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2020年12月15日火曜日

『Rによる時系列モデリング入門』北川源四郎


『Rによる時系列モデリング入門』が発売されたのでさっそく購入しました。この本の前身である『FORTRAN77時系列解析プログラミング』は時系列分析について私のバイブルでした。

本書ではRの時系列解析パッケージTSSSを使用します。本書の例題で用いられているデータと解析プログラムの多くはTSSSに含まれています。

TSSSはCRANからもダウンロードできますが、統計数理研究所の以下のサイトからダウンロードできます。インストールの詳しい説明もあります。

「TSSS」

Time Series analysis with State Space model

統計数理研究所

https://jasp.ism.ac.jp/ism/TSSS/

そこに書かれていますが、パッケージをインストールするには、Windowsの場合

(1) R (RGui)を起動し,メニュー [Packages] から

   --> Install package(s) from local zip files...

   --> Select files で ダウンロードした TSSS_1.3.0.zip を選択.

(2) メニュー [Package] から

   --> Load Package..

   --> Select one で TSSS を選択.

でできました。


本の内容については、前身である『FORTRAN77時系列解析プログラミング』や『時系列解析入門』とほとんど同じようです。それらの復習も兼ねて、Rのプログラムを動かしながらこの本を読んでいきます。


2019年11月21日木曜日

ファイナンスの重要な論文を振り返る

最近はファイナンス(証券投資論)の重要な論文がネットで読めるようになっていて、良い時代になったなあと実感します。過去の論文を調べたついでに、ここに忘備録としてまとめておきます。論文のタイトルにリンクが張ってあります。

1990年のノーベル経済学賞をシャープ、ミラーとともに受賞したマーコウィッツの1952年の論文も無料で読めますね。 "Portfolio Selection" Harry Markowitz[1952]

Sharpeの1964年の有名なCAPMの論文、今は無料で読めます。PDFというボタンを押せばダウンロードできます。 ”CAPITAL ASSET PRICES: A THEORY OF MARKET EQUILIBRIUM UNDER CONDITIONS OF RISK”

マーコウィッツ[1952]の平均分散法とシャープ[1964]、Lintner[1965]のCAPMがファイナンスのポートフォリオ理論の先駆けですね。CAPMは均衡理論。CAPMは様々な強い制約の下、均衡状態で成立する。均衡なら無裁定だが、逆は言えない。ファイナンスのアカデミックな世界では「CAPM、おまえはもう死んでいる(CAPM is dead.)」と言われるわけですが。

ブラックのゼロ・ベータ・ポートフォリオの論文。
"Capital Market Equilibrium with Restricted Borrowing" Fischer Black[1972]

マートンの多期間CAPM "An Intertemporal Capital Asset Pricing Model"  [1973]

ファイナンスにおける金字塔。ブラック=ショールズによるオプションのプライシング。 "The Pricing of Options and Corporate Liabilities" Fischer Black and Myron Scholes[1973]

伊藤の補題がおそらく初めてファイナンスの論文で使われたマートンの重要な論文。
"Theory of Rational Option Pricing" Robert C. Merton[1973]

しかし、ICAPMとオプションのプライシングという二つの重要な論文を1973年に同時に発表するとは、やはりマートンはとてつもない天才ですねえ。

CAPMに代わるものとして提案されたロスの裁定価格理論。複数のリスク・ファクターを考えることができるためCAPMよりも一般的。マーケット・ポートフォリオの特定も不要。 "The Arbitrage Theory of Capital Asset Pricing" STEPHEN A. ROSS [1976]

実務界にも大きな影響を与えた、ファーマ=フレンチの3ファクター・モデル。 "Common risk factors in the returns on stocks and bonds" Eugene F. Fama and Kenneth R. French [1993]

このあたりの証券投資理論の歴史についての読み物としては『証券投資の思想革命』がお勧めです。残念ながら絶版ですが、地元の図書館にあると思うので借りて読みましょう。 『証券投資の思想革命―ウォール街を変えたノーベル賞経済学者たち』 ピーター・L. バーンスタイン

英語が苦にならなければ、これもお勧めです。資産運用の歴史を概観するのによい読み物です。書いたのはブラックロックのKahn。

2019年10月13日日曜日

『平成の経済』

平成の経済を一冊にまとめるという困難な作業を遂行できたのは大したもの。小峰隆夫氏だからできたと言える。
「驚くべきは(バブルの)その規模である。80年代後半のバブル期には、86年から89年にかけての4年間には、毎年、名目GDPに匹敵するか、またはそれ以上のキャピタル・ゲインが生まれているのである」
「例えば、87年の場合、株式で84兆円、土地で413兆円、合計497兆円ものキャピタル・ゲインが発生している。これは同年の名目GDPの実に1.4倍である」

公的資金を投入して不良債権を一気に処理するという1992年8月の宮澤構想が実現していれば、その後の日本経済もずいぶんと違った姿になったと思うと、残念でしかたがない。

1995年に住専を処理するために公的資金6850億円の投入が決まった。この金額はその後の公的資金の投入が数十兆に上ったことを考えると全く小さなものだが、国会などで強い批判を浴び、政府・政治家の大きなトラウマとして残り、公的資金投入はほとんどタブーとなった。

三洋証券の倒産は二つの大きなショックを金融界に与えた。ひとつは、金融機関は無条件で救済されるわけではないことが確認されたこと。もうひとつは、戦後初めてインターバンク・コール市場でデフォルトが起きたこと。

三洋証券の経営破綻により、三洋証券が群馬中央信用金庫から借りていた10億円がデフォルトとなり、疑心暗鬼に陥ったコール市場は大混乱となった。これが次の北海道拓殖銀行の破綻を招くことになる。

拓銀は不動産担保融資に積極的だったが、バブル崩壊でこれらが不良債権化し経営難になった。預金の解約や資金の流出が続いていたのでコール市場からの調達を積極化していたが、三洋証券のデフォルトによりコール市場からの調達が困難になり日銀への準備預金が不足する事態になった。資産の一部を北洋銀行に営業譲渡したうえで1年以内に清算することが決まり、拓銀は消滅した。

拓銀が破綻した一週間後、四大証券の一つであった山一證券が廃業した。山一は違法である運用利回り保証や損失補填を行っており、その結果生じた簿外債務を子会社に移管して表面化しないように操作していた(いわゆる「飛ばし」)。

山一證券は、1964年から65年にかけての証券恐慌の際に日銀から特別融資を受けた経験があるが、97年の場合は不正な利益供与が悪質であるとされ日銀からの支援を受けることができず、自主廃業となった。

最後の社長となった野澤正平氏は、廃業を発表する記者会見で、当初は淡々と質問に答えていたが、記者からの「社員にはどう説明するのですか」という質問に耐え切れず、号泣しながら次のように述べた。

「私ら(経営陣)が悪いのであって、社員は悪くありません。善良で、能力のある、社員の皆に申し訳なく思っています。一人でも二人でも、皆さんが力を貸していただいて、再就職できるように、この場を借りまして私からもお願いいたします」

それまで金融機関の不祥事に際しては、責任逃れに終始する経営トップが多かった中で、誠実に謝罪し、社員の今後を憂えた会見は大きな話題となり、その映像は繰り返し放送されることになる。

以上、『平成の経済』小峰隆夫からの引用でした。まだ半分も終わってないけど、既におなか一杯感。ここから小泉構造改革で、ここも面白そう。

たしか野澤社長も社長になるまで飛ばしのことは知らされていなかったので、野澤社長も悪くないんだよね。山一の営業基盤は日本のリテール市場に進出しようとしていたメリルリンチが引き継いだのだけれど、結局うまくいかずメリルは日本のリテールから撤退。

竹中・吉川論争

経済財政諮問会議
2005年12月26日
議事録

2006年2月1日
議事録

「衆議院では内閣不信任案を提出することができ、これが可決されると、首相は国会を解散するか内閣が総辞職するかの選択を迫られる。しかし、参議院では不信任案は提出できない。したがって参院で野党が多数を占めても直ちに政権が揺らぐわけではない」

「予算については、衆議院が先議することになっており、しかも仮に参議院が否決しても、衆議院の議決が優先される。したがってここでも参院で野党が多数を占めていても支障はない。と言うか、予算に関しては、衆議院優先の原則がある限りは、そもそも参議院で予算を審議する意味はあるのかという本質的な疑問さえ生まれる」

「問題は法案の審議や国会同意人事である。これについては、衆参で議決が異なった場合でも、衆議院で3分の2以上の再可決があれば衆議院の議決が成立する。要するに、衆議院で与党が3分の2以上にを占めていれば、仮にねじれ現象が起きても、それほど大きな問題にはならない。しかし、衆議院で与党が3分の2に達していない状態で参議院が野党多数になると、いわば「真正ねじれ現象」となり、法案審議や同意人事で参議院が事実上の「拒否権」を持つこととなるので、議会運営は極度に難しくなる」

「予算に関しても、予算案そのものは衆議院優先で処理できたとしても、予算関連法案を参議院で否決されてしまうと、予算の執行ができなくなってしまう。2007年のねじれ現象は、この真正ねじれ現象であったため大きな問題となったのである」

「言うまでもなく、社会保障の改革は喫緊の課題である。世界一の高齢社会となる日本では、今後、年金、医療、介護などの社会保障給費が継続的に増加していく。これを放置していると、財政を圧迫するだけでなく、社会保障制度そのものが維持不可能になってしまう」

「このマイナス金利政策の評価はというと、総じて評判が悪かった」

理由の第一は、肝心の景気刺激効果に乏しかったこと。第二は、金融機関の収益に悪影響を及ぼしたこと。第三は、黒田総裁が直前まで「マイナス金利は考えていない」と発言していたのに実行したため、総裁発言に対する信頼感を低めた。第四は、インフレ・マインドを高めるどころか、逆にデフレ・マインドを強めてしまったこと。多くの国民は「マイナス金利は貯金が減る」「マイナス金利という聞いたことのないような政策をとら開ければならないほど日本の経済状態は悪い」と感じ、かえって将来不安を強めてしまった。

「マイナス金利は、サプライズをもたらしたものの、景気浮揚、デフレ脱却効果はほとんどなかったように思われる」

小峰氏も指摘するように、マイナス金利には景気浮揚、デフレ脱却効果はほとんどなくて、逆に経済にネガティブな効果が多いので、早く止めればいいのだけれど、そういうのを止められないでダラダラと続けてしまうのは、とても日本的ですね。

当初うまく機能したように見えた異次元金融緩和手法が次第にうまく機能しなくなって、黒田日銀の金融政策も変遷していった。予想外の思い切った政策をアナウンスすることによって市場を動かす「サプライズ型」の政策手法の限界が現れてきた。

「そもそもアベノミクスは、アナウンスメント効果で始まった」

「まだ何も政策を打たないうちから円レートは下落し、株価が上昇するという効果が表れた」

これは逆に言うと、政策で円安・株高になったのではないということですね。

「こうしたサプライズ型の政策手法が成功するためには、市場が驚くようなサプライズを次々に繰り出す必要がある。しかし、前述のようにマイナス金利政策は、サプライズはもたらしたものの、市場の評価は得られず、逆にデフレ・マインドを強めてしまったのではないかと思われる」

「第二に、強いコミットメントで当局の意欲を強調するという手法も限界になってきた」。インフレターゲットを持つ中央銀行は珍しくないが、その実現をピンポイントの時期を明示して実行する例は見られない。思惑通り動かない経済が日銀の手足を縛った。マイナス金利は無理を承知でひねり出した措置。

「第三に、当初は円安が経済パフォーマンスの好転をもたらしたが、次第にその限界が明らかになってきた」。円安による物価上昇、企業収益改善は、円安が進行するときにだけ現れる。このメカニズムを続けるには円安が進行し続けなければならないが当然ながらそれは不可能。円安の効果は本質的に短期的。

「また、企業が円安による収益の増大を事業規模の拡大に結び付けなかったため、景気拡大のメカニズムが途切れてしまった」。2013年度の輸出数量はわずか1%の増加にとどまったが、これは企業が販売価格を下げなかったから。

「企業は円安による企業収益の改善は、自らの実力ではなく、短期的な現象だということを自覚している」。さらに企業は国内で生産して輸出する時代ではなく、消費地に近い現地生産を増やす時代と認識しており、収益が増えたからといって国内の設備を増強したり、賃金を引き上げたりしなかった。

2016年9月に日銀は総括的検証を行って、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と呼ばれる新たな枠組みを導入した。これが必要となった背景は明らか。それは①異次元金融緩和が実際に効果を現さず、2年で2%という目標を達成できなかったこと、②巨額の国債購入が物理的に限界に達する(買う国債がなくなる)恐れが出てきたこと、③マイナス金利の効果がそれほどでもなく、副作用が目立つようになったことなどである。

「この金融政策の新たな枠組みは、かなり折衷的なものとなっているので、その方向感覚をつかむのが難しく、その実現性と効果についても不透明な点が多い」

「まず、長期金利をコントロールすることは、可能なのか、可能であったとしても望ましい政策なのかという疑問がある」。①そもそも望ましい金利水準を見つけられない、②相当無理をしないとコントロールできない、③市場の期待についての情報が得られなくなる、など、やらないほうが良い政策の可能性。第2は、これは金融緩和策を強化したものなのか、逆に出口に向かい始めたものなのかが分かりにくいことだ」

小峰氏は、金融政策は既に方向転換して、出口に向かい始めたと判断している。既に金融政策の「異例な部分を削る」というプロセスは徐々に進行していると考えられる。

アベノミクスが十分取り組んでこなかった政策課題の最たるものが財政の再建で、その鍵を握るのが社会保障問題への対応。

ストックの赤字の名目GDP比率が発散するか否かが決定的に重要で、それは二つの要因で決まる。一つは「プライマリ・バランス(基礎的財政収支)」の状況であり、もう一つは、名目成長率と長期金利の相対関係である。

日本の財政赤字は先進国中最悪の状態であり、高齢化も世界有数レベル。財政再建のためには、歳入を増やすか歳出を削るしかない。消費税を引き上げるか社会保障支出を減らすしかないが、国民が嫌がるのは明らかで、政治家は国民の考えを反映しようとするので、民主主義の失敗状態に日本はある。

「総理は伊勢志摩サミットで、G7首脳に対して、世界経済はリーマン・ショック前と同じほど脆弱な状態にあると説明した。これで消費税率引き上げの先送りは説明できるというのが総理の考えだったようだ」

「しかし、この考えは他の首脳には共有されず、この時の資料は無理にリーマン・ショック前の状況に近いようなものを準備したとして、多くのエコノミストから批判を浴びている」

これは、世界に恥をさらして恥ずかしかったですねえ。

「軽減税率の導入にはほぼ全ての経済学者が反対している。その最大の反対理由は「公平性のための政策としては非効率的だ」ということである」

「国民から政策運営の負託を受けた政治家は、単に世論に迎合するのではなく、時には世論を説得して、長期的な道を誤らないようにする責務がある。軽減税率の採用は、政治家がその責務を放棄したように私には見える」

今は、世論に迎合する政治家ばかりになってしまいましたねえ。日本の政治が劣化していることを示していますね。

「日本はいち早く、米の離脱で崩壊しかけていたTPPを立て直し、アメリカ抜きの11か国によるTPP11をまとめるべく、その先頭に立ってきた」「日本がこのような多国間交渉にリーダーシップを発揮し、そのとりまとめに成功したことは画期的な成果だと言える」

これは、本当に素晴らしかったです。

「日本はさらに、RCEPの合意を目指している。これはASEAN、中国、インドなどを含む巨大な自由貿易圏構想であり、これが誕生すればアメリカの保護主義がさらに孤立することになり、アメリカの方針転換を促す力になるだろう」

アベノミクスの特徴の第一は、視野が短期的なこと、第二は、国の意思が経済を先導するという姿勢が強いこと、第三は、コスト先送り型ということ。「今後、短期志向による経済成果が息切れしてきた時、アベノミクスの真価が問われることになるだろう」

次のような方向でアベノミクスを再構築すべき。第一に、マクロ経済の政策目標と政策手段の関係を見直すべき。第二に、政策運営の視点を、短期的な非常時対応型から、長期的な構造改革型へシフトさせるべき。第三に、政策の内容だけでなく、その政策決定のプロセスの改革も必要。

2019年8月25日日曜日

『市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』

竹中平蔵のことはよく知らなかったのだけれど、ここまでひどいとは…

「結局、金融行政の最高責任者だった竹中が果たした役割は、ウォール街の雄であるゴールドマン・サックスを日本に呼び込むことだったのである」
三井住友とゴールドマンの取引も不可解。社内の反対を押しきって西川頭取が独断で決めたらしいけれど。

慶応の池尾先生は、通称「竹中プラン」の当初の特命チームに招かれていたが、リソースの増強のないまま不良債権処理を進めようとする竹中の意見を聞いて辞退している。さすがですね。

池尾「それなら柳澤前大臣がやった以上のことはできないと考えた。竹中さんは『政治的にどう打ち出すかを考えているので』という言い方だった。私は、そういうものを経済政策だとは思わないので、それであれば辞めますと言ったのです」

竹中は処女作『研究開発と設備投資の経済学』で鈴木和志との共著論文の内容を自分だけの成果であるかのように載せている。それを知って激しいショックを受けた鈴木は宇沢や同僚たちがいる前で泣き出してしまった。
他人が作成したグラフも勝手に拝借して載せている。学者として最低ですねえ。
『研究開発と設備投資の経済学』を竹中は博士論文として一橋大学経済学部に提出したが、不合格だった。

竹中はコロンビア大学ビジネススクールの客員研究員だったが、事実上できることといえば大学の図書館で本を読む程度。「コロンビア大学の客員研究員といえば、実態を知らない人はありがたがるけど、実際には図書館で本も借りられない。借りるにはまたお金を払わないといけないんです」
アメリカの大学の客員研究員だったという肩書をちらつかせる人がいるけど、大したことないこともあるということは知られていてもいいですね。

「ところが竹中は、「実ははっきり言うと、今、郵政の民営化をする必要はないんです」と言う」
じゃあなんで民営化したのよという話。あきれてしまう。

「繰り延べ税金資産は、貸し倒れ引当金に課税される税金分を、将来還付されるという前提のもとで計上する資産だ」
りそなに公的資金を投入するときに、朝日監査法人でりそなを担当者していた平田さんが自殺している。かわいそうに。
りそなは竹中と木村剛のスケープゴートとして経営破綻させられてしまった形。りそなの監査法人は朝日と新日本だった。朝日で担当していた平田は「四項但し書き」、つまり課税所得5年分を認める考えだったが、朝日の幹部と木村が通じていて、りそなの繰り延べ税金資産を認めないという経営判断をした。
平田は自殺し、朝日監査法人はりそなの監査を辞退した。新日本監査法人は当初、課税所得5年分の繰り延べ税金資産を認める方針だった。しかし朝日が唐突に辞退したことで新日本の監査現場が混乱し、繰り延べ税金資産を課税所得の三年分まで減らす結論を出した。

竹中と木村は、自らの手は汚さず、監査法人を指嗾して銀行を破綻させ、公的資金投入を実現した。

木村剛は金融庁顧問をしながら、銀行免許のコンサルティングビジネスで稼いでいた。落合伸治が『日本振興銀行』を設立するのを手伝い、後に落合を追放して同行の経営者となるが2010年に破綻する。木村自身も、金融庁の検査を妨害したとして逮捕され、執行猶予三年、懲役一年の有罪判決を受ける。

小泉首相の秘書の飯島は、しばしば「小泉総理からの指示」という切り札を用いて、竹中が自分の意見を押し通してきたことに不信感を抱いていた。竹中が次の首相候補の安倍に取り入ろうとするのを見て、小泉に直接進言した。
「竹中さんは信用できない部分があります。総理と会ったあとに総理の言葉を正確に伝えていない場合があります」。飯島から進言を受けたあと、小泉は竹中と少し距離をとるようになったという。

クルーグマンは、日本経済の問題は十分な需要がないことと考えていた。需要サイドをおろそかにし、供給サイドの政策ばかりに注目する小泉内閣を疑問視していた。構造改革のイデオローグとなっている経済学者出身の竹中大臣は誤りを犯していると考えていた。
元FRB副議長でプリンストン大学教授のアラン・ブラインダーも「構造改革と同時に需要も喚起する二元戦略が必要だ」とアドバイスしていた。

当時トヨタ会長で日本経団連会長でもあった奥田氏は、竹中が決めた日本郵政への抜粋人事に腐心感を露わにした。「竹中が動くときには必ずうしろにカネの話があるんだ」と言っていた。経団連会長としての記者会見で「金融機関のトップは利害関係があるので資格がないのではないか」と発言した。
トヨタの奥田会長が懸念したことは現実となり、西川は三井住友銀行の部下だった銀行員を日本郵政の幹部に登用した。
日本の場合、製造業の経営者は比較的正常な経営感覚なのに対して、金融機関の経営者はダメダメですねえ。

オリックスの宮内義彦は小泉純一郎や竹中と親しく、日本郵政の「かんぽの宿」などを異常に安い値段で譲り受ける契約を結んだ。これに鳩山邦夫総務大臣が反対して白紙となり、マスメディアや国会で「郵政民営化」疑惑として激しく追及された。

小泉ー竹中の「構造改革」というのは、極端な財政緊縮路線で、ほとんど必然性のない「痛み」を人々に与えて生活を疲弊させることで「改革」に目覚めさせようとしているかに映った。小泉が財政緊縮路線に固執したことで、日本銀行への圧力はすさまじいものとなった。財政禁じ手で過度に金融政策に依存。
「じつは、五年半におよぶ小泉長期政権の歩みは、異常ともいえる「超低金利」時代と軌を一にしていた。日銀による大量のマネー供給が「構造改革」の通奏低音なのである。日銀は小泉純一郎内閣が発足する直前にあたる2001年3月、未踏の領域だった「量的緩和政策」に踏み切っている」

日銀が「量的緩和」に踏み出す決定をした2001年3月の金融政策決定会合で、副総裁の山口は「追加的な緩和の余地が大いに生まれてくるような、ある種のイリュージョンを与えることにもなりかねない」と「量的緩和」に疑問を呈した。

小泉内閣が初めての経済政策「骨太の方針」を発表する直前の2001年6月の金融政策決定会合に竹中が乗り込んで、日銀幹部を前にいきなりこんな発言をしている。「構造改革が動いて金融政策が動くというよりは、金融政策が一体化することによって構造改革を早めるという効果があきらかにあるわけで、とくに、これから経済がたいへんになるぞ、という一種のあおりの議論のなかで、構造改革が例えば止まってしまうというのは困るので、そういうあおりの議論をたとえば抑えるためのメッセージとしての金融政策の役割というのは、私はいまの時点では政策のフリーハンドがない時点では、非常に大きいのではないのかなと直感している」

破綻した後に、政府の管理下に置かれたりそな銀行が社外取締役として迎え入れた一人が川本裕子。マッキンゼーのコンサルタントだった川本はりそなを破綻に追い込む際、決定的な役割を果たしている。竹中の金融問題タスクフォースのメンバーだった。一方、りそな副社長の梁瀬は責任を取る形で辞任させられた後、オリックスに入社している。オリックスの経営者は竹中の盟友、宮内義彦。梁瀬はその後オリックス社長を務めている。破綻して公的資金二兆円で支援されたあと、りそなは自民党への融資を増やし自民党のメインバンクと化した。

竹中はUFJに圧力をかけ、UFJは大口問題債権のミサワホーム社長の三澤を辞めさせ、産業再生機構で債務を整理して身ぎれいになってからトヨタホームが引き取った。その後ミサワホームの新しい社長に抜擢されたのは竹中の兄の竹中宣雄だった。竹中平蔵が現職の金融担当大臣として自民党から出馬したとき、ミサワの子会社幹部らがポスター張りなどの支援をしていたことが発覚して、問題となっている。

竹中平蔵のクローニーキャピタリズムに、眩暈がしますね。

「金融維新」を唱えた木村剛は、日本振興銀行の経営者となって数々の問題を引き起こしながら、ついに2010年9月10日、日本振興銀行を破綻させた。そして、日本の金融史上初めて「ペイオフ」が適用された。預金者が預けていた資金が失われる事態となったのである。

日本初のペイオフ適用とか、とんだ「金融維新」ですねえ

銀行が破綻するわずか6か月前、木村は自らが保有する日本振興銀行の株式を1株33万5000円という法外な高値で売り抜けて、総額3億1825万円を手にしている。中小企業保証機構は日本振興銀行からの融資を元手に、木村の株を買い取った。つまり木村が手にした金は破綻寸前の日本振興銀行から引き出したカネ

どこまで腐っていのかという話

木村は逮捕された後、弁護士の口座に3億以上の資金を移して自分の財産を保全する措置を講じている。3000人以上の預金が失われる中で、木村が守り抜いたのは自分の財産だけだった。

竹中は、本来なら銀行免許を交付すべきではない日本振興銀行に交付し、その結果、預金保険機構への多大な損失と預金者への負担を招いた。

竹中は2003年に幻冬舎から出した『あしたの経済学』という本のなかで寺島実郎の『団塊の世代 わが責任と使命』の内容をパクっている。

90年代半ば近くまで、竹中は繰り返し「公共投資の拡大」を唱えていた。それはアメリカが日米構造協議で要求していたから。どころが自分がマクロ経済政策を担う経済閣僚になると一転して極端なまでの財政緊縮論者へと変貌する。

竹中は安倍政権の産業競争力会議の中核メンバーとして再び表舞台に立った。同時に、認罪派遣業界の大手、パソナグループの取締役会長を務めている。

『市場と権力』佐々木実(2013) 読了です。なかなか衝撃的な内容でした。

『市場と権力』の「おわりに」で紹介されている宇沢弘文の「混迷する近代経済学の課題」の全文は宇沢の『経済と人間の旅』で読むことができます。

2018年3月12日月曜日

金融政策の「誤解」 第3章「リフレ派」の錯誤 早川英男

早川英男の『金融政策の「誤解」』の第3章でリフレ派の問題点について整理されていたので、忘備にメモ。

「リフレ派」の定義

内閣官房参与の浜田宏一はしばしば欧米の主要なマクロ経済学者のほとんどは自分と同意見だとの趣旨の発言をされるが、その場合のリフレの定義は「デフレは経済にとって望ましくない状態だから、中央銀行はデフレに陥ることのないように、またデフレに陥ってしまった場合は、そこから早く脱出できるように金融政策を行うべきである」という広いものだろう。しかしこれでは早川氏を含めてほとんどの(元)日銀関係者はリフレ派に含まれてしまう。リフレ派が口を極めて非難してきた日銀も「ずっとリフレ派だった」という大変奇妙なことになってしまう。

早川氏は以下の命題のすべてを基本的に受け入れる人たちを狭義の「リフレ派」と定義

【命題1】過去20年あまりにわたる日本経済の長期低迷は、基本的に需要不足によるものであり、需要不足をもたらした主因はデフレにある。

【命題2】ゼロ金利の下でも中央銀行が使える有効な金融政策手段は十分にあり、ゼロ金利制約はあまり深刻な問題ではない。

【命題3】財政政策に関しては、次のようなポジションを採る。
①財政政策、とくに財政支出の増加はマクロ経済に対して一般に有効ではない。
②にもかかわらず、なぜか消費税増税は景気に極めて大きなマイナスのインパクトを与える。
③財政赤字の問題は、デフレ脱却の結果としての経済成長によって大部分解決できる。

これらの認識を共有する人たちのグループが実体として存在し、「デフレこそ諸悪の根源」とすることで、財政健全化や潜在成長力の強化といった、より重要で困難な課題から政治家や一般国民の眼を背けさせてしまう点に問題がある。

「リフレ派」の主張は整合的か

命題1については、過去15年間の物価下落率は年率わずか0.3%だった。その程度のデフレが本当に「失われた20年」と呼ばれる日本の長期低迷の主な原因とは思われない。
また、2000年以降の日本の人口一人当たり成長率は他の主要国に劣るものではなかったので、日本の低成長の少なくとも一部は人口減少(生産年齢人口の減少)に起因する。

命題2に関して、「ゼロ金利の下での金融政策」というテーマは世界の金融マクロ経済学の大きなテーマであり続けた。命題2のように言い切ってしまうのはデフレからの脱却の困難を過小評価している。

日本経済の長期低迷の原因として需要不足以外の構造的問題を重視していない、あるいはゼロ金利制約を重視していないことはリフレ派特有の楽観論の表れである。

命題3は奇妙な命題の組合せである。①はマンデル=フレミングの参照だろうが、②と①はあっきりと矛盾する。また、1990年代後半以降日本の長短金利はほぼ常に低水準に張り付いていたので、①はずっと成立しなかったはずである。

リフレ派の困った議論①: 後出しじゃんけん
リフレ派が次々といろいろな金融緩和手段を提案し、日銀がその提案を実行に移すと、彼らは最初には歓迎を示すが、時間が経って思ったような効果が出ないとみるや、必ず「やり方が足りない」と言い出す。最初は誰をも驚かせた黒田日銀のQQEに対してさえ、一部のリフレ派はやがて「これでは足りない」と言い出したのである。

リフレ派の困った議論②: 精神論
もう一つは、「信念が足りない」という精神論である。白川日銀に対するリフレ派の「みずからが政策効果への信念を持たないから、効果が出ないのだ」という批判は、「必勝の信念さえあれば、おのずと途は拓ける」という旧帝国陸軍の主観主義・決断主義を彷彿とさせるものだった。

期待一本槍の政策論:主観主義の錯誤
リフレ派の政策論は期待一本槍の主観主義となっている。リフレ派のもともとの主張はマネタリズムだった。しかし1980年代以降、各国で金融自由化が進むと、マネーと実体経済の関係が不安定化して多くの中央銀行はマネタリズムを捨てて金利ベースの政策に戻っていった。岩田規久男らのマネタリズムは時代遅れだった。
実際に日銀が量的緩和を行ってもマネーストックはほとんど増えなかった。理論だけでなく現実にも貨幣乗数のメカニズムは働かないことが明らかになった。「マネタリーベースの増加がマネーストックを増やして物価上昇につながる」と言えなくなったリフレ派は、「インフレ期待に影響を及ぼす」という以外に道がなくなった。

成長余力の過大評価:楽観主義の錯誤
リフレ派は雇用が増えたことをアベノミクスの最大の成果として誇示するのだが、GDPが増えずに雇用が増えたのは生産性が低下したためであり、人口減少の下ではそれは極めて低い潜在成長率を含意するという、シンプルな論理的帰結には気づいていないようだ。

「出口」なき大胆な金融緩和: 決断主義の錯誤
日本の場合、QQEからの出口において米国以上の困難が待ち受けている。
第一に、金融機関が大量の長期国債を保有しているため、長期金利が急騰すると金融機関のバランスシート毀損につながり、極端な場合には金融システムの不安定化を招くリスクがある。
第二に、日銀のバランスシートも、当然ながら大きく毀損する。これは国民負担を意味する。
第三は、政府の財政への負担である。日本の公的債務残高は名目GDPの2倍以上で、長期金利が急騰すれば、政府財政にとって大きな負担増となる。

2018年3月3日土曜日

『経済数学入門の入門』 田中久稔


経済学に興味があるけれどどこから手をつければいいか分からない人が、最初に読むのに最適な一冊ですね。「微分、偏微分、最適化問題、差分方程式、動的計画法など、経済学に登場する様々な数学に出会います。特に、経済数学では最も重要なテーマである最適化問題が中心的なトピックになります」

この本だけでは足りないので、この次の本は、経済学の本ではなくてもう少し本格的な「経済数学」の本を読むのがいいと思います。結果的にその方が近道だと思います。

第7章はマクロ経済学と差分方程式

「ポントリャーギンの最大値原理は、最短時間でロケットを目標地点まで運ぶための数学理論として開発されたものでした。それが現在は経済学に応用されていると知ったら、ご本人もさぞや驚くことでしょうね」

そうだったのか!

「最適成長理論に用いられるのは、最適制御理論という応用数学の一分野です。この分野の基礎にあるのはポントリャーギンの最大値原理と呼ばれる大定理です。ポントリャーギンはロシアの天才数学者で、一人の人間の仕事とは思えないくらい広範囲の分野で巨大な業績を残しています」

「ポントリャーギンの最大値原理を用いて導き出された条件を整理してみると、最適な消費と資本の成長経路が従う2つの差分方程式が得られます。そのうち一つは資本の成長経路を記述するものであり、本質的にはソロー・モデルと同じ内容の式です」

「もう一つの方程式は、「予想された来期の資本と消費に基づいて今期の消費を決定する」という、時間を逆転させた不思議な差分方程式であり、オイラー方程式とよばれています。これは人類最強の大数学者レオンハルト・オイラーが天文学の問題を解いている過程で見出したものと数学的に同値」

第8章は動的計画法

「ベルマン方程式を用いて最適化問題を解く方法は、動的計画法と呼ばれます。ベルマン方程式は、正式名称をハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式といいます。これは、19世紀の大数学者ハミルトンとヤコビの2人が古典力学の問題を解くために開発したハミルトン・ヤコビ方程式を、20世紀アメリカの応用数学者リチャード・ベルマンが拡張したものです」

「このように、現代的なマクロ経済学には物理学の分析手法が多く現れますが、これはどちらの学問領域も、目的関数を最適化しつつ時間とともに変動する変数の動きを追跡する学問であるから自然なことです」

「物理学とマクロ経済学の違いを挙げるなら、物理学の分析対象は過去から未来へ流れる時間のなかで活動しているのに対して、マクロ経済学の分析対象は未来を予想して現在の動きを決める、逆行した時間のなかで意思決定を行うことです。この点で、マクロ経済学のほうが物理学よりも「難しい」問題を解いていると言えます」

『経済数学入門の入門』の読書案内。入門レベルのテキストとしては次の三冊を紹介。

『改訂版 経済学で出る数学: 高校数学からきちんと攻める』尾山、安田[2013]

『経済数学入門 初歩から一歩ずつ』丹野[2017]

『現代経済学の数学基礎〈上・下〉』チャン、ウエインライト[2010]

本格的なテキストとして

『経済数学教室(全9巻)』小山[2010]

これ、私も欲しいんだよなぁ。

経済学の教科書で数学を学ぶ

『ミクロ経済学』西村[1990]

やさしい本として
『経済学部は理系である!?』井堀[2017]

グローバル・スタンダードとして
"Microeconomic Theory" Mas-Colell,  Whinston, Green [1995]

"Microeconomic Analysis" Varian[1992]
翻訳『ミクロ経済分析』は版が古い。

トピック別

『ラング線形代数学(上・下)』ラング[2010]

『新微分方程式対話 新版』笠原[1995]

位相集合論
『経済数学』丸山[2002]

"Recursive Methods in Economic Dynamics" Stokey, Lucas [1989]

経済学と数学の歴史

『入門経済思想史 世俗の思想家たち』ハイルブローナー[2001]

『近世数学史談』高木[1995]

『ヒルベルト 現代数学の巨峰』リード [2010]

2017年10月29日日曜日

『脱線FRB』 ジョン・B・テイラー

テイラー・ルールの提唱者として有名なジョン・B・テイラーは次期FRB議長候補にもなっている。図書館で彼の『脱線FRB』という本を借りてきて読み始める。

《テイラー・ルール》 政策金利=中立名目金利+α(今期インフレ率ーインフレ目標)+β(GDPギャップ) 中立名目金利(自然実質金利+インフレ目標)とインフレ目標をそれぞれ4%と2%、αとβをそれぞれ1.5と0.5とすると1980年代から2000年にかけての政策金利を説明できると。

本の内容は以下の彼の講演や論文の寄せ集め。

"HOUSING AND MONETARY POLICY" John B. Taylor(2007)
http://www.nber.org/papers/w13682.pdf

"Globalization and Monetary Policy: Missions Impossible"
John B. Taylor(2009)
http://www.nber.org/chapters/c0787

"A Black Swan in the Money Market" John B. Taylor, John C. Williams(2008)
http://www.nber.org/papers/w13943

"The State of the Economy and Principles for Fiscal Stimulus"
John B. Taylor(2008)
https://web.stanford.edu/~johntayl/Principles%20for%20Fiscal%20Stimulus.pdf

"The Costs and Benefits of Deviating from the Systematic Component of Monetary Policy"  
John B. Taylor(2008)
http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.436.4115&rep=rep1&type=pdf

"The Way Back to Stability and Growth in the Global Economy"
John B. Taylor(2008)
https://www.imes.boj.or.jp/english/publication/mes/2008/me26-4.pdf

"THE FINANCIAL CRISIS AND THE POLICY RESPONSES:
AN EMPIRICAL ANALYSIS OF WHAT WENT WRONG"
John B. Taylor(2009)
https://www.perimeterinstitute.ca/images/conferences/taylor_policy_responses.pdf

これに対して、解説で大津敬介氏がウッドフォード(2001)を紹介している。

"The Taylor Rule and Optimal Monetary Policy" Michael Woodford(2001)
http://www.columbia.edu/~mw2230/taylor.pdf

ウッドフォード(2001)は、典型的なケインジアン粘着価格モデルにおいて、テイラー・ルールが、経済厚生損失関数を最小化させる最適金融政策ルールであることを証明した。

注意点として、GDPギャップは現実のGDPと潜在GDPとの乖離率として定義されるが、もともとテイラーは現実のGDPの時系列トレンドからの乖離率としてGDPギャップを計算した。時系列トレンドが潜在GDPと等しい限り問題はないが、乖離しているとGDPギャップを過大評価してしまう。
また、テイラー・ルールでは中立名目金利が4%と設定されているが、自然実質金利は一定ではなく、毎期の経済状況の影響を受ける。
目標インフレが2%と設定されているが、この経済学的根拠は乏しい。経済厚生の観点からすると、インフレ税やメニューコストの負の効果を避けるため、インフレが存在しないことが望ましいはずである。そう考えると、インフレ目標はゼロであるはずである。

2017年9月16日土曜日

『日本経済再生 25年の計』1章 金融政策

池尾氏の第1章「金融政策」は、アベノミクスの量的質的金融緩和の経緯を振り返りそうした政策が理論通りに景気刺激策としてほとんど追加的効果を持たなかったことを議論。私の意見は池尾和人氏と全く同じです。

円高是正、株高、景気回復など「こうした経済の好転を大胆な金融緩和の成果であると主張して、この間の金融政策運営を正当化しようという向きもあるが、どのような波及経路で(当初の意図のようにインフレ期待や実際の物価は上がらなかったにもかかわらず)好転につながったのかを説明すべきであろう」

2001年3月から06年3月にかけて日銀が世界で最初に実施した量的緩和政策は、端的にいうと短期国債と準備預金の交換を行うもので、政策金利がゼロになっている状況では短期国債と準備預金はほとんど同等だから、それらを交換しても特段の効果が生じず、景気刺激効果はほとんどない。

長期国債と準備預金であれば、金融資産としての特性にはまだ違いがあるが、「QQE開始時点ですでに長期金利は1%を割り込む水準にあったために、定量的には大きな追加的効果が見込まれるものではなかった」

当初のQQEの狙いの中心は、人々のインフレ期待に働きかけることにあり、長期金利の低下を図ることは副次的なものだった。しかしどうしてQQEに「市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる効果が期待できる」のか。そうした主張はきわめてずさんな論理に基づくものでしかない。

その論理というのは、中央銀行が「責任をもって約束」を行い、それを裏付ける行動としてマネタリーベースを増加させれば、予想インフレ率が上昇するというものである。これはあまりに精神論的な議論である。

中央銀行が2%のインフレ目標に強くコミットするといっても、それを達成する手立てをもっていなければ、単なる決意表明にすぎず、それを信じるに値するものだとはいえないことを無視している。

ゼロ金利制約に直面しているときには、信用乗数メカニズムも、貨幣数量説的関係も、ともに成立するとは考えられない。したがって、ゼロ金利制約に直面しているときに、マネタリーベースが増えたからといってインフレ期待を引き上げる合理的な根拠は存在しない。

2012年11月以降の円高是正、株価上昇は人々や企業のマインド改善に寄与したが、「それらがもっぱら日本の経済政策の結果であると考えることは正しくない。とくに為替は、相手のある話で、日本側の要因だけで決まるものではない」

為替レートに影響する重要な要因は①ファンダメンタルズ、②内外金利差、③リスク・プレミアム。このうち内外金利差については90年代以降、日本の短期金利はゼロ近傍にありそれ以下の低下余地は存在しないので、もっぱら米国の金利要因によって決定されるかたちになってきた。

「リーマンショックの直後は米国金利の急激な低下と世界的なリスク回避傾向の強まりから、著しいドル安円高がもたらされることとなった。このリーマンショック直後のドル安円高に対して日本側でとれる有効な対抗措置はなかったと筆者は考えている」


日銀がマネタリーベースを米国と比肩するペースで増やさなかったから円高が進行したとの批判が存在するが、通貨の供給量の大小が為替レートに影響するとすれば狭義の通貨供給量であるマネタリーベースではなくより広義の通貨供給量が想定されなければならない。

ゼロ金利制約に直面していて「信用乗数が大きく変動する状況においては、そうした相関は期待できない。実際に、日米のいずれかが量的緩和政策をとっていた時期には、ソロス・チャートは成り立っていない。それゆえ、上記のような批判は根拠のないものである」

東日本大震災で原発の稼働が停止し、化石燃料の輸入が増加したことから、日本の貿易収支は黒字から赤字基調が定着し、経常収支の黒字幅もわずかなものに転じた。為替レートもファンダメンタルズの変化に応じて円安になってしかるべきだったが、実際には円高基調のままミスプライシングになっていた。

安倍政権の登場とアベノミクスの提唱はミスプライシング是正のきっかけを与えるものとなった。欧州の信用不安小康から海外投資家がリスク・オンに転換したことも円高是正に貢献した。2013年4月からQQEが開始されてたが、マネタリーベースが実際に増える前に円高是正は止まった。

2013年度は高い実質経済成長率を達成したが2014年4月に消費税が5%から8%に引き上げられると、経済成長は失速した。これは消費増税前の駆け込み需要が発生したため2013年度が上振れし増税後にその反動が起きたため。消費税引き上げで民間の失った購買力は政府によって支出される。

2年程度で決着をつけて手仕舞うという公算は外れ、短期決戦から否応なしに持久戦にならざるを得なくなったが、年間80兆円ペースの国債購入は何年にもわたって続けられるものではなくQQEは持久戦に不向き。そこで2016年1月末に唐突にマイナス金利政策が導入された。

問題はマイナス金利がQQEに上乗せされるかたちで実施されたこと。日銀の潜在的な損失(招待の償還差損)は増大。多くの金融機関にとっては運用金利の低下で収益を圧迫されることになり、マイナス金利の評判はきわめて芳しくない。

筆者は、単独でみたQQEの追加的効果はきわめて限定的だと考えている。やっていることは、民間が保有する公債の満期構成を短縮化しているだけだから。効果は乏しいから副作用もそんなに心配することはない。ハイパーインフレになるとも思えない。

ただし、財政政策、国債管理政策としてみると、やっていることは足元の景気刺激効果だけを期待した短期志向なものになっており、持続可能性を欠いたままの状況が続いている。金利上昇が起こると、問題が急激に顕在化する懸念がある。金融緩和の結果としてのインフレはないが財政インフレのリスクはある。

2017年4月30日日曜日

宇沢弘文「現実から遊離した新古典派 -偏向した命題を導く」

宇沢弘文『経済と人間の旅』
第Ⅱ部「現実から遊離した新古典派 -偏向した命題を導く」

「周知のように『一般理論』は経済学の古典のなかでももっとも難解な書物の一つであり、その全体像をとらえることは容易ではない。『一般理論』は現代資本主義経済の制度的諸条件を整合的なマクロ経済の理論モデルとして定式化し、そこにおける経済循環のメカニズムを解明し、マクロ経済的な諸変量、なかんずく雇用量、国民所得水準がどのようにして決定されるかということを明らかにしようとしたものである。ケインズはそこで企業の実体、その行動様式に議論の焦点を当て、とくに投資がどのような要因によって決まってくるかという点に現代資本主義の制度的特質がもっとも顕著にあらわれていると考えた。

ケインズ的な企業概念は、もともと1904年に刊行されたソースティン・ヴェブレンの『営利企業の理論』に展開された概念を敷衍したものである。ヴェブレンの企業理論はケインズによって一般的な形で展開され、マクロ経済理論の中核に位置づけられることになった。ケインズ理論のもう一つの特徴として挙げなければならないのは、労働雇用に関する理解である。労働者が現行賃金の下で働きたいという意志をもっていたとしても、雇用者が雇用しなければ働くことができない。経済全体でみれば、総需要額が総供給額を下回るときには、働く意思をもちながら働くことのできない労働者、いわゆる非自発的失業者の存在が必然となる。

新古典派の理論では、この自明のことが否定され、各個人は自らの主観的価値基準の下で最も望ましいと考える労働供給時間を選択し、その時間だけ働くことができると仮定する。最近流行している供給サイドの経済学というのは、じつはこの仮定から出発して議論を展開している。

『一般理論』の理論的な梗概を表したのはジョン・ヒックスのIS・LM分析である。これは1937年、『一般理論』に対する書評論文で展開されたものであるが、単純かつ明快な理論モデルを使って、『一般理論』のエッセンスと思われる面を浮き彫りにしたものであった。ヒックスのIS・LM分析はその後、サミュエルソンを中心としたアメリカの経済学者たちの手によって、マクロ経済学の構築にさいしての基本的な概念として精緻化されていった。いわゆるアメリカ・ケインジアンと呼ばれる学派を形成し、戦後の世界における経済学研究で中心的な役割を果たしていった。

正確に言うと、アメリカ・ケインジアンはヒックスのIS・LM分析という理論的な枠組みを基軸として、それを計量的に把握する計量経済学的な分析を適用する。いくつかの構造方程式の体系によって特徴づけられるマクロ経済モデルについて、その構造パラメータを統計的に推計するのは、シカゴ大学のコールズ・コミッションの研究者たちにによって完成され、ローレンス・クラインによって実際にアメリカ経済の構造を推計するという作業が行われた。この計量経済モデルの作成は、その後世界の多くの国々で行われるようになったが、戦後における経済学の発展のなかでもっとも重要な意味をもつものの一つである」

この後、宇沢氏はアメリカ・ケインジアンの考え方に二つの点で重要な制約条件が置かれていたと指摘。第一の点はIS・LM分析が均衡分の枠組みのなかで定式化されていること。第二の点は、統計的計算の可能性という観点から極端に単純化された仮定を設けていたこと。

「IS・LM分析が基本的には均衡分析の枠組みの中で定式化されていて、ケインズが一般理論で分析しようとした恐慌生成の過程、労働市場だけでなくすべての財・サービス市場における需給の不一致などという動学的不均衡過程を取り扱うことができないという点に理論的枠組みの根本的な制約条件が存在する。第二の点は「計量経済モデルの構造パラメータの推計に際して、主として統計的計算の可能性という観点から、極端に単純化された仮定を設けて、統計的推計を行っているが、この仮定は往々にしてきわめてミスリーディングな結果を生み出すことになる。これらの二つの問題点は、分析対象とする経済体系が均衡状態にあるか、あるいはそれに近いような状態にあるときにはおおむね無視してよいが、均衡から乖離して、しかも市場における調整過程が必ずしも安定的でないようなときは理論的・計量的誤差を生み、望ましくない政策インプリケーションを誘発する」

アメリカ経済が60年代後半から70年代に不均衡度が高まると、アメリカ・ケインジアン、さらにケインズ経済学についての理論的整合性と現実妥協性とに対して重大な疑義が提起され、その政策的有効性に対する信頼感はとみに喪失していった。

「このような状況の下で、アメリカ・ケインジアンの考え方に真正面から批判的活動を展開していったのが、いわゆるマネタリズムの立場に立つ人々であった。マネタリズムというのは、厳密に定式化された理論枠組みをもつものではなく、貨幣量の変化が経済循環の過程に及ぼす影響を一般的な形で分析しようとする。しかし、その基本的な考え方は1930年代の大不況期にほぼ完全に葬り去られた新古典派の経済理論に準拠するものであると言ってよい。とくに経済循環について、貨幣面と実物面との二分法を前提とし、労働雇用に関する労働者の雇用決定性を仮定する。したがって非自発的失業は厳密な意味では存在せず、すべて貨幣供給政策の変動にともなって発生する過渡的なものでしかないと主張する。

マネタリズムの背後にある新古典派理論は1970年代に入って、さらにいっそう極端な形を取るようになっていった。そこで中心的な役割を果たしたのが、「合理的期待形成仮説」である。この仮説は人々がある経済行動をとるとき、将来の均衡市場価格について、その客観的確率分布を正確に予想して、現在時点における期待価格が将来の市場価格の確率的平均値に一致するように期待を形成するというものである。このような期待形成が可能となるためには個別的な経済主体がそれぞれ均衡状態における市場価格形成の構造的諸要因を正確に知っていなければならない。需要関数と供給関数についてどのような変数が要因となっているかということだけでなく具体的にそれらの形を正確に知っているということを意味する。もし仮に個別的な経済主体が、このような知識をもっていたとすれば ーこれはもちろん不可能なことであるがー それは市場制度の基本的要件である分権性を否定するものであり、そもそも市場制度の存在は必要なくなってしまう。

このような極端な前提の上に立っている「合理的期待形成仮説」は当然のことながら、理論的にも、政策的にも極端な結論を導きだすことになる。その多くは、これまでマネタリストが主張してきた政策的命題を正当化し、イデオロギー的偏向をさらに強めるという役割を演じてきた。もともと資本主義的な経済制度の下における経済循環のプロセスを分析しようという近代経済学本来の立場からは大きく逸脱した考え方である。

しかし「合理的期待形成仮説」は、1970年代を通じてアメリカの主要な大学における経済学研究のあり方に決定的な影響を及ぼすようになり、この仮説にふれないで博士論文を作成するというのはほとんど不可能に近いというような状況になってきているという。「合理的期待形成仮説」も「供給サイドの経済学」もともに、現実の経済におけるさまざまな制度的、時間的制約条件を無視して、新古典派経済理論を極端に抽象して、論理的演算と統計的推計を行って、ある特定の政治的イデオロギーにとって望ましいような政策的命題を導き出す。そして、ケインズ経済学に代わって、新しい経済理論を構築しつつあるような印象を一般に与えている。しかし、どちらも理論的整合性と現実的妥当性という点から、ケインズ経済学に代替し得るものではなく、新しい経済学のパラダイムが形成されるまでの鬼火現象に過ぎない」

宇沢氏の「現実から遊離した新古典派」という文章、1981年6月の日経経済教室なのね。

"The Theory of Business Enterprise" Veblen(1904)
ヴェブレン『営利企業の理論』

2016年12月11日日曜日

『非伝統的金融政策 -- 政策当事者としての視点』宮尾龍蔵

日本の非伝統的金融政策の効果を構造ベクトル自己回帰モデルで分析
経済学者であり、日本銀行政策委員会審議委員を2010年~2015年の間務めた宮尾龍蔵氏による非伝統的金融政策の解説と政策の効果の実証分析をまとめたものです。
宮尾氏の分析手法は時系列分析の構造ベクトル自己回帰(Structural VAR)モデルを利用したものです。構造ベクトル自己回帰モデルとは、複数の経済変数の相互依存関係をシンプルな(主として各変数の過去の値に依存するような)連立方程式体系で描写し、各式の誤差項を「構造ショック」とみなします。
宮尾氏は構造VARモデルで日本の非伝統的金融政策の効果を分析した結果、「2001年から2015年初めまでの日本のマクロ経済データを用いて検証した結果、マネタリーベースの増加は、長期金利の低下と資産価格の上昇 ―株価の上昇やドル/円為替レートの上昇(ドル高・円安)― を通じて、日本のGDPを持続的に引き上げ、また消費者物価上昇率にも持続的なプラスの効果をもたらすことが確認された」と結論づけています。
一方で「本章で示される分析結果が、日本の非伝統的金融政策の効果に関して確定的な最終結果を表すというものではありません。今後のデータの蓄積によって、また潜在的に起こりうる経済構造の変化によって、実証的な評価は変わりうるものです。むしろ、ここでの検証は、シンプルかつ再現可能な科学的分析を示すことで、今後のより詳細な分析につながり実証結果が蓄積されていく、そして非伝統的金融政策の効果の全体像に少しでも近づく、そうした試みの1つとして位置づけられるものと考えます」と断り書きをしており、経済学者としての真摯な姿勢が感じられます。
分析結果については日銀審議委員だった立場上、全く効果がなかったという結論は出しにくいでしょうし、VARモデルは使う変数の選び方やデータ期間によって結果が変わってくるので、いろいろと議論はあるかと思います。ただ、一流の経済学者が日本の金融政策の実証分析の手法を分かりやすく説明し、分析結果の見方を解説してみせた意義は大いにあるのではないかと思います。
なお、構造ベクトル自己回帰(Structural VAR)を使った分析については、前著の『マクロ金融政策の時系列分析』の方がより詳細に書かれているので、興味を持たれた方は『マクロ金融政策の時系列分析』を読むことをお勧めします。

また、アカデミックな参考文献をきちんと紹介されているのも大変参考になります。

2016年10月10日月曜日

経済学、統計学、最適化のための数学の本

基本的な数学だと、『経済学で出る数学』尾山・安田、『経済と金融工学の基礎数学』木島・岩城あたりがお勧めでしょうか。

永田靖『統計学のための数学入門30講』もコンパクトにまとまっていて読みやすいと思います。

難易度が高めだけれど良い本だと思うのは入谷・久我『数理経済学入門』と吉田・島『経済学に最低限必要な数学』。どちらも味わい深い。タイトルに「入門」とか「最低限必要」とか入っていますけど、レベルは相当高いです。
 
動学マクロに必要な数学にポイントを絞った本としてこれもお勧め。『基礎から学ぶ動学マクロ経済学に必要な数学』 中田真佐

多期間最適化問題、動的計画法、ベルマン方程式を経済学の観点から説明した日本語の本は割と少ない気がします。ディキシット『経済理論における最適化』や西村清彦『経済学のための最適化理論入門』で触れられていて、この二冊はお勧めです。
英語ですが、多期間最適化問題、動的計画法、ベルマン方程式の経済学への応用はこれがお勧め。
最適化の数学は入門として『これならわかる最適化数学』金谷、高度なものに『非線形最適化の基礎』福島、『最適化の手法』茨木・福島、『凸解析と最適化理論』田中。

 最適化プログラムは『Fortran77 最適化プログラミング』茨木・福島。Fortranですが、他の言語への移植も簡単かと思います。
これにも準ニュートン法などのC++のサンプルコードがあります。CD-ROM付きがお勧め。
Numerical Recipes with Source Code CD-ROM 3rd Edition :
経済学における数値計算ではこの本がお勧めです。"Numerical Methods in Economics (MIT Press)" Kenneth L. Judd
機械学習のための最適化の本だと、この本が手に入りやすいと思います。



2016年7月3日日曜日

『最新 日本経済入門』 小峰 隆夫, 村田 啓子


日本経済についての良い入門書。データに基づいて日本経済を様々な視点からバランス良く見る目が養えると思います。紙は5版、kindleは4版まで出ているようです。私が読んだのは3版。

「日本経済を考えるということは、経済学の応用問題だと言えます。経済学が教えてくれる理論や経済的なものの考え方を踏まえて、日本経済の姿を見直してみると、それを踏まえないよりはずっと明瞭に経済の動きを理解することができます」

小峰氏が考える「経済の基本」は次の四つ。
・整理して考えよう
・データに基づいて考えよう
・「自由」が経済の基本
・一般均衡的なものの考え方をしよう

「整理して考えよう」

経済は一般に考えられているより範囲はずっと広い。こうした多様な経済問題を考えるとき、「誰が行うのか」という経済主体軸、「どんな経済活動を行うのか」という経済活動軸、「国内問題か国際問題か」という国境軸、「どんなタイムスパンか」の時間軸の4つで整理する。

「データに基づいて考えよう」

「経済問題を議論するときはできるだけ客観的なデータに基づいた議論を展開することが重要です。この「データに基づいて考える」ということは、経済を観察する上で大変重要なことです。これは、私の見るところ、経済学の本質的な部分に根差しているように思われます。」
物理などの自然科学と比べると、経済学などの、「社会科学という学問の大きな特徴は、「唯一の正解はない」ということであることが分かります。その証拠に、世の中には山のように経済的問題があふれていますが、論じる人によって問題解決のための処方箋は異なっています。これは社会科学は「実験ができない」という根本的な限界があるためだと思います。自然科学であれば、条件をコントロールした実験を行うことによって、因果関係を厳密に証明することができ、疑問に思った人は追試をすればよいのです。
しかし、社会科学ではそうは行きません。そこで、たくさんの議論がある中で、自分の主張を納得してもらうためにはどうしてもデータで裏付ける必要があるのです」
「経済問題というものは「誰もが論じることができる」という特徴があります。(中略)私は、「データで根拠を示しているか」ということは、その議論が単なる「茶飲み話」か、きちんとした「経済的な議論」かを区別する一つの基準となるものだと考えています。しかし、データは分かりやすいだけに、誤った結論を人々に信じさせる場合もあります。(中略)データを活用した議論は、切れ味の良い包丁のようなものです。正しく使えば美味しい料理を作るための便利な道具となりますが、使い方を誤るととんでもない凶器ともなるのです。データを説明しはじめると、「細かい議論はいいから、結論だけ言ってくれ」と言いたげな反応を示す人もたくさんいます。しかし、データを凶器に変えないためには、我々一人一人がデータの内容を吟味しながら経済の議論に加わっていくことが必要です」

「自由が経済の基本」

一定の前提の下、自らの利益の最大化を目指して行動することが、社会的に見ても資源の最適配分が実現するという価格理論は経済学の基礎だが、現実の日本経済を論じる場合も基礎となる。経済的な目的はインセンティブで誘導したほうが良いし、少ない規制、小さな政府が望ましい

「一般均衡的なものの考え方をしよう」

「「部分均衡的に考える」ということは、何か一部が変化した時、他の部分は一定として、その変化した部分の影響だけを考えるという考え方です。一方、「一般均衡的に考える」ということは、何かが変化したとき、できるだけ多様な変化の経路を考慮して、全てが変化し終わったときに何が起きるのかという考え方です。」
「「できるだけ部分均衡的な考え方をしないようにする」、これは経済問題を考えるときの一つの鉄
則だと思います」

そういう意味では、黒田日銀の「マネタリーベースを2倍にすれば、2年で消費者物価上昇率2%」というのは、「データに基づかない」、「部分均衡的な考え方」の典型例ですね。

2016年5月5日木曜日

時系列分析のお勧め本リスト


時系列分析のお勧め本のリストを作成しました。みなさんのお役に立てばうれしいです。

時系列分析の本は多くはないですが、それぞれ特徴があるので、ハミルトンを中心としつつ、自分の興味に合った本を読んでいけばいいのではないかと。サンプルコードがついていれば、より理解が深まります。
あと、洋書のpdf、なぜかまるまるネット上に落ちていることがあるので、ダメもとで探してみると見つかるかもです。
時系列分析なら、今でも北川源四郎『時系列解析プログラミング FORTRAN77』が最高だと思う。絶版ですが。改訂版の『時系列解析入門』でFORTRANのコードを省いてしまったのは残念。
この本のFortranのプログラムのライブラリをRを使って呼び出すパッケージを統計数理研究所が公表している。
『時系列解析プログラミング』にモンテカルロ・フィルタの章を追加して、FORTRANのコードを除いたもの。最近モンテカルロ・フィルタのコードを書くのに参考になった。
時系列解析といえばこれが鉄板。ハミルトンの上下さえ押さえておけば十分ではある。
入門編的な本
カルマン・フィルターの理論的説明としては優れている。

赤池先生の古典的名著。AIC誕生のきっかけになったセメント・キルンの制御についてまとめられています。Fortranのコードもついています。 

2018年の本。Rで実装できます。カルマンフィルタだけでなくMCMCや粒子フィルタも。

これも2018年の本。RとStanで実装できます。
Matlabのサンプルコードを出版社(朝倉書店)のウエブサイトでダウンロードできる。粒子(モンテカルロ)フィルタのコードを書くのに大変参考になった。お勧め。
これもすごく良い本。絶版。STAMPのサンプルコードがネット上にあるはず。しかしAmazonの中古高過ぎでしょ。
北川の本をRで再現。
これもよい本。カルマンフィルタと非線形カルマンフィルタ。
VAR, Garch等。カルマンフィルタはなし。 S+FinMetricsは高くて個人では買えない。
VAR, Garch等。カルマンフィルタはなし。EViewsの学生向けなら個人でも買える。
1変量のARMAモデル等を丁寧に解説。入門にいいかも。
PcGiveはOx言語で書かれている。日本だとOxってあまり使われてないんですかね。
ITSMというソフトがついているけど、これも絶版ですねえ。
私は紙の本を買ったのだけれど、ネット上にPDFがある。

これも良い本。レジーム・スイッチング・モデルならこれ。GAUSSのコードが参考になる。
著者のウェブサイトにもGAUSSのコードが。
わりと有名な本。
国友直人、山本拓が翻訳。

さすがにちょっと古くなってきましたかね。
沖本先生の本、比較的新しくて評判がいいです。私はまだ持っていない。
個人的に、いろいろと参考になった本。谷崎久志氏のウエブサイトで印刷不可なpdfを読める。
私は持っていないのだけれど、ツイッターで紹介されました。
時系列分析の実務への応用例(1)

時系列分析の実務への応用例(2)。最後の章のAICの赤池弘次氏の「時系列解析の心構え」が味わい深い。

以上が時系列分析についての本のリストです。時系列モデルの選択に使われるAIC等の情報量規準についても何冊かあるのでご紹介します。
 
時系列モデルの選択で使われる情報量規準についての統計学の本。時系列分析の本ではない。
一般化した情報量基準についての統計学の本。時系列分析の本ではない。
情報量規準による統計解析の入門書。前の二冊より一般向けなので、これを先に読んだ方が理解が早いかも。