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2018年3月3日土曜日

『経済数学入門の入門』 田中久稔


経済学に興味があるけれどどこから手をつければいいか分からない人が、最初に読むのに最適な一冊ですね。「微分、偏微分、最適化問題、差分方程式、動的計画法など、経済学に登場する様々な数学に出会います。特に、経済数学では最も重要なテーマである最適化問題が中心的なトピックになります」

この本だけでは足りないので、この次の本は、経済学の本ではなくてもう少し本格的な「経済数学」の本を読むのがいいと思います。結果的にその方が近道だと思います。

第7章はマクロ経済学と差分方程式

「ポントリャーギンの最大値原理は、最短時間でロケットを目標地点まで運ぶための数学理論として開発されたものでした。それが現在は経済学に応用されていると知ったら、ご本人もさぞや驚くことでしょうね」

そうだったのか!

「最適成長理論に用いられるのは、最適制御理論という応用数学の一分野です。この分野の基礎にあるのはポントリャーギンの最大値原理と呼ばれる大定理です。ポントリャーギンはロシアの天才数学者で、一人の人間の仕事とは思えないくらい広範囲の分野で巨大な業績を残しています」

「ポントリャーギンの最大値原理を用いて導き出された条件を整理してみると、最適な消費と資本の成長経路が従う2つの差分方程式が得られます。そのうち一つは資本の成長経路を記述するものであり、本質的にはソロー・モデルと同じ内容の式です」

「もう一つの方程式は、「予想された来期の資本と消費に基づいて今期の消費を決定する」という、時間を逆転させた不思議な差分方程式であり、オイラー方程式とよばれています。これは人類最強の大数学者レオンハルト・オイラーが天文学の問題を解いている過程で見出したものと数学的に同値」

第8章は動的計画法

「ベルマン方程式を用いて最適化問題を解く方法は、動的計画法と呼ばれます。ベルマン方程式は、正式名称をハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式といいます。これは、19世紀の大数学者ハミルトンとヤコビの2人が古典力学の問題を解くために開発したハミルトン・ヤコビ方程式を、20世紀アメリカの応用数学者リチャード・ベルマンが拡張したものです」

「このように、現代的なマクロ経済学には物理学の分析手法が多く現れますが、これはどちらの学問領域も、目的関数を最適化しつつ時間とともに変動する変数の動きを追跡する学問であるから自然なことです」

「物理学とマクロ経済学の違いを挙げるなら、物理学の分析対象は過去から未来へ流れる時間のなかで活動しているのに対して、マクロ経済学の分析対象は未来を予想して現在の動きを決める、逆行した時間のなかで意思決定を行うことです。この点で、マクロ経済学のほうが物理学よりも「難しい」問題を解いていると言えます」

『経済数学入門の入門』の読書案内。入門レベルのテキストとしては次の三冊を紹介。

『改訂版 経済学で出る数学: 高校数学からきちんと攻める』尾山、安田[2013]

『経済数学入門 初歩から一歩ずつ』丹野[2017]

『現代経済学の数学基礎〈上・下〉』チャン、ウエインライト[2010]

本格的なテキストとして

『経済数学教室(全9巻)』小山[2010]

これ、私も欲しいんだよなぁ。

経済学の教科書で数学を学ぶ

『ミクロ経済学』西村[1990]

やさしい本として
『経済学部は理系である!?』井堀[2017]

グローバル・スタンダードとして
"Microeconomic Theory" Mas-Colell,  Whinston, Green [1995]

"Microeconomic Analysis" Varian[1992]
翻訳『ミクロ経済分析』は版が古い。

トピック別

『ラング線形代数学(上・下)』ラング[2010]

『新微分方程式対話 新版』笠原[1995]

位相集合論
『経済数学』丸山[2002]

"Recursive Methods in Economic Dynamics" Stokey, Lucas [1989]

経済学と数学の歴史

『入門経済思想史 世俗の思想家たち』ハイルブローナー[2001]

『近世数学史談』高木[1995]

『ヒルベルト 現代数学の巨峰』リード [2010]

2016年10月10日月曜日

経済学、統計学、最適化のための数学の本

基本的な数学だと、『経済学で出る数学』尾山・安田、『経済と金融工学の基礎数学』木島・岩城あたりがお勧めでしょうか。

永田靖『統計学のための数学入門30講』もコンパクトにまとまっていて読みやすいと思います。

難易度が高めだけれど良い本だと思うのは入谷・久我『数理経済学入門』と吉田・島『経済学に最低限必要な数学』。どちらも味わい深い。タイトルに「入門」とか「最低限必要」とか入っていますけど、レベルは相当高いです。
 
動学マクロに必要な数学にポイントを絞った本としてこれもお勧め。『基礎から学ぶ動学マクロ経済学に必要な数学』 中田真佐

多期間最適化問題、動的計画法、ベルマン方程式を経済学の観点から説明した日本語の本は割と少ない気がします。ディキシット『経済理論における最適化』や西村清彦『経済学のための最適化理論入門』で触れられていて、この二冊はお勧めです。
英語ですが、多期間最適化問題、動的計画法、ベルマン方程式の経済学への応用はこれがお勧め。
最適化の数学は入門として『これならわかる最適化数学』金谷、高度なものに『非線形最適化の基礎』福島、『最適化の手法』茨木・福島、『凸解析と最適化理論』田中。

 最適化プログラムは『Fortran77 最適化プログラミング』茨木・福島。Fortranですが、他の言語への移植も簡単かと思います。
これにも準ニュートン法などのC++のサンプルコードがあります。CD-ROM付きがお勧め。
Numerical Recipes with Source Code CD-ROM 3rd Edition :
経済学における数値計算ではこの本がお勧めです。"Numerical Methods in Economics (MIT Press)" Kenneth L. Judd
機械学習のための最適化の本だと、この本が手に入りやすいと思います。



2015年11月29日日曜日

『数学の大統一に挑む』、NHK 『数学ミステリー白熱教室』


エドワード・フレンケル『数学の大統一に挑む』は本屋で見て面白そうと思っていたら、NHK『数学ミステリー白熱教室』としてフランケルの授業が放送されることになった。そこで図書館で借りてきてさらっと読む。これは英語だと難しいので翻訳を買いたい。ということで、今回は本とTVの両方のメモ。

『数学の大統一に挑む』は、地元の図書館だと数学の棚ではなくで伝記の棚にあったんだけど、たしかに自伝的要素もある。

「私は「クォーク」という言葉が気に入った。とくに、この名前がつけられた経緯が面白かった。クォークを考えついた物理学者のマレー・ゲルマンは、ジェームズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』という作品から、この名前を取ったというのだ」

たしかにジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』はおいそれとは読みこなせない難物です。マレー・ゲルマンは『フィネガンズ・ウェイク』を本当に読んだのだろうか?

1993年プリンストンのアンドリュー・ワイルズがフェルマーの最終定理を証明。ワイルズの証明は、一見したところでは、もとの問題とは関係のなさそうな志村-谷山-ヴェイユ予想と呼ばれる問題に取り組んだもの。

その数年前に、UCバークレーのケン・リベットが、志村-谷山-ヴェイユ予想が正しければ、フェルマーの最終定理が成り立つことを証明していた。そのおかげで、志村-谷山-ヴェイユ予想を証明することが、フェルマーの最終定理を証明することと同じになった。

フェルマーは古い本の余白にこの命題を書き込んでおり、この命題に対する簡単な証明も見出したが、「余白が狭すぎるのでここに書くことはできない」と記していた。

フェルマーが命題を証明したとは考えられない。「その命題を証明するためには、いくつもの数学分野が新しく創出される必要があったからだ。そしてそれらの発展が起こるためには、何世代もの数学者による多大な努力が必要だったのである」

"Interview with Robert Langlands for the Mathematics Newsletter."
数学の大統一に挑むラングランズ・プログラムのRobert Langlandsインテビュー(pdf)

ラングランズは英語のほかに、フランス語、ドイツ語、ロシア語、トルコ語に通じているそうだ。フレンケルと共同研究するときはしばしばロシア語でやりとりをしている。

「今日、ガロアが発見した対称群は、彼の名を冠してガロア群とよばれており、エジプトのプラミッドやバビロンの空中庭園と同じく、われわれの生きるこの世界の驚異と呼ぶべきものである」

「ガロアは、幾何学であれば直感的に理解できる対称変換という考え方を、数論の最前線に当てはめた。しかもそれだけでなく、対称変換には驚くべき力があることを示したのだ」



「二次方程式の解の公式は、すでに九世紀には、アッバース朝の数学者アル・フワーリズミーによって知られていた(代数algebraという言葉は、アル・フワーリズミーの著書のタイトルに含まれていた、al-jabrという言葉に由来する)」




三次と四次方程式の解の公式は十六世紀の前半に発見されたが、五次方程式の解の公式は三百年にわたる数学者の努力にもかかわらず成果がでなかった。しかしガロアは、それまでの数学者は、問いの立て方を間違っていたことに気がついた

ガロアは「この方程式の解を有理数に添加することにより得られる数体の、対称群に焦点を合わせるべきだと主張したのだ。その群を、今日われわれはガロア群と呼んでいる。」

1967年、ラングランズはガロア群の理論と、調和解析と呼ばれる数学の分野とをつなぐ革命的な洞察を得た。情報に秩序を与えることは、数学の重要な役割のひとつである。ラングランズの言葉によれば、それは「混沌として見えるものから、秩序を作り出す」ことだ。

「ラングランズの着想が強力だと言うのは、混沌として見える数論のデータに秩序を与え、対称性と調和に満ちた規則的なパターンにするために役立つからなのである」

1993年にワイルズが、志村-谷山-ヴェイユ予想を証明したと発表したが、それから数か月後、彼の証明には一か所ギャップが含まれていることが分かった。しかし、それから一年後ワイルズはリチャード・テイラーの協力を得て、そのギャップを埋めることができた。二人は力を合わせて証明を完成させた

志村-谷山-ヴェイユ予想は、任意の三次方程式について(ある種の穏やかな条件に従うものとして)、素数を法とする解の個数は、あるモジュラー形式の係数であると述べている。さらに、その三次方程式と(ある種の)モジュラー形式とのあいだに、一対一対応が成り立つというのである。
アイヒラーの得た結果は「三次方程式の中には、pを法とする解の個数がモジュラー形式の係数になっているものがある」というものだった。しかし、「全て」の三次方程式についてそれが言えるというのは、当時としては突拍子もないアイディアだった。それをやってのけたのが谷山豊だった。

谷山は1955年に東京と日光で開かれた代数的数論についての国際シンポジウムで提起した。なぜ谷山はこんな馬鹿げたアイディアを信じるようになったのか、こんなことを人前で発言する勇気を持てたのか?それは谷山が1958年に31歳で自殺したため、永遠の謎となった。

悲劇的なことに、谷山の婚約者も次の書置きを残して自殺した。「わたしたちは何があってもけっして離れないと約束しました。彼が逝ってしまったのだから、わたしもいっしょに逝かなければなりません」

谷山の予想は、友人であり研究仲間でもあった志村五郎の手でより厳密なものにされた。志村はその生涯の大半をプリンストンで過ごし、現在は名誉教授となっている。

志村によると谷山は「けっして杜撰というわけではなかったが、たくさんの間違いを犯す、それもたいていは正しい方向に間違うという特別な才能に恵まれていた。私にはそれがうらやましく、真似しようとしてみたが無駄だった。そしてわかったのは、良い間違いを犯すのは非常に難しいということだ」

ヴェイユのロゼッタストーン

「数論」、「有限体上の曲線」、「リーマン面」

ガロアが二十歳のとき決闘で死ぬ前日に書いた数学の原稿。「もう時間がない」とも書かれている。ガロアが二十歳で死んだのはもったいない。
二次方程式の解の公式を最初に記したのはアル=フワーリズミ。アル=フワーリズミの本『アル=ジャブルとアル=ムカーブラの書』。アル=ジャブルというアラビア語は「入れ替え」や「完成」という言葉と関係がある。英語の代数(algebra)の語源となった。
アル=フワーリズミの名前が長い間アルゴリズミと間違って発音されて、その後アルゴリズムという言葉ができたとフレンケル。へえ、そうだったんだ。

三次方程式の解の公式が初めて掲載された書籍、カルダーノの『アルス・マグナ 代数の根本』。

実際に公式を導いたのはタルタリアで、カルダーノは公表しない約束でタルタリアに教えてもらったのに、本に書いて自分の手柄にしてしまった。

現在、カルダーノの公式と呼ばれているものの正式名はデル・フェッロの公式、またはデル・フェッロ/タルタリアの公式。デル・フェッロも独自に導出。タルタリアは残りの人生をカルダーノの業績ではなく自分の業績だと説得して回ることになる。

カルダーノの弟子、ルドヴィコ・フェラーリは4次方程式の解の公式を発見した。
タルタリアはカルダーノに騙されたと激怒していた。タルタリアはカルダーノと計算の勝負をしようとしたが、なぜかカルダーノの弟子のフェラーリと勝負することになった。結果はフェラーリの圧勝で、タルタリアは仕事を失い破滅した。

カルダーノって本当に悪い奴だなあ。タルタリア可哀想。
ガロアのひらめき、「方程式の解の公式を累乗根で書けるかどうかは、対称性の群の構造を調べれば分かる」
4次までは可解 solvble、5次以上は可解でなくなる。可解である群とは、「可換」か「非可換」かということに関係している。可換 commutativeは、順番を入れ替えても結果は同じ。非可換は順番を入れ替えると結果が変わる。
「リー代数」、「リー群」の名前は発明者であるノルウェーの数学者ソフス・リーに因んでいる。二谷友里恵ではない。

簡単に言うと、リー群は、その元が多様体上の点になっているような群である。二谷友里恵の群れではない。したがって、リー群という概念は、群と多様体という、二つの異なる数学的概念の結婚から生まれたこどもなのだ。二谷英明と白川由美の子供ではない。
自然界に現れる多くの対称変換は、リー群によって記述することができる。リー群の研究が非常に重要なのはそのためだ。

数学的概念の系統樹


『数学の大統一に挑む』の11章、フレンケルに着想を与えた論文は、日本の数学者、脇本実が書いたものだった。

ワイルズとテイラーが1995年に「志村・谷山・ヴェイユ予想」を証明したことでフェルマーの最終定理が証明された。志村・谷山・ヴェイユ予想はラングランズ・プログラムの特殊なケースとなっている。

複雑な数論の問題をたった一つの調和解析の数式で解くことができるのは魔法のようだ。


モジュラー形式は単位円と呼ばれる領域で定義された関数で非常に美しい対称性を持つ。
志村・谷山・ヴェイユ予想「あらゆる三次方程式の解を数える数論の問題に対し、その答えを導く調和解析のモジュラー形式が存在する」

「どうしたらこんな思い切った洞察で革命的な発見ができたのか私はずっと不思議に思っていた」とフレンケル教授
数学の研究こそひらめきや直感が不可欠で、それはコンピュータでは代替できない。「このような発見をするとき、普通の思考とは違う何か別の力が働くんだ」
谷山はこの予想を発表した後、自殺する。遺書には「ただ気分的に言えるのは将来に対する自信を失ってしまった。私の行為がある種の裏切りであることは否定できませんが、最後のわがままと捉えてください。私がこれまでの人生で行ってきたように」と
谷山の婚約者も後を追い自ら命を絶つ。

志村が谷山に寄せた言葉。「彼が生きていたときよりも今の方がずっと強く彼の高潔な寛大さを感じる。それなのに彼が切に支えを必要としていたとき誰も彼の支えとなれなかった。このことを思うと私は深い悲しみに打ちのめされる」

「ペレストロイカの成果のひとつに、人々が大幅に自由に外国に出かけられるようになったことがある」
フレンケルがハーバード大にいたときの数学科所属: ヨシフ・ベルンシュタイン、ラウル・ボット、ディック・グロス、ダヴィート・カズダン、弘中平祐、バリー・メイザー、ジョン・テート、シン=トゥン・ヤウなど
ボーリャ・フェイギンの友人のサーシャ・ベイリンソンはMITの教授になっていた。その講義にヴィクター・カッツが出ていた。
「ラングランズ・プログラムとは、要するにガロア群の表現と保型関数とのあいだに、ひとつの関係性を打ち立てようとすることである」
「自然数は集合を作るが、ベクトル空間は、もっと洗練された構造を作る。その構造のことを、数学者は圏(カテゴリー)と呼んでいる」
「グロタンディークが現代数学におよぼした影響は絶大で、これに関して彼に比肩する者はいないと言ってよい」

ウラディーミル・ドリンフェルドは17歳で初めての論文を発表し20歳でラングランズ・プログラムにおいて新天地を切り開た。しかし反ユダヤ主義によってモスクワではポストを得ることができなかった。彼は基本的にひとりで仕事をし、数学と物理の広い分野で驚くべき成果を上げ続けた。
現実の彼は、とても穏やかで親切だった。話しぶりはおっとりして、口にする言葉には、注意深く重みがつけられ、数学について彼が話すのを聞くと、明快に話すとは、こういうことかと思わされた。
ウラディーミル・ドリンフェルドもフィールス賞を受賞している。

「1970年代に物理学者たちは、電磁気理論の双対性を、いわゆる非可換ゲージ理論に拡張しようとしていた。ここでいう非可換ゲージ理論は、核力を記述する理論である」
「核力には「強い力」と「弱い力」という二種類の力がある。「強い力」は、陽子や中性子などの内部にクォークを閉じ込めている力であり、「弱い力」は、放射性崩壊のような現象を引き起こす力である」
「どんなゲージ理論でも、その中核はリー群であり、そのリー群のことを「ゲージ群」と呼ぶ。」

プリンストン高等研究所のウィッテンは高度に洗練された量子物理学の仕掛けを使って、純粋数学の驚くべき事実を発見したり、予想をしており、在命する最も偉大な理論物理学者のひとり。彼は物理学者として初めてフィールズ賞を受賞している。



「DARPAは百数十人のプログラムマネジャーを擁し、各マネジャーは大きな裁量権を持ち、強力なリーダーシップによってプロジェクトを運営していく」
数億ドルもの費用がかかる加速器が、国家の防衛に役立つかと尋ねられたフェルミ国立加速器研究所初代所長ロバート・ウィルソンの有名な答え。

NSFからDARPAに移籍することになったベン・マンには、ハイリスク/ハイリワードのプロジェクトを担当するだけのヴィジョンと勇気があったし、計画を実行に移すために必要なスタッフを探し出し、その人たちのアイディアを最大限に生かそうとする配慮もあった。
圧倒的な知的オーラを放つウィッテン。「彼が何か言うときは、つねにぎりぎりまで言葉を切り詰め、無駄がなく、正確で、水も漏らさぬ論理で組み立てられているように感じる。」
「ウィッテンは言うべきことを組み立てるために、何のためらいもなく言葉を切って、長い沈黙を置く。そんなときの彼は、しばしば目を閉じ、頭を前に傾ける」
 「素粒子には、フェルミ粒子とボース粒子という二つのタイプがある。フェルミ粒子(電子やクォークなど)は、物質を作り上げている粒子であり、ボース粒子(光子など)は、力を運ぶ粒子である」。ヒッグス粒子もボース粒子。

"Electric-Magnetic Duality And The Geometric Langlands Program" Kapustin and Witten(2007)


"GEOMETRIC ENDOSCOPY AND MIRROR SYMMETRY" Frenkel and Witten(2008)


"Gauge Theory and Langlands Duality" Frenkel(2009)


"Higgs Bundles, Past and Present" Nigel Hitchin(2012)(video) 

The Two-Body Problem
三島の『憂国』に影響を受けてフレンケルが作った映画なのだそうだ。

愛の数式の刺青に使われた数式

2015年10月25日日曜日

エニグマ アラン・チューリング伝

アラン・チューリングを描いた「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」という映画でベネディクト・カンバーバッチがチューリングを演じている。王様のブランチで紹介していた司会の谷原章介が「昔からチューリングが好きだった」と言っていて、なかなか侮れない。

チューリングはコンピュータの論理的な原型を生み出した論理数学者。第二次大戦では秘密裏に英国でドイツ軍の暗号「エニグマ」を破る仕事で中心的役割を果たした。当時は罪だった同性愛で有罪となりホルモン治療を経た後、42歳を前に自殺。

映画『イミテーション・ゲーム』の元になったチューリングの30年前の伝記がようやく翻訳された。それがアンドルー・ホッジスの『エニグマ アラン・チューリング伝』。著者は数学者らしいのでチューリングの研究内容も詳しく解説されている。

膨大な情報量に加え、訳者の言うように文体が(誰が何をどう考えたか思索しながら)粘着的なのでなかなか進まない。しかし頑張って読む価値は十分にある。

アンドルー・ホッジスの『エニグマ アラン・チューリング伝』を読んだ後では、チューリングを扱った映画『イミテーション・ゲーム』も物足りなさを感じる。


天才数学者アラン・チューリングは、英国政府の機密作戦に参加し、ドイツ軍の誇る暗号エニグマ解読に挑むことになる。エニグマが“世界最強”と言われる理由は、その組み合わせの数にあった。暗号のパターン数は、10人の人間が1日24時間働き続けても全組合せを調べ終わるまでに2000万年かかる

チューリングは1936年に、ゲーデルが不完全性定理を証明したのと同じ24歳の若さで『計算可能性とその決定問題への応用』を発表。すべての命令を一定の規則に基づく記号列に置き換えて計算する『チューリング・マシン』の概念は現在のコンピュータに実現されている。

チューリングはケンブリッジ大学の奨学金でプリンストン大学大学院に留学していて、ノイマン、ゲーデル、チューリングの三人の天才が一堂に集まっていたが、チューリングは一度もゲーデルと会った形跡がない。ノイマンは何度もチューリングと会っていて助手に誘ったがチューリングは帰国して軍に志願。

チューリングはイギリス情報局秘密情報部の暗号機関ブレッチリー・パークに赴任して、難攻不落と呼ばれるナチス・ドイツの暗号機エニグマの解読に取りかかった。彼は36機のエニグマの動作を同時にシミュレートできる解読機ボンブを開発し、ついにその解読を成功させた。

チューリングは、連合国軍を勝利に導いた英雄とみなされ、チャーチルから大英帝国勲章を授与された。しかし、エニグマに関する情報公開は固く禁じられ、1970年代まで国家機密にされていたため、チューリングの偉業については、母親でさえ知らされなかった。

チューリングは少年時代から同性愛者だった。1952年、映画館で知り合った19歳の青年を自宅に招いて宿泊させた。数週間後、その青年と彼のゲイ仲間がチューリングの家に泥棒に入り、裁判の過程でチューリングが同性愛者であることが暴露されてしまった。

当時のイギリスでは同性愛そのものが「違法」であり、彼には「定期的な女性ホルモン投与」という屈辱的な刑罰が与えられた。大学教授のスキャンダルは、新聞にも大きく報道された。その二年後、チューリングは、41歳の若さで自殺した。

『エニグマ アラン・チューリング伝』、2章でヒルベルトやゲーデルについて少し解説してある。

アラン・チューリングはケンブリッジでウィトゲンシュタインの数学の基礎に関する授業に出ている。受講者はすべての講義に出席すると誓わなければならない。受講生はまず、ウィトゲンシュタインの個人面談を受けなければならない。「この面談は印象に残るほど長い沈黙で有名だ」


『エニグマ アラン・チューリング伝』を読むと、とりあえずアラン・チューリングはガチホモということは分かった。

コロッサスの技術的成功からチューリングは真空管を何千個も同時に一緒に利用できることを知った。次にいわば素手でディライラに取り組んだ。「彼の狂気にはつねに一貫性がある」

アラン・チューリングは「真理以外のものすべてに対する敬意を欠いていた」

チューリングの業績をまとめた"http://AlanTuring.net"なんてのがあったのね。
http://www.alanturing.net/

チューリングの代表的な論文 

『計算可能数について:決定問題への応用を含めて』
"On Computable Numbers, with an Application to the Entscheidungsproblem"  (1936)(pdf)

『計算機械と知性』チューリング(1950)
"Computing Machinery and Intelligence" (1950)(pdf)
http://www.csee.umbc.edu/courses/471/paers/turing.pdf


2015年3月27日金曜日

フォン・ノイマン『数学者』

Von Neumann: "The Mathematician"

http://www-history.mcs.st-and.ac.uk/Extras/Von_Neumann_Part_1.html

「数学者」はフォン・ノイマンが1946年にシカゴ大学で行った講演録。日頃は最先端の研究者としか議論しなかったノイマンが数学に対する彼の見解を一般大衆に分かりやすく述べた珍しい講演録。

「数学について、もっとも重要な性質は、私の見解によれば、自然科学との非常に独特な関係性にあります。あるいは、自然科学をより一般的に、経験を単に記述するだけでなく、より高いレベルで解釈しようとする科学と理解していただいても構いません。

数学の方法は、自然科学の「理論的」な分野に行き渡り、それを支配しています。現代の経験科学は、数学的手法か、あるいは物理学における疑似数学的手法に到達できるかどうかによって、成功するか否かが決定づけられるようになっています。」

2015年3月14日土曜日

『ノイマン・ゲーデル・チューリング』

図書館で『ノイマン・ゲーデル・チューリング』(高橋昌一郎)を借りてきた。今度買おう。
『ノイマン・ゲーデル・チューリング』は少し特殊な構成になっていて、三人に一章ずつ割り振って冒頭に彼らの生涯で最も輝かしい時期に発表された講演あるいは論文の翻訳を掲載し、その「解題」と彼らの「生涯と思想」が加えられている。
1903年に生まれたジョン・フォン・ノイマンは、彼自身が推進した原水爆開発の核実験で何度も放射線を浴びたため骨髄癌を発症し、1957年に亡くなった。たった53年1か月あまりの短い生涯の間に、論理学・数学・物理学・化学・計算機科学・情報工学・生物学・気象学・経済学・心理学・社会学・政治学に関する百五十編の論文を発表した。天才だけが集まるプリンストン高等研究所の教授陣のなかでも、さらに桁違いの超人的な能力を示したノウマンは、「人間のフリをした悪魔」と呼ばれた。
そのノイマンが、「二十世紀最高の知性」と呼ばれるたびに、「それは自分ではなくゲーデルだ」と返答するほどに評価していたのが、1906年に生まれたクルト・ゲーデルだった。彼はゲーデルの定理を「時間と空間をはるかに越えても見渡せる不滅のランドマーク」だと賞賛した。ゲーデルは抜群の業績でウィーン大学の私講師になったが、直後にナチス・ドイツがオーストリアを占領し、彼の職を奪った。ゲーデルはドイツ軍の兵役義務を果たさない限り出国もできない状況に追い込まれ、持病の神経衰弱と鬱病が一挙に悪化して、自殺願望を抱くようになった。ノイマンは政府や軍の最高レベルの関係者と対等に議論できる立場にあり、「ゲーデルをヨーロッパの瓦礫のなかから救いだすことほど重要なことはない」と上層部を説得、ありとあらゆる手を用いてゲーデルをウィーンから救出し、プリンストン高等研究所に招いた。そこでゲーデルと親友になったのが、物理学者アルバート・アインシュタインである。晩年のアインシュタインは、「私が研究所に行くのは、ゲーデルと散歩する恩恵に浴するためだ」とまで述べている。
チューリングは1936年に、ゲーデルが不完全性定理を証明したのと同じ24歳の若さで『計算可能性とその決定問題への応用』を発表。すべての命令を一定の規則に基づく記号列に置き換えて計算する『チューリング・マシン』の概念は現在のコンピュータに実現されている。チューリングはケンブリッジ大学の奨学金でプリンストン大学大学院に留学していて、ノイマン、ゲーデル、チューリングの三人の天才が一堂に集まっていたが、チューリングは一度もゲーデルと会った形跡がない。ノイマンは何度もチューリングと会っていて助手に誘ったがチューリングは帰国して軍に志願。チューリングはイギリス情報局秘密情報部の暗号機関ブレッチリー・パークに赴任して、難攻不落と呼ばれるナチス・ドイツの暗号機エニグマの解読に取りかかった。彼は36機のエニグマの動作を同時にシミュレートできる解読機ボンブを開発し、ついにその解読を成功させた。チューリングは、連合国軍を勝利に導いた英雄とみなされ、チャーチルから大英帝国勲章を授与された。しかし、エニグマに関する情報公開は固く禁じられ、1970年代まで国家機密にされていたため、チューリングの偉業については、母親でさえ知らされなかった。チューリングは少年時代から同性愛者だった。1952年、映画館で知り合った19歳の青年を自宅に招いて宿泊させた。数週間後、その青年と彼のゲイ仲間がチューリングの家に泥棒に入り、裁判の過程でチューリングが同性愛者であることが暴露されてしまった。当時のイギリスでは同性愛そのものが「違法」であり、彼には「定期的な女性ホルモン投与」という屈辱的な刑罰が与えられた。大学教授のスキャンダルは、新聞にも大きく報道された。その二年後、チューリングは、41歳の若さで自殺した。

"The Mathematician"  Von Neumann(1946) 
『数学者』フォン・ノイマン(1946)

"Computing Machinery and Intelligence" A. M. Turing(1950)(PDF)
『計算機械と知性』チューリング(1950)

2013年12月31日火曜日

『古都がはぐくむ現代数学』

面白いです。数学、物理に興味がある人にお薦めです。数学者の研究・生活、現代数学の流れ、数学と物理の関係などが数学の専門家以外にも分かるように描写されています。 

主な登場人物は彌永昌吉、秋月康夫、佐藤幹夫、河合隆裕、柏原正樹、神保道夫、三輪哲二、広中平祐、森重文、井原康隆、望月新一、荒木不二洋、小嶋泉、九後汰一郎、中西襄、大栗博司、伊藤清、湯淺太一、岡本久、山田道夫、岩田覚、藤重悟、室田一雄、などです。

「数学の最も親しい友人は物理学である。新しい物理は新しい数学を生み、新しい数学は新しい物理を支え続けた」

宇宙際幾何学者
京都大学数理解析研究所・教授
望月新一

大栗博司氏は『古都がはぐくむ現代数学』にも出てきます。
大栗博司氏の高木レクチャーの記録
"Geometry As Seen By String Theory" 
Hirosi Ooguri(2008)

「代数的量子論とミクロ・マクロ双対性」小嶋泉(2007)

座談会「数物学会の分離と二つの科学」
出席者*:彌永昌吉 伏見康治 今井 功 岡部靖憲〈東大工〉 小嶋 泉〈京大数理研〉桑原邦郎〈宇宙科学研〉
(司会)江沢 洋〈学習院大理〉[1995年10月9日,機械振興会館にて]

205ページに伊藤清氏の最初の論文の冒頭が掲載されているんですが、手書きのガリ版刷りなんですね。ここから始まったのかと思うと感慨深いです。
「条件付確率法則の定義に就いて」伊藤清(1942) (PDF)

大阪大数学のHPで紙上談話会の論文読めます。

伊藤清博士ガウス賞授賞記念行事 2006年9月14日(木)
ガウス賞伝達式
(日本数学会のビデオ・アーカイブ)

「マートンは後に伊藤の数学について「連続時間モデルの数学には、確率論と最適化理論の最も美しい応用が含まれている。しかし、もちろん科学的に美しいものすべてが実用的であるべきだとは言えない。それとまた、科学では実用的なものがすべて美しいわけではない。だが、ここにはその両方がある」と」
マートンは元々は応用数学だったので、ちゃんと伊藤解析を勉強していたらしい。ブラックとショールズはおそらくそうではない。

かな漢字変換システムWnnの名前の由来。当時、PCよりも劣るWSの単文節変換に対して、せめて「私の名前は中野です」という文を一発で変換してほしいと中野秀治氏が主張したことから、Watashi、Namae、Nakanoのローマ字の最初の文字をつなげてWnnとしたそうだ。

クレイ数学研究所のミレニアム賞金問題7題

「ナヴィエ‐ストークス方程式の理論は、偏微分方程式論の常としてきわめて技術的である。しかし、読者はその技術的な困難に圧倒されてはならない。本当に重要なアイディアは技術の細部とは無関係であろうと筆者は信ずる。まだ手のつけられていない問題がきっと隠れているに違いない」岡本久

「最も単純化した方程式から次第にモデルを複雑にし、方程式の階層を考え、順に解の性質を調べる。最も単純化したモデルは現実を直接に記述しないとしても、その解はより複雑な方程式を調べるときの貴重な情報となる」 山田道夫

「このように、対象に近くまで迫れない場合、コンピュータと理論を中心とした解析、つまり数理科学の方法こそ最大の「武器」となる」

岩田覚、藤重悟、リサ・フライシャー、アレクサンダー・スクライファーは、劣モジュラ関数(離散的な問題での凸関数に関係)の最小化の研究により、2003年の国際数理計画シンポジウムで離散数学分野では最高の賞であるファルカーソン賞を受賞した。

「数学は体力だ!」アンドレ・ヴェイユ

「朝起きた時に,きょうも一日数学をやるぞと思ってるようではとてもものにならない。数学を考えながら,いつのまにか眠り,朝,目が覚めたときは既に数学の世界に入っていなければならない。どの位,数学に浸っているかが,勝負の分かれ目だ。数学は自分の命を削ってやるようなものなのだ」佐藤幹夫

「所員をなるべく雑用から解放し、静かに数学に没頭できるようにすること、それがまず必要」
京都大学数理解析研究所所長の森重文氏。「何が一番大事か」との質問への答え。

「昼ご飯をカフェテリアに集まって食べるというルールは他分野の話を聞くにはもってこいです。物理、生物、情報の人と共通話題を探していると、同じ概念の全く違う見方に出会います。当初の研究計画などは関係ありません。IHESは研究者の楽園でした」 小谷元子

数理解析研を含む京都、大阪の数学に対して東洋紡の社長を務めた谷口豊三郎が「谷口奨励会」という科学技術の援助組織を戦前に立ち上げて援助されていたそうだ(76年に谷口財団となり、2000年に解散)。

京都大学数理解析研究所 講究録は設立以来の1800冊以上が全文公開されている。これはすごいな。

2013年12月21日土曜日

『確率論と私』 伊藤清

伊藤清の『確率論と私』、すごく面白い。

「数学は論理的には集合の理論にすぎないのです」
「すべて数学分野の定義や定理は、すべて集合論の枠の中で表現でき、定理の証明も集合論の言葉で記述することができます。この意味で数学は論理的には集合論であると申したのであります」

「しかしどこまで進んでも実在は更に複雑で、科学者の立場からすれば、数学を近似的模型として利用するにすぎない。したがって数学者が苦心して作りあげた厳密な理論などはあまりに顧慮しないで、相当乱暴な数学のつかい方をする」

「物理学は存在そのものを研究する学問で、数学は物の存在形式を研究する学問である」ヘルマン・ワイル

『確率論と私』に収録されている「コルモゴロフの数学観と業績」は、一読をお薦め。

伊藤先生は学生の頃、コルモゴロフの『確率論の基礎概念』を読んで確率論を志したそうだ。
コルモゴロフによれば、数学は「実世界における数量関係と空間形式の科学」である。
コルモゴロフの『確率論の基礎概念』は、ちくま学芸文庫で手に入る。
コルモゴロフとかオイラーって、すごいという言葉しか浮かんでこない

伊藤先生は大学卒業後、内閣統計局に就職している。理解のある上司だったので、仕事をしないで、自由に研究させてもらえたそうだ。その上司とは秋篠宮妃の祖父。

岩波の「数学辞典」の第三版の編集責任は伊藤清先生だったのか
岩波の数学辞典の英訳を世界中の科学者が待っていたのか。すごいことだな。
伊藤先生の「確率微分方程式」に関する論文を書き上げたときは戦後の困窮で出版用の紙も不足しており日本のジャーナルはどこも載せてくれなかった。そこでドゥブ教授に論文を送って相談し、親切な取り計らいによってアメリカ数学会のメモワール・シリーズの一冊として1951年に刊行された。

「私が想像もしなかった「金融の世界」において「伊藤理論が使われることが常識化した」という知らせを受けたときには、喜びより、むしろ大きな不安に捉えられました」

『確率論の私』の巻末に<付録>として伊藤先生による確率微分方程式の生い立ちと展開の解説がある。

「ここでY_s_(i-1)をとることが大切でStieltjes積分の場合のようにY_τ_i(s_(i-1)≦τ_i≦s_i)をとったのではうまくいかない。この点についてはその後物理学者や工学者の間で物議をかもしたがこれについてはStratonovichの積分と関連して後で述べる。
しかし私自身は、(1.1)の直感的意味から考えて、Y_s_(i-1)をとることに、何の抵抗も感じなかったし、またMarkov過程の精神からいえば、むしろ自然であると考えた。
私がこの理論を始めた頃は、第二次世界大戦の最中で、印刷も容易でなく、大阪大学の『全国紙上数学談話会誌』(1942年謄写版刷り)に日本語で書いて発表させて貰ったが、興味をもってくれた人は二、三人であった。今の状態と比較して今昔の環に堪えない。
確率積分や確率微分は、必ずしもWiener過程を基礎にする必要はなく、もっと一般にマルチンゲール理論を背景として考えるべきであることは、J.L.Doobが指摘し、渡辺信三、国田寛の両氏が極めて一般的な美しい理論を作り、その場合にも変換公式が成り立つことを示した。
またP.Meyerはさらに精密巧緻な理論を組立てている。これらの現代理論については渡辺信三著『確率微分方程式』(産業図書、1976)を参照されたい。」

2013年8月10日土曜日

「Amazon ランキングの謎を解く」服部哲弥


途中まで読んで積読だった「Amazonランキングの謎を解く」服部哲弥(2011)を読了。
刺激的でおもしろかったです。統計、確率(測度論)、偏微分方程式なども扱われます。ただ、それらが分からなくても読み進められるように工夫してあります。

Amazonのランキングの比較的シンプルな数学的モデルを作り、実際のランキングのデータを驚くほど再現できています。その結果、Amazonのビジネスモデルはロングテールではないと推定しています。

「ツェトリンの研究成果は、先頭に跳ぶ(move-to-front)確率を用いて定常状態を具体的に表したことである」

「b<1ということは書籍点数の大部分を占めている普通の本が点数Nの大きさを頼りに束になってかかっても、ひと握りのビッグヒットの売り上げにかなわない。この結果を見る限り、書籍に関してロングテールビジネスモデルは成立しないことが、データと理論をつき合わせて見出されたことになる」

「単純化されたモデルに基づく数学的結論が、社会現象のようなきわめて多くの要素が関係する複雑な現象―しかも、精密科学のようにお金や時間をかけて条件を精密に制御して実験することが期待できない現象―に関するデータを思いのほかよく説明できたことはそんなに当たり前とは思えない」

「インターネット時代の社会活動の集計においてランキングの順位をプログラムして表示し、結果としてロングテールの様子が公になりうるという意味で、本書で展開してきた確率順位付け模型の解析は、今後とも実際的な応用の場が広がるだろう」

《著者のウェブサイト》

"オンライン ランキングとロングテール,そして無限粒子系" 服部哲弥 あるいは, アマゾンの謎順位 - Amazon書店はロングテールに非ず

"Stochastic ranking process approach to the Amazon online bookstore ranks" T.Hattori

「Amazonランキングの謎を解く」を読むと、ビッグデータ時代になってもシンプルな統計モデルの重要性は変わらない気がします。むしろ、これまではデータがなくて確かめようもなかった統計モデルもビッグデータで検証可能になる機会が増えるんだと思います。確率・統計の知識の必要性は変わらない。

Amazonのビジネスモデルは投信ビジネスにもあてはまるかもしれませんね。「投信点数の大部分を占めている普通の投信が点数Nの大きさを頼りに束になってかかっても、ひと握りのビッグヒットの売り上げにかなわない。この結果を見る限り、投信に関してロングテールビジネスモデルは成立しないことが、データと理論をつき合わせて見出される...」なんてね。



2012年4月23日月曜日

定常性とエルゴード性

似ていて違いが分かりにくい概念ですね。ハミルトンの『時系列解析』で調べてみましょう。定常性には「弱定常」と「強定常」があるそうです。ハミルトンの本では「定常」と単独で用いられた場合は弱定常の意味で使われています。

平均μ_tと自己共分散γ_tがいずれも時点tに依存しない場合、つまりE(Y_t)=μ、E(Cov(Y_t,Y_{t-j})=γ_jの場合、過程Y_tは弱定常または共分散定常といわれています。

一方、定常過程において、時間平均が極限的に、つまりT→∞のとき、全体平均E(Y_t)に確率収束するとき、定常過程は平均についてエルゴード的であると言われます。jが大きくなるにつれて自己共分散γ_jが十分に早く0に収束するという条件のもとで、定常過程は平均についてエルゴード的になることが知られています。

多くの応用例においては、定常性とエルゴード性は、結局同じ条件を意味していることが多いですが、ハミルトンの本では定常ではあるがエルゴード的ではない過程の例が挙げられています。

2012年4月11日水曜日

収束

ブログの更新ができてないな。忙しかったのとツイッターのほうに時間を費やしていたから。ツイッターのオフ会に幾つか出て、ツイッターがなければ会うこともなかったであろう様々な人と知り合いになれた。でも、少しツイッターの時間を減らしてブログの時間を増やそうと思う。

Hayashiの2.1で収束の話。収束にもいろいろある。

収束概念の強弱。{X_n}がXに、
a)概収束すれば確率収束する、
b)平均収束すれば確率収束する、
c)確率収束すれば法則(分布)収束する、
d)r≧s≧1のときr次平均収束すればs次収束する。
逆は一般に成り立たないがX_nが独立なら概収束、確率収束、法則収束は同値である。


また、Greeneで調べてみると中心極限定理(Central Limit Theorems, CLT)にもいろいろある。
a) Lindeberg-Levy CLT
b) Lindeberg-Feller CLT
c) Liapounov CLT
d) Multivariate Lindeberg-Levy CLT
e) Multivariate Lindeberg-Feller CLT


D.2.7のDelta Methodは後で確認を...





2011年2月19日土曜日

数学の勉強法(特に文系) その2


(理系の人はスルーしてください)
私もそうだったのですが、文系の人間がいきなり数理ファイナンスの教科書を読んでもチンプンカンプンだと思います。その場合、確率解析が分からないというよりも、それ以前の極限、微分・積分が分かっていない可能性があります。
数理ファイナンスでは微分・積分が特に重要です。そのため、大学への数学の増刊号の「微積分 基礎の極意」を読んでから「解法の探求・微積分」をやっておけばいいと思います。

2010年6月5日土曜日

数学の勉強法(特に文系)

文系が数理ファイナンスを勉強する場合、壁となるのが数学ですね。理系の場合はツールとして数学を使うことに慣れているので、数理ファイナンスの習熟も早いです。私の場合は文系で、しかも実務では数学を使わなかったので大変でした。恥ずかしい話、ICSに入るまで合成関数の微分を知りませんでした。今でも数学には苦労しています。私の経験から、こうすれば良かったかも、という話をします。

[とりあえずファイナンス(経済学)に必要な数学を概観する]
『経済数学入門の入門』(田中)
『経済と金融工学の基礎数学』(木島、岩城)
『コア・テキスト 経済数学』(戸瀬)
『はじめよう経済数学』(浅利、山下)
『数理経済学入門』(入谷、久我)
あたりのどれか1冊の全体に目を通す。細部を覚えるよりも、とりあえず全体を眺めてどういう項目が必要かを把握しておくのがいいと思います。続いて各項目ごとに専門的に勉強していきます。簡単な本から始めて徐々にレベルを上げていきます。とにかく自分で問題を考えて解いていくことが大事です。

[微分積分]
大学への数学 『微積分/基礎の極意』・・・(とりあえず理系の学部レベルに追いつくことを目指す)
マセマ・キャンパス・ゼミ 『微分積分』
『穴埋め式 微分積分 らくらくワークブック』(藤田、石村)・・・(計算力をつける。けっこう難しいです)
『経済数学Ⅰ 微分積分概説』(津野)
余力があれば本格的な数学書にレベルアップします。
『解析入門』(ラング)
『解析概論』(高木)
『解析入門Ⅰ』(杉浦)

[確率・統計]
マセマ・キャンパス・ゼミ 『確率統計』
『穴埋め式 確率・統計 らくらくワークブック』(藤田、高岡)
『確率・統計入門』(森、藤田)
『確率と確率過程』(伏見)
『統計学のための数学入門30講』(永田)
本格的に確率論、測度論を勉強したいなら、
『測度と積分』(ツァビンスキ、コップ)
『マルチンゲールによる確率論)(ウィリアムズ)

[線形代数]
『穴埋め式 線形代数 らくらくワークブック』(藤田、石井)
『なっとくする行列・ベクトル』(川久保)
『線形代数』(木村)
『線形代数入門』(斎藤)

[数理ファイナンスの入門]
『ファイナンスの数理入門』(津野)
『なっとくする数理ファイナンス』(森)
『Excelで学ぶ金融市場予測の科学』(保江)
『リスクとデリバティブ』(西村)

これくらいで十分でしょうか。上の本を全部読む必要はないので、自分にあったものを各分野で一冊みっちりやればいいと思います。この後は、ブログに既に書いたルーエンバーガー、プリスカ、シュリーヴ、ダフィーとやっていけばいいと思います。
余裕があれば、数学的な読み物(岩波の「数学が育っていく物語 全6巻」や「オイラーの贈物」(吉田)など)を読めば数学的センスが向上するのではないでしょうか。「数学が育っていく物語 全6巻」は地元の図書館にあって、借りて読みました。なかなか目から鱗でした。数学30講シリーズなんかも、手始めとしてはいいと思います。