2009年12月27日日曜日

完全なる証明

この本に関しては、英語版よりも日本語版を読むべきだろう。なぜか英語版ではかなりの部分がカットされているらしい。
ソビエト時代にユダヤ人がいかに差別されていたか、いかにペレルマンが守られ、運も味方したか(ペレストロイカなど)、社会主義のもとで多くの学問が衰退していくなかでいかに数学が生き延びていくか、そのことにコルモゴロフがどれだけ貢献したかなどが冷静な筆致で描かれていく。
ハーバードのヤウ・シントゥン(Shing-Tung Yau,丘成桐)の、(本当だとすると)最低な行為なども書かれるが、白眉なのはRicci Flowコミュニティの中心人物、ハミルトンとのやりとりだろう。
途中、メダリオンのジム・シモンズ(元数学者で大金持ちのヘッジファンド・マネジャー)も出てきたりして、驚く。
ペレルマンの行動は、多くの人には心の中では理解できるだろう。ただ、普通は社会と妥協しながら生活せざるをえない。
NHKスペシャルは、門外漢の一般の人に専門的な内容を知らしめる効果はあるが、一方でその道の専門家からみたら、首を傾げたくなる内容も多い。先日の金融工学特集も金融のプロのオレからみると、おやおやという点が多い。
 NHKのポアンカレ予想特集でも、ポアンカレ予想が宇宙の形を解明するかのような説明だったが、「ポアンカレ予想と宇宙の形にはあまり関係がない」そうだ。
ペレルマンの行動から、数学ですらお金の問題が複雑にからんでくるアメリカ流の学術研究の枠組みや運営方式にたいする問題が浮かび上がってくる。
正月休みの時間つぶしにはもってこいの読み物。
ちなみに、ペレルマンの論文とKleiner and Lottのそれに関するノートは今でもネット上で閲覧できる。
《ペレルマンの3本の論文》
《Kleiner and LottのNotes on Perelman's paper》

0 件のコメント: