平成の経済を一冊にまとめるという困難な作業を遂行できたのは大したもの。小峰隆夫氏だからできたと言える。
「驚くべきは(バブルの)その規模である。80年代後半のバブル期には、86年から89年にかけての4年間には、毎年、名目GDPに匹敵するか、またはそれ以上のキャピタル・ゲインが生まれているのである」
「例えば、87年の場合、株式で84兆円、土地で413兆円、合計497兆円ものキャピタル・ゲインが発生している。これは同年の名目GDPの実に1.4倍である」
公的資金を投入して不良債権を一気に処理するという1992年8月の宮澤構想が実現していれば、その後の日本経済もずいぶんと違った姿になったと思うと、残念でしかたがない。
1995年に住専を処理するために公的資金6850億円の投入が決まった。この金額はその後の公的資金の投入が数十兆に上ったことを考えると全く小さなものだが、国会などで強い批判を浴び、政府・政治家の大きなトラウマとして残り、公的資金投入はほとんどタブーとなった。
三洋証券の倒産は二つの大きなショックを金融界に与えた。ひとつは、金融機関は無条件で救済されるわけではないことが確認されたこと。もうひとつは、戦後初めてインターバンク・コール市場でデフォルトが起きたこと。
三洋証券の経営破綻により、三洋証券が群馬中央信用金庫から借りていた10億円がデフォルトとなり、疑心暗鬼に陥ったコール市場は大混乱となった。これが次の北海道拓殖銀行の破綻を招くことになる。
拓銀は不動産担保融資に積極的だったが、バブル崩壊でこれらが不良債権化し経営難になった。預金の解約や資金の流出が続いていたのでコール市場からの調達を積極化していたが、三洋証券のデフォルトによりコール市場からの調達が困難になり日銀への準備預金が不足する事態になった。資産の一部を北洋銀行に営業譲渡したうえで1年以内に清算することが決まり、拓銀は消滅した。
拓銀が破綻した一週間後、四大証券の一つであった山一證券が廃業した。山一は違法である運用利回り保証や損失補填を行っており、その結果生じた簿外債務を子会社に移管して表面化しないように操作していた(いわゆる「飛ばし」)。
山一證券は、1964年から65年にかけての証券恐慌の際に日銀から特別融資を受けた経験があるが、97年の場合は不正な利益供与が悪質であるとされ日銀からの支援を受けることができず、自主廃業となった。
最後の社長となった野澤正平氏は、廃業を発表する記者会見で、当初は淡々と質問に答えていたが、記者からの「社員にはどう説明するのですか」という質問に耐え切れず、号泣しながら次のように述べた。
「私ら(経営陣)が悪いのであって、社員は悪くありません。善良で、能力のある、社員の皆に申し訳なく思っています。一人でも二人でも、皆さんが力を貸していただいて、再就職できるように、この場を借りまして私からもお願いいたします」
それまで金融機関の不祥事に際しては、責任逃れに終始する経営トップが多かった中で、誠実に謝罪し、社員の今後を憂えた会見は大きな話題となり、その映像は繰り返し放送されることになる。
以上、『平成の経済』小峰隆夫からの引用でした。まだ半分も終わってないけど、既におなか一杯感。ここから小泉構造改革で、ここも面白そう。
たしか野澤社長も社長になるまで飛ばしのことは知らされていなかったので、野澤社長も悪くないんだよね。山一の営業基盤は日本のリテール市場に進出しようとしていたメリルリンチが引き継いだのだけれど、結局うまくいかずメリルは日本のリテールから撤退。
竹中・吉川論争
経済財政諮問会議
2005年12月26日
議事録
2006年2月1日
議事録
「衆議院では内閣不信任案を提出することができ、これが可決されると、首相は国会を解散するか内閣が総辞職するかの選択を迫られる。しかし、参議院では不信任案は提出できない。したがって参院で野党が多数を占めても直ちに政権が揺らぐわけではない」
「予算については、衆議院が先議することになっており、しかも仮に参議院が否決しても、衆議院の議決が優先される。したがってここでも参院で野党が多数を占めていても支障はない。と言うか、予算に関しては、衆議院優先の原則がある限りは、そもそも参議院で予算を審議する意味はあるのかという本質的な疑問さえ生まれる」
「問題は法案の審議や国会同意人事である。これについては、衆参で議決が異なった場合でも、衆議院で3分の2以上の再可決があれば衆議院の議決が成立する。要するに、衆議院で与党が3分の2以上にを占めていれば、仮にねじれ現象が起きても、それほど大きな問題にはならない。しかし、衆議院で与党が3分の2に達していない状態で参議院が野党多数になると、いわば「真正ねじれ現象」となり、法案審議や同意人事で参議院が事実上の「拒否権」を持つこととなるので、議会運営は極度に難しくなる」
「予算に関しても、予算案そのものは衆議院優先で処理できたとしても、予算関連法案を参議院で否決されてしまうと、予算の執行ができなくなってしまう。2007年のねじれ現象は、この真正ねじれ現象であったため大きな問題となったのである」
「言うまでもなく、社会保障の改革は喫緊の課題である。世界一の高齢社会となる日本では、今後、年金、医療、介護などの社会保障給費が継続的に増加していく。これを放置していると、財政を圧迫するだけでなく、社会保障制度そのものが維持不可能になってしまう」
「このマイナス金利政策の評価はというと、総じて評判が悪かった」
理由の第一は、肝心の景気刺激効果に乏しかったこと。第二は、金融機関の収益に悪影響を及ぼしたこと。第三は、黒田総裁が直前まで「マイナス金利は考えていない」と発言していたのに実行したため、総裁発言に対する信頼感を低めた。第四は、インフレ・マインドを高めるどころか、逆にデフレ・マインドを強めてしまったこと。多くの国民は「マイナス金利は貯金が減る」「マイナス金利という聞いたことのないような政策をとら開ければならないほど日本の経済状態は悪い」と感じ、かえって将来不安を強めてしまった。
「マイナス金利は、サプライズをもたらしたものの、景気浮揚、デフレ脱却効果はほとんどなかったように思われる」
小峰氏も指摘するように、マイナス金利には景気浮揚、デフレ脱却効果はほとんどなくて、逆に経済にネガティブな効果が多いので、早く止めればいいのだけれど、そういうのを止められないでダラダラと続けてしまうのは、とても日本的ですね。
当初うまく機能したように見えた異次元金融緩和手法が次第にうまく機能しなくなって、黒田日銀の金融政策も変遷していった。予想外の思い切った政策をアナウンスすることによって市場を動かす「サプライズ型」の政策手法の限界が現れてきた。
「そもそもアベノミクスは、アナウンスメント効果で始まった」
「まだ何も政策を打たないうちから円レートは下落し、株価が上昇するという効果が表れた」
これは逆に言うと、政策で円安・株高になったのではないということですね。
「こうしたサプライズ型の政策手法が成功するためには、市場が驚くようなサプライズを次々に繰り出す必要がある。しかし、前述のようにマイナス金利政策は、サプライズはもたらしたものの、市場の評価は得られず、逆にデフレ・マインドを強めてしまったのではないかと思われる」
「第二に、強いコミットメントで当局の意欲を強調するという手法も限界になってきた」。インフレターゲットを持つ中央銀行は珍しくないが、その実現をピンポイントの時期を明示して実行する例は見られない。思惑通り動かない経済が日銀の手足を縛った。マイナス金利は無理を承知でひねり出した措置。
「第三に、当初は円安が経済パフォーマンスの好転をもたらしたが、次第にその限界が明らかになってきた」。円安による物価上昇、企業収益改善は、円安が進行するときにだけ現れる。このメカニズムを続けるには円安が進行し続けなければならないが当然ながらそれは不可能。円安の効果は本質的に短期的。
「また、企業が円安による収益の増大を事業規模の拡大に結び付けなかったため、景気拡大のメカニズムが途切れてしまった」。2013年度の輸出数量はわずか1%の増加にとどまったが、これは企業が販売価格を下げなかったから。
「企業は円安による企業収益の改善は、自らの実力ではなく、短期的な現象だということを自覚している」。さらに企業は国内で生産して輸出する時代ではなく、消費地に近い現地生産を増やす時代と認識しており、収益が増えたからといって国内の設備を増強したり、賃金を引き上げたりしなかった。
2016年9月に日銀は総括的検証を行って、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と呼ばれる新たな枠組みを導入した。これが必要となった背景は明らか。それは①異次元金融緩和が実際に効果を現さず、2年で2%という目標を達成できなかったこと、②巨額の国債購入が物理的に限界に達する(買う国債がなくなる)恐れが出てきたこと、③マイナス金利の効果がそれほどでもなく、副作用が目立つようになったことなどである。
「この金融政策の新たな枠組みは、かなり折衷的なものとなっているので、その方向感覚をつかむのが難しく、その実現性と効果についても不透明な点が多い」
「まず、長期金利をコントロールすることは、可能なのか、可能であったとしても望ましい政策なのかという疑問がある」。①そもそも望ましい金利水準を見つけられない、②相当無理をしないとコントロールできない、③市場の期待についての情報が得られなくなる、など、やらないほうが良い政策の可能性。第2は、これは金融緩和策を強化したものなのか、逆に出口に向かい始めたものなのかが分かりにくいことだ」
小峰氏は、金融政策は既に方向転換して、出口に向かい始めたと判断している。既に金融政策の「異例な部分を削る」というプロセスは徐々に進行していると考えられる。
アベノミクスが十分取り組んでこなかった政策課題の最たるものが財政の再建で、その鍵を握るのが社会保障問題への対応。
ストックの赤字の名目GDP比率が発散するか否かが決定的に重要で、それは二つの要因で決まる。一つは「プライマリ・バランス(基礎的財政収支)」の状況であり、もう一つは、名目成長率と長期金利の相対関係である。
日本の財政赤字は先進国中最悪の状態であり、高齢化も世界有数レベル。財政再建のためには、歳入を増やすか歳出を削るしかない。消費税を引き上げるか社会保障支出を減らすしかないが、国民が嫌がるのは明らかで、政治家は国民の考えを反映しようとするので、民主主義の失敗状態に日本はある。
「総理は伊勢志摩サミットで、G7首脳に対して、世界経済はリーマン・ショック前と同じほど脆弱な状態にあると説明した。これで消費税率引き上げの先送りは説明できるというのが総理の考えだったようだ」
「しかし、この考えは他の首脳には共有されず、この時の資料は無理にリーマン・ショック前の状況に近いようなものを準備したとして、多くのエコノミストから批判を浴びている」
これは、世界に恥をさらして恥ずかしかったですねえ。
「軽減税率の導入にはほぼ全ての経済学者が反対している。その最大の反対理由は「公平性のための政策としては非効率的だ」ということである」
「国民から政策運営の負託を受けた政治家は、単に世論に迎合するのではなく、時には世論を説得して、長期的な道を誤らないようにする責務がある。軽減税率の採用は、政治家がその責務を放棄したように私には見える」
今は、世論に迎合する政治家ばかりになってしまいましたねえ。日本の政治が劣化していることを示していますね。
「日本はいち早く、米の離脱で崩壊しかけていたTPPを立て直し、アメリカ抜きの11か国によるTPP11をまとめるべく、その先頭に立ってきた」「日本がこのような多国間交渉にリーダーシップを発揮し、そのとりまとめに成功したことは画期的な成果だと言える」
これは、本当に素晴らしかったです。
「日本はさらに、RCEPの合意を目指している。これはASEAN、中国、インドなどを含む巨大な自由貿易圏構想であり、これが誕生すればアメリカの保護主義がさらに孤立することになり、アメリカの方針転換を促す力になるだろう」
アベノミクスの特徴の第一は、視野が短期的なこと、第二は、国の意思が経済を先導するという姿勢が強いこと、第三は、コスト先送り型ということ。「今後、短期志向による経済成果が息切れしてきた時、アベノミクスの真価が問われることになるだろう」
次のような方向でアベノミクスを再構築すべき。第一に、マクロ経済の政策目標と政策手段の関係を見直すべき。第二に、政策運営の視点を、短期的な非常時対応型から、長期的な構造改革型へシフトさせるべき。第三に、政策の内容だけでなく、その政策決定のプロセスの改革も必要。
2019年10月13日日曜日
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