2011年4月10日日曜日

チボの狂宴 by マリオ・バルガス=リョサ

独裁者による悪夢の世界をリアリズムで描く
チボとは、実在したドミニカ共和国の独裁者であるラファエル・トゥルヒーリョ大統領のこと。独裁者に私物化されたドミニカの悪夢のような世界が、フローベールの流れを汲むヨーロッパ小説的リアリズムで描かれる。配下の議員の妻を寝取ったり、都合の悪い人間を抹殺したりと、やりたい放題である。大統領に不満を持つ、サルバドール、アントニオ、アマディートらによる大統領暗殺計画を縦糸に、尿失禁に悩む大統領の身近な出来事と、カブラル上院議員の娘のウラニアによる現在からの回想を絡ませて、複眼的に当時のドミニカの世界を浮かび上がらせる。
リョサと同様にノーベル文学賞を受賞しているガルシア=マルケスの「族長の秋」もトゥルヒーリョがモデルらしい。二人のノーベル文学賞受賞者に取り上げられるほど、トゥルヒーリョは文学者の想像力を刺激する存在らしい。マルケスのほうはシュール・レアリズムと実験的文体で描かれている。リョサの「チボの狂宴」を読んだあとは、「族長の秋」も読み返したくなる。

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