2010年11月23日火曜日

演習で学ぶ現代制御理論 森泰親

数値例による演習と詳細な解答を通じて現代制御理論の理解を深めることのできる良書。
現代制御は、状態方程式を用いて時間領域で解析・設計することが可能となり、所望の制御系を設計できるかどうかの見通しがよくなった。その代わり、理論が難解になった。古典制御に比べて現代制御がむずかしいと感じる理由は次の4つ。(a)状態方程式というものになじめない、(b)行列計算についていけない、(c)定理と証明ばかり目立ち、その目的が見えない、(d)肝心のアルゴリズムがまとめられていない。
いったん状態方程式でシステムを表現してしまえば、化学プラントもジェット機も同じように扱うことができるのが状態方程式の特徴のひとつである。本書では、電気回路、機械振動系などのシステムを状態方程式で表現する演習の具体例を通して状態とは何かの答えを探る。
現代制御では行列計算を多用する。行列式の展開、逆行列計算、対称行列の性質、重複固有値を持つ場合の固有ベクトル計算などは、数多くの数値例を通して理解を深めることができる。また、行列のランク計算、行列の正定、半正定、負定の判定は、比較的大きなテーマなので1つの節を設けている。
 「現代制御の現場での適用を考えたとき、計算機とMATLABは必要不可欠な道具であろう。しかしながら、それらは、現代制御理論を理解した後にいよいよ実際に使ってみるときに必要となる道具であって、いま理論を理解しようとするときには、便利すぎるMATLABはかえって邪魔になる。それは、どうしても、現代制御理論の理解よりもMATLABの使い方に興味が走ってしまい、プログラムの入口と出口の引数設定方法の解釈に留まり、肝心の中身を軽んじるからである。
 指数、対数、三角関数などの意味や原理がまったくわからなくても手元に電卓があれば即座に答えを手に入れることができる。この場合、単位や入力方法の勘違いで間違った答えが出ていても気が付かないであろう。もっと極端に、電卓が壊れてまったく違う答えを表示していてもそれを信用するであろう。これは非常に危険なことである。答えを簡単に入手できるMATLABはこの電卓と同じだと思わなくてはならない。現代制御理論を十分に理解しないままでは、MATLABに使われ振り回されているのであって、それを道具として使っているとはいえない。
 教科書に書かれている式の展開を、自分の手でひとつひとつ確認することで行間を読み、はじめて現代制御理論を自分のものにすることができる。」

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