2013年3月31日日曜日

『賃金上昇、デフレ脱却のカギ』 日経「経済論壇から」

今週は福田慎一東京大学教授がまとめられています。
「デフレが経済低迷の原因なのか結果なのかは議論が分かれるにしても、デフレ自体を好ましいと考える経済学者やエコノミストはほとんどいない。」

吉川洋東京大学教授(週肝東洋経済3月23日号)は、「日本だけがデフレに陥った主たる原因は名目賃金の下落にある。日本企業が国内外で厳しい価格競争とコストカットのプレッシャーにさらされるなかで、雇用を守ることが労使の共通認識となり、結果として賃金引下げと物価の下落が同時進行した。」

ただ、日本企業の生産性が依然として伸び悩んでいるのに賃金の持続的な上昇が実現可能なのか?

宮川努学習院大学教授(週刊エコノミスト3月19日号)は、「近年のわが国の賃金の下落は、技術力、国際競争力からみて不相応に高水準となっていた賃金を適正な水準へ戻す動きにすぎない。産業構造の転換や生産性の向上を伴う経営改革に加えて、国際競争力を向上させる人材育成なくしては、日本企業が賃金上昇を維持することは難しく、仮に一時的に上昇したとしても再び下がりかねない。」

黒田祥子早稲田大学准教授(週刊エコノミスト3月19日号)は、「賃金の引き下げによって欧米諸国のように多くの失業者を生み出すことなく、リーマン・ショックや欧州債務危機など数々の危機を乗り越えてきた。わが国の今年2月の失業率は4.3%と、現在でも主要国の中では際立って低い。日本の硬直的な労働市場を改革することなく、賃金の引き上げを強引に推し進めれば、新たな雇用不安を生み出しかねない。賃金引上げには雇用への影響に対する十分な配慮、解雇の際の金銭解決ルールの明確化、正規と非正規という二極的な働き方を助長する法制度の見直し、ミスマッチ解消に向けた労働政策などを通じて、労働市場の流動化を促進していくことが必要。」

なかでも、若者の不安定な雇用への対策は、喫緊の課題で、高山憲之年金シニアプラン総合研究機構研究主幹(週刊ダイヤモンド3月16日)によると、「かりに正社員になっても30代前半男性の半数以上が6年以内に転職している」。伝統的に日本では、正規社員に対しては社内教育や学習効果が人的資本形成の大きな源泉の一つだった。若者の雇用が安定しなくては、宮川氏が指摘するような国際競争力を向上させる人材育成も難しい。

これらの問題を根本的に解決するには時間が必要で、積極的な緩和姿勢を表明して市場の期待へ働きかけ株高、円安を誘発しても、実態が伴わなければ、やがては市場の失望を買うことになりかねない。資産価格には期待の果たす役割が重要であるにしても、賃金や財市場におけるモノやサービスの価格は期待だけでそう簡単には動かない。

白川浩道クレディ・スイス証券チーフエコノミスト(週肝東洋経済3月2日号)は、「日本製品の国際競争力が落ちている現状では、円安が輸出の拡大につながる効果は限定的。そのうえで金融政策の財政ファイナンス的色彩が強まるなかでの国債金利の急騰リスクなど、行き過ぎた緩和政策がもたらす潜在的なリスク」に警鐘を鳴らす。

福田氏は、「デフレが長引く大きな原因は、潜在成長力の低下にある。金融緩和だけでなく、アベノミクスが3本目の矢と位置づける成長戦略がうまく機能しなければ、日本経済の本格的な回復は難しいと言えよう。金融政策が決して万能でないことは確かだ。ただ、日本経済で繰り広げられるかつてない社会実験が今後いかなる影響を及ぼしていくのか、現段階では確定的なことは何も言えない。」

福田氏は3年間続けられた日経の「経済論壇」担当を辞められるようです。お疲れ様でした。

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