2013年7月24日水曜日

池尾氏の『連続講義・デフレと経済政策』

副題は『アベノミクスの経済分析』です。編集者との対談形式になっていて大変読みやすくなっています。経済や経済学のことよく分からないけどアベノミクスについては興味があるという人は、とりあえず池尾氏の『連続講義・デフレと経済政策(アベノミクスの経済分析)』だけ読んどけば十分な気がしますね。

それから前にブログで紹介した本について質問を受けたのですが、脇田成氏の『マクロ経済学のパースペクティブ』はマクロ経済学の骨組みと言うかエッセンスを抜き出して直感的に理解させようという良い本だと思います。『マクロ経済学のパースペクティブ』で全体像を把握してからローマーの『上級マクロ経済学』などに行くのがいいんじゃないでしょうか。残念ながら『マクロ経済学のパースペクティブ』は絶版ですが。

以下、池尾(2013)を中心としたメモ。

「中央銀行の実務には詳しくなくて、マクロ経済学しか学んだことのない人達の中には、中央銀行が貨幣ストックを自由に操作できるものだと思っている人が少なくないようです」
「貨幣ストックが内生変数であるという議論を「日銀理論」とか呼んで、それは標準的な経済学の理論とは異なるといった議論をする人がいますが、それはその人が標準的な経済学の理論と考えているのがIS・LMモデルだっりして、ずいぶんと古いがゆえの的外れな議論だと思います」
「(不良債権問題やアジア金融危機など)これらの経験をしながら、日本の経済学者が金融仲介機構の重要性と金融仲介機構の存在をマクロ経済モデルの中に取り入れることの必要性をほとんど主張してこなかったことは、真摯に反省しなければならないと考えます」
「新興国との競合や要素価格均等化というのは、実物的な圧力です。言い換えると、こうした圧力を金融政策のような貨幣的な手段で阻止することはできません。名目的ではなく実質的な対応が必要になります」
「消費者物価の下落が止まっても、実質賃金の下落に歯止めがかかるとは限りません。実質賃金の下落を阻止するためには、実質的な対応、端的には輸出製造業以外の産業における労働生産性の速やかな上昇を実現していかねばなりません」

「高橋財政期における日銀引受けは、売りオペ(民間金融機関への売却)を前提として行われたものでした。高橋自信は日銀保有国債の民間金融機関への売りオペにも腐心していました。その結果、実際にも日銀は速やかに引受けた国債の市中売却を進め高橋財政期中は総引受額のほぼ90%を売却しています」
「実態的には国債は市中消化されていたので、国債の日銀引き受けにもかかわらず財政赤字のマネタイゼーションは抑制されていました。ベースマネーの増加も、それ以前の緊縮政策によって収縮していた分を回復させた程度にとどまっています。著増していくのは、高橋死後の戦時体制化においてです」
「高橋是清の業績を持ち出して財政赤字のマネタイゼーションを主張するのは、史実の歪曲であると言っても過言ではないことが分かります」

池尾氏の本にはルーカス批判からRBCへの流れも分かりやすく書かれています。
「ルーカスの1976年の論文における指摘は、きわめて本質的なものだったと思います。マクロ経済学の歴史は、ルーカス批判以前とルーカス批判以後に区分してもいいと考えています」

ルーカス批判からRBCモデル、DSGEモデルの流れは『現代マクロ経済学講義』(2007)加藤涼の1章も詳しいです。
「伝統的IS-LMモデルに代表されるようなRBCモデル以前のマクロ経済学は、経済主体のミクロ的行動をモデル化したものではないため、統計的検定・推定によっても(少なくとも原理的には)モデルの妥当性や現実性をチェックすることができず、その意味では反証可能性がない論理体系によっていた」(加藤)
「このことからRBCモデル以前のマクロ経済学は科学ではなく、RBCモデル以降のDSGEモデル体系のみが反証可能性のある科学として認められる、という意味で、Prescottは「RBCモデルの登場がマクロ経済学を科学にした」とノーベル賞の受賞を誇っている」(加藤)
「RBCモデルは、実際のところ、ラムゼイ・モデルにおいて、労働供給が弾力的であるという仮定を加えた(あるいはパラメータを変化させた)だけのモデルである。以下で詳しくみるように、1財1主体モデルであり、すべての市場は完全で常に均衡している」(加藤)

齊藤、岩本、太田、柴田(2010)の『マクロ経済学』より
「ラムゼー・モデルは、抽象的すぎて現実的ではないと考えられがちであるが、経済理論と経済政策に関して実に豊かなインプリケーションを生み出しているという意味では、”マクロ経済学の玉手箱”的な存在である」(齊藤、岩本、太田、柴田 2010)
”マクロ経済学の玉手箱や~”という彦麻呂の声が聞こえた
「理論モデルの役割は、現実の経済現象を首尾よく説明することだけではない。現実をうまく説明する理論モデルが、優れた理論モデルというわけでもない。理論モデルにとってより重要なことは、その理論モデルを通して現実の経済現象を見ることによって、実際の現象を解釈し、評価することなのである。現実の経済現象を解釈し、実際の経済政策を評価する理論的枠組みを提供しているという意味で、ラムゼー・モデルは、マクロ経済学のなかで、いや、経済学全体のなかでも、もっとも成功した実践事例なのである」(齊藤、岩本、太田、柴田 2010)


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