2010年11月3日水曜日

測度論、確率論(1)


 株価、債券価格(金利)、為替など、金融市場の数学モデルを作る場合、各時刻で偶然起こった現象を含んだ確率過程として記述する。偶然性は、標本空間と呼ぶ可測空間(Ω、)を導入してとらえる。『標本空間』の上に確率測度を設定することができる。つまり、確率過程は、(Ω、)上の『状態空間』と呼ばれる別の可測空間(S、)値を取る確率変数の集まりX={X_t;0≦t<∞}である。
 我々の目的のために、状態空間(S、)はボレルσ族を具備したd次元ユークリッド空間をとる。つまりS=R^d、=B(R^d)である。ここでB(U)はある位相空間Uの開集合をすべてふくむ最小のσ族を表すものとする。
シュリーブの『ファイナンスのための確率解析Ⅱ』の8章、アメリカン・オプションのところで「停止時刻」が出てくるが、測度論、確率論の知識を前提に議論が進むのでなかなか理解が進まない。やはり測度論、確率論を一度きちんと勉強しないといけないと思う。

大まかに言えば、測度はある空間の部分集合の非負関数で完全加法的なものである。ここで完全加法的とは互いに素な集合の列の和の測度が、それぞれの集合の測度の和となることを意味する。
測度論は積分論の基礎であり、この両理論は現代数学、とくに解析学、関数解析学、確率論において重要な役割を演じている。
Aが『有限集合』であるとは、Aに属する元の個数が有限であることをいう。空集合も有限集合と考える。有限集合でない集合を無限集合という。
Aが『可算集合』であるとはAが自然数全体の集合Nと同等であることをいう。Aが『高々可算集合』であるとはAが有限または可算集合であることをいう。Aが『非可算集合』であるとはAが有限集合でも可算集合でもないことをいう。
整数全体の集合Zは可算集合である。集合Aが高々可算集合、B⊂AであればBも高々可算集合である。
Eを集合とする。x、yの関数dが次の四条件を満たすときにE上の距離であるという。 [0]任意のx、y∈Eに対して0≦d(x、y)<∞が対応する。 [1]任意のx、y∈Eに対してd(x、y)=d(y、x)、[2]任意のx、y、z∈Eに対してd(x、y)≦d(x、z)+d(z、y) [3]任意のx∈Eに対してd(x、x)=0であり、逆にx、y∈Eに対してd(x、y)=0であればx=y.このときEとdの組(E,d)を『距離空間』、Eの元を『点』という。AをEの任意の部分集合とするとき、dをAに制限すると(A,d)も距離空間となる。(A,d)を(E,d)の『部分距離空間』という。
Ωを空でない集合とする。これは有限集合でも無限集合でも良い。このΩを標本空間として、その部分集合に対して確率を定義したいが、一般に確率はΩのすべての部分集合に対して定義されているわけではない。そこで確率の定義されているΩの部分集合全体をBとする。
部分集合A⊂Ωに確率が定義されている。1)Ω∈B、2)A∈B⇒A^c∈B、3)部分集合列 An∈B (n∈N) ⇒ ∪_{n=1}^∞ A_n ∈B 。これらを満たすΩの部分集合の集まりBをΩ上のσ集合体という。
B1とB2をΩ上のσ集合体とする。B1∩B2はΩ上のσ集合体である。SをΩの任意の部分集合族とする。このときSをふくむ最小のΩ上のσ集合体が一意的に存在する。これをσ[S]と書き、Sから生成されるΩ上のσ集合体という。
E=(E,d)を距離空間、OをEの開部分集合全体からなる集合族とする。このときOから生成されるE上のσ集合体B(E)≡σ[O]をE上の『ボレル集合体』、Eの部分集合でB(E)に属するものをEの『ボレル集合』という。
Eを距離空間とする。このときEの開部分集合、閉部分集合、コンパクト部分集合、可算集合、有限集合はすべてEのボレル部分集合。 (注意:ボレル集合体は距離空間に限らず、もっと一般の位相空間についても同様に定義される。ここでは距離空間しか扱わない)
特に重要なのはEがd次元ユークリッド空間R^dの場合。R^d上のボレル集合体B(R^d)を簡単のためB_dと書き、『d次元ボレル集合体』、またB_dに属するR^dの部分集合を『d次元ボレル集合』という。

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Xを抽象空間とする。Xのベキ集合、すなわちXのすべての部分集合の族を2^xで表す。Aを2^xの空でない部分族とする。Aが集合の交わりに関して閉じているとき、すなわちB、C∈AからB∩C∈Aが出るとき、AはXの上の乗法族であるという。
Aが有限和、補演算(補集合をとる操作)に関して閉じているとき、AはX上の『有限加法族』(finitely additive class)(または『集合体』(algebra of sets))であるという。
Aが単調極限に関して閉じているとき、AはXの上の単調族であるという。X自身がAに属し、かつAが可算直和と固有差に関して閉じているとき、AはXの上のDynkin族という。
Aが可算和、補演算に関して閉じているとき、AはXの上の『σ加法族』(σ-algebra)(または『可算加法族』『完全加法族』『ボレル集合体』(Borel field))という。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

確率と測度って直感的にイメージできますか?
でないと、教科書の文章をなんとなく覚えても、あまり意味をなさないと思うのですが…。

基本的な論理が分かっていれば、上記にある面倒な説明は省くことができると思うのですが。

J.S.エコハ さんのコメント...

コメントありがとうございます。あまり直感的にはイメージできないんですが、測度は可算加法などの条件を満たす関数で、そのうちP(Ω)=1のものが確率でしょうか。
面倒な説明は省くことができるのは分かっているのですが、長い目でみるとちゃんと勉強しといたほうが結局は近道だと、最近は感じています。まあ、人それぞれでしょうが。