2013年8月25日日曜日

ハーバード・ビジネス・レビュー8月号は「起業に学ぶ」


ハーバード・ビジネス・レビュー8月号は「起業に学ぶ」。入山章栄氏が出ているので手を取ったら、他にもDeNAの南場智子氏、堀江貴文氏、マーク・アンドリーセン、フェイスブックのCOOのシェリル・サンドバーグなど錚々たるメンバーで面白かった。

アンドリーセン「私たちが探しているのはプロダクト・イノベーターであり、同時に会社を起こしたいという起業家精神を持ち、さらにCEOになる度量と自制心も持つ人です。そのような人が本当に実力を発揮して10年間懸命に働けば、素晴らしい結果が出ます」
「その三つのうち一つでも欠けていると不幸な結果となるのが普通です」
「CEOになる能力は身につけられると思います。ですから、私たちはもっぱらイノベーターをCEOにするための訓練に時間をかけています。逆にCEOをイノベーターにする訓練に時間をかけることは、まずありません」

堀江「僕は将来を考えることに意味はないと思っていますし、そんな先のことを考える時間もありません。考えないから不安にもならない。後先考えずにいまやりたいことを一生懸命やる。その連続でいまここに立っています」

入山「アメリカの起業論でもっとも確立されたコンセプトはアントレプレナーシップ・オリエンテーション(EO)と呼ばれるものだ。EOはアメリカの起業研究者で知らないものはいない、と言ってよいほどである」
「コービン&スリーバン(1989)では、小規模企業が成功するために経営幹部に必要な姿勢に注目し、とくに革新性・積極性・リスク志向性の三つが重要だと主張。新しいアイディアを積極的に取り入れる姿勢であり、前向きに事業を開拓する姿勢、不確実性の高い事業に好んで投資する姿勢のこと」

クリステンセンらの2008年の論文によると革新的な企業家に共通する思考パターンは、質問力、観察力、仮説検証力、ネットワーク思考力の4つにまとめられるそうだ。

2013年8月18日日曜日

『不格好経営』南場智子


南場智子さんは、津田塾大学、マッキンゼー、ハーバードMBA、マッキンゼーのパートナーからDeNA代表取締役社長という経歴ですね。

「自分が経営者だったらもっとうまくできるんじゃないだろうか。なんでもっと思い切った改革ができないのか。なぜ中途半端に実施するんだ。私だったら…。もしそんなふうに感じているコンサルタントがほかにもいたら優しく言ってあげたい。あなたアホです。ものすごい高い確率で失敗しますよ、と」
「世の中のほぼすべての人が知っている「言うのとやるのでは大違い」というのを、年収数千万円のコンサルタントだけがうっかりするというのは、もはや滑稽といえる。しかもコンサルティングで身につけたスキルや癖は、事業リーダーとしては役に立たないどころか邪魔になることが多い」
「コンサルタント時代は、クライアント企業の弱点やできていないところばかりが目についてしまい、大事なことに気づかなかった。普通に物事が回る会社、普通にサービスや商品を提供し続けられる会社というのが、いかに普通でない努力をしていることか。マッキンゼー時代のクライアントにばったり会ったりすると、今もとても恥ずかしく、土下座して謝りたくなってしまう」
ずっと取締役COOをつとめた共同創業者の川田氏の退任スピーチ。「今日は俺は好きなようにさせてもらう」と壇上でいきなりビールを飲みはじめ、「上場企業の役員がこういうことを言っちゃいけないけど、俺はあの時代の金融機関はクソだと思った」で始まった。
怪盗ロワイヤルというゲームを作ったのは、新卒5年目の大塚剛司という若者だった。直前のプロジェクトに失敗し、ゲームを作ったことも、ほとんどやったことすらない大塚を、社運をかけたソーシャルゲーム立ち上げのプロジェクトに抜擢する。
「大塚は、その日からフェイススブックのゲームを遊び倒した。人気ゲームだけでなく、ヒットしていないゲームも総ざらいし、成功するゲームのエッセンスを彼なりに抽出した。そしてそのエッセンスを「全部盛り」にし、彼なりにアレンジしてまとめあげたのが、怪盗ロワイヤルだった。当時怪盗ロワイヤルがあまりに面白いので、天才の仕事と言われたが、実際はド根性の秀才仕事だったのだ」
「何かをやらかした人たちに対する対応は、その会社の品性が如実に表れると感じる。私たちは、このときのように、お詫びをしなければならない事態になって、ますますファンになり、その会社のために頑張りたくなるようなパートナーに恵まれてきた。モバゲーなどで広告主となってくださった日本コカ・コーラさんやサントリーさんなどにも、何かあるたびに頭が下がるような対応をしていただき、社格とはこういうことなのかな、と感じ入る」
社長の一番大事な仕事は意思決定。頭出しの報告のときに意思決定にポイントとなる決定的な重要情報はなにかを大まかにすり合わせておいて、その情報が欠落していなければ、迷ってもその場で決める。継続討議にはしない、と。
経営コンサルタントは経営者に助言するプロフェッショナルであり、高度な研鑽が必要な、とても奥深い職業だ。コンサルタントになるなら、その道の一流のプロとなるよう、努力し、とことん極めて欲しい。」
「私が言っているのは、事業リーダーになりたいからまずコンサルタントになって勉強する、というのがトンチンカンだということにすぎない」
迷いのないチームは迷いのあるチームよりも突破力がはるかに強い」。
「不完全な情報に基づく迅速な意思決定が、充実した情報に基づくゆっくりとした意思決定に数段勝る」。
「事業リーダーにとって、「正しい選択肢を選ぶ」ことは当然重要だが、それと同等以上に「選んだ選択肢を正しくする」ということが重要となる。決めるときも、実行するときも、リーダーに最も求められるのは胆力ではないだろうか」
若くしてコンサル会社に身をおくことのマイナスの癖として、できる限り賢く見せようとする姿勢、上から目線、クライアント組織のキーパーソンにおもねる発言をしやすい、の3点をあげている。
何でも3点にまとめようと頑張らない(物事が3つにまとまる必然性はない)。重要情報はアタッシュケースでなく頭に突っ込む。自明なことを図にしない。人の評価を語りながら酒を飲まない。ミーティングに遅刻しない、とのアドバイス。

DeNAのMobageの技術的な話についてはこの本が詳しいです。 『Mobageを支える技術 ~ソーシャルゲームの舞台裏~』 (WEB+DB PRESS plus) DeNA

2013年8月11日日曜日

デルの凋落 『イノベーション・オブ・ライフ』

クリステンセンの『イノベーション・オブ・ライフ』の7章にデルがエイスースにアウトソースしていった結果、凡庸な企業に成り下がっていったケースが紹介してある。純資産利益率を重視して製造に関わる資産をアウトソースしバランスシートから外しReturn on Net Assets(RONA)は高くなった。デルにはブランドだけが残った。
「製薬、自動車、石油、情報技術、半導体など多くの業界の企業が、デルと同じように、将来の能力の重要性をよく考えもせずに、アウトソーシングを推進している。この動きをあおっているのが、金融関係者やコンサルタント、研究者などだ。彼らはアウトソーシングを行えば、簡単にすばやく利益を上げられることを知っているが、その結果手放す能力を失うことのコストには気づかない。このような企業はエイスースのような企業を生み出すリスクを負っている」
「米の半導体企業は、製品設計などの、より複雑で利ざやの大きい段階を社内に残す限り、問題はないと考えていた。だがアジアのサプライヤーは、ますます高度な製品の製造、組み立てに取り組み、上位市場に移行し続け、米の委託企業が製造能力を完全に失った製品や部品を製造する能力を手に入れた」
「アウトソーシングを考えるとき最も重要なのは、自社が将来成功するために、どんな能力が必要になるかを考えること。この能力は必ず社内に残しておく。そうしなければ未来を手放すことになる。能力の力と重要性を理解しているかどうかが、優れたCEOと凡庸なCEOを分ける」
「企業の能力は、「資源」「プロセス」「優先事項」の三つの分類のいずれかにあてはまる。これらの能力を総合的に考えることは、企業に何ができるかを、そしておそらくより重要なことに、何ができないかを分析するうえで、欠かせない」
「プロセスには、製品開発、製造のほか、市場調査、予算策定、従業員の能力開発、報酬決定、資源配分などを行う方法が含まれる。目に付きやすく、測定しやすいものが多い資源とは違って、プロセスはバランスシート上には表れない」
「企業が大きく複雑になればなるほど、経営幹部が従業員を教育して、企業の戦略的方向性とビジネスモデルに合った優先事項を、自力で決定できるように教えこむことが、ますます重要になる。つまり企業が成功するためには、経営幹部がじっくり時間をかけて、明確で一貫した優先事項を打ち出し、組織全体で広く理解されるよう、腐心しなくてはいけない。またそうするうちに、企業の優先事項を、企業が利益をあげる仕組みと調和させる必要がある。企業が生き残るには、企業戦略を支えるものごとを、従業員に優先させなくてはならない。そうでなければ、従業員は企業の基盤を揺るがすような決定を下してしまうことがある」

ちなみに『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(入山章栄)によると
「「当面の事業が成功すればするほど、知の探索をおこたりがちになり、結果として中長期的なイノベーションが停滞する」というリスクが、企業組織には本質的に内在しているのです。これが「コンピテンシー・トラップ」と呼ばれる命題です。

有名な「イノベーションのジレンマ」の中心命題は「競争環境を一変させるような『破壊的なイノベーション』が発生したときに、成功している企業の経営者・企業幹部ほどその経営環境の変化を十分に認識できず、それに対応できない」というものです。たしかにこの考え方は「成功する企業ほどイノベーションができなくなる」という意味でコンピテンシー・トラップとよく似ています。

イノベーション研究の分野で高名な現ハーバード大学のレベッカ・ヘンダーソンは、イノベーションのジレンマの考えがその本質をどちらかといえば経営者や企業幹部の認知の問題としてとらえているのに対して、コンピテンシー・トラップはその本質を組織の問題に求めている、と述べています。」と述べている。

2013年8月10日土曜日

「Amazon ランキングの謎を解く」服部哲弥


途中まで読んで積読だった「Amazonランキングの謎を解く」服部哲弥(2011)を読了。
刺激的でおもしろかったです。統計、確率(測度論)、偏微分方程式なども扱われます。ただ、それらが分からなくても読み進められるように工夫してあります。

Amazonのランキングの比較的シンプルな数学的モデルを作り、実際のランキングのデータを驚くほど再現できています。その結果、Amazonのビジネスモデルはロングテールではないと推定しています。

「ツェトリンの研究成果は、先頭に跳ぶ(move-to-front)確率を用いて定常状態を具体的に表したことである」

「b<1ということは書籍点数の大部分を占めている普通の本が点数Nの大きさを頼りに束になってかかっても、ひと握りのビッグヒットの売り上げにかなわない。この結果を見る限り、書籍に関してロングテールビジネスモデルは成立しないことが、データと理論をつき合わせて見出されたことになる」

「単純化されたモデルに基づく数学的結論が、社会現象のようなきわめて多くの要素が関係する複雑な現象―しかも、精密科学のようにお金や時間をかけて条件を精密に制御して実験することが期待できない現象―に関するデータを思いのほかよく説明できたことはそんなに当たり前とは思えない」

「インターネット時代の社会活動の集計においてランキングの順位をプログラムして表示し、結果としてロングテールの様子が公になりうるという意味で、本書で展開してきた確率順位付け模型の解析は、今後とも実際的な応用の場が広がるだろう」

《著者のウェブサイト》

"オンライン ランキングとロングテール,そして無限粒子系" 服部哲弥 あるいは, アマゾンの謎順位 - Amazon書店はロングテールに非ず

"Stochastic ranking process approach to the Amazon online bookstore ranks" T.Hattori

「Amazonランキングの謎を解く」を読むと、ビッグデータ時代になってもシンプルな統計モデルの重要性は変わらない気がします。むしろ、これまではデータがなくて確かめようもなかった統計モデルもビッグデータで検証可能になる機会が増えるんだと思います。確率・統計の知識の必要性は変わらない。

Amazonのビジネスモデルは投信ビジネスにもあてはまるかもしれませんね。「投信点数の大部分を占めている普通の投信が点数Nの大きさを頼りに束になってかかっても、ひと握りのビッグヒットの売り上げにかなわない。この結果を見る限り、投信に関してロングテールビジネスモデルは成立しないことが、データと理論をつき合わせて見出される...」なんてね。