日銀の政策委員会の審議委員を10年間務めた経済学者の須田美矢子氏の『リスクとの闘いー日銀政策委員会の10年を振り返る』は、著者の意見が驚くほど率直に散りばめられた第一級の資料に仕上がっている。
どれほど率直かは、たとえば「はじめに」のなかの以下の文章を読むだけでも感じられるだろう。
「このように金融・経済情勢がめまぐるしく変化する中で、計量的に算出した過去の平均的な姿を単純に先行きに当てはめて予測をしても、それが実際に役立つとは限らない。また、理論でしばしば仮定するように、人々の先行き予想は定常均衡に向かって収束していくという単純化は現実的ではなかった。人によって予想は異なるし、様々なニュースに反応して大きく振れることもあって、それを簡単にコントロールできるものではなかった。さらに、政策を行う上で非常に大事な信認の維持は、既存の理論で簡単に取り扱える問題ではなかった。市場動向、日々出てくる指数や先行きを示すサーベイデータや内外の政策変更をチェックし、金融市場や経済・物価情勢に関する足許の変化から、先行きに対するインプリケーションを的確に読み取り、リアルタイムでそれらを金融政策運営で活かしていく―こうした実務は、言葉でいうほど簡単ではなかった。それにもかかわらず、内外を問わず著名な学者が望ましい政策論を断定的に展開しているのを見聞きすると、なぜそのようなことが簡単にいえるのかというのが率直な感想であった。それに加えて、その取り上げられ方に、もっと大きな問題を感じていた。」
この本がカバーしている範囲も著者が関わった日銀法改正から政策委員会、量的緩和、質的緩和、インフレーション・ターゲティング、コミュニケーション・ポリシー、マクロ・プルーデンスの視点など多岐にわたっており、しかもそれぞれのテーマについて著者の忌憚のない意見が述べられている。
日銀の金融政策に興味のある人は必読だろう。
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