今日の日経【日曜に考える】で松林薫氏が『リフレ政策 論争なお』と題して、リフレ政策の有効性を巡る経済学者の間の議論を整理しています。
「日銀は黒田新総裁のもと「異次元の金融緩和」でデフレから脱却して物価上昇率2%を目指す「リフレーション(リフレ)政策」を実行に移す。リフレ政策の有効性を巡っては経済学者の間で約15年にわたり議論が続いてきたが、理論上の決着は付いていない。神学論争の様相を呈する中、政府・日銀は見切り発車した。
3月21日の就任会見で岩田規久男日銀副総裁はミルトン・フリードマンの「デフレは貨幣的な現象だ」という言葉を引用してリフレ政策の有効性を強調した。物価は世の中に出回るお金の量と比例して変化するという「貨幣数量説」の立場から、大胆な金融緩和で貨幣の量を増やせば物価は上昇しデフレから脱却できるという主張。
貨幣数量説は18世紀には登場していた単純な古典的理論。フリードマンが再評価し、1970年代から先進国の金融政策に取り入れられるようになった。
学者の間では、デフレ懸念が強まった1990年代後半から、日銀が量的緩和を採用した2001年ごろにかけて激しい議論が展開された過去がある。
当時、インフレ目標や量的緩和の導入を主張したのが岩田氏や浜田宏一氏。ポール・クルーグマンもリフレ派の理論的支柱となる論文を発表。
だが「世の中のお金の量」は「お札の枚数」に単純に比例しない。お金が人から人へ移っていく速さも「世の中のお金の量」に影響する。お札の枚数は変わらなくても取引が活発でお金の回りが良くなればお金が増えているように見える。デフレは逆に、人々がお金を使わなくなっている状態。お札の枚数を増やしても、その流通速度が落ちれば物価は上がらない可能性がある。
物価変動は貨幣現象ではなく、世の中全体の需要と供給のバランスで決まると考える学者らは、デフレは「バブル時代に供給能力が過剰になった一方、バブル崩壊で需要が減ったことが原因」(吉川洋)と反論した。
金融政策の専門家からも、銀行へのお金の供給量を増やす量的緩和の限界が指摘された。中心になったのは小宮隆太郎氏や当時日銀に所属していた翁邦雄氏らで「岩田・翁論争」と呼ばれた。日銀がいくら民間銀行にお金を供給しても、不況で借りる企業もないので、銀行から世の中にお金は流れないという主張。
こうした対立の構図自体は十数年たった今もほとんど変わっていない。
リフレ政策の効果やリスクについて、少なくとも現時点では学問的なレベルで決着が付いたとは言えない。
量的緩和の効果については、複数の実証研究が行われた。だが分析期間やデータの解釈により、「効く」「効かない」と正反対の結果が出ているのが現実。円安や株高は現に生じており、輸出企業の業績回復や、株の含み益で懐が温まった個人の消費拡大が指摘されるが、それだけで物価が上昇するとは限らない。
理論面からはクルーグマン氏のモデルなど様々な説が示されたものの、効果が出るには「将来のお金の流通量に対する人々の予想が変わる」ことなどが前提とされる。予想を変えられるかどうかは心理学的な問題で、最後は水掛け論になる。
実は、極端な主張をする一部の論者を除けば、リフレ派と反リフレ派の間で、世間で考えられているほど認識上の隔たりは大きくない。例えば、量的緩和が物価に影響を与えても限定的だと認めるリフレ派の学者は少なくない。インフレ目標を掲げるなどして「期待に働き掛ける(人々の予想を変える)」ことの重要性を強調するのも量的緩和だけではあまり効果はないという認識があるからだ。
その意味で、リフレ論争は「特効薬だ」と告げて偽薬を与える治療を認めるべきかどうかという問題に似ている。効果を信じれば、ただの小麦粉でも効くケースはある。一方で「気合を入れれば効く、と言っているにすぎない」(池尾和人)ともいえる。
学者の意見対立も、突き詰めれると理論そのものよりも、デフレや財政問題に対する危機感の違いや、政策哲学の違いが原因のことが多い。」
グラフが2つ示されていて、一つは1971年以降の消費者物価指数(CPI)、もう一つはマネタリーベースとマネーストックの比較です。バブル崩壊後だと、CPI前年比が2%を越えたのは97年と08年ですかね。97年は消費税5%引き上げと歴史的な円高から円安に転じた影響ですね。08年は米国不動産と新興国バブルの影響ですね。
「異次元の金融緩和」は見切り発車されてしまったので、これまでの机上の空論から、実際に効果があるかどうかを検証していくことが必要になりますね。短期的には長期国債が変われてイールドカーブのフラット化が進み、株高、円安となっています。80年代のバブル時は、前半に株が上がってもCPIはあまり上がりませんでしたので今回株が上がっても短期的にはCPIは上がらないんじゃないでしょか。株高による資産効果はあると思いますが、どの程度かは不明ですね。マネタリーベースをいくら拡大してもそれ自体は為替には影響しないと思いますが、投資家が円安になるとおもって円売りドル買いをすれば自己実現的に円安になるかもしれません。そうすればCPIも上昇すると思います。
いくつか参考になるリンクを張っておきます。
日銀の量的・質的緩和の効果とリスク(深尾光洋)
インフレ目標政策は万能特効薬か? (上田晃三)
新たな量的緩和の効果(池尾和人)
通貨供給はマネーストックやインフレに直結しない!リーマンショック後の世界の常識が通用しない日本(翁邦雄×藤田勉)
登録:
コメントの投稿 (Atom)
1 件のコメント:
EdyやSuicaなどの電子マネーはマネーストックには含まれていないようですが、統計上の数値は捕捉されているようです。
最近の電子マネーの動向について(2008年度)
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2009/ron0907b.htm/
コメントを投稿