2012年12月9日日曜日

マクロ経済学(齊藤、岩本、太田、柴田)

学部レベルのマクロ経済学の本としてお薦めです。これを読んでおけば、安倍総裁のようにトンデモ経済学に騙されることもないと思います。

《POINT 6-7》 貨幣とは? 中央銀行とは? 貨幣供給とは?
マクロ経済学や金融論では貨幣を次のように分類している。
(1)紙幣・硬貨
(2)準備預金(中央銀行の当座預金)
(3)民間銀行の要求払預金(普通預金プラス当座預金)
(4)民間銀行の定期預金(CDを含むこともある)

貨幣供給量、あるいはマネーサプライという場合には、中央銀行が発行している(1)と(2)をあわせて「ハイパワード・マネー」と呼ばれている。ハイパワード・マネーは「マネタリー・ベース」と呼ばれることも多い。ハイパワード・マネーに(3)を加えた貨幣供給量は「M1」と呼ばれる。さらに(4)を加えたものは「M2」と呼ばれる。

「M1の決定にはマクロ経済のさまざまな要因が反映している。一方、中央銀行が直接的に制御できるのは、たかだかハイパワード・マネーのレベルである。
名目貨幣供給量を中央銀行が決定する外性変数としているIS-LMモデルでは、このへんのところが非常にあいまいで、そのためにモデルと現実との対比がつきにくいのである。外生変数として取り扱える貨幣供給量は、せいぜいハイパワード・マネーのレベルなのに、IS-LMモデルが想定しているのは、マクロ経済において決済手段や価値貯蔵手段として機能しているM1のレベルなのである。しかし、マクロ経済の諸要因が反映しているM1のレベルの貨幣供給量は、内生変数として取り扱うほうがずっと自然である。中央銀行ができることは、ハイパワード・マネーを制御しながら、M1を間接的にコントロールすることが精一杯であろう。」

《POINT 6-8》 日本経済の貨幣市場
M1の貨幣供給量を用いて、標準的な貨幣需要関数によって日本の貨幣市場が説明できるのか見ている。ここではM1をGDPデフレーターで実質化したものを実質貨幣供給量としている。実質貨幣供給量を実質GDPで除すことで、実質GDPの影響を取り除く。これは「マーシャルのk」と呼ばれていて、M1を名目GDPで除したものに等しくなる。マーシャルのkの逆数が「貨幣の流通速度」と呼ばれるのは、市場にある名目貨幣残高が何回転すれば、名目GDPに匹敵する取引を行うことができるかを表しているから。
もし貨幣需要関数が実際の貨幣市場の需給を説明できるとすると、実質GDPの影響を取り除いた実質貨幣残高に相当するマーシャルのkが、貨幣の保有コストである名目金利の上昇(低下)とともに減少(増加)しなければならない。
翌日物コールレートを名目金利とした場合、実質貨幣残高と名目金利との間で負の相関が認められるが、コールレートが10%から1%の間では、名目金利が低下しても、マーシャルのkで見た実質貨幣残高がわずかにしか増加しない。しかしコールレートが年率0.5%から0%の間で低下する局面では、実質貨幣残高が急激に増えている。
ゼロ金利近傍では、貨幣需要の利子率弾力性が非常に高くなっていることを示している。言い換えると、名目金利がゼロ水準に近づくと、貨幣の流通速度が極端に低下して貨幣が市場に滞留する。
名目利子率が非常に低くなると貨幣需要の利子弾力性が高まる主な理由は、金利がゼロ近傍であると、貨幣の保有コストをほとんど無視できるので、わずかな金利がつく定期預金などから金利のつかない現預金に資金がいっせいにシフトしていくと考えてよいのではないか。
昔の貯金箱は豚の形をしていたからか、金利がつかなくても、普通預金や当座預金などの要求払預金に資金を積み上げておくことを「豚積み」と呼んでいる。
貨幣需要の金利弾力性が極度に高まる状態は、「流動性の罠」と呼ばれる。「大量の資金が現預金の形で貨幣市場にじっと滞留している状態」が、「罠に引っかかって動けなくなる様」にたとえられているからである。

LMモデルでは貨幣市場の需給均衡が名目金利を決定。新しいケインズ(New Keynesian)・モデルでは中央銀行が名目金利を直接設定していくケースを想定している。これは中央銀行が制御するのが貨幣供給なのか、名目金利なのかという問題に対応している。

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