2011年1月11日火曜日

債券インデックスについて



債券投資とファイナンス理論(太田智之1999

インデックスにおける株式と債券の相違

ベンチマーク・インデックス活用の理論的妥当性は平均分散分析から導かれた2ファンド分離定理。すべての投資家が、リスク資産の組合せとして、「市場ポートフォリオM」を選択することになる。その後、投資家個々のリスク許容度などの観点からリスク資産と無リスク資産の比率を決定すればよい。

市場ポートフォリオの近似としてTOPIXNOMURA-BPI総合指数がある。時価総額加重であり、現存するすべての証券を購入したポートフォリオに近いものとなる。

しかし、実は債券の場合には、株式の場合と異なり、現存するすべての債券を組み入れたポートフォリオは、ここでいう「市場ポートフォリオ」にはならない。

・債券の市場ポートフォリオの問題

消費CAPMによると株式のリスクプレミアム(期待リターン)は高く、債券のリスクプレミアムは低くなる。株価と消費は相関が高い。債券は景気が悪く、消費が伸び悩むと金利が低下し、債券価格が上昇する。つまり債券には景気、消費の落ち込みをヘッジする価値があり魅力的である。その分、期待リターンが低くなるところまで買われる。

リスクを資産価格変動の標準偏差のみで捉えると債券の投資対象としての存在意義が疑われることになるが、リスクは消費ベータで捉えるべきである。消費ベータを横軸にとったグラフでは、各資産が直線上に並ぶはず。

しかし、この説明は理論的には正しいが、消費ベータは実証的に推定することは困難であり、実務家に馴染みがなく、説得力がない。

債券の投資対象としての意義を実務家にも分かりやすく説明するために考え出されたのがM.リーボビッツの説明。

・リーボビッツによる説明

機関投資家の負債には債券の負債とよく似たキャッシュフローの形をしたものがある。証券投資のリスクを、資産のみに注目してみるのではなく、負債との対比で考えるべきである。資産と負債との時価でみた価格変動の相違こそが機関投資家にとってのリスク。

債券投資の価格変動リスクは、負債との対比で考えない限り、意味を成さない。個々の機関は、自らの負債と同程度の期間の債券を、資産として保有することが、価格変動リスクが小さい投資となる。

債券投資においては、個々の投資家が保有すべき債券の種類やその残存期間は、それぞれの投資家の負債の状況によって異なることになる。どの投資家にも共通の、最適な債券ポートフォリオは存在しない。

・M.グラニートの証券市場のモデル

例えば先物はネットでは投資家間で相殺されるため、市場ポートフォリオに含めないのは誰の目にも明らか。グラニートによれば、平均分散分析で言うところの市場ポートフォリオは「生産過程へのインプットの調達を直接の目的として発行された証券の総合計」であり、国債、金融債は市場ポートフォリオに含めない。金融債は禁輸期間が発行し機関投資家が保有する。投資家間で相殺されてしまうので市場ポートフォリオには含めない。

国債は国、金融機関、国民の間で相殺されるため市場ポートフォリオには含めない。結局、市場ポートフォリオには事業債とMBSのみが含まれることになる。

現存する債券すべてを保有する時価総額加重のポートフォリオは平均分散分析でいう市場ポートフォリオには当たらない。時価総額加重ポートフォリオがどの投資家にも共通の最適なポートフォリオであるということは、理論的にも正しくない。

債券運用実務への示唆

まず個々の投資家が自らの負債の状況を分析するところから始まる。負債の期間の長さに加えて、流動性の必要度など、ほかの観点からも負債を分析する必要がある。

NOMURA-BPI総合指数のパフォーマンスは、債券を運用する者の、平均的運用成果を表す。運用成果を総合指数と比較することは、平均点との比較という意味はある。しかし、いかなる投資家にとっても最適な債券ポートフォリオであることは意味しない。債券運用においては、万人に共通の最適ポートフォリオは存在しない。個々の投資家が自らの負債の状況に合致した、債券ポートフォリオや、それに適合したベンチマーク・インデックスを選択する必要がある。この場合に用いられるのが、カスタマイズド・インデックスである。


パッシブ・コア戦略(中央三井信託銀行年金運用研究会2001

理論が想定した市場ポートフォリオとは、その経済に存在する正味の富を表す根源的な資本資産。証券とは投資家と生産活動を結ぶもの。市場ポートフォリオはそのような証券の残高によって構成されたポートフォリオであり、生産活動に直接投入されない資金調達を目的とした証券はそこに含まれない、と考える。

例えば先物市場は売り手と買い手の間でキャンセルされるもので、社会的なリスクの負担としては正味でゼロだから含まれない。金融債も国債も相殺されるので市場ポートフォリオには含まない。

このような理論面に加えて、現象面からも債券インデックスの効率性に疑問を感じさせるものとして、利回りとデュレーションの逆相関がある。利回りが高い時期は債券インデックスの満期が短く、低い時期は長くなる。インデックスに従って運用すれば、債券価格が下がればリスクを小さく、上がれば大きくすることになる。しかし金利に平均回帰性があることを考えれば逆のほうが効率的である。このような債券インデックスが、平均的な投資家のリスク選好を表しているとはみなしにくい。

0 件のコメント: