2012年7月23日月曜日

『ペット・サウンズ』


「あとになって僕は発見する。たとえカリフォルニアにいたところで、ほかの場所と同じように、人は惨めになりえるのだということを」 『ペット・サウンズ』(ジム・フジーリ) 村上春樹訳
文体が、ハルキです。
「僕は天才じゃない。ただ勤勉に仕事をするだけの人間だ」(ブライアン・ウイルソン)
「曲を作るときに大事なのは、我慢強さであり、《いったん掴んだら離さない》というしつこさだ」(ブライアン・ウイルソン)
「僕が作曲に打ち込んだのはおそらく、自分が劣っているという感覚があったからだろう。それがいちばん大きなモチベーションだったと思う。あるいは自分には何かが欠けているという感覚」(ブライアン・ウィルソン)
「僕には競争意識がある。(誰か別の人間が作った)本当に素晴らしい音楽を聴くと、なんだか突然自分がアリみたいなちっぽけな、とるに足りない存在になったような気がするんだ。そしてなんとか人に負けないものを作らなくてはと思う」(ブライアン・ウィルソン)
「僕の見聞したところから述べさせていただけるなら、ドラッグというのは、魂に問題を抱えた人間がもっとも手を出してはならないものだ。フリートウッド・マックのピーター・グリーンと昼食を共にしたことがある。彼はメニューにまともに目を通すことさえできなくなっていた。その30年ばかり前に、サイケデリック・ドラッグの服用によって、グリーンの統合失調症は悪化し、彼の人生は恐ろしい奈落の底に落ち込んでしまった。最近になってようやく最悪の状態から抜け出せて、僕はそのときの彼に会ったのだ」
「ジャコ・パストリアスの躁鬱病はドラッグと飲酒のために、より激しいものになった。そしてこのベーシストは、自らが設定したきわめて高い水準での演奏を維持する能力を失っていった。それからほどなく、ジャコはとあるフロリダのナイトクラブの外で、用心棒によって殺された。ある警官が僕にパストリアスの臨終の写真を見せてくれた。彼の頭は膨らみ、へこみができて、顔には黄色や紫の不気味な染みが認められた」
「多くのミュージシャンは『ペット・サウンズ』のセッションのあいだずっと、ブライアンはまるで何かに追いまくられているような、神経を高ぶらせた状態にあったと言っている。「『ペット・サウンズ』の仕事をしているとき、ブライアンは冗談ひとつ口にしなかったし、何を言ってもにこりともしなかった」とギターのジェリー・コールは語っている。「スタジオに入ってきても、微笑みひとつ浮かべなかった。頭の中にこれをこうしなくちゃというプランがしっかり詰まっていたんだね。夜の7時に仕事を始めて、朝の7時まで続けたりもした」。ミュージシャンたちが帰った後もブライアンはスタジオに残った。20時間くらいぶっ続けでいることもあった。
「彼の気前のよさには実に驚かされた」とコールは言う。「時間が長引くと、全員に食事の出前をとってくれた。そんなことに常に留意してくれたのは、ほかにはフランク・シナトラくらいしかいない」
「これ(God Only Knows)は実に実に偉大な曲だ」とポール・マッカートニーは言った。「僕はこの曲がたまらなく好きだ」

♪ いかなるときにも君を愛するとは、いいきれないかもね。 でも見上げる空に星がある限り 僕の想いを疑う必要はないんだよ。 時がくれば、君にもそれがわかるだろう。 君のいない僕の人生がどんなものか、それは神様しか知らない ♪

ジム・フジーリの『ペット・サウンズ』には村上春樹の18ページにわたる素晴らしい訳者あとがきがついている。これだけでも買う価値がある気がする。「聴いてみてください。聴く価値のあるアルバムです。そして何度も聴き返す価値のあるアルバムです。
『サージェント・ペパーズ』が僅かずつではあるが、当初の圧倒的なまでの新鮮さを失ってきたのに比べて、『ペット・サウンズ』はそのレコードに針を落とすごとに、何かしら新しい発見のようなものを僕にもたらしてくれた。そしてある時点で両者は等価で並び、そのあとは疑いの余地なく『ペット・サウンズ』が『サージェント・ペパーズ』を内容的に凌駕していった」

私が持っている『ペット・サウンズ』のCDには山下達郎の感動的なライナーノーツがついている。
「……だがしかし、それを考慮にいれてさえなお、『ペット・サウンズ』は語り継がれるべき作品である。何故ならこのアルバムは、たった一人の人間の情念のおもむくままに作られたものであるが故に、商業音楽にとって本来不可避とされている、『最新』あるいは『流行』という名で呼ばれるところの、新たな、『最新』や『流行』にとって替わられる為だけに存在する、そのような時代性への義務、おもねり、媚びといった呪縛の一切から真に逃れ得た、稀有な一枚だからである。このアルバムの中には「時代性」はおろか、『ロックン・ロール』というような『カテゴリー』さえ存在しない。   にもかかわらず、こうした『超然』とした音楽にありがちな、聴くものを突き放す排他的な匂いが、このアルバムからは全く感じられない。これこそが『ペット・サウンズ』最も優れた点と言えるのだ。『ペット・サウンズ』のような響きを持ったアルバムは、あらゆる点でこれ一枚きりであり、このような響きは今後も決して現れる事はない。それ故にこのアルバムは異端であり、故に悲しい程美しい。」

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