2014年8月16日土曜日

『日銀、「出口」なし!』 加藤出

加藤出さん、さすがの面白さです。
日本や欧米の金融政策を概観できて、お盆休みの暇つぶしに最適ですね。

2章によると、バーナンキ、コーン、イエレン、FRBスタッフの間では、マネタリーベースを拡大する日銀の量的緩和は効果がないと既に結論づけていたそうだ。
FRBの政策はマネタリーベースを増加させることを目的としていないので、量的緩和策と区別するため大規模資産購入策LSAPと呼ばれた。
FRBがこの信用緩和策を大規模に実施すると、結果的に銀行システムに準備預金が大量に供給される。しかしFRBは、準備預金の増加はあくまで政策の副産物であって、それ自体は経済を刺激しないと明確に述べている。

バーナンキ「量的緩和は貨幣流通量に影響しない。銀行がFRBに預けた電子的金額が大きく増えただけで、それはそこに居続けている。それがインフレを引き起こす兆候は見えない」
"Q&A testimony to House"


3章で元IMFエコノミストのピーター・ステラ氏のコラムが紹介されている。今日、信用創造は準備預金残高に結び付けられていない。現代における準備預金の唯一の真の役割は、銀行間の資金決済にある。

「準備預金とマネーサプライの関係は、あなたが学校でおそらく学んだものとは異なっている」
"Exit-path implications for collateral chains" | vox

ステラ氏は、2013年5月のコラム「日本銀行劇場:これは能の後の歌舞伎か?」で日銀のマネタリーベース・ターゲットに懐疑的な見方を示した。

「日本銀行劇場:これは能の後の歌舞伎か?」ピーター・ステラ
http://stellarconsultllc.com/blog/?p=133

また、植田和男氏の講演も紹介してある。
『非伝統的金融政策、1998年―2014年:重要な金融的摩擦と「期待」の役割』 植田和男
2014年5月24日金融学会講演(PDF)

そのなかでクルーグマンとウッドフォードの意見が紹介してある。

クルーグマン「私の理解では、日本が以前(2000年代前半に)、大規模な量的緩和を行った際は準備預金の増額にすぎず、効果をもたらさなかった。一方、米国型とは、非伝統的な資産の大量購入を指す。特に日本の場合は、国債金利があまりに低く、これを買っても効果は小さい。ほかの資産の購入がどの程度の効果を生むのかは誰にも分からず、議論も分かれるが、やっても失うものはないのだから、試すべきだ」

個人的には、安倍政権も、実質賃金低下が政権に与える負の影響を気にし始めている気はしますね。

物価目標と並ぶ異次元緩和のもう一つの柱となった「マネタリーベースを2年で倍増させる」との目標。こちらの評価はどうか。ウッドフォード教授に問うと「それも、私だったらやらない」との答えだった。
「(物価上昇率とマネタリーベースの)2つの目標の存在は混乱を招く。それに大きな効果を生まなかった過去の量的緩和の手段と極めて似ている。量的緩和が目標にしたのは当座預金の残高でマネタリーベースとは違うが、両者の動きは密接に関係している。有効でなかった目標をなぜ再び持ち出したのか」

加藤氏はJohn H. Rogersも紹介しています。
"Evaluating Asset-Market Effects of Unconventional Monetary Policy: A Cross-Country Comparison" Rogers et al,(2014)
「FRB、BOE、ECB、日銀の異例の金融政策が債券利回り、株価、為替に与えた影響を分析。日中や一日の短い変化では効果が認められたが、株価、為替への効果は利回り低下を通じてというよりアナウンスメント効果の方が大きい。さらに持続的効果を検証したらそれはゆっくりと消えてしまっていた」
ちなみに、John H. RogersはFRBの中の人。

3章、日銀の01年のようにBSを大きくしてマネタリーベースの供給を増やすことを意図した政策をQE0、08~09年に多くの先進国の中銀が行った、金融市場のパニックを鎮めるための資産購入策をQE1、その後のポートフォリオリバランスを狙った政策をQE2と呼んでみる。

「米国では、金融危機時に行われたQE1は資産価格によく効いた。しかしQE2の効果は不明瞭である。表面的には株価の上昇が見られたが、それは経済情勢の好転によるもので、それを除くとQE2の効果は限られる。
しかし、QE1があまりに効いたため、ヘッジファンドなど海外投資家の間で、「QEは効果がある」という誤解が続いた。彼らは、実はQE0、QE1、QE2の区別がついていないのである。
日銀の今回の量的質的緩和策は、QE1ではなく、QE2。だが、このような海外投資家の誤解が存在するため、同政策の導入で株価は一時上昇した。ヘッジファンドにしてみれば、自分たちの理解が理論的に正しいかどうかは実は重要ではなく、周りの投資家がどう動くかが大事。皆が誤解して動けばOK。

海外の投資家に接することの多いであろう加藤さんの話なので、まあそうなんだろうなあと思います。黒田さんもその辺を分かっていてあえて「マネタリー・シャーマン」的な演技をしてるんでしょう。


(おまけ)
Guest Contribution: Myron Scholes on Whether QE2 Will Work

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...
このコメントはブログの管理者によって削除されました。
匿名 さんのコメント...

8月時点で今年の経済系新書No.1ですね。
by ひつじ