2016年3月10日木曜日

日経、経済教室「マイナス金利で何が起きる(下)」加藤出氏

「日銀がマイナス金利を決定してから1ヶ月余りが経過したが、日銀に対する金融業界の批判はいまだにすさまじい。筆者は海外も含め主要な中央銀行の金融政策を長くみてきたが、これほどの激しい反発は今まで記憶がない。原因は主に次の3点にあるだろう。第一にサプライズ効果を重視するあまり、日銀は実務面の混乱を軽視してしまった」。

ECBが一年半以上前から導入を示唆していたのに対して、黒田総裁は1/21の国会でマイナス金利は考えていないと言ったのにその翌週に決定しわずか11営業日後から実施。

「このため、マイナス金利取引に対応できない金融機関や期間投資家が続出し、短期金融市場は流動性が著しく低下し、金利裁定が働きにくいゆがんだ状態に陥っている」。

これだけでも、黒田氏は史上最低の総裁と言えますね。

「第二に金融機関の収益悪化が前提となっているマイナス金利政策の不自然さ、奇妙さが挙げられる。中銀の幹部は「個人の預金はマイナス金利にならない」と説明し、市民の怒りや不安を沈めようとしている。マイナス金利になると預金者が怒って現金を大規模に引き出す恐れがあるからだ。また、通貨の保存価値機能が低下する印象が強まりすぎると、多くの人々は消費・投資に積極的になるよりも、防衛的な行動に走る恐れがある」。

家計の預金がマイナス金利にならなければ銀行の貸出金利がマイナスにならず、景気刺激効果は限られる。それでも同政策が採用される本音は通貨安誘導で、世界経済にとってゼロサムゲームにすぎないと英中銀総裁は非難した。銀行の利ざやが圧縮され収益が悪化すると、金融仲介機能が毀損される恐れがある。

「地方金融機関からは「日銀の政策で政府が目指す地方創生どころではなくなった」との嘆きが多く聞かれる。同関連プロジェクトが収益を生むまでには時間がかかるが、それより目の前の収益確保が大問題になってしまったからだ」。

第三に日銀のクレディビリティーの問題が生じている。QQEは「2年程度でインフレ目標を達成する」と宣言して開始されたが、マネタリーベースは三年前より220兆円以上増えたにもかかわらず、インフレ率は目標の2%からまだ遠い位置にいる。2年でインフレ率2%はやはり無理筋だったのである。

「日本経済にとって重要なのはむちゃな緩和策の追求でなく、潜在成長率を高めるための構造改革ではないかと多くの市場関係者は感じている。だが日銀は、異例の緩和策によりリスクフリー資産の利回りを強引に低下させ、金融機関、投資家を深刻な資金運用難に追い込み、リスク資金へのシフト(ポートフォリオリバランス)を促している。しかしそうした政策は残酷かつ危険である」。

「国債の発行金利がこれほど下がると、政府や国会の財政再建に対する意識が後退し、結果的に将来世代にまわすツケが大きくなる恐れがある。金融政策が非伝統的手段にここまで踏み込んでくると、効果と副作用の冷静な比較考量が必要となってくる」。

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