2010年10月17日日曜日

世紀の空売り(4) 格付け機関は張子の虎である

ウォール街の投資銀行も、めざすところは基本的にすべての製造業と同じ。原材料(住宅ローン)の仕入れにはできるだけ経費をかけず、商品(モーゲージ債)にはできるだけ高い値段を付けること。商品の価格は、商品に与えられた格付けによって変動し、その格付けは、ムーディーズとS&Pが使うモデルによって決まる。モデルの仕組みは社外秘とされ、ムーディーズもS&Pも、不正操作など不可能だと断言している。しかし、そういうモデルに携わる人間が、不正な働きかけに弱いということは、ウォール街の常識だった。
「ウォール街に就職できない連中が、ムーディーズに就職するんですよ」とゴールドマン・サックスのトレーダーからヘッジファンドに転職したある人物が言う。格付け機関の内部にはまた別の階級制があって、サブプライム・モーゲージ債の格付け役は、その中でもさらに陽の当たらない場所にいた。「格付け機関の社員の中で、いちばんましなのは企業信用の担当者ですね」とモルガン・スタンレーでモーゲージ債の開発に当たっていた計量アナリスト。「次がプライム・モーゲージの担当者。その次が資産担保の開発者で、この連中はたいてい能なしです」(サブプライム・モーゲージ債は、モーゲージ債ではなく、資産担保証券(ABS)に分類される)。
年収数百万ドルのウォール街のトレーダーたちが、年収七万ドルないし九万ドルの能なし連中をおだてて、考えられるかぎり最悪のローンに可能な限り高い格付けをさせる作戦行動に乗り出した。格付け機関は、個々の住宅ローンを評価しているわけではなかった。モデルを使って見たり評価したりしているのは、ローン・プールの全体的な特徴でしかなかった。
その一例がFICO(消費者信用格付け)スコアの扱い方。FICOスコアは、あまりにも単純な物差し。例えば、借り手の収入が計算に入らない。データの操作がしやすい。借り手になりたい人は、ローンを借りて、それを即座に返済すれば、スコアを上げることができた。格付け機関によるスコアの使い方はもっとお粗末。格付け機関がローンのパッケージ業者に提出させていたのは、借り手全員のFICOスコア一覧ではなく、ローン・プールの平均FICOスコア。そもそもスコア550の人間が債務を果たせる望みは無に等しいが、埋め合わせにスコア680の借り手をひとり見つけ出して、平均値を615にしてしまえば、基準は満たせた。ローンを組んだことがなく(したがって返済不能や遅延の履歴がなくFICOスコアの高い)低所得の移住労働者が利用された。


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