株式の(ヨーロピアン)オプションはブラック-ショールズ(-マートン)・モデルで評価される。そこではボラティリティ、金利は定数、株式のリターンは正規分布(したがって株価は対数正規分布)に従うと仮定されている。初めてブラック-ショールズ-マートン・モデルを見ると、「現実にはボラティリティは一定ではないし、株価も対数正規分布ではない」のに、こんなモデル使えるの?という気がするが、実際にやってみるとオプションを先物でデルタ・ヘッジするとちゃんと機能することが分かる。理論値と市場のオプション価格の違いはヒストリカルなボラティリティとインプライド・ボラティリティの違いとして把握される。
株式のデリバティブはシンプルな世界だった。しかし金利のデリバティブを考え始めると、とたんに複雑になることが分かる。そもそも金利のデリバティブが必要になるのは、金利が変動すると考えているからでB-Sにおける「金利が一定」という仮定は意味がない。また、金利の期間構造において裁定取引ができないような金利モデルである必要がある。しかも金利なので負になってはいけないし、対数正規分布のように発散する過程は使えない。そういう制約の中でいろいろな金利モデルが提案されてきた。
HJMは、瞬間的フォワードレートを状態変数に位置づけている。理論的構成が単純で取り扱いが容易。しかし瞬間的FRは仮想の金利で直接取引されておらず、トレーダーら実務家の理解を阻んだため、HJMは金利デリバティブ評価の標準モデルとみなされなかった。
実務現場ではBlackモデルが標準。キャップ/フロアの評価は瞬間的FRではなくフォワードLIBORの変動にもとづくBlackの評価式。スワップションの評価はフォワード・スワップレートの変動にもとづくBlackの評価式を採用。
HJMはフォワードレートが正規分布にしたがって時間発展。そのため金利が負になる確率がゼロではない。この問題を回避するため瞬間的FRが対数正規分布にしたがって時間発展すると仮定すると、今度は金利が無限大に発散。
トレーダーは慣習としてBlackの公式を使っていたので、Blackの公式を再現する数学的裏づけがあり、無裁定を保証する金利モデルの定式化が望まれていた。マーケット・モデルは、その要請に応える金利モデル。
マーケット・モデルは、「市場で取引される「金利」が状態変数」、「預金勘定と債券間、および債券間で無裁定条件を満たす」、「金利が対数正規で時間発展するので正値性を保証」、「評価式がBlackの公式と一致」という好ましい性質のため、現在広く実務で活用されている。
マーケット・モデルはどの金利を状態変数に採用するかによって、「フォワードLIBORを状態変数とするフォワードLIBORモデル」と「フォワード・スワップレートを状態変数とするフォワード・スワップレート・モデル」の2種類に大別される。
HJM,マーケット・モデルは無裁定条件を満たす相異なる金利モデルが存在すると主張しているわけではない。MMはHJMで表現可能で、互いのボラティリティは1対1の対応関係。どの測度のもとでボラティリティを指定してモデルを構築しようとしているかにすぎない。
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