2011年7月16日土曜日

確率制御・動的計画法




私の修士論文のテーマは”多期間最適ポートフォリオ”で、当然ながら確率制御(Stochastic Control)や動的計画法(Dynamic Programming)の応用にも興味があったのだが、やや特殊なCampbell et. al.の理解に手間取って、Campbell et. al.で時間切れとなってしまった。
先日、小山の「経済数学教室8 ダイナミック・システム(下)」を本屋で立ち読みしていると動的計画法が出ていたので、もう一度きちんと勉強しておきたくなった。ICSの博士課程の人はKaratzas&ShreveのMethods of Mathematical Financeを読んでいるとツイッターでつぶやいていた。ただ、時間がないなあ。
ファイナンスへの応用としてはKornの"Optimal Portfolios"が良いと思う。また、確率制御自体についてはYong & Zhou "Stochastic Controls"、経済学への応用としてはAdda & Cooper "Dynamic Economics"、Judd "Numerical Methods in Economics"の12章など。

日銀のワーキング・ペーパー・シリーズは宝の山

知っている人も多いと思うけど、日銀のウェブサイトで公開されているワーキング・ペーパー・シリーズは資産運用の関係者にとっては宝の山です。日本のトップ・レベルの頭脳が世界の最前線の理論を分かりやすくまとめてくれて、おまけにデータを使った実証例まで公開してくれています。これを使わない手はないと思います。個人的に興味のある論文を二つほどメモ。


 低金利通貨が減価しやすいという現象は、多くの先行研究で確認されている。これは、「カバー無し金利平価」と呼ばれる理論と正反対の動きであり、経済学において最も注目されている謎の一つである。
 本稿では、4通貨(日本円、英ポンド、スイスフラン、ドイツマルク)の対米ドルレートに対してレジーム・スイッチング・モデルを適用し、為替レートとそのボラティリティ、および、内外金利差の関係について分析した。4通貨に共通してみられた主な結果は以下の通りである。
(1) 為替レート変動のかなりの部分は、金利差との関係の変化に起因する。
(2) 低金利通貨の増価は、減価と比べ、頻度が低いが、発生した場合の動きは速い。
(3) 低金利通貨の減価と低ボラティリティ環境の間には、相互依存関係がある。
(4) 上記(1)~(3)の結果は、為替レート変動の計測期間別にみると、6か月よりも3か月の方において、より明確である。
 これらの結果は、以下の様な市場参加者の見方と整合的である。すなわち、低金利通貨安の背後には、短期的な投資を中心としたキャリー・トレードの影響があり、特に低ボラティリティ環境下ではこうしたポジションが構築されやすいが、一旦巻き戻されると低金利通貨は急騰し、ボラティリティも高まり易いとの見方を裏付けるものとなっている。


国際商品市況は、2009年以降、株価との連動性を高めつつ、上昇基調を続けている。その主たる原因を探るために、市況変動についてVARモデルによる要因分解(historical decomposition)を行った。その結果、世界経済の回復に伴うコモディティに対する実需の増加と、世界的に緩和した金融環境の2つが、市況上昇を牽引していることが定量的に確認された。この点は、2008年夏にかけての市況急騰が、証券化商品市場や株式市場など他の金融資産市場からの大幅な資金流入(flight to simplicity)によってもたらされたこととは大きく異なる。また、リーマンショック以降、コモディティと株式の市場間連動(cross-market linkage)が高まっていることに関しては、金融危機に伴う世界経済の大きな振幅が商品市況と株価の共変動を高めた側面のほかに、コモディティの価格が消費財としてよりも投資対象資産として変動する傾向を強めている側面――いわゆる、コモディティの金融商品化――も影響していることが定量的に確認された。

日銀のワーキング・ペーパーはレベルが高いけど、欧米のワーキング・ペーパーの中には、実務に直結した(つまり、いかにお金を儲けるかについて書かれた)ペーパーも多いので、探せばいろいろと参考になるよ。欧米の学者は本気で金儲けしようと考えている人が多いし、あわよくば金融機関に高額で引き抜かれることを狙っている人もいるからね。

ファイナンスのための確率解析2(シュリーヴ) 5章前後

久しぶりにシュリーヴを読み返す。

リスク中立確率の下では、割り引いた派生証券価格がマルチンゲールである。
リスク中立価格評価法は、派生証券価格を求める際の極めて強力な手法ではあるが、評価される証券の売りポジションのヘッジが存在する場合にのみ正当化される。
【資産価格評価の第一基本定理】 市場モデルにリスク中立確率測度が存在するならば、そのモデルに裁定は存在しない。
市場モデルにおいて全ての派生証券がヘッジ可能な場合、そのモデルを完備という。
【資産価格評価の第二基本定理】 リスク中立確率測度が存在する市場モデルを考える。このモデルが完備となる必要十分条件は、リスク中立確率測度が一意であることである。
【Levyの定理、1次元】 M(t)、t≧0を、フィルトレーションF(t)、t≧0に関するマルチンゲールとする。M(0)=0であり、M(t)は連続な経路を持ち、全てのt≧0に対して[M,M](t)=tであると仮定する。このとき、M(t)はブラウン運動である。
マリオ、今なら分かるよ…マリオ! あ、マリオじゃなかったシュリーヴ…

2011年7月10日日曜日

商品先物のプロップファーム

プロップファーム… ああ、この甘美なる響き…
プロップファームというのは投資信託やヘッジファンドが顧客の金を運用するのに対して、自己資金のみを運用する組織。普段、制約でがんじがらめの身からするとプロップファーム≒楽園をイメージしてしまう。現実はもう少し違うのかもしれないけど。
「億を稼ぐトレーダーたち」を読んでいると、二つのプロップファームが出てくる。ひとつは山前商事、もう一つはエイ・ティ・トレーダーズ。

山前商事の西村正明さんは、以前から商品市場のアービトラージ(裁定取引)で利益を上げていた。山前は2006年に顧客注文取次ぎの委託業務をやめ、自己資産運用のプロップファームとして再スタートした。
「そういった経験もふまえた私の結論は『理論のないトレードはしない』ということになるのです。 多くの人は、夢を追いすぎていると思うのです。FXの流行は、多くの人が夢を追いすぎていることを証明する一つの現象かもしれません。『上か下か』に興味のない私にとっては異次元の世界です。私にとっては、彼らがやっているのはトレードではなく”駆け引き”です。切った張ったの人たちは視野がとても狭い面があります。この業界で稼ぐと、曲がった世界に行く人が多いようです」(西村)

エイ・ティ・トレーダーズというプロップファームを経営する高橋良彰氏。17年間、月間で1人もマイナスを出さず、チームで100億円の利益を積み上げてきた。基本は、先物における限月間のサヤ取り。 「生産者や商社といった実需家のヘッジ機能を提供するのが市場の役割なのですから、商品先物市場の落ち込みは社会インフラが貧困なことの現れです。実際、商品先物のオプション取引は全く商いがありません。とても悲しい事実です。(テクニックを身につけるうえで大切なのは)まじめ、素直-この2つが非常に大切です。頭の良し悪しは、関係ないと思います。中途半端に頭がよくて、ひねくれている人が一番やっかいです。(個人が)完全に単独でトレードし続けるためには、たいへんな精神力が必要だと思うのです。ですから、その難しさを補う何かが不可欠です。トレードとは相反することなのかもしれませんが、『社会とつながっていること』が大切だと思うのです。仕事をした対価としてお金をもらうのは当然ですが、お金だけもらえればいいのか、と考えてしまいます」(高橋)
個人トレーダー、秋山昇氏も出てくる。氏のホームページ 「先物探花」
累計利益が一時5億円までいった秋山氏は大学で数学を専攻し、確率論を勉強していた。そして今は、コンピュータ関連の仕事をしている。プログラミングができるので、過去データを使った検証などはお手の物。
秋山氏も柳葉氏も確率の理論をストレートに相場に持ち込んでいること、過去データを使った検証を徹底していること、プログラミングの技術があること、などが共通点。しかし実際の売買は異なる。秋山氏の、下げ相場で売り浴びせて崩していくスタイルは、実は私の好きなスタイル。90年代の日本株の下げ相場で、私の上司だったH課長の凄まじいディーリングに度肝を抜かれたのが私の原体験。でも私には課長ほどの才能がなかった。

本とは関係ないが、米国のプロップファーム"Jane Street"というところが日本に進出していたらしい。もうすでに撤退しているらしいが。「現在有効な最も効果的なツールを使うしかないと判断し、今では OCaml を商業的に活用している最大のユーザーとなりました。このような状況下、Jane Street は、世界中から関数型プログラマーを引き付ける存在となり、世界でも有数の開発チームを擁するまでになっています」。OCamlとかHaskellとか、あきらかにおもしろそうだけど、新しい言語を覚える時間がない。

【追加】

2011年7月9日土曜日

資本主義では利潤は正当化される。損失を出すことが罪悪。

かねがね尊敬しているツイッター友達のトレーダーが、「お金を儲けることに罪悪感を覚える」とつぶやいていたので、驚いてしまった。彼は基本的にいい人なのだ。
我々が生きている資本主義の世界では、お金を儲けることに罪悪感を覚える必要はまったくない。むしろ損失を出すことが罪悪である。
安く売りたい人から買ってあげて、高く買いたい人に売ってあげているわけだから、トレーダーも社会に貢献している。儲かったお金で消費すればもっと貢献できる。罪悪感を持つことはない。資本主義では利潤は正当化される。損失を出すことが罪悪。
このあたりは「小室直樹の資本主義原論」に分かりやすくまとめてあるので引用してみる。小室はいろいろ評価が分かれるところだが、マックス・ウェーバーを使って日本経済を語るときの切れ味は鋭い。

「資本主義になってはじめて「利潤」が正統化された。資本主義においては、利潤追求それ自身が無条件に正当化される。その追求を制約する上位規範が存在するわけではない。
それゆえ、資本主義においては、利潤原理(企業が利潤を最大化する行動)が根本規範となる。利潤原理に反する行動は、モラル・ハザードのあらわれであるとされる。
利潤マイナスの状態が長期間続けば、企業は破産する(こともある)。『破産』こそ、市場原理の決め手である。
破産によって、『資本主義にふさわしくない』企業は、市場から退出する。『資本主義にふさわしい』かどうかを市場原理によって判定する者こそ利潤原則である。
利潤原理に基づく破産によって企業を淘汰する。この自浄作用こそ資本主義の生命である。
日本では、官僚による経済支配(40年体制のスタート)以来、利潤原理は否定されっぱなしで今日にいたる。そして『今日においてさえも、株主に高額の利潤を還元することが企業の使命である、と公言する日本企業のトップは非常に少ない』。日本において利潤原理が正統性を得ることは、ついになかった。」

利潤を生み出せないので、そのかわりに自社株売却代金を利潤に見せかけようとした企業の元社長が収監されるのは、あたりまえだと思っている。

2011年7月5日火曜日

【日経】日本の投資信託60年(上)

今日の日経新聞の記事をメモしておく。見出しとして「運用不振 浸透道半ば」「個人金融資産の4%どまり 欧米との差広がる」「営業力が物いう」

純資産残高     日 63.72、 米 963.51、 英 72.93、 仏 130.59 (兆円)
1人当たり保有額  日 50、 米 311、英 118、仏 207 (万円)

1951年6月の証券投資信託法の施行で現行の投信が誕生して60年が過ぎたらしい。
日本も80年代までは投信の普及率で欧米に引けを取らなかった。差が広がったのは「日本株の長期低迷などで、個人の間で利益を得たという成功体験が乏しい点が最大の問題だ」(GSAM 山田俊一)
投信の成績不振は「相場のせい」だけでは片付けられない。「選別投資をきちんとしていたら、日本株投信でもプラスの運用成績を確保できたはずだ」(野村総研 堀江貞之)
過去10年でTOPIXは30%近く下がったが、個別銘柄では全体の48%の銘柄が値上がり。目利き次第ではファンドの値上がりも可能な環境だったといるが、日本株投信(アクティブ型)の85%の基準価格は下落した。
運用会社は大半が証券会社や銀行のグループ会社で、販売会社の方が運用会社より力関係が強い。「日本では個人の意向より販社の売りたい商品がトレンドを作る」(米系運用会社)
「運用成績ではなく販売会社の営業力で投信の売れ行きが決まるため、運用者の成績向上に対する意識が低い」(レオス・キャピタルワークス 藤野英人)
日本の投信に問われているのは「運用力」という金融商品としての基本的な機能だ。

以上が、日経の抜粋。個人的に付け加えると、「運用力」があったとしても、パフォーマンスが良いと逆に換金売りで純資産が減っていくからね。

2011年7月3日日曜日

「億を稼ぐトレーダーたち」はおもしろい

「億を稼ぐトレーダーたち」はおもしろいのでお薦めです。まだ3人分しか読んでいないのですが、買ってよかったと思いました。渡辺博文さんは本当は作家になりたいんですね。渡辺博文名義とは別に、相野誠次というペンネームで「機関投資家のウラをかけ!」という本も書かれているんですね。
個人投資家向けのセミナーで話をすると、聞きに来ている人は1時間くらいの話の間はほとんど寝ていて、最後に「注目銘柄は…」といったところで急に起きてメモするんですよね。私も何回か経験があります。そういう人はよく考えないでそういう銘柄を買うんでしょうね。証券会社やセミナー講師は儲かる銘柄を教えてくれればいい、という雰囲気で、なぜその銘柄がいいか悪いかと考えるのかという点には興味がないんでしょうね。まあ、宝くじを買う感覚で株を買うのですかね。
渡辺氏は、証券会社のアナリストが目先の利益予想に囚われていることにも批判的で、私も同感です。渡辺氏の経歴はかなり私と被っており、彼の考え方は非常に共感を覚えます。
この本からいくつか引用しようかなと思っていたら、この本の発行者の細田聖一氏がご自信のブログで紹介されているので、そちらをご覧下さい。
細田さんは土屋賢三さんとも古くからのお友達なのですね。
【追加ブログ】

2011年7月2日土曜日

大宮で本を買う

久しぶりに大宮に行った。
パレスホテル大宮が運営するフランス料理のレストラン、「ペイサージュ」で食べた昼飯はおいしかった。「ペイサージュ(景色)」という店名の通り、ソニックシティビル31階・地上120mからの景色も魅力で、埼玉はもちろん、都内のビル群まで望むことができる。料理はさまざまな野菜を盛り込み、シンプルに味付けしたヘルシーなフレンチ。写真はペイサージュの窓から撮ったもの。
ロフトにあるCD店のWAVE大宮店が閉店セールをしていた。私の周りからCD店がどんどん姿を消していく。時代の流れか。
ジュンク堂書店大宮ロフト店は品揃えが充実していた。「最初の刑事」「大洪水」「経済学に最低限必要な数学」を買った。「ヒルベルト」「カズオ・イシグロ 境界のない世界」「百年の孤独を歩く」「ブラッドベリ年代記」は泣く泣く次回に回す。最近、本を買いすぎだな。