2010年5月30日日曜日

コンラッドの「闇の奥」、新しい神話

読んでいて、「あれ、『地獄の黙示録』に似ているな」とおもったら、なんのことはない、『地獄の黙示録』は実は『闇の奥』を基に作られていたのだった。
導入部は私たちという視点だが、本編のほとんどは「マーロウ」が語る構成の一人称。マーロウの視点からコンゴの森のなかで狂っていったと思われるクルツが描かれる。象牙収集などのために欧州白人に黒人が過酷な労働を強いられていることなども描かれる。当時としては衝撃的な内容だっただろう。その衝撃を薄めるためか、あるいはコンラッドの文章のスタイルなのか分からないが、描写が直接的ではなく、あいまで象徴的なときが多い。それでこの小説は難しいという印象を与えるのかもしれない。
神話から多くの戯曲や小説が生まれたように、新しい作品を生み出す力を持つ作品というのがある。例えば、ホメロスの『オデュッセイア』からジョイスの『ユリシーズ』が生まれたように。あるいはハメットの『血の収穫』から黒澤の『用心棒』がうまれたように。
『闇の奥』からもゴールディングの『蠅の王』、村上春樹の『羊をめぐる冒険』『1Q84』、伊藤計劃の『虐殺器官』が生まれていることを考えると、『闇の奥』は現代の新しい神話といえる。
翻訳は丁寧で大変読みやすい。

ゴルフのコース・デビューは東雲ゴルフクラブ

生まれて初めて、ゴルフ・コースに行って来た。体中が痛い(笑)。力が入りすぎ。しかもひたすら走っていた印象。
ICSの同期と現役ばかりで気心が知れたメンバーだったのはありがたい。1組目でしかもくじで1番をひいてしまい、最初のドライバーはものすごく緊張してしまった。地に足が着いていない感じで第1ホールの記憶はほとんどない。パー5で12叩いている。
それでもOUT74で、昼飯を食って心に余裕ができてくるとINは63とまずまずで回れた。まあ、途中でそうとう空振りしていて、見逃してもらっているわけだが。
ドライバーが飛ばないので、池ポチャ1回以外はOBがなかったのがよかった。バンカーからのリカバリーとパットもよかった。
Mさんに「体重移動ができていない」と指摘される。練習でもできていないので、コースに出るとますますできないな。ただし、クリーンに当たらなくてもボールはころがっていくので、意外と前には進むのだということは新鮮な驚きだった。でも、一番びっくりしたのはカートが無人で進むこと。すごい技術だ。
ということで、多くの課題が見つかったコース・デビューだった。あと2週間でどこまで修正できるかな。
18ホールを終えてクラブが2本足りないことに気づく。明らかにどこかで置いてきてしまった様だ。後ろの組の人に聞いても見なかったという返事。するとゴルフクラブの人がカートで一緒に探してくれた。後ろのホールから順に探していっても見つからない。仕方ないので諦めて、後で見つかったら送ってもらうことにした。風呂に入り清算を済ませてコーヒーとケーキを食べて、そろそろ帰ろうとしたときにゴルフクラブの人が探していたクラブを持ってきてくれた。17番のグリーン周りにあったそうだ。東雲ゴルフクラブの皆様は大変親切でした。どうもありがとうございました。

2010年5月28日金曜日

ポルトガル料理のマヌエルの1ポンド・ステーキ

半年間、ジョブ・ローテーションで部下だった新人が移動するので、記念にみんなでポルトガル料理「マヌエル」の1ポンド・ステーキを食べる。1ポンドは500グラム弱かな。肉が柔らかくて、意外と平気に食べられる。ただし、午後の睡魔との闘いが壮絶になる(笑)。
あしたは、ゴルフのコース・デビュー。がんばろう。

2010年5月25日火曜日

D証券の為替セミナー

ホテル・ペニンシュラで行われたD証券の為替セミナーに行ってきた。3人のエコノミストやストラテジストの話を聞いた。この手のセミナーではいつも感じるのだが、こういう話を聞いて何か運用の役に立つのかな?という気がする。別にD証券がどうのこうのではなくてどこの金融機関も似たり寄ったりだが。
資料は、似たような動きをする経済指標のグラフを並べたもので埋め尽くされている。よく見つけてくるものだと、いつも感心してしまう。でも、それでどうしたの、と思ってしまう。
経済学や国際経済学の知見がまったく活用されない。勉強不足なのか、それともあまり難しいことを言っても客には受けないと思うから?きちんと経済学的なモデルを基礎とした議論になっていないから、印象論、感覚論で終始してしまう。唯一使われるのが購買力平価。
民間のエコノミストの書く本には「トンデモ本」が多い。なんで基本的な経済学すら勉強しようとしないのかね?それでなんで”エコノミスト”になれるのか理解不能。うちのグループのエコノミストの本もトンデモ本だったが、それがまた結構売れてたりする。なんで?
日本は、なんでアカデミックの研究が実務に活かされることが少ないのかな(特に文系)。


2010年5月23日日曜日

2010年度日本ファイナンス学界第18回大会

5月22日、23日と上智大学で行われた『日本ファイナンス学会』に行ってきた。久しぶりにアカデミックの世界にどっぷりとつかる。たまにはレベルの高い話を聞いて刺激を受けないと。いくつか、印象に残ったものの備忘録。

『モンテカルロ・フィルタによる信用リスクの推定』 三崎広海(東京大学)
デフォルトのないイールドカーブを2ファクターでモデル化し、クレジット・スプレッドのインテンシティ(強度)を別のファクターでモデル化。パラメータの推定にモンテカルロ・フィルタを利用。今、自分が仕事でやろうとしていることに非常に近いので参考になった。もっともこちらはモンテカルロ・フィルタではなくカルマン・フィルタが精一杯だが。モンテカルロ・フィルタは計算負荷が高い割りに、出てくる結果はあまりカルマン・フィルタと変わらない印象がある。実務的には計算負荷が大きいと実用化は難しい。
『多変量・動的コピュラ関数を用いたアセット・アロケーション』 中村信弘(一橋大学)
われらが中村先生。相変わらずの中村節。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の競争入札委託研究らしい。多変量・動的コピュラモデルでモデル化し、それを使って投資ホライズンまでの将来リターンをサンプリングしてCVaRを最小化手法で基本資産クラスの最適投資ウエイト決定問題を解く。コピュラは動的混合ヴァインコピュラ(ヴァインコピュラといえばNさんを思い出す)。討論者の塚原英敦さん(成城大学)はコピュラの専門家らしいが、すごいロン毛とサングラスっぽいメガネでどうみても大学教授には見えないな。会場からピントはずれな質問が出て驚く。ピントが外れすぎていて中村先生も質問の意味がなかなか理解できないようだった。
『イールドカーブと景気予測』 高岡慎(琉球大学)
Nelson-SiegelモデルでGDPを予測。GDPはカルマンフィルタで月次化。討論者の祝迫さんは、Nelson-Siegelでなくてもイールド・スプレッドでいいのでは、GDPを月次化したものを予想してもあまり意味は無いので鉱工業生産などを予測すれば、という尤もな指摘。同期のMさんも来ていた。
『信用リスク移転機能の発展と最適ローンポートフォリオ選択』 新谷幸平(日本銀行)
ポートフォリオ選択問題を用いてクレジットデリバティブや証券化が銀行経営に与える影響を分析。個人的には非常に面白かった。ただ、討論者がひどい。他にいなかったのかな。
『アジアの株式市場もおける連関と金融危機』 張艶(福岡女子大学)
ただ単にアジアの各市場のリターンをVARで分析しましたというだけの研究。これならICSの修論のほうがレベルは高い。討論者は青学の芹田先生。

出口で偶然、ICSの沖本先生にお会いした。向こうから会釈をされたので、こちらも会釈をした。「ICSの人ですよね」と話しかけていただいた。名前はともかく、顔は憶えていていただいていたらしくて、少しうれしい。時系列分析を学習するものとして、沖本先生を尊敬しております。少しお話をした。2週間前にアメリカから戻られたとのこと。このあとも、2箇所ほど出張して話をされるということで、巨大なサムソナイトを持ち歩いておられた。
近くの教会に行くクリスチャンと上智大学が会場となった測量士試験を受ける人たちで、歩道がものすごく混んでいた。やれやれ。測量士試験を受ける人たちは職人風の風貌の人も多く、明らかにファイナンス学会系の人種とは異なっていた。歩道で測量士試験関連の専門学校のバイトの人たち数人が並んでビラを配っていて、俺にも渡そうとする。だから、おれは測量士試験とは関係ないって。

2010年5月17日月曜日

Dynamic Term Structure Modeling

全部で650ページ、ひたすら期間構造モデルについて書かれている。丁寧に記述されているので分かりやすい。ただし、期間構造モデルの分類の仕方にすこし癖があるので慣れるまでは戸惑った。
この本は期間構造モデルを大きく二つに分けている。一つはファンダメンタル・モデル、もう一つはpreference-freeモデル。違いは、前者が”リスクの市場価格 MPR”の明示的な特定化が必要なのに対して、後者は必要ない。preference-freeモデルにはsingle-plus, double-plus, triple-plusの三種類がある。
preference-free single-plusモデルがMPRの特定化を必要としないトリックはファンダメンタル・モデルの下で与えられるボラティリティ関数の型と同じ型を使うことで確率的債券価格過程を外性的に特定化することである。外性的な確率的債券価格過程は、外性的に与えられる時点ゼロの債券価格、またはフォワードレートの解と組み合わされて、時間均一なリスク中立短期金利を導く。
preference-free double-plusモデルがsingle-plusモデルと異なるのは、MPRの特定化が不要なことに加えて、時間不均一な短期金利のドリフトを許容することで、初期時点の債券価格に完全にフィットさせることが可能。
preference-free triple-plusモデルがsingle,doubleと異なるのは、それに加えて、時間不均一なボラティリティを許容するから。現実的にはtriple-plusモデルはパラメータが多くなりすぎることと”スムージング”の批判を免れないことから、preference-free double-plusモデルで十分とのこと。
ページ数は多いが、英語が平易なのですらすら読める。期間構造モデルの本としては、なかなかいい本だと思う。

2010年5月15日土曜日

相場見通しをいかに債券ポートフォリオに実現させるか

元リーマン・ブラザーズ(現バークレイズ)の債券クオンツ分析チームがリーマン時代にブローカーズ・レポートとして機関投資家向けに書いていたものなどを一冊の本としてまとめたもの。実務よりの内容でありながらファイナンス理論との整合性も高い。彼らのレポートはリーマン時代から質の高さで定評があった。英語版の全訳ではなく抄訳になっている。
訳者あとがきにもあるとおり、この本の特徴は「市場に対する見通しや予測は投資家自らが行うものだ、という立場が貫かれて」おり、その見通しをどのようにポートフォリオとして実現させていくかが主題となっている。
債券の価格付けについての本ではないので、積分は出てこない。相場予測の話も出てこない。インデックスの複製やトラッキング・エラー、債券のアセットアロケーション、MBS、クレジットのリスク管理などの話題が中心になる。
債券の教科書は理論的なものはいくつか出ているが、実務よりのものは意外とない。そういう意味では貴重な本。これとブラックロックの「債券投資のリスクマネジメント」くらいか。
翻訳のレベルは高く、大変読みやすい。

2010年5月10日月曜日

ソブリン・リスク,ソブリン・スプレッド,ギリシャ

久しぶりにマーケットが大きく動いて楽しい。最近流行の通貨選択型の投資信託はひどいもので一日で1割以上下がっている。だから言わんこっちゃ無い。為替リスクをなめたらいかん。
ギリシャは、中南米の債務危機のようになるんじゃないかな。restructuringとかrenegotiationといって、債務の額を減らして返しやすくすることになると思う。ギリシャだけなら小さいけどポルトガル、スペイン、イタリアまで広がると問題が大きくなって困るね。中南米のときは各国の通貨が違っていたから、その通貨がデバリューして下落していったけど、今回はユーロなのでややこしいよね。ダフィーが言っていた様に、社債と違って国債のデフォルトは政治的判断になるので、最終的にデフォルトするかしないかは欧州の政治家が話し合って決まるんだと思う。
信用リスク・モデルをソブリン・スプレッドの分析に応用した二つの論文を読む。
Interpreting sovereign spreads
Remolona, Scatigna, Wu BIS Quarterly Review, March 2007
  • ソブリン・スプレッドは『予想損失』と『リスク・プレミアム』の二つの要素に分解できる。『リスク・プレミアム』は予想外の損失のリスクに対して投資家が付けた価格を反映している。
  • ヒストリカルな格付け毎のデフォルト確率をソブリン・リスクの測度にすることを提案。
  • 予想損失をデフォルト確率とLGDの積として推定。
  • 予想損失がスプレッドに占める比率は低い。新興国国債における比率は社債における比率よりも低い。
  • ソブリン・スプレッドにおいてはリスク・プレミアムが大きな比重をしめる。
Modeling Sovereign Yield Spreads: A Case Study of Russian Debt
Darrell Duffie, Lasse Heje Pedersen, and Kenneth J. Singleton (2003) "The Journal of Finance"
  • 米国ドル・LIBOR・スワップカーブを参照カーブとしてそれに対する米国ドル建てロシア国債のスプレッドをモデル化
  • 国債と社債の違いもモデル化(社債のデフォルトは1回のみで破産法に従うのに対して、国債は完全なデフォルトはあまりなくて、リストラクチャリングまたはリネゴシエーションになる。国債のデフォルトは政治的意思決定である。国債にはクロスデフォルト条項が付いていることはほとんどない。・・・)
  • 誘導型でモデル化。ロシアの財政データはそもそも信用できないので構造型のモデル化は不可能。
  • ボラティリティと短期金利の2ファクター・アフィンで参照カーブをモデル化、そしてそこで推定したモデルのパラメータでスプレッドを加えた3ファクター・アフィン・モデルを推定。
写真はデフレの象徴、ゴジラ(と、ピーター・タスカが言っていた)。

2010年5月6日木曜日

はじめてのルベーグ積分 寺澤順


丁寧な説明で、ルベーグ積分の最初の入門に最適
0章から4章まででルベーグ積分に必要な準備を、集合から外測度、測度、可測関数と丁寧に説明してくれています。ツァピンスキ、コップの「測度と積分」をいきなり読んでも難しいと感じたら、先にこの本を読めばいいと思います。数学のプロになる気はなくてファイナンスのために手っ取り早く測度とルベーグ積分を理解したいという人には最適だと思います。シュリーヴの「ファイナンスのための確率解析2」を読む前にもこれを読んでおけば、理解が深まると思います。

2010年5月3日月曜日

『私の男』 桜庭一樹

過大評価されているのではないか。
この程度で直木賞を取れるのか、と思う。
男が自分の娘と近親相姦する話。男と娘がそれぞれ殺人を犯すのだが、その構成が稚拙。流氷の上に残して殺すってありえないでしょう。元刑事が男を訪ねてくることも不自然。証拠のカメラを持っているのなら警察に届けるでしょう。極めつけは、男が自分の娘に「おかあさん」というところ。いくら母親に厳しくされたからといって、自分の娘におかあさんはないでしょう。
文章もあまりうまくない。ところどころに、どこかから借りてきたような文学的な表現を挟んでいるのが逆に不自然。
直木賞、芥川賞の選考委員の質と選考方法に問題があるとは思うが、テーマにしろ表現方法にしろ、この程度で直木賞を取れるのなら、他にも受賞すべき人がたくさんいるのでは。若い女性に賞を与えたほうが出版界としてもメリットが大きいという魂胆かと勘ぐってしまう。