クリステンセンの『イノベーション・オブ・ライフ』の7章にデルがエイスースにアウトソースしていった結果、凡庸な企業に成り下がっていったケースが紹介してある。純資産利益率を重視して製造に関わる資産をアウトソースしバランスシートから外しReturn on Net Assets(RONA)は高くなった。デルにはブランドだけが残った。
「製薬、自動車、石油、情報技術、半導体など多くの業界の企業が、デルと同じように、将来の能力の重要性をよく考えもせずに、アウトソーシングを推進している。この動きをあおっているのが、金融関係者やコンサルタント、研究者などだ。彼らはアウトソーシングを行えば、簡単にすばやく利益を上げられることを知っているが、その結果手放す能力を失うことのコストには気づかない。このような企業はエイスースのような企業を生み出すリスクを負っている」
「米の半導体企業は、製品設計などの、より複雑で利ざやの大きい段階を社内に残す限り、問題はないと考えていた。だがアジアのサプライヤーは、ますます高度な製品の製造、組み立てに取り組み、上位市場に移行し続け、米の委託企業が製造能力を完全に失った製品や部品を製造する能力を手に入れた」
「アウトソーシングを考えるとき最も重要なのは、自社が将来成功するために、どんな能力が必要になるかを考えること。この能力は必ず社内に残しておく。そうしなければ未来を手放すことになる。能力の力と重要性を理解しているかどうかが、優れたCEOと凡庸なCEOを分ける」
「企業の能力は、「資源」「プロセス」「優先事項」の三つの分類のいずれかにあてはまる。これらの能力を総合的に考えることは、企業に何ができるかを、そしておそらくより重要なことに、何ができないかを分析するうえで、欠かせない」
「プロセスには、製品開発、製造のほか、市場調査、予算策定、従業員の能力開発、報酬決定、資源配分などを行う方法が含まれる。目に付きやすく、測定しやすいものが多い資源とは違って、プロセスはバランスシート上には表れない」
「企業が大きく複雑になればなるほど、経営幹部が従業員を教育して、企業の戦略的方向性とビジネスモデルに合った優先事項を、自力で決定できるように教えこむことが、ますます重要になる。つまり企業が成功するためには、経営幹部がじっくり時間をかけて、明確で一貫した優先事項を打ち出し、組織全体で広く理解されるよう、腐心しなくてはいけない。またそうするうちに、企業の優先事項を、企業が利益をあげる仕組みと調和させる必要がある。企業が生き残るには、企業戦略を支えるものごとを、従業員に優先させなくてはならない。そうでなければ、従業員は企業の基盤を揺るがすような決定を下してしまうことがある」
ちなみに『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(入山章栄)によると
「「当面の事業が成功すればするほど、知の探索をおこたりがちになり、結果として中長期的なイノベーションが停滞する」というリスクが、企業組織には本質的に内在しているのです。これが「コンピテンシー・トラップ」と呼ばれる命題です。
有名な「イノベーションのジレンマ」の中心命題は「競争環境を一変させるような『破壊的なイノベーション』が発生したときに、成功している企業の経営者・企業幹部ほどその経営環境の変化を十分に認識できず、それに対応できない」というものです。たしかにこの考え方は「成功する企業ほどイノベーションができなくなる」という意味でコンピテンシー・トラップとよく似ています。
イノベーション研究の分野で高名な現ハーバード大学のレベッカ・ヘンダーソンは、イノベーションのジレンマの考えがその本質をどちらかといえば経営者や企業幹部の認知の問題としてとらえているのに対して、コンピテンシー・トラップはその本質を組織の問題に求めている、と述べています。」と述べている。
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