2018年3月3日土曜日

『経済数学入門の入門』 田中久稔


経済学に興味があるけれどどこから手をつければいいか分からない人が、最初に読むのに最適な一冊ですね。「微分、偏微分、最適化問題、差分方程式、動的計画法など、経済学に登場する様々な数学に出会います。特に、経済数学では最も重要なテーマである最適化問題が中心的なトピックになります」

この本だけでは足りないので、この次の本は、経済学の本ではなくてもう少し本格的な「経済数学」の本を読むのがいいと思います。結果的にその方が近道だと思います。

第7章はマクロ経済学と差分方程式

「ポントリャーギンの最大値原理は、最短時間でロケットを目標地点まで運ぶための数学理論として開発されたものでした。それが現在は経済学に応用されていると知ったら、ご本人もさぞや驚くことでしょうね」

そうだったのか!

「最適成長理論に用いられるのは、最適制御理論という応用数学の一分野です。この分野の基礎にあるのはポントリャーギンの最大値原理と呼ばれる大定理です。ポントリャーギンはロシアの天才数学者で、一人の人間の仕事とは思えないくらい広範囲の分野で巨大な業績を残しています」

「ポントリャーギンの最大値原理を用いて導き出された条件を整理してみると、最適な消費と資本の成長経路が従う2つの差分方程式が得られます。そのうち一つは資本の成長経路を記述するものであり、本質的にはソロー・モデルと同じ内容の式です」

「もう一つの方程式は、「予想された来期の資本と消費に基づいて今期の消費を決定する」という、時間を逆転させた不思議な差分方程式であり、オイラー方程式とよばれています。これは人類最強の大数学者レオンハルト・オイラーが天文学の問題を解いている過程で見出したものと数学的に同値」

第8章は動的計画法

「ベルマン方程式を用いて最適化問題を解く方法は、動的計画法と呼ばれます。ベルマン方程式は、正式名称をハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式といいます。これは、19世紀の大数学者ハミルトンとヤコビの2人が古典力学の問題を解くために開発したハミルトン・ヤコビ方程式を、20世紀アメリカの応用数学者リチャード・ベルマンが拡張したものです」

「このように、現代的なマクロ経済学には物理学の分析手法が多く現れますが、これはどちらの学問領域も、目的関数を最適化しつつ時間とともに変動する変数の動きを追跡する学問であるから自然なことです」

「物理学とマクロ経済学の違いを挙げるなら、物理学の分析対象は過去から未来へ流れる時間のなかで活動しているのに対して、マクロ経済学の分析対象は未来を予想して現在の動きを決める、逆行した時間のなかで意思決定を行うことです。この点で、マクロ経済学のほうが物理学よりも「難しい」問題を解いていると言えます」

『経済数学入門の入門』の読書案内。入門レベルのテキストとしては次の三冊を紹介。

『改訂版 経済学で出る数学: 高校数学からきちんと攻める』尾山、安田[2013]

『経済数学入門 初歩から一歩ずつ』丹野[2017]

『現代経済学の数学基礎〈上・下〉』チャン、ウエインライト[2010]

本格的なテキストとして

『経済数学教室(全9巻)』小山[2010]

これ、私も欲しいんだよなぁ。

経済学の教科書で数学を学ぶ

『ミクロ経済学』西村[1990]

やさしい本として
『経済学部は理系である!?』井堀[2017]

グローバル・スタンダードとして
"Microeconomic Theory" Mas-Colell,  Whinston, Green [1995]

"Microeconomic Analysis" Varian[1992]
翻訳『ミクロ経済分析』は版が古い。

トピック別

『ラング線形代数学(上・下)』ラング[2010]

『新微分方程式対話 新版』笠原[1995]

位相集合論
『経済数学』丸山[2002]

"Recursive Methods in Economic Dynamics" Stokey, Lucas [1989]

経済学と数学の歴史

『入門経済思想史 世俗の思想家たち』ハイルブローナー[2001]

『近世数学史談』高木[1995]

『ヒルベルト 現代数学の巨峰』リード [2010]

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