2016年11月3日木曜日

『資産運用の本質』 アンドリュー・アング

久しぶりにファイナンスで高価な本を購入。今月の証券アナリストジャーナルで紹介されるまで、この本のことは知らなかった。

「悪環境期の損失に対する見返りとしてのプレミアムをもたらすファクター投資が重要」という視点から資産運用の全体像を概観している。

序文がいきなり「投資において最も重要な言葉は「bad times(悪環境期)」である」と始まっていて、ああこの人は分かっているなと感じさせる。

「単に資産クラスのみに焦点を当てるという制約のあるアプローチ(通常は、平均・分散最適化を用いる)は、あまりにも粗っぽく、資産クラスがなぜリターンを生むのかという経済原理を見過ごしており、そして最終的には、問題が多すぎてあまり投資家の役に立たないことが分かった。そこでその代わりに著者が焦点を当てているのが「ファクター・リスク」である。それは資産クラスをまたがる困難な局面の組合せであり、我々が市場の混乱を切り抜けてそれがもたらす報酬を得ようとするならば、留意の中心に置かれるべきものである。
(中略)
ミューチュアル・ファンド、ヘッジファンド、プライベート・エクイティのほとんどについて、ファンド・マネージャーは専門能力を有してはいるが、平均的にはアセット・オーナーにほとんど利益をもたらさず、それがファイナンス理論に則った結論であることを明らかにする。ヘッジファンドとプライベート・エクイティは資産クラスではない。すなわち、いずれも、よく知られているファクター・リスクの単なる集合体であり、それが不透明な契約によって覆い隠されているにすぎない。ヘッジファンドは特にボラティリティ・リスクに晒されたものであり、またプライベート・エクイティはその大部分がレバレッジの掛かった上場株式といえる」

本書の主要テーマは次の三つ。
・アセット・オーナーは自身の悪環境期を認識する必要がある
・ファクターは、悪環境期の損失に対する見返りとしてのプレミアムをもたらす。ファクターが重要であり、資産クラスのラベルが重要なのではない
・委託先のマネージャーがさらなる悪環境期の組合せをもたらさないか、注視すべきである

アンドリュー・アングの『資産運用の本質』は、資産運用を本格的に勉強したい人にはぜひお勧めしたい本である。

アングらは2009年にノルウェー政府年金基金(Norwegian Government Pension Fund-Global)の資産運用におけるアクティブ運用の効果・意義について包括的な評価を行った。そのペーパーは公表されており、今日のスマート・ベータの議論の先駆けになったとも言われている。

"Evaluation of Active Management of the Norwegian Government Pension Fund – Global" Ang, Goetzmann, Schaefer(2009)(pdf)

"Review of the Active Management of the Norwegian Government Pension Fund Global" Ang, Brandt, Denison(2014)(pdf)

青木真也『空気を読んではいけない』 芸術家のストイシズム、ビジネスマンの合理性


この本を読むまで格闘家の青木選手のことは知らなかったのだけれど、読んでみてこんな人がいたのかと驚いた。青木選手は驚くほどストイックである。まるで芸術家のようだ。すべては格闘技で勝つために捧げられている。また練習からファイトマネーの交渉まですべてが自らの合理的な判断の下に行われており、優秀なビジネスマンのようでもある。
各々のテーマが4ページにまとめられている。各々の1ページ目に大きな文字でテーマが見出しとして短い文章で印刷されており、それについて後の3ページで青木選手がなぜそのように考えるのかという理由がまとめられている。例えば『誰も進まない道を行く』というテーマでは「逆張り」の発想のメリットについて語り、最後に次のように締めている。「周りが行く方にはもう美しい果実は残っていない。誰もが見ていない裏山にこそ、人知れず足を踏み入れるべきだ」。投資の世界にいる自分も大いに共感するところである。このテーマ以外でも、すべてのテーマにおいて共感した。ここまで共感したのは岡本太郎の『自分の中に毒を持て』以来二冊目だ。最後に本書全体を貫く青木選手の考えを引用しよう。

「幸せに生きることは難しいことではない。
空気なんか読まずに、自分で人生を選べばいいだけだ」