2010年3月25日木曜日

離散時間モデルによる数理ファイナンスのテキストのなかでベスト


数理ファイナンスの金字塔であるハリソン=クレプス=プリスカの定理を証明したあのプリスカが書いた教科書である。しかし説明は平明であり難解さはない。同じ趣旨の本として、シュリーヴの「ファイナンスのための確率解析Ⅰ」があるが、あれよりもこちらのほうが数段良いと断言できる(あちらも嫌いではないが、内容や記述ににまとまりがない)。連続時間ではシュリーヴの「ファイナンスのための確率解析Ⅱ」が優れているので、「ファイナンスのための確率解析Ⅰ」の代わりにプリスカのこの本を読んでから、「ファイナンスのための確率解析Ⅱ」を読むのがベストの勉強法だと思う。
例えば、第5章の最適消費投資問題においても①微分による解法、②動的計画法、③マルチンゲールによる解法がきっちりと例を示しながら書かれている。私は、この本のおかげで目からうろこが何枚も落ちた。
ただし、微分・積分、線形代数、確率がある程度理解できていないとこの本は厳しい。でも、挑戦する価値のある本である。離散時間のテキストでは間違いなくベストである。
実は、この本の成り立ちには日本が深く関係している。今は無き山一證券が筑波大学に客員教授として招いた博士課程クラスの講義ノートが基になっているのである。なぜ日本の金融はあのころから強くなれていないのだろうか。
『ハリソン=クレプス=プリスカの定理の結論は
「資本市場が完備性という条件を満たしているならば、無裁定条件が成り立つとき、またそのときに限り、将来の収益のある種の平均値が、その商品の公正な価格を与える」
というものである。1970年代末に証明されたこの定理は、「完備市場における無裁定条件と同値マルチンゲール測度存在の等価性」と呼ばれている。市場が完備で無裁定条件が成立しているときは、「将来の収益の平均を計算するに当たって、将来の株価の変動を表す確率分布そのものではなく、それにある修正を施した確率分布 -同値マルチンゲール測度- が存在し、それをもとに平均を取ると、それがこの商品の価格になる」。
ハリソン=クレプス=プリスカの定理は、アロー=ドブルー以来の一般均衡理論をもとに、確率積分、数理計画法などの手法を駆使して導かれた、金融経済学上の一大金字塔である。』(『金融工学の挑戦』 今野浩)

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