2013年3月27日水曜日

『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』

積読だった『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』を読み終わりました。リーマンショックのときのポールソン財務長官、米国金融機関の経営者達の言動に迫ったノンフィクションです。原題は『Too Big to Fail』。リーマンのくだりでは、以前に見た映画『マージンコール』の映像を思い出しますね。
読んでいて、タッチが『野蛮な来訪者―RJRナビスコの陥落』(1990)に似ているなと思ったら、謝辞で、これまで出版されたビジネス書のなかで著者が一番好きな本がそれだと書いていて、納得。これも面白かったけど翻訳は絶版ですね。図書館で借りて読んだな。 『野蛮な来訪者―RJRナビスコの陥落〈上〉』 (ブライアン バロー)原題は『Barbarians at the Gate』 Bryan Burrough。
『野蛮な来訪者』や『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』を読んで感じるのは、ビジネス関連のアメリカのノンフィクション・ライターのレベルの高さですね。本当に良く調べているし、面白い。
金融関連のノンフィクションで他にお勧めは『世紀の空売り』と『天才たちの誤算』ですね。前者はサブプライム危機で売りに回ったコントラリアンたち、後者はLTCMの破綻について書かれた本です。
急いで出版したのか、翻訳には金融用語で誤訳かタイポと思われるものがいくつかありますね。「元債権トレーダー」とか。

以下、備忘録
「スウェイゲルと同じく、バーナンキも学者らしく態度にぎこちないところはあるが、経済学者にしては驚くほど世間話がうまく、ポールソンと彼のチームにオフィスを見せてまわった」
「CDOに使われていた複雑な手法のいくつかは私の理解を超えていた。CDOの中間部分やさまざまなトランシェからどうやって利益を生み出すのかといったことは、わからなかった。私にすらわからないものが、世界の残りの人たちにどう理解されるのかと思うと、途方に暮れた」(グリーンスパン)
「最高リスク管理責任者(CRO)マデリン・アントシンクを雇ってはいるが、インプットはゼロに等しかった。彼女は執行委員会でリスクが問題になったときにも退室を命じられることが多く、2007年の終わりには執行委員会そのものから追放された」
「リチャード・ファルドはリーマン、リーマンはリチャード・ファルド。会社のロゴを胸につけた経営者がいるとき・・・被害は甚大なものとなります」
ファルドは51%の議決権を持っている。
ヘンリー・ポールソンがGSからコーザインを追い出したときに、CEOは2年で辞めて後はジョン・セインとソーントンにまかせると言ったけど辞めないで、ロイド・ブランクファインをセインと並ぶ共同社長に指名。ブランクファインの統括するビジネスはGSの80%の収入をもたらしていた。
AIGの創始者コーネリアス・バンダー・スターは27歳で上海に渡り中国人に保険を売り始め、アジア諸国に手を広げた。軍の友人だったマッカーサーの力を借りてアメリカ軍に保険を販売。日本が外国の保険会社に市場を開放するまでAIGジャパンは海外損保事業でAIG最大の売り上げをもたらした。
「AIG・フィナンシャル・プロダクツ(FP)は1987年にグリーンバーグと、ベル研究所出身の金融学者ハワード・ソーシンとの非凡な取引から生まれた。ソーシンは”デリバティブのストレンジラブ博士”として有名になった」。ストレンジラブ博士は映画『博士の異常な愛情』の登場人物ですね。
ソーシンはミルケンのドレクセル・バーナム・ランベールで働いていたが1990年の同社の破産前の1987年にドレクセルの従業員13人を連れてAIGに逃げ込んでいた。そのうちの一人が32歳のジョゼフ・カッサーノ。
AIG・FPは「いくつかのヘッジファンドの慣行どおり、トレーダーが利益の38%を獲得し、残りを親会社に渡していた。ビジネス成功の鍵は、S&PによるAIGのトリプルAの格付けだった」
ソーシンはグリーンバーグと仲たがいして1994年に他の設立者とFPを去っている。グリーンバーグはその前からプライスウォーターハウスクーパースと共同で密かにソーシンの取引を記録するシステムを構築し、後で解析、模倣できるようにしていた(mjsk)。カッサーノはFPに残りCOOに。
1997年のアジア危機のときカッサーノはJPモルガンにCDSのビストロ(BISTRO: Broad Index secured trust offering)を紹介されている。最終的に買わなかったがFPの分析者に商品の研究をさせてCDSはほぼ安全と判断している。
「ビストロにおいて、銀行は帳簿上の何百という融資を取りまとめ、それぞれ債務不履行に陥りそうなリスクを計算し、SPV経由で、投資家に少しずつ商品として販売することによってリスクを最小化する」
カッサーノはAIGをCDSのビジネスに進出させ2005年にはこの分野の大プレーヤーに。「不遜に聞こえるかもしれませんが、理性が及ぶかぎり、この取引で1ドルでも失うシナリオはとうてい思いつきません」。上司のマーティン・サイバンも同意した。「だから夜も安心して眠れるのだ」
「ロバート・ルービンはその人事に反対した。「トレーダーがほかの分野で成功したためしはない」ルービンはウィンケルマンに言った。「本当に大丈夫かな?」 「あなたの経験はお起きに参考になるけど、ロイドは大丈夫だと思う」ウィンケルマンは答えた。」
「クリントン政権の圧力下で、(ファニーメイとフレディーマックの)両社はサブプライム住宅ローンを引き受けはじめた。その動きは、これで誰にとっても持ち家が夢でなくなるという論調で報道発表されたが、普通の基準では家が持てない人にローンを提供するのは、そもそも危険なビジネスだった」
リーマン・ショック・コンフィデンシャル』上巻340pにある「2007年の(バークレイズの)ダイアモンドの収入420億ドル」というのは4千2百万ドルの間違いですね。さすがに多すぎます。
フラワーズがNYで同伴していたのがジェイコブ・ゴールドフィールド。ゴールドマンがLTCMを支援した際に、この会社の全情報を自分のノートパソコンに不正にダウンロードした人物。
アメリカの金融機関の経営者は、社内の激烈な競争を勝ち抜いてきただけあって、煮ても焼いても食えそうもないのばかりですね。
JPモルガンは、リーマン、メリル双方のクリアリング・バンクであり、さらにAIGの顧問だった。ダイモンは誰よりも事情を把握していたんですね。
本は、ポールソンがリーマンに破産申請を促す電話をSECのコックスにさせたところ。
リーマンの取締役会にはIBMの元会長ジョン・エイカーズやヘンリー・カウフマンなど錚々たるメンバーですね。そして今その取締役会がリーマンの破産申請に関する投票を行い、可決されたところ。
元GSでJ.C.フラワーズ社会長で新生銀行取締役でもあるクリストファー・フラワーズってほんと曲者だな。メリルについてBoAに公正意見書を書き送り、フォックスピット・ケルトンと合計で手数料として2000万ドルを得ることになっている。一週間みたないあいだの稼ぎ。
当時はリーマンの次はメリルが危ないと見られていたんですね。2008年9月14日の深夜、BOAとメリルの合併が発表され、ついで15日の午前1時にリーマンの連邦破産法11条の申請が発表された。
「JPモルガンとゴールドマンにAIGを救済させようと決めたのは(ニューヨーク連邦準備銀行総裁のティモシー・)ガイトナーだった」
ダン・ジェスターは元ゴールドマン副CFOで、財務省特別顧問。
「生真面目な経済政策担当次官補フィリップ・スウェイゲルは、大胆に行動すべきであり、政治的影響を恐れて問題解決から目をそらしてはならないと強調した。「日本の二の舞になってはいけません」」
リーマンがチャプター11、AIGが政府に救済された後も、モルガン・スタンレーは資金流出にみまわれ、資金が枯渇しかけていたんですね。
東京のモルガン・スタンレー証券社長ジョナサン・キンドレッドがMSのCFOケラハーに電話「面白い話です。いま三菱から電話があった。取引したいそうです」。この電話は晴天の霹靂だった。三菱UFJの玉越会長がアメリカに投資することはないと発言していたからMSは三菱を選択肢から排除していた。
「ケラハーは、驚くと同時に疑問も感じた。以前にも別の日本の銀行と仕事をした経験から、日本の銀行はつねに動きが遅く、リスクを嫌い、きわめて官僚的であるという評判どおりだと思っていたからだ」
MSとワコビアとかGSとワコビアの組合せの話もあったんですねえ。GSとCitiとか、JPMとMSとかも検討されてますね。中国のCICの名前も。GSとCitiはCitiが拒否。JPM側はMSの内容が悪すぎると判断したようですね。
銀行持ち株会社になり、「充分な預金を確保し、さまざまな規則にしたがえば、連銀の貸出枠から短期融資が受けられる」
「「おいおい、日本人のころはわかっているだろう。彼らはことを起こさない。迅速に動くことはぜったいにない」ポールソンは言い、中国かJPMとの取引にもっと集中すべきだと示唆した」
「「助かった。これで解決だ!」ジェイミー・ダイモンは叫び、JPMの役員フロアの廊下を走って、ジェイムズ・リーのオフィスに飛び込んだ。「マックから電話があった」ダイモンは安堵のため息をついて言った。「日本企業から90億ドルを獲得したそうだ!」」
「政治の問題は、大惨事を回避したからといって、功績は認められないことだ」(バーネット・フランク)
三菱東京UFJ銀行からモルガン・スタンレー宛に振り出された90億ドルの小切手




2 件のコメント:

株を始める さんのコメント...

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!

J.S.エコハ さんのコメント...

どうもありがとうございます!