2012年5月20日日曜日

日経にロバート・シラー教授



5月20日の日経【日曜に考える】欄にエール大学のロバート・シラー教授。

「借りたローンより購入した住宅の価値が低い家計は全米で1100万件、全体の4分の1にのぼる。状況が改善する証拠は見当たらない。米経済の回復力は強くなく、米経済は日本の『失われた10年』の背中を追う懸念がある。

取るべきモデルは日本型だろう。財政出動を繰り返し、国家債務は非常に高水準になった。しかし、低いながらも成長を維持し、恐慌には陥っていない。それが現実的に我々が望めるベストの道だと思う。多くの国が景気刺激策をとるべきだ。

均衡のとれた景気刺激予算という道があるはずだ。40年代にサラントとサミュエルソンが、増税と歳出削減を同時に実現すれば、政府債務は膨張しないと論じている。焦点は富裕層への増税だ。増税しても消費面への影響は小さい。ただ政治的には正しくても、実行するのは難しい。

今回の危機はレバレッジ危機。家計と同様、国家規模で過剰な債務を抱えてしまった。このレバレッジを低下させる金融的手法が『トリル』だ。GDPの1兆分の1を1株として、株式のような形で投資家に持ってもらう。政府は四半期ごとに配当を払い、景気が良くなれば増配する。

好況期こそ規制当局は厳格であるべきだが、好況期はほったらかしで、最も厳しい環境のときに規制が強まる。だからバブルとその崩壊が起きる。サブプライムローンの証券化というアイディア自体は健全だ。複雑に組合せ、元の借り手を把握できなくした使い方に問題がある。

金融の未来像は、もっと”民主化”され”人間本位”であるべきだ。あらゆる人の問題解決に役立つのが民主化の意味するところ。人間本位とは、心理を深く理解した上でふさわしい組織や商品を作ることだ。

人間工学では人のエラーを考慮にいれて設計する。金融も『資産分散とヘッジ』という原則論でなく、人が誤りを犯すことまで考えに入れるべきだ。金融サービスの担い手は、掛かり付け医のように家庭が信頼できる助言者であるべきだ。

一つの金融機関に過剰なシェアを握らせないようにするのが今の金融改革だが、それ以上に注目すべきは、起業家や中小企業にクラウドファンディングを認める新法の成立だ。ウォール街の巨大な金融機関を介さなくても資金を調達できるようになる。」


「トリル」というのが、よく分かりませんが、クーポンがGDP成長率に連動するコンソル債のイメージでしょうか。最新書の"Finance and the Good Society"というのが出ているようなので、この本にもっと詳しく書かれているかもしれない。


シラー教授はわりと好きな学者の一人。ハーバードのジョン・キャンベルとも幾つか論文を書いていて、そのうちの幾つかは「Market Volatility」という古い本に掲載されている。また米国株のバブルに対して早くから警鐘をならしていて、「根拠なき熱狂」という言葉は当時のグリーンスパンFRB議長に使われて有名になった。しかし、「根拠なき熱狂」の翻訳が植草一秀というのが時代を感じさせる。


2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

はじめまして。HN「たごさく」です。
素晴らしいブログですね。
これからちょくちょくコメントを残していきたいのですがよろしいでしょうか?

J.S.エコハ さんのコメント...

たごさくさん、どうもありがとうございます。コメントもご自由にどうぞ。コメントは、一応、管理人が内容をチェックしてから公開されます。誹謗中傷みたいなコメントでなければ、そのまま公開します。