫折と失敗を繰り返しながら研究を続けてきた山中教授のNHKスペシャルが2012年10月21日(日)午後9時00分~9時58分に放送されるので、これは見なければ。


一方で、東京大は19日、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の臨床応用の大半を虚偽と認めた同大病院特任研究員の森口尚史氏(48)を懲戒解雇処分にした。
森口氏の事件がきっかけになって、積読のままだった『論文捏造』(村松秀)を読み始めたら面白くて止められなくなった。

『論文捏造』(村松秀)は、面白い。お薦めです。ベル研究所でヤン・ヘンドリック・シェーンが起こした超伝導に関する空前の論文捏造。研究チームのリーダー、共著者の責任の範囲。科学ジャーナルのいい加減さ。大学と民間研究所の違い。物理において「嘘」を証明することの難しさ。残された課題は多い。
シェーンの論文は2年半の間に『ネイチャー』に7本、『サイエンス』に9本掲載。科学ジャーナルは、実は再現性も正確性も全く保証していない。編集者にその能力はない。実は、レフェリーの一人は疑問を編集者に投げかけていたのだが、レフェリーの意見は無視されてそのままシェーンの論文は掲載された。他誌との競争の中、センセーショナルな論文をえり分け、急いで掲載する流れが明らかにある。
『ネイチャー』『サイエンス』に論文が掲載されることは科学者にとって名誉で大きな実績として認知される。この実績は科学者の評価基準となり、より魅力的なポストにつくのに不可欠。研究施設側からも評価の目安になる。国などの公的な研究費の審査に際しても大変重要な価値として認められることになる。超一流雑誌に掲載されれば、それが担保のように次のポストや研究費獲得につながるわけだが、実はその担保には科学的な裏づけが取られていなかった。雑誌がインパクトファクターを重要視するあまり、内容よりもとにかくセンセーショナルな論文を求めたがり、チェックも緩いままに掲載してしまう傾向がある。
日本が世界に誇る有機物超伝導の大家、東北大学大学院の谷垣勝巳教授の有機物超伝導は有機物にアルカリ金属をごく僅かに混ぜる手法。『ネイチャー』に掲載された論文で超伝導が実現した温度は、マイナス240度(33K)。一方、シェーンの手法は有機物の上に薄い酸化アルミの膜を載せるというもの。シェーンの方法は世界中の研究者が誰も再現できなかった。酸化膜を載せるのはトランジスタの世界では常識だったが有機物の人にはなじみがない。世界の研究者は、有機物の上に酸化膜をつくる自分の技術が劣っていて、ベル研究所ならそれができるのだろうと思っていた。一方、ベル研内では、シェーンがドイツのコンスタンツ大学で作っていたと思っており、コンスタンツ大学には魔法のような装置があるのだろうと思われていた。普通なら、論文の「間違い」を疑われるが、ベル研究所、しかも第一人者のバートラム・バトログが参加していたことが大きかった。「科学の世界では嘘ということを完全に証明することは難しい」。否定するにも詰めが甘かったらベル研から訴訟をおこされて研究者生命を断たれかねない。
「科学者は正しいことを言う。科学的真実のみを正しく報告する。そうした性善説に基づいた科学者同士の『信頼』が、科学社会には存在している。その社会の基本ルールを逸脱している人間がいることを、前提として考えていない」
実はベル研内でもモンローが内部告発をしているが、大スターのシェーンを守ろうとして、本腰を入れて調査をしていない。
ベル研も昔の姿からどんどん変質(劣化?)していますね。特に事件が起きた当時はITバブル崩壊で親会社のルーセントテクノロジーが苦境にあり、ベル研の研究者も短期的に成果を出すように強いプレッシャーを感じていたようです。ベル研の偉い人で、シェーン研究とは何の関係もない人が、シェーンの研究の特許申請に名を連ねたりしている。
結局、プリンストンの物理学者リディア・ゾーンの留守電にベル研の若い研究者から「これはあなたへの宿題です。シェーンのふたつの論文をよく見てください」という謎のメッセージが吹き込まれたことがきっかけになってシェーンの捏造が発覚していくことになる。
ベル研を解雇された後、シェーンは消息を絶っていた。村松さんはシェーンが南ドイツの中小企業で働いていることをつきとめ、間借りをしている家まで行って、メディアとして事件後初のインタビューを試みたが断られている。
アメリカ研究公正局(ORI)。バイオ研究で不正がないかの調査裁定機関。NIHから発展的独立。バイオの場合、物理よりも不正が多く、一般市民が捏造の犠牲者になってしまう可能性があることから必要に迫られてORIが作られた。
ORIは誰かの研究に捏造や盗作などの不正の告発を受け付けて綿密な調査摘発を行う。年間200件の告発があり30~40が調査対象に。不正と判断されるのは10~15件ほど。不正が認められた場合、数年程度の公的機関からの研究費配布を禁じられ、実質的にキャリアが閉ざされる。
物理学会にはORIのような告発を受け付ける組織は存在しない。「不正行為はバイオ関係の研究で生じるもので、物理学のようなハードサイエンスでは起こりえないという感覚が一貫してある。仮説を立証していく過程が直接的で再現性もかなり厳密に必要となるので捏造など起こりえないという感覚」
「物理学の世界に実際にORIのような組織ができたら研究者達は非常に窮屈に感じ、研究も自由さを失うのではないか、結果が見えやすいものしか求められなくなっていくのではないか、発想豊かな斬新な研究や挑戦的な良い研究成果を得ることが難しくなるのではないかと危惧する」
「科学界は自由闊達な空気、学問の自由を保障する開かれた社会を礎に発展を遂げてきた。規制や取締りの強化には疑問もある。戦争や全体主義の状況下で学問や科学は規制によって歪められた苦々しい過去がある。だからこそ先人達は学問の自由の意義を声高に叫び、その自由を享受しようとしてきた」

2012年10月13日土曜日

林 計量経済学 Lecture 2: ML

2回目は最尤法。データ数T個の確率過程の実現値zのサンプルがあって、そのサンプルのjoint frequency or density functionがパラメータ・ベクトルθとzの関数L(z_1,...z_T;θ_0)という既知の関数だと仮定する。このL()をパラメータ・ベクトルθの関数と見なす。関数L(z_1,...z_T;θ)は尤度関数(likelihood function)と呼ばれる。この関数の対数をとったものが対数尤度(log likelihood)である。θのうち、対数尤度を最大にするものがθ_0の最尤推定値(ML estoimator) θ^_Tである。
例としてi.i.d.の正規分布の場合、パラメータ・ベクトルθ=(μ,σ^2)'である。

  • θ^_Tがθ_0に確率収束するとき、推定値θ^_Tはconsistentと言われる。
  • √T(θ^_T-θ_0)がN(0,∑)に分布収束するとき、推定値θ^_Tは漸近正規(asymptotically normal)です。∑は推定値のasymptotic varianceと呼ばれ、Avar(θ^_T)と書く。
  • consistentでasymptotically normalのことをCANと呼ぶときがある。
  • θ_kをθのk番目の要素とする。すると√T(θ^_Tk-θ_0k)はN(0,Avar(θ^_T)の(k,k)要素)に分布収束する。
  • Slutskyの定理より√T(θ^_Tk-θ_0k)をAvar(θ^_T)の(k,k)要素の平方根で割ったものはN(0,1)に分布収束する。この比がt値である。分母は(asymptotic) standard errorと呼ばれる。
一般のML、有限サンプルの場合

  • score vector 対数尤度をパラメータベクトルで1階偏微分したものをスコア・ベクトルと定義
  • Hessian 対数尤度をパラメータベクトルで2階偏微分したものをヘシアンと定義
  • Information Matrix θ_0におけるスコアベクトルとその転置をかけたものの期待値を情報行列と定義

  • weak set of conditionsの下で、θ_0におけるスコア・ベクトルの期待値は0、θ_0におけるヘシアンの期待値を負にしたもはθ_0における情報行列に等しい。
  • certain set of conditionsの下で、最尤推定値θ^_TはCANで、Avar(θ^_T)は情報行列をサンプル数で割ったものの極限の逆行列になる。

2012年10月11日木曜日

本多先生の特別講演

ICSへの寄付募集とゼミのOB会を兼ねた本多先生の特別講演を聞いてきた。タイトルは「リスクとリターン」.

  • Fama and French(1993)にならって5×5の25個のポートフォリオで日本の株式のデータを検証しても、リスクとリターンのトレードオフが見られない。
  • Black, Jensen, Scholes (1972)のゼロベータ・ポートフォリオ(マーケット・ポートフォリオとの共分散がゼロ)のリターンが高い。
  • 接点ポートフォリオは非常に高リスク高リターン
  • マーケット・ポートフォリオのパフォーマンスが悪く、等ウエイトや最小分散ポートフォリオに負けている。マーケット・ポートフォリオ(時価総額加重)が効率的でない場合、ベンチマークには適さないのでは?
  • 他にJorion(1991)、Demiguel, Garlappi, Uppal(2009)
  • Roll(1992)の批判。最適解は、ベンチマークとは独立に選ばれ、またベンチマークにリスクを上乗せさせるようなポートフォリオが選ばれる。
Rollのペーパーはこちらでも見れる。

2012年10月8日月曜日

林文夫 計量経済学 Lecture 1: A Warm-up

林先生の計量経済学の授業、1回目。コースの全体像、参考書など。予習をする必要はない。テキストはCampbell, Lo and MacKinlay(1997)の"The Econometrics of Financial Markets"。自慢が多くてあまり良い本ではないですね、とのこと。レファレンスとして"Econometrics"(Hayashi 2000)と"Asset Pricing"(Cochrane 2005)だが、テキスト、レファレンスとも読む必要はない。授業の復習をすればいい、とのこと。最低限必要な数学的要件は林先生がまとめたノートの"Matrix Algebra"と"Mixing Linear Algebra with Calculus and Probability Theory"で、みたところ非常に基礎的な内容。あとはMatlab, R, EViewsで分析できること。
コース・スケジュールは最尤法、GMM、CLMの8章 異時点間均衡モデル、CCAPM、10章 債券、11章 期間構造モデル、 12章 ARCH、GARCH、最後にコモディティ先物とFX。

Lecture1:

  • 確率収束 convergence in probability、概収束 almost sure convergence。plimは非線形変換でもsurviveするので便利。
  • Laws of Large Numbers(LLNs)
  • Stationarity and Ergodicity, Ergodic Theorem: 林先生の"Econometrics(2000)"のErgodicityの定義は間違っていると。
  • Convergence in distribution
  • 確率収束と分布収束の混合. Slutsky's Theorem. Delta Method
  • Central Limit Theorem(CLT). The Lindeberg-Levy CLT. .正規分布
  • Random Walks and Martingales
  • CLT for Ergodic Stationary Sequences. Ergodic Stationary Martingale Differences CLT (Billingsley(1961))


2012年9月30日日曜日

Finance and the Good Society


これまでクオンツの開発業務を8年間行ってきたが、10月から部署を移動することになった。これまでは休日も家でプログラムを書いたりしていて自分の時間がなかったが、これからは少し余裕ができて、時間がなくてこれまで読めなかった本を読んだり、好きなことができるようになると思う。ブログもより趣味的なことが書けるようになると思う。
とりあえずICSで林文夫先生のEconometricsの科目履修が始まるので、それについても書いていきたい。また、林先生の"Econometrics"の本の勉強についても書いていきたい。

ということでRobert Shillerの"Finance and the Good Society"を読み始める。Introductionはこちらで読むことができる

シラー氏によると「我々は金融資本主義(financial capitalism)の時代に生きている。それを残念に思うべきではない。金融セクターと市民社会の双方における我々の課題は、経済システムの中で人々が意味と大きな社会的目標を見つけだすことを手助けすることである。
最も広いレベルでのファイナンスの定義としては、『目標構成の科学(the science of goal architecture)―いくつかの目標を達成するために必要な経済的調整と達成に必要な資産の世話の構成』である。目標は、家計、商店、企業、市民組織、政府、そして社会そのもののそれぞれにとってのものであるかもしれない。一旦、目標が特定されると(例えば大学教育の支払い、夫婦の快適な引退生活、レストランの開店、病院の増築、社会保障システムの創設、月旅行など)、当事者は正しい金融ツールが必要になるし、また、しばしば専門家の指導が目標達成のために必要となる。この意味でファイナンスはエンジニアリングと相似である。
「ファイナンス」という言葉が古いラテン語で「目標(goal)」という意味の「finis」からきていることは、興味深く、また一般に見過ごされている事実である。
ファイナンスは、目標がどうあるべきかについては教えてくれない。ファイナンスはゴールを具体化しない。ファイナンス自体は「making money」に関することではない。ファイナンスは社会の目標達成を手助けするために存在する機能上の科学である。
社会における金融機関が社会の目標と理想によりよく加担するほど、社会はより強く、より成功したものになる。そのメカニズムが機能しないとサブプライム・モーゲージ市場のように腐敗したもにになる。しかし、適切に機能させれば、高いレベルの繁栄を促進させる独自の可能性を持っている。」

2012年8月19日日曜日

彩の森カントリークラブ


OUT 60,  IN 56 で116 と自己ベストに1足らず。ドライバーがダメダメだったものの、50~8oヤードのアプローチが決まりだしたのが収穫。山の上にあるコースですが、比較的フラット。横幅は狭め。谷越えが多い。池やバンカーがいいところにあって適度に難しい。グリーンも角度がついていて難しい。フェアウェイは非常にきれい。グリーンはやや荒れていた。前日の雨でバンカーに水がたまっていたところも。
全体には非常にきれいでいいコースです。ただ、うちからだと関越を使って1時間50分くらいかかって、やや遠い。


ついでに、書き忘れていたSゼミ・ゴルフコンペ@太平洋クラブ&アソシエイツ 美野里コース(2012年6月17日)


OUT 62, IN 67 で129。とりあえず、次の幹事は回避できました。

2012年8月15日水曜日

スティーブ・ジョブズに関する2つのDVD



スティーブ・ジョブズに関する2つのDVDを借りてきて見ました。私はPCの歴史については割りと詳しいのですが、アップル社の製品は一つも持っていなくて、ジョブズについても特に思い入れはありません。
その二つとは『スティーブ・ジョブズ:ラスト・メッセージ ~天才が遺したもの~』と『スティーブ・ジョブズの真実』です。
結論から言うと、『スティーブ・ジョブズ:ラスト・メッセージ ~天才が遺したもの~』は、ジョブズの身近にいた人に丹念にインタビューを行ったもので、ジョブズの良い面も悪い面も取り上げてジョブズの真実に迫っているのに対して、『スティーブ・ジョブズの真実』はジョブズとは直接関係のない人がジョブズ賛辞を述べるだけであり、非常に表面的にジョブスとアップルの歴史をなぞっているだけです。
ということで、どちらかと言えば私は『スティーブ・ジョブズ:ラスト・メッセージ ~天才が遺したもの~』をお薦めします。しかし、どちらにも英文字幕がないのは残念です。

いくつか、印象に残った言葉を引用。

「彼らはオタクかヒッピーに大別される。ジョブズはヒッピーでウォズはオタクだ。ヒッピーは理想を掲げオタクが実現する。ヒッピーは女を知っているがオタクは知識だけ。そんな具合で2人はお互いが必要だった」
「スティーブには人を口説く天賦の才があった」
「大学を中退したジョブズはインドへの旅で仏教を学んだ。これもまた彼に強い影響を与えた」
「物事の真理を求めており、答えを見つけるためにここを訪れた。スティーブは禅の考え方に魅せられていた。禅はこの世にある物事の関係性を説き、それを芸術で表現する。スティーブは特に書道に興味を示した。線と空白の間の関係性を認識していた」
「格言好きで、よく言うのはピカソ。『優れた芸術家は真似る。偉大な芸術家は盗む』。”最高の言葉”らしいが、こっちは意味不明さw」
「彼と出会った者は必ず、”魅了 無視 罵倒”の3つの段階を通らねばならない。基準は”必要な人材か”。自分に必要な間は大切にするが、働きに満足できないと罵倒し、最後には捨てるんだ」
「そりゃ、おもしろくないさ。人間の扱いとは思えなかったね」「皆、最後は裏切られた」
倒産まで3ヶ月のアップルに戻った彼はこう告げた。「振り返るな。過去の栄光など関係ない。世界初のパソコンをヒットさせたとか、そんな名声や成功は忘れてしまえ。今の我々は裸一貫だ。そこから再出発する」
「スティーブの復帰後、開放的で奇抜が売りのアップル社は変わった。厳しく統制された企業に変身したんだ。自社の財務状況を的確に把握していた。スティーブがシビアに管理したからだ」
「最終的に社を救ったのはゲイツの資金援助だ。彼は1億5000万ドルをアップル社に投資し、代わりに議決権なしの株式譲渡を受けた。加えてMac用Officeの提供を続けると約束した」
ジョブズは「謙虚さを学び、ビジネスマンとして成長してた」。「スティーブは変わったね。その最大の原動力は失敗だ。そこから学んだのさ」

「あることに気づけば、人生は広がる。君の生活を形作っているのは、自分と同じ人間ということさ」、「人生というのは指を突っ込んだら反対側から何か飛び出すもの。つまり人生は変えられるんだ。それに気づくことだよ」 (スティーブ・ジョブズ)

2012年7月24日火曜日

ドルコスト平均法

まだ、ちゃんと読んではいないのですが、この論文はコツコツ投資家の方は必読なのではないでしょうか。アカデミックな視点からドルコスト平均法を検証されたようです。リンク先のウェブサイトのフルテキストURLのところからPDFファイルをダウンロードできます。

「ドルコスト平均法を用いた投資の有効性の検証」(田路、笛田、2012)

それに対する肯定的な討論

「効果的な投資手法としての検証結果が示された」(吉野、2012) (PDF)

2012年7月23日月曜日

『ペット・サウンズ』


「あとになって僕は発見する。たとえカリフォルニアにいたところで、ほかの場所と同じように、人は惨めになりえるのだということを」 『ペット・サウンズ』(ジム・フジーリ) 村上春樹訳
文体が、ハルキです。
「僕は天才じゃない。ただ勤勉に仕事をするだけの人間だ」(ブライアン・ウイルソン)
「曲を作るときに大事なのは、我慢強さであり、《いったん掴んだら離さない》というしつこさだ」(ブライアン・ウイルソン)
「僕が作曲に打ち込んだのはおそらく、自分が劣っているという感覚があったからだろう。それがいちばん大きなモチベーションだったと思う。あるいは自分には何かが欠けているという感覚」(ブライアン・ウィルソン)
「僕には競争意識がある。(誰か別の人間が作った)本当に素晴らしい音楽を聴くと、なんだか突然自分がアリみたいなちっぽけな、とるに足りない存在になったような気がするんだ。そしてなんとか人に負けないものを作らなくてはと思う」(ブライアン・ウィルソン)
「僕の見聞したところから述べさせていただけるなら、ドラッグというのは、魂に問題を抱えた人間がもっとも手を出してはならないものだ。フリートウッド・マックのピーター・グリーンと昼食を共にしたことがある。彼はメニューにまともに目を通すことさえできなくなっていた。その30年ばかり前に、サイケデリック・ドラッグの服用によって、グリーンの統合失調症は悪化し、彼の人生は恐ろしい奈落の底に落ち込んでしまった。最近になってようやく最悪の状態から抜け出せて、僕はそのときの彼に会ったのだ」
「ジャコ・パストリアスの躁鬱病はドラッグと飲酒のために、より激しいものになった。そしてこのベーシストは、自らが設定したきわめて高い水準での演奏を維持する能力を失っていった。それからほどなく、ジャコはとあるフロリダのナイトクラブの外で、用心棒によって殺された。ある警官が僕にパストリアスの臨終の写真を見せてくれた。彼の頭は膨らみ、へこみができて、顔には黄色や紫の不気味な染みが認められた」
「多くのミュージシャンは『ペット・サウンズ』のセッションのあいだずっと、ブライアンはまるで何かに追いまくられているような、神経を高ぶらせた状態にあったと言っている。「『ペット・サウンズ』の仕事をしているとき、ブライアンは冗談ひとつ口にしなかったし、何を言ってもにこりともしなかった」とギターのジェリー・コールは語っている。「スタジオに入ってきても、微笑みひとつ浮かべなかった。頭の中にこれをこうしなくちゃというプランがしっかり詰まっていたんだね。夜の7時に仕事を始めて、朝の7時まで続けたりもした」。ミュージシャンたちが帰った後もブライアンはスタジオに残った。20時間くらいぶっ続けでいることもあった。
「彼の気前のよさには実に驚かされた」とコールは言う。「時間が長引くと、全員に食事の出前をとってくれた。そんなことに常に留意してくれたのは、ほかにはフランク・シナトラくらいしかいない」
「これ(God Only Knows)は実に実に偉大な曲だ」とポール・マッカートニーは言った。「僕はこの曲がたまらなく好きだ」

♪ いかなるときにも君を愛するとは、いいきれないかもね。 でも見上げる空に星がある限り 僕の想いを疑う必要はないんだよ。 時がくれば、君にもそれがわかるだろう。 君のいない僕の人生がどんなものか、それは神様しか知らない ♪

ジム・フジーリの『ペット・サウンズ』には村上春樹の18ページにわたる素晴らしい訳者あとがきがついている。これだけでも買う価値がある気がする。「聴いてみてください。聴く価値のあるアルバムです。そして何度も聴き返す価値のあるアルバムです。
『サージェント・ペパーズ』が僅かずつではあるが、当初の圧倒的なまでの新鮮さを失ってきたのに比べて、『ペット・サウンズ』はそのレコードに針を落とすごとに、何かしら新しい発見のようなものを僕にもたらしてくれた。そしてある時点で両者は等価で並び、そのあとは疑いの余地なく『ペット・サウンズ』が『サージェント・ペパーズ』を内容的に凌駕していった」

私が持っている『ペット・サウンズ』のCDには山下達郎の感動的なライナーノーツがついている。
「……だがしかし、それを考慮にいれてさえなお、『ペット・サウンズ』は語り継がれるべき作品である。何故ならこのアルバムは、たった一人の人間の情念のおもむくままに作られたものであるが故に、商業音楽にとって本来不可避とされている、『最新』あるいは『流行』という名で呼ばれるところの、新たな、『最新』や『流行』にとって替わられる為だけに存在する、そのような時代性への義務、おもねり、媚びといった呪縛の一切から真に逃れ得た、稀有な一枚だからである。このアルバムの中には「時代性」はおろか、『ロックン・ロール』というような『カテゴリー』さえ存在しない。   にもかかわらず、こうした『超然』とした音楽にありがちな、聴くものを突き放す排他的な匂いが、このアルバムからは全く感じられない。これこそが『ペット・サウンズ』最も優れた点と言えるのだ。『ペット・サウンズ』のような響きを持ったアルバムは、あらゆる点でこれ一枚きりであり、このような響きは今後も決して現れる事はない。それ故にこのアルバムは異端であり、故に悲しい程美しい。」

2012年7月22日日曜日

シリーズ「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」は無料公開されている

シリーズ「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」という7冊の本を本屋で立ち読みして、おもしろかったので欲しかったのだが、一冊およそ5000円なのでさすがに躊躇していると、なんと全部無料で公開されていたのね。国民の税金を使った研究だから、無料で一般公開されています。

シリーズ「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」


第1巻 『マクロ経済と産業構造』 深尾京司 編
第2巻 『デフレ経済と金融政策』 吉川 洋 編
第3巻 『国際環境の変化と日本経済』 伊藤元重 編
第4巻 『不良債権と金融危機』 池尾和人 編
第5巻 『財政政策と社会保障』 井堀利宏 編
第6巻 『労働市場と所得分配』 樋口美雄 編
第7巻 『構造問題と規制緩和』 寺西重郎 編

日経「穀物高、リスクオンに盲点」

2012年7月21日の日経夕刊【ウォール街ラウンドアップ】に『穀物高、リスクオンに盲点』という記事が出ていた。
「シカゴ市場の大豆とトウモロコシは食料危機といわれた2008年半ばの水準を超えた。一方、それを受け止める世界経済は当時よりもろい。」
「今回は現実の供給不足が根底にあるだけに、状況はより予断を許さないとの見方もできる。
株式市場にとっては『リスクオン』と『リスクオフ』という単純な二元論による相場分析の盲点を突かれるきっかけになるかもしれない。」

コモディティはもともと株や債券など伝統的資産とは異なる動きをするのが特徴。株の値下がりに対する保険としてファンド勢などが分散投資の手段として活用してきた。ただ、2008年秋の金融危機前後から、リスク分散効果に着目した年金など大口投資家がコモディティに殺到。金融緩和マネーがあらゆる資産を横並びで買い上げたこともあり、株と似た動きをするようになった。
BoAMによると、米株式とコモディティとの連動性は2003年~07年の10%から、08年以降は62%に高まったそうだ。

「景気が良く需要が強いために商品価格が上がる」局面では株高とコモディティ価格高が両立しうるが、現在のように景気低迷下で供給不安を理由に上昇する「悪い商品高」は、株価にマイナス、と。

個人的には、原油・ガソリンとは異なり、穀物高のマクロ経済への影響は限定的だろうとはおもう。原油・ガソリン価格の上昇はマクロ経済に多大な影響があるので、景気、株の下押し要因となり、最終的には原油・ガソリン価格の需要を引き下げ、価格抑制につながる。
穀物高の場合は、マクロ経済への影響は限定的だろうし、需要はそうは減らないし、供給も簡単には増えないから、しばらく続くような気がする。


2012年7月20日金曜日

とうもろこし、大豆、小麦の国際価格が上昇してきている

7月19日の日経「小麦の国際価格、4年ぶり高値 ロシア減産見通しで」

「主要生産国のロシアの天候が不順で収穫量が減る見通しが強まった。飼料用で競合するトウモロコシが米国の熱波を受けて高騰したのも押し上げ要因だ。小麦の輸入を管理する日本政府は製粉会社への売り渡し価格を10月に引き上げる公算が大きい。」

「シカゴ市場の先物価格は17日、期近の9月物が一時、1ブッシェル8.985ドルまで上昇した。ロシアの禁輸で相場が高騰し、北アフリカ諸国の民主化運動「アラブの春」のきっかけとなった2011年2月の高値を更新。リーマン危機前の08年8月以来の水準となった。」

アメリカのとうもろこしや大豆は水をまかないんだよね。自然の雨だけが頼り。だから雨が降らないとそのまま枯れてしまう。とうもろこしの価格があまりに高くなると動物の飼料として今度は小麦を与えだすんだよね。普段は小麦のほうが高いからやらないけど。小麦はロシアも不作らしい。ロシアの小麦禁輸が「アラブの春」のきっかけになったとすると、世界の動きは複雑ですね。

私が持っている投資信託の「国際のe-コモディティ」も、今は小麦、とうもろこし、大豆などの農産物が組入れの中心になっている。

マクロ経済学のパースペクティブ

『マクロ経済学のパースペクティブ』は、マクロ経済学の近年の発展に興味を抱く人たちが最初に読む本としてお薦めできます。特徴は直感的なストーリーの紹介、モデルの分類と一般的な図式の解説、簡単な数式の展開とモデルの有用性の紹介、日本経済への含意、多数の参考文献など。残念ながら絶版です。

「もともと現在の国民所得統計は、ケインズ以来のマクロ経済学の成立をうけて作られたものだ。統計に限らずマクロ経済学の見方からは『経済学など役に立たない』と豪語するどんな実務家であっても、実は影響を受けているものなのである」

「経済学のモデル分析は極めて難しく、かつそれゆえ面白いと言える。現在のマクロ経済学の内容は極めて多種多様であり、ミクロ理論のほとんどの分野の知識はもちろんのこと、最適成長モデルやゲーム理論を知ることが必要とされるし、確率過程論、動学的最適化理論、時系列分析などの知識も必須である。さらにマクロ経済学はあくまで実践の学問であり、制度的諸慣行に対する知識も必要であり、また鋭い現実感覚が一級のマクロ経済学者の必要条件であることは言うまでもない」

「RBCモデルは極めて非現実的と大きな批判を浴びており、また初期の主張はほとんど実証的にも成り立たないことが明らかとなっている。にもかかわらず、このRBCモデルの基本構造とその批判・反批判を知ることは、マクロ経済学の現状を知るうえで不可欠である。近年ではRBCモデルは何らかの一般均衡動学モデルを組み立てて、シミュレーションにより導出された人工的経済の数値と実際の景気循環の数値を比較する研究と位置づけることが妥当。またその含意も新古典派の究極の到達点と考えるより、あくまで一つの『技術的な』分析手法と位置づけることが妥当」


2012年7月1日日曜日

林貴志『マクロ経済学』


この本はMinervaベイシック・エコノミックスのシリーズの一冊なのであまりむつかしくない。一般均衡理論をいかに「動学的」にするかが丁寧に解説してある。


「不確実性下での生産経済の動学的一般均衡モデルに基づくビジネスサイクル理論は「生産性=リアル」のショックに基づくビジネスサイクル理論と言う意味で、リアルビジネスサイクル(RBC)理論と呼ばれる。

RBC理論は決して、『ビジネスサイクルはすべて技術的ショックで説明できる』と言っているのではない。むしろ、織り込み可能なショックには経済はどう反応するか、逆に織り込み不可能なショックにはどう反応するか、両者はどう違うのかについて有用な知見を与えてくれる理論というべきである」

林マクロ、分かりやすいが、残念ながらタイポも多い...

「経済停滞の原因と制度」、「『失われた20年』と日本経済」


最近になって日本の長期経済停滞を計量的に実証分析した本が出版されるようになってきた。深尾さんの本を買うついでに2007年の林さん編集の本も購入。

『経済停滞の原因と制度』は冒頭から挑発的。

「 われわれは、(日本経済の)長期停滞の主因は第一に生産性の成長率の低下、第二に金融仲介機能の低下による投資の不振、第三に公共投資の非効率性にあると考える。
われわれは、長期停滞はGDPの成長率の低下というきわめてマクロ的現象であり、経済の個々の側面だけに焦点をあてる分析には限界があると考える。なすべきことは、GDPが内生的に決まるマクロ一般均衡モデルを構築し、モデルのどの与件が変化したからGDPが低迷したかを特定することである。
IS-LMモデルの有効性については深刻な疑問が少なくとも学会では投げかけられてきた。資産価格のみならず消費・投資、そしてGDPは、家計・企業といった経済主体が経済変数の将来の経路について持つ期待に依存する。期待の役割をモデルに取り入れるためにはモデルは動学的でなくてはならない。
アリゾナ大学のプレスコット教授と私(林)は、2002年の共同論文で、実物的景気循環モデルと呼ばれる、最も基本的な動学的一般均衡モデルで、90年代の日本のGDPの低迷が説明できることを示した。GDPを内生変数とするこのモデルの与件は、政府支出の経路と経済全体の生産性の尺度である。
失われた10年についての文献は、需要側の要因に注目する研究と供給側に注目する研究に大別されるが、需要側を重視する研究は、次の6つの要因を指摘している。

1)1980年後半のバブル経済の崩壊が資産価格(株価、地価)の暴落を招き、それがさらに金融危機と不良債権の増加をもたらし、それがさらに貸し渋り(クレジット・クランチ)とシステミック・リスクの増加をもたらしたこと、
2)1993年にBIS規制が導入されたことによるさらなる貸し渋り、
3)金融危機および不良債権問題への政府の対応が不十分だったこと、
4)バブル期においては、過度に拡張的な金融政策の影響もあり、設備に対する大規模な過剰投資がなされ、バブル崩壊期においては、企業は超過設備をなくすため、投資を大幅に削減したこと、
5)バブル崩壊期においては、財政政策・金融政策による刺激が不十分だったため、有効需要が不十分だったこと、6)日本経済の将来展望の悪化、

 供給側の要因を重視する研究では『全要素生産性(TFP)』がキーワードである。生産を労働投入で割った比が通常の生産性と呼ばれるが、この労働生産性は資本の貢献を無視しており、経済学的に意味のある生産性の尺度は、労働生産性ではなくTFPである。
需要を重視する議論には、論理に問題がある例が多い。問題の一つは、因果関係と相関の混同である。もう一つの問題は、モデルが明確に提示されていないことである。
 投資の低迷が長期停滞の主因であるという需要派の主張が科学的根拠を持つためには、少なくとも投資の低迷の大半がTFPの低下によるものではないことを実証的に示す必要があるし、供給派と同じ知的レベルの議論をするためには、投資の自立的変動を含むDGEモデルを構築し、そのモデルがGDPばかりでなく消費・投資・雇用・資本産出比率などの重要なマクロ変数全体について、一定の説明力を持つことを示さなくてはならない。」

参照されている論文
"The 1990s in Japan: A Lost Decade" Hayashi and Prescott (2002) (PDF) 

第6章「失われた10年における日本の金融政策」は以下の論文が元
"Monetary Policy during Japan's Lost Decade" Braun and Waki(2005) (PDF)


2012年5月29日火曜日

取引所対PTS:市場間競争の初期効果 宇野淳 (早稲田大学)

市場分断(Fragmentation)は悪か? 日本のFragmentationが進行し始めた要因は? 取引所からの注文流出は、取引所取引に影響しているか。

上場株式の取引所取引集中義務撤廃は1998年証券ビッグバンの目玉だった。2010年の東証アローヘッド稼動を契機にPTSのシェアが拡大してきた。

ネガティブな要因
①証券会社に課されている最良執行義務は、過去の出来高の大きい市場を主市場と定めるといった慣行としている。機関投資家は取引所での取引を優先してきた。
②TOB5%ルールの問題が解決しておらず、機関投資家の多くはPTS市場で買い注文を執行していない。

ポジティブな要因
①2010年7月からPTS市場で売買した銘柄の受け渡し決済を取引所取引での売買と同様に日本証券クリアリング機構で行えるように変更された(これが大きかった)。機関投資家の売買行動にインパクトを与えた。
②有力なPTS業者であるCHi-Xが日本での営業を開始した。
③東証アローヘッドの稼動で取引スピードがアップしていた。

PTS2社と東証の大きな違いは呼び値制度。SBI-Japannextが東証の1/10、CHi-Xが5千円まで10銭、10万円まで1円、10万円以上10円に対して、東証は3千円まで1円、5千円まで5円等、高い。また取引フィーの体系は、SBI-JapannextがTaker Fee 0.2BP、Maker Fee 0.2BP、CHi-XがTaker Fee 0.2BP、Maker Fee 0.8BP、東証は場口銭0.29BP+アクセス量+基本量+システム利用料。

Latency

  • 注文処理速度は、証券会社からのメッセージをゲートウェイで受付けてから、処理してゲートウェイで完了メッセージを出すまでを計測するが、東証アローヘッドのスピードは2ミリ秒としている。
  • Japannextは約1ミリ秒
  • Chi-Xは、ゲ-トウェイに注文伝文が到着しマッチングエンジン内に入り約定してゲートウェイ出口に戻るまでの一連のプロセスの処理を平均500マイクロ秒以下で行っている。
  • 計測方法が違うので厳密な順序はつけられないが、PTSのほうが東証よりも早いといえそうだ。


先行研究

  • 初期はマーケットは一つに集中したほうがよいとするものが多い。Garbade and Silber(1979)、Coehn et al.(1982)。
  • O'Hara and Ye(2009)は、TRFデータを用いて市場分断は一般に取引コストを低減し、執行スピードを短縮すると報告。
  • 過去の Fragmentation 研究の結論が一致しないのは、市場のインフラや参加者の取引能力、市場規制や投資ガイドラインなどの異なる環境を見ているからで、 Fragmentationの影響を一様に論じることが危険であることを物語っている。
仮説
  1. PTS市場で売買される銘柄は、HFT業者の好みを反映しているか
    1. 先行研究ではHFTマーケットメイカーは約定回数が多く、スプレッドが広めの銘柄を好むと言われている(Brogaard 2010、Menkvelt 2011)
  2. 呼値格差率が大きい銘柄ほどPTS市場で頻繁に取引されている
  3. PTS市場への注文流出が大きいほど、取引所市場の流動性や価格形成に悪い影響を与えている
サンプル
2011年1月ー6月東証1部上場銘柄、日経平均採用銘柄、東証、SBI Japannext(出来高)、CHi-X(出来高)

銘柄別PTSシェアの決定要因
  • PTSshare t=(PTS2市場の日次出来高合計t)/東証日次出来高t
  • 対象銘柄は日経平均採用銘柄
  1. 取引所ビッド・アスク・スプレッドは SPRDP=(Ask-Big)/仲値
  2. 取引所のデプス DPTH=(Askサイドのデプス金額+Bidサイドのデプス金額)/2の対数値
  3. Ticdif呼値格差=(取引所呼値ーPTS呼値)/VWAP
  4. VOL=(取引所、各PTS市場)の前日出来高の対数値
PTSシェアの高い銘柄の特徴
銘柄固定効果モデルを採用したパネル分析の結果では、
  1. 取引所スプレッドが広いときシェアが上昇する。
  2. 取引所デプスが薄いときにシェアが上昇する(3月データとダミーを追加すると係数が反転)
  3. 呼値格差が大きいほどシェアが高い
  4. 取引所出来高が増えるとシェアは低下する
同じ銘柄について、PTSシェアが高くなるほど出来高(件数)は低下する。スプレッドは広がり、デプスは薄くなる=シェアの変動と諸指標間に相互関係がある。

まとめ
  • 日本株のFragmentationの実態は日経225採用銘柄などを中心に増大しているが、シェア(PTS出来高/取引所出来高)の上昇は取引所出来高が比較的低調なときに生じている。取引所取引が活況名時はPTS出来高は追いつけなくなるという傾向がある。
  • TOB規制に抵触することを恐れて機関投資家がほとんど参加していないほか、個人投資家もPTS市場に発注するのはまれである。
PTS市場取引高や出来高シェアが取引所取引に与える影響
  • Diference-in-difference分析の結果は、PTSシェアが高いのはスプレッドがひろい銘柄である。
  • デプスが厚い銘柄でもPTSへ発注し優先権を高めようとする傾向が見られる
  • PTSマーケットの呼値戦略は効果を挙げている
  • PTSシェアが高い銘柄は、ボラティリティの影響ではマイナスであり、取引所取引は情報イベント時にシェアが拡大し、そうでないときにはPTSシェアが高まる傾向がある。

2012年度日本ファイナンス学会 2日目


5月27日(日) 9:30-11:30 セッション 3-D「バンキング」

   第1報告 Heather Montgomery (国際基督教大学)
      Banking Sector Consolidation and Efficiency: Lessons for the West from Japan

   第2報告 新谷幸平 (日本銀行)
      Authority and Soft Information Production within Banking Organization

5月27日(日) 9:30-11:30 セッション 3-A「情報の非対称性と証券取引」

   第3報告 宇野淳 (早稲田大学)
      取引所対 PTS:市場間競争の初期効果

詳細はこちら

5月27日(日) 12:30-14:30 セッション 4-A「フィナンシャル・エコノメトリクス」

   第1報告 岩壷健太郎 (神戸大学)
      Order flows, fundamentals and exchange rates

   第2報告 野田顕彦 (和歌山大学)
      The Evolution of Market Efficiency and its Periodicity

   第3報告 中村信弘 (一橋大学)
      Copula-Based Asymmetric Leverage in Stochastic Volatility Models - Particle Filtering Approach -

5月27日(日) 14:40-16:40 セッション 5-D「証券投資」

   第1報告 俊野雅司 (大和ファンド・コンサルティング)
      わが国の投資信託市場におけるハーディング行動

5月27日(日) 14:40-16:40 セッション 5-A「価格決定メカニズム」

   第2報告 宮川大介 (日本政策投資銀行)
      What Determines CDS Premium? Simultaneous Equation System Approach

5月27日(日) 14:40-16:40 セッション 5-C「コーポレートファイナンスと株価」

   第3報告 新井亮一 (早稲田大学)
      株価純資産倍率, トービンの q と長期利益成長率の関係

2012年5月27日日曜日

2012年度日本ファイナンス学会 1日目

日本ファイナンス学会に行ってきた。今回は会場が一橋ICS。ところで、プログラムの期日が2011年5月26日・27日になっている。それから一ツ橋キャンパスも今は千代田キャンパスが正式名称らしい。大会実行委員長が私の師匠の本多先生。


セッション1:会場1 ファイナンスにおける最適化

第1報告:「Investment timing with fixed and proportional costs of external financing」
報告者:西原 理(大阪大学)
討論者:今井潤一(慶應義塾大学)

企業はリスクニュートラルと仮定。動的計画法。リアル・オプション。グロース・オプションで行使タイムングを最適化。上界、下界については解析的に解ける。内部資金だけで投資するか、外部ファイナンシングを利用するか。キャッシュ・リザーブが多い企業ほど投資が遅れる。単位時間当たりのCFが確率過程。


第3報告:「Optimal switching strategy of a mean-reverting asset over multiple regimes」
報告者:鈴木 清(野村證券)
討論者:大西匡光(大阪大学)

株式のロング・ショートのスイッチングを動的計画法を応用して分析。リバランスが最適な領域と継続領域。繰り返し最適停止問題。value matchingとスムース・ペースティング。General step witching 最適戦略。


セッション1:会場3 株式市場の情報効率性

第2報告:「Can Investors in the Japanese Stock Market Profit from the Analyst?」

報告者:岡田克彦(関西学院大学)
討論者:太田浩司(関西大学)

ブルームバーグ・ニュースから株式アナリストの格付け情報をテキストマイニング。Trading Simulation。形態素解析プログラムJUMAN/係り受け解析プログラムKNPを利用。Dynamic calendar time portfolio。ペアがマッチングしないときはショートは日経225先物を利用。翌日の寄り付きでポジションを持つとする。分析してみると、格付け変更前にかなりリターンがあり、発表後の翌日以降はあまりリターンが上がらない。年次換算で2~3%(取引コストを考慮すると1~2%)のリターンが獲得できる。1億円くらいの個人投資家ならもうかるが、ファンドが大きくなるとマーケットインパクトによる損が大きくなる。
討論者から、「アナリストレポートの2/3は、経営者予想公表から3日以内に出されている」との指摘があった。経営者予想修正時点でレーティング変更をある程度予想できればもっと大きなリターンが得られる可能性があると。


セッション2:会場3 資産価格の評価

第1報告:「Term Structure Dynamics in a Monetary Economy with Learning」

報告者:小野貞幸(広島大学)
討論者:森田 洋(横浜国立大学)

鉱工業指数、インフレ率などをファクターとして金利がレジーム・スイッチする期間構造モデル。Bakshi and Chen(96)を以下の点で一般化。①二つの経済ファンダメンタルズとして選択した実質生産量と貨幣供給量の平均成長率が観測不可能、②実体経済と金融市場の成長レジームの不確定から投資家信条が変化、③債券の適正価格を決める上で投資家信条のダイナミクスが重要となりデータが示す構造を形成する。信条の確率過程は超過リターンのGARCH効果を説明できる。投資家が経済状態に関してより不確定であるか、よりリスク回避的である場合、債券の超過リターンのボラティリティが大きくなる。経済ファンダメンタルズのノイズが小さいとき、債券の超過リターンのボラティリティが減少する。
討論者から、無相関の場合、実質的に1ファクターとなるとの指摘。



第2報告:「所得階層別データと株式収益率のクロスセクションによる消費資産価格モデルの検証」

報告者:祝迫得夫(一橋大学)
討論者:福田祐一(大阪大学)

富裕層において消費CAPMと整合的な結論。アグリゲートな消費でCRRA型でうまく行くだけではなく、クロスセクションでのパターン説明力をモデルのパフォーマンス評価の主眼に置いて分析。パフォーマンスの改善も示唆されるが、単純にクロスセクションのパターンを説明するという展ではFama-Frenchの3ファクターモデルのほうがC-CAPMより優れていることも確か。
さすがに祝迫さんだけあって、手堅い分析。

セッション2:会場4 高速取引システム


第3報告:「オーダーフローに潜在する情報のインパクト:東証arrowheadにおける検証」

報告者:宮津和弘(イケア・ジャパン)
討論者:大家幸輔(大阪大学)

arrowhead稼動前後のオーダーフローの不確実性を情報エントロピーによって評価する。RUNS分布理論を応用して系列相関およびオーダーインバランスを定量的に扱う。arrowhead稼動後の系列を擬似変換により約定まとめ曲線をモデル化して影響を調整。
「約定まとめ」は知らなかった。「約定まとめ」とは1991年に取引システム完全電子化の際、情報提供頻度が速過ぎるとの懸念から意図的に3秒のタイムラグを約定間に挿入。最頻時で4秒の集計、つまり約定をまとめる。東証arrowhead高速取引の本質は約定の個別化。


基調演説:「Capital Market Theory after the Efficient Market Hypothesis」 Dimitri Vayanos

Momentum, reversal, and value. An institutional theory(Vayanos and Wooley 2011). Practical applications of the theory(Vayanos and Wooley 2012).

モメンタムとバリューは投信などのファンド間のフローで発生する。ファンドマネジャーと投資家は合理的。資産にネガティブなショックあったとき、ファンドのリターンが低下し、資金流出、ファンドが資産を売る、資産価格が低下する→モメンタム。資産価格がファンダメンタルな価値を下回るとリバーサルが発生する。

VayanosはMITで大橋先生と同期だったそうだ。

2012年5月20日日曜日

片山徹『非線形カルマンフィルタ』

林の『マクロ経済学』を買ったついでに店内をうろうろしていたらこれを見つけた。出版されていることを知らなかった。やはりたまにはリアルな本屋に来ないといけないね。

「システムの線形性あるいは雑音のガウスせいのどちらかが損なわれると、事後確率分布は非ガウス性となり、カルマンフィルタの性能は低下する。このようなフィルタ性能の低下を改善するにはどうしても非線形フィルタが必要となる。

非線形システムに対するフィルタリング問題は、カルマンフィルタで扱われたLQG(線形、2乗誤差規範、ガウス性雑音)問題よりも格段に難しく、最適解を求めることはほとんど不可能である。このため、従来から常に多くの近似手法が提案されてきた。

近似手法の一つは、非線形システムを推定値の近傍で線形化して、線形化されたシステムに対してカルマンフィルタのアルゴリズムを直接適用するという方法であり、拡張カルマンフィルタ(Extended Kalman Filter, EKF)と呼ばれている。

また観測データに基づく状態ベクトルの非ガウス事後確率密度関数を複数のガウス分布で近似するガウス和近似(Gaussian sum approximation)法が1970年代に発表されている。

さらに、コンピュータの発展に伴って、状態ベクトルの非ガウス事後確率密度関数を直接数値的に近似するモンテカルロ(Monte Carlo)フィルタとブートストラップ(bootstrap)フィルタが1990年代になってほぼ同じ時期に発表されたが、現在では粒子(particle)フィルタと呼ばれている。

このほか、気象学分野ではリカッチ方程式を用いないアンサンブルカルマンフィルタ(Ensemble Kalman FIlter, EnKF)、またロボティックス分野ではUnscentedカルマンフィルタ(UKF)が発表されており、それぞれ多くの関心を集めている」

数値例を計算するためのいくつかのプログラムはこの朝倉書店のウェブサイトからダウンロードできる。Matlabのコードらしい。

林貴志の『マクロ経済学』を求めて

Amazonで注文していた林貴志の『マクロ経済学 動学的一般均衡理論入門』がいつまでたっても来ない。都内の主な書店でも売切れである。しびれを切らして浦和の本屋まで探しに行ってきた。
浦和駅前。かなり高齢のおばあさんが誇らしげに浦和レッズの手ぬぐいをバッグに付けていて、さすがレッズの聖地だと思った。
 須原屋にきたぜぇ~
 なぜか店内にメッシのユニフォームや澤の写真が飾ってある
 メッシのサイン
 
一冊、売っていた!さっそく購入。

林マクロの関連図書として10冊が紹介されている。Arrow(1953)、Debreu(1959)、James and Ribeiro da Costa Werlang(1988)、Epstein and Zin(1989)、Gorman(1953)、加藤(2006)、Kamihigashi(2001)、Ljungqvist and Sargent(2004)、Romer(2005)、齊藤(2006)。

あとがきで、林(2012)を読んだ後、邦書ではまず齊藤(2006)、洋書ではRomer(2005、邦訳あり)を経て、「のちに進むべき大学院向け教科書は、現今では何と言ってもLjungqvist and Sargent(2004)であろう。DGEに基づいた教科書として最も包括的」と


日経にロバート・シラー教授



5月20日の日経【日曜に考える】欄にエール大学のロバート・シラー教授。

「借りたローンより購入した住宅の価値が低い家計は全米で1100万件、全体の4分の1にのぼる。状況が改善する証拠は見当たらない。米経済の回復力は強くなく、米経済は日本の『失われた10年』の背中を追う懸念がある。

取るべきモデルは日本型だろう。財政出動を繰り返し、国家債務は非常に高水準になった。しかし、低いながらも成長を維持し、恐慌には陥っていない。それが現実的に我々が望めるベストの道だと思う。多くの国が景気刺激策をとるべきだ。

均衡のとれた景気刺激予算という道があるはずだ。40年代にサラントとサミュエルソンが、増税と歳出削減を同時に実現すれば、政府債務は膨張しないと論じている。焦点は富裕層への増税だ。増税しても消費面への影響は小さい。ただ政治的には正しくても、実行するのは難しい。

今回の危機はレバレッジ危機。家計と同様、国家規模で過剰な債務を抱えてしまった。このレバレッジを低下させる金融的手法が『トリル』だ。GDPの1兆分の1を1株として、株式のような形で投資家に持ってもらう。政府は四半期ごとに配当を払い、景気が良くなれば増配する。

好況期こそ規制当局は厳格であるべきだが、好況期はほったらかしで、最も厳しい環境のときに規制が強まる。だからバブルとその崩壊が起きる。サブプライムローンの証券化というアイディア自体は健全だ。複雑に組合せ、元の借り手を把握できなくした使い方に問題がある。

金融の未来像は、もっと”民主化”され”人間本位”であるべきだ。あらゆる人の問題解決に役立つのが民主化の意味するところ。人間本位とは、心理を深く理解した上でふさわしい組織や商品を作ることだ。

人間工学では人のエラーを考慮にいれて設計する。金融も『資産分散とヘッジ』という原則論でなく、人が誤りを犯すことまで考えに入れるべきだ。金融サービスの担い手は、掛かり付け医のように家庭が信頼できる助言者であるべきだ。

一つの金融機関に過剰なシェアを握らせないようにするのが今の金融改革だが、それ以上に注目すべきは、起業家や中小企業にクラウドファンディングを認める新法の成立だ。ウォール街の巨大な金融機関を介さなくても資金を調達できるようになる。」


「トリル」というのが、よく分かりませんが、クーポンがGDP成長率に連動するコンソル債のイメージでしょうか。最新書の"Finance and the Good Society"というのが出ているようなので、この本にもっと詳しく書かれているかもしれない。


シラー教授はわりと好きな学者の一人。ハーバードのジョン・キャンベルとも幾つか論文を書いていて、そのうちの幾つかは「Market Volatility」という古い本に掲載されている。また米国株のバブルに対して早くから警鐘をならしていて、「根拠なき熱狂」という言葉は当時のグリーンスパンFRB議長に使われて有名になった。しかし、「根拠なき熱狂」の翻訳が植草一秀というのが時代を感じさせる。


2012年4月30日月曜日

軽井沢72ゴルフ

軽井沢72ゴルフ。西ゴールド・コース。IN54、OUT67の121。浅間山の雄大な背景、フラットできれいな素晴らしいコースでした。グリーンまわりのバンカーに捕まったり、速いグリーンに苦戦。
軽井沢72ゴルフは4つのゴルフ場、6つのコースの巨大ゴルフ施設。リゾート地らしく、金持ちの客が多いようだ。われわれ以外のプレーヤーのゴルフウェア、おしゃれすぎ、ワロタ。駐車場の外車比率高すぎ、ワロタ。 外車といっても、メルセデスとBMWばかりです…

そういえば、昨日の朝、関越道の藤岡JCT近くの反対車線にパトカーが大量に停車していたのは、例の高速バスが壁に激突した事故だったと思われる。


2012年4月28日土曜日

大豆の価格が上昇、最高値に接近



今日の日経【商品】面に『大豆、最高値に接近』の記事。

大豆の国際価格が2008年7月につけた史上最高値に近づいている。今年は世界の輸出量の半分を占める南米産が不作で供給不足の懸念が強まったのが主因。米国では昨年、史上最高値をつけたトウモロコシへの転作が進みそうで米国の輸出余力も低下し供給不足が長期化するとの見方も出ている。大豆を原料とする食用油や飼料は、中国や新興国需要が拡大するとの見方が多い。上昇基調が鮮明なことから投資資金の流入も加速している。

とうもろこしと大豆は春に種をまいて秋に収穫。冬小麦は秋にまいて夏前に収穫。とうもろこしの価格は5~7月にピークをつける傾向がある。とうもろこしと大豆は同じ畑で輪作する。大豆を育てると土にチッソが残りトウモロコシはそれを消費する。北米、南米ではトウモロコシを育てるときに水はやらない。雨頼み。だから旱魃になると価格が高騰する。農家は目先有利な方を多く生産する。昨年はトウモロコシが有利だったので大豆の作付けが不足。
トウモロコシ、大豆の北米の生産地はコーンベルトと呼ばれる地域。一方、小麦はもう少し南西。夏に雨がほとんど降らないのでトウモロコシを育てられない。
米国ではトウモロコシのエタノール用途が資料用途を上回ってきている。米国のエタノール製作は温暖化対策、石油輸入依存度軽減、農家への補助金削減の一石三鳥となった。今では農業保護もやめ、エタノール保護もやめている。最近の北米の農家は潤っている。農地の価格も上昇している。
大豆は中国の輸入が急増している。日本の輸入量350万トンに対して中国は5500万トンで毎年400万トン増えている。南米の旱魃で受給はしばらくタイト。トウモロコシ、大豆、小麦とも最大の輸出国は米国。
米国の穀物はミシシッピー川沿いのグレインエレベーターに集荷され、バージで1ヶ月かけてミシシッピ川を使ってニューオリンズに近いバトンルージュに運ばれ、そこから輸出される。
トウモロコシの価格が上がると大豆からトウモロコシに生産がシフトして大豆の供給が減る。トウモロコシの価格が上がりすぎると普段は人間が食べている小麦を飼料に使い出す。この3つ価格には関係性がある。
穀物の受給逼迫は長期化する可能性が高いらしい。

価格の推移をみると昨年の12月からきれいに上昇トレンドとなっている。

日米欧の中央銀行がそろってインフレにしようと金融緩和をしているので、資産の一部をコモディティにしておくのもいいと思う。世界最大のヘッジファンドのマネージャーのレイ・ダリオも先日の日経で「分散投資の一環として投資資産の10%程度を金に振り向けることだ」と言っていた。

コモディティに投資する投資信託もいくつかあるが、コモディティの場合先物のロールコストなどの問題があるので、単純なインデックス連動型は避けて、CTAのようなトレンドフォロー型の運用をするものがいいと思う。

2012年4月23日月曜日

定常性とエルゴード性

似ていて違いが分かりにくい概念ですね。ハミルトンの『時系列解析』で調べてみましょう。定常性には「弱定常」と「強定常」があるそうです。ハミルトンの本では「定常」と単独で用いられた場合は弱定常の意味で使われています。

平均μ_tと自己共分散γ_tがいずれも時点tに依存しない場合、つまりE(Y_t)=μ、E(Cov(Y_t,Y_{t-j})=γ_jの場合、過程Y_tは弱定常または共分散定常といわれています。

一方、定常過程において、時間平均が極限的に、つまりT→∞のとき、全体平均E(Y_t)に確率収束するとき、定常過程は平均についてエルゴード的であると言われます。jが大きくなるにつれて自己共分散γ_jが十分に早く0に収束するという条件のもとで、定常過程は平均についてエルゴード的になることが知られています。

多くの応用例においては、定常性とエルゴード性は、結局同じ条件を意味していることが多いですが、ハミルトンの本では定常ではあるがエルゴード的ではない過程の例が挙げられています。

2012年4月11日水曜日

収束

ブログの更新ができてないな。忙しかったのとツイッターのほうに時間を費やしていたから。ツイッターのオフ会に幾つか出て、ツイッターがなければ会うこともなかったであろう様々な人と知り合いになれた。でも、少しツイッターの時間を減らしてブログの時間を増やそうと思う。

Hayashiの2.1で収束の話。収束にもいろいろある。

収束概念の強弱。{X_n}がXに、
a)概収束すれば確率収束する、
b)平均収束すれば確率収束する、
c)確率収束すれば法則(分布)収束する、
d)r≧s≧1のときr次平均収束すればs次収束する。
逆は一般に成り立たないがX_nが独立なら概収束、確率収束、法則収束は同値である。


また、Greeneで調べてみると中心極限定理(Central Limit Theorems, CLT)にもいろいろある。
a) Lindeberg-Levy CLT
b) Lindeberg-Feller CLT
c) Liapounov CLT
d) Multivariate Lindeberg-Levy CLT
e) Multivariate Lindeberg-Feller CLT


D.2.7のDelta Methodは後で確認を...





2012年2月13日月曜日

「なぜ日本は変われないのか 日本型民主主義の構造」山本七平


第4章「変革なき組織的家族社会の深層」に興味があって購入。
「日本には『個』の組織化である『民主主義』の基礎であるべき、組織(システム)という概念がない。組織という概念は、すべて『合理的に組み立てられた対象』を意味する。それは常に分解可能であり、ばらばらの部品にして再構築できる対象であり、同時に、その部品は等量・等質で常に交換可能のはずである。

アメリカにおいては、会社も組合もあくまで組織(システム)であって家族(ファミリー)ではない。その構成員を部品の如くに扱い、不良な部品は平気で排除し、時にはエンジンの取替えに等しいことも平気でやる。
たとえば日本において、東芝がソニーの優秀なスタッフを全員引き抜いたため、ソニーが倒産するということはあり得ない。日本における最も米国的といわれる企業も、その実体は「組織」ではなく、一種、擬制の血縁集団ともいうべき「組織的家族」とでも名づくべき家族なのである。

このことは解雇という問題に最もよく表れる。日本人には『正当解雇』という概念はなく、社会全体が『解雇は処罰』とうけとり、社会は解雇された者を処罰された者とみなす。従って処罰でない解雇はすべて不当解雇である。

日本でも『組織の歯車』とか『管理社会の重圧』とか『人間性の阻害』とかいわれるが、実際に『組織の歯車=部品』で交換可能・廃棄取替可能な『組織の一員』は日本にはいないし、『重圧』とか『阻害』とかいう言葉も、実は、組織内での"人間関係"という心理的重圧のことであって、それは組織の問題というより、むしろ『家族内の人間関係』嫁姑問題に似ている。

明治以降の、この組織的家族の日本における代表的集団は、日本軍であった。一見、組織の如くに見えたが、内実は組織ではない。従って組織なら当然に実行できる『部品の交換』さえ、不良部品のためその全部が崩壊の寸前においてさえ実行できない。インパールのような徹底的敗戦の責任者も処罰されることはない。もしそれをすれば、全軍が崩壊してしまうからで、この世界にも正当解雇はなかった。

この組織的家族は、一種の二重組織であり、従って解体が不可能に近いから、『運命共同体』に転化し、そのプラスの面が出た場合は恐るべき強さと高能率を発揮しえ、時には、宗教団体と似た様相になる。

日本軍の特徴として、同一組織・同一装備の師団でも、その能力に大きな差があったことは、指揮官への教祖的信仰の有無が作用したからだといえる。

日本的組織は組織として機能しなくなっても解体できず、組織を維持する能力しかなく、組織として他に作用する力を失っても、そのまま存続していくという結果になる。日本の組織は壊滅の直前まで厳然と存続し、一種の点滴によって、社会に負担をかけつつも存続しえる。だがその構成員は実質的には失業状態である。
日本軍も倒産企業も、それが倒れる直前まで厳然として存続し、立派に機能しているようにみえ、この実体は常に”粉飾戦果”、”粉飾決算”で隠されていて、わからない。

組織は常に目的をもつ。そして目的を持つことは、その目的に対応する正当化が要請される。従って組織自体は何ら絶対性をもたず、その存続自体を目的として存続することは許されない。
一方家族は、目的を持つ組織ではないから、何らかの目的に対応するための正当化を必要としない。それは自らが存続するためにだけ機能すればそれで充分な存在である。従って、自らの崩壊を防ぐことが第一の目的である。

組織的家族集団は、何らかの客観的公理などに基づく権威を主張してはならない。公的な一つの基準に基づいて公平に裁定を下すなら、その者は権力的という非難のもとに、調和を乱す者として排除される。従って、最も非権威的な者が指導者になる。

自由の前提としては『自由なる思考』と『自由なる討論』を行いえる権利である。『自由意志に基づく各人の決断と選択』を基本とする状態はそれ以後のことである。この前提がない社会にはそれが資本主義であれ社会主義であれ、自由は存在しえない。ただこれは、おそらく、現在の日本では絶対に通用しない考え方なのである。

以前、キッシンジャーが『日本人記者はオフレコの約束を破る』といった意味の発言をしている。当時の新聞を読むと、彼が何をいっているのか記者にも編集者にもわかっていないように思われる。彼は『自由討論』の権利、すなわち人間のもつ基本的権利の一つを侵害していると言っているわけである。
日本は、事故の発想を内心で自己規制し、その規制された発想を、調和を考慮しつつ、相手によって自己規制しつつ公表する世界である。

文化がもつ基本的問題なので、日本的組織の問題への根本的解決方法はないし、そのこと自体は解決の対象ではない。あとは、いかなる合理的な対処の方法があるかという方法論の模索だけが残された問題であろう。
簡単に言えば、植物組織をいかにして安楽死させ、その構成員を別組織に調和的に吸収し、同時に、その植物組織の遺産をどのように継承して、新しい組織的家族に相続させるかという問題である。

2012年1月22日日曜日

金融数理の基礎 第14回

二項モデル
取引戦略(trading strategy)、投資家のモデル化(初期の富、取引戦略)、(Fk)-可予測過程、k-1時点に合わせるか、k時点に合わせるか。
ポートフォリオ価値過程。
《裁定》 (arbitrage)
取引戦略(trading strategy)の定義、無裁定(no arbitrage)、
資産の価格付けの第一基本定理(the first fundamental theorem for asset pricing)
二項モデルにおいては「無裁定=d< 1+r <u」
無裁定⇔リスク中立確率が存在すること、状態価格密度が存在する
リスク中立確率の存在から無裁定を証明するのは比較的簡単、逆は難しい(分離定理などが必要)。
デリバティブの複製戦略
リスク中立確率測度、同値マルチンゲール測度

2012年1月21日土曜日

金融数理の基礎 第13回

数理ファイアンスへの応用:離散時間モデル

数理ファイナンスで離散時間モデルを導入する方法としては、次の2つが一般的
(1)「d資産×m状態」といった多資産で有限状態の世界を考えて、線形代数や初歩的な関数解析の知識に基づいて議論を展開(ダフィー「資産価格の理論」、ランベルトン、ラペール「ファイナンスへの確率解析」など)。
(2)2項モデル(Cox-Ross-Rubinsteinモデル)に集中し、連続時間のBlack-Scholesモデルへのショート・カットを目指す(ハル「フィナンシャル・エンジニアリング」、シュリーヴ「ファイナンスのための確率解析1」など)。
この授業では(2)の観点。
二項モデルの定式化。離散時間。
(1)安全資産:各時点のリターンが確定的(時間の関数)
(2)危険資産:各時点のリターンが不確実(確率過程)
(3)デリバティブ:将来のペイオフが不確実なもの。危険資産の不確実性と連動(ペイオフが危険試算価値の関数)。(確率過程)
デリバティブは(1)と(2)の組合せで複製できる。

2012年1月15日日曜日

Andrew Lo教授、テクニカル分析、金融危機の21冊

相場において、あるポジションを維持する期間の長さによってどの要因を重視するかが異なりますね。長期投資の場合はファンダメンタルズが大事ですが、期間がどんどん短くなってくると価格の変動そのものが重要になってきますね。このブログはデイ・トレーダーの方々にも見ていただいているかもしれませんが、日計り商いが中心の場合は、ファンダメンタルズはほとんど変化しないので価格の変動が中心になります。
価格の変動を分析するとなると「テクニカル分析」と呼ばれるものを思い浮かべます。私も若い頃にテクニカル分析をかなり研究しましたが、「移動平均」や「エリオット波動」、「一目均衡表」、「RSI」といったもので安定的に儲けるのは難しいんじゃないかと思いました(ただし、世の中にはこれらを使って儲けていらっしゃる方もいるかと思います)。他方、「トレンド・フォロー」などは対象商品や期間によっては有効ではないかと感じています。
最近ではクオンツ系のヘッジ・ファンドの一部はかなりハイ・フリークエンシー(高頻度)な取引に特化して安定的に利益をあげているものも少なくないようです。彼らはやはり価格データのパターン分析でなどでポジションを管理していると思います。ジム・シモンズのルネッサンス・テクノロジーズなどもそうだと考えていますが、実態は隠されているので不明です。
アカデミックなファイナンスの先生がテクニカル分析について論文を書くことは珍しいのですが、MITのAndrew Lo教授はその例外的な中の一人です。
テクニカル分析についての論文をThe Journal of Financeに載せるとは、さすがLo先生。「必ずしも超過利益を生み出すわけではないが、特にNASDAQ銘柄において三尊天井などのテクニカルなパターンは追加の情報を提供する」と。
Lo教授は幾つか本も出されています。有名なのが「ファイナンスのための計量分析」です。私の好きなCampbell教授、MacKinlay教授と書かれた良い本です。またMacKinlay教授と書かれた「A Non-Random Walk Down Wall Street」も非常に面白い本です。基本的に論文を一冊にまとめた本なのでかなり高度な統計分析が行われています。

最近はヘッジファンドの分析などもされていて、「Hedge Funds」という本を出されています。これも論文をまとめて本にしたものです。例えば、HFのリターンを流動性のある市場ツールで複製した論文も含まれています。

Lo教授とは全く関係ありませんが今読んでいる、"Forecasting and Hedging in the Foreign Exchange Markets (Christian Ullrich)"でもパターン分析の手法であるベクトル・サポート・マシーン(VSM)を使って為替を予測しようとしています。最近は、高頻度データも揃ってきたし、株式や為替のデイ・トレーディングも盛んなので、パターン分析的な手法が増えるのかもしれません。
Lo教授が金融危機について書かれた21冊の本についての書評を書かれています。まだ読んでいませんが、これから読んでみようと思います。
取り上げられている本は以下の21冊です。
" Acharya, Richardson, van Nieuwerburgh, and White, 2011, Guaranteed to Fail: Fannie Mae, Freddie Mac, and the Debacle of Mortgage Finance. Princeton University Press.
" Akerlof and Shiller, 2009, Animal Spirits: How Human Psychology Drives the Economy, and Why It Matters for Global Capitalism. Princeton University Press.「アニマルスピリット」
" French et al., 2010, The Squam Lake Report: Fixing the Financial System. Princeton University Press.
" Garnaut and Llewellyn-Smith, 2009, The Great Crash of 2008. Melbourne University Publishing.
" Gorton, 2010, Slapped by the Invisible Hand: The Panic of 2007. Oxford University Press.
" Johnson and Kwak, 2010, 13 Bankers: The Wall Street Takeover and the Next Financial Meltdown. Pantheon Books.「国家対巨大銀行」
" Rajan, 2010, Fault Lines: How Hidden Fractures Still Threaten the World Economy. Princeton University Press.「フォールト・ラインズ」
• Reinhart and Rogoff, 2009, This Time Is Different: Eight Centuries of Financial Folly. Princeton University Press.「国家は破綻する」
• Roubini and Mihm, 2010, Crisis Economics: A Crash Course in the Future of Finance. Penguin Press.「大いなる不安定」
• Shiller, 2008, The Subprime Solution: How Today’s Global Financial Crisis Happened and What to Do About It. Princeton University Press.
• Stiglitz, 2010, Freefall: America, Free Markets, and the Sinking of the World Economy. Norton.「フリーフォール」
" Cohan, 2009, House of Cards: A Tale of Hubris and Wretched Excess on Wall Street. Doubleday.
" Farrell, 2010, Crash of the Titans: Greed, Hubris, the Fall of Merrill Lynch, and the Near-Collapse of Bank of America. Crown Business.
" Lewis, 2010, The Big Short: Inside the Doomsday Machine. Norton.「世紀の空売り」
" Lowenstein, 2010, The End of Wall Street. Penguin Press.
" McLean and Nocera, 2010, All the Devils Are Here: The Hidden History of the Financial Crisis. Portfolio/Penguin.
" Morgenson and Rosner, 2011, Reckless Endangerment: How Outsized Ambition, Greed, and Corruption Led to Economic Armageddon. Times Books/Henry Holt and Co.
" Paulson, 2010, On the Brink: Inside the Race to Stop the Collapse of the Global Financial System. Business Plus.「ポールソン回顧録」
" Sorkin, 2009, Too Big to Fail: The Inside Story of How Wall Street and Washington Fought to Save the Financial System from Crisis and Themselves. Viking.「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」
" Tett, 2009, Fool’s Gold: How the Bold Dream of a Small Tribe at J.P. Morgan Was Corrupted by Wall Street Greed and Unleashed a Catastrophe. Free Press.「愚者の黄金」
" Zuckerman, 2009, The Greatest Trade Ever: The Behind-the-Scenes Story of How John Paulson De fined Wall Street and Made Financial History. Broadway Books.「史上最大のボロ儲け」

2012年1月8日日曜日

イチゴ狩りと鴨川シーワールド

正月休みを利用して、イチゴ狩りと鴨川シーワールドに行ってきた。
海ほたる
海ほたるで売っていた「HELLO氣帝團」と「yoshikitty」
「館山いちご狩りセンター」30分食べ放題、1/2~1/9の期間は大人1600円。種類は章姫。とってもおいしかった。「館山ファミリーパーク」でパターゴルフを楽しむ。夜は「グランドホテル太陽」に泊まる。海のすぐそばで窓から水平線が見える。バイキングもおいしかった。設備はやや古めだが問題なし。
翌日に「鴨川シーワールド」へ。ここは動物の種類が多く、イルカ、アシカ、ベルーガやシャチのショーも充実していて楽しめる。設備もきれいでメンテナンスがしっかりしていることを感じる。
ベルーガは互いにコミュニケーションができる。一頭に目隠しをして、もう一頭に回転する指示を与えると、それが目隠しをしているほうにも伝えて一緒に回転していた。頭部のコブのなかはほとんど脂肪。体中も分厚い脂肪で覆われている。北極海に生息。




アシカのパフォーマンス。司会の女性がうまい。
私の大好きなセイウチ。
青い水平線 今駆け抜けてく 研ぎ澄まされた 時の流れ感じて~♪