2011年2月26日土曜日

Andrei Schleifer/Inefficient Markets 金融バブルの経済学


ハーバード大学のシュレイファー教授による行動ファイナンスの入門書。シュレイファー教授は私が割りと好きな学者の一人。本質的に裁定取引には制約があり、人間はシステマチックに合理性から逸脱するという理由から効率的市場仮説(EMH)の限界を指摘。驚いたことに「金融バブルの経済学」というタイトルで翻訳も出ていた。Amazonでの翻訳の評価は厳しい。
シュレイファー教授は"Contrarian investment, extrapolation, and risk" Lakonishok, Shleifer, and Vishny(1994)の論文で有名。学者だった頃のローレンス・サマーズとの共著論文もある。共同研究者であるラコニショック、ヴィシュニー両教授と運用会社 LSV Asset Managementを設立している。
シュレイファー教授のほとんどの論文はハーバードのこちらのサイトからダウンロードできる。
第1章「金融市場は効率的か?」と第7章「未解決の問題」がこの本のための書き下ろし。残りの章は過去の論文をまとめたものとなっている。
第2章 金融市場のノイズトレーダーリスク Noise Trader Risk in Financial Markets
第3章 クローズドエンドファンドのパズル Investor Sentiment and the Closed End Fund Puzzle
第4章 専門家による裁定取引 The Limits of Arbitrage
第5章 投資家心理のモデル A Model of Investor Sentiment
第4章ではノイズトレーダー、アービトレージャー、アービトレージャーのファンドへの投資家の3つの市場参加者でモデル化している。ファンドへの投資家が過去のパフォーマンスに基づいて資金の出し入れを行う場合、裁定取引が最も魅力的となっているまさにそのときにアービートレージャーはポジションの清算を余儀なくされ、ミスプライスがより深化してしまうことになる。裁定取引は価格暴落の修復よりも金融パニックの深化をもたらす。つまり、価格がファンダメンタルズから非常に離れたときには裁定取引が役に立たなくなる。
第4章では論文発表後に起きたLTCM危機の分析が4.4節として補足されている。1998年8月16日、ロシアはルーブル建て債務のほとんどについて債務返済を停止し、不意にルーブルを切り下げた。さらにロシアの銀行が西側の債権者に債務を支払えなくするだけではなく、ルーブル建ての債券を保有する西側の投資家の口座を凍結した。しかし、ロシアは海外の債務に関してはデフォルトをしなかった
そのときのデフォルトしたルーブル建ての債券はかなりの部分が高利回りに引きつけられた西側のヘッジファンドに保有されていた。ヘッジファンドの多くは債務不履行を予想して、通貨ルーブル(のフォワード)をロシアの銀行に売るだけではなく(通貨切り下げへのヘッジ)、ロシアの海外債務を空売りして、リスクをヘッジしていた(ロシアは国内債務をデフォルトするときには必ず海外債務もデフォルトするという理論(?)に基づいて)。
LTCMは1998年8月には自己資本の30~40億ドルの半分近くを失った。
2007年のクオンツ危機も基本的にはこのモデルで同様に考察することができると思う。





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