格付け界で最上位にあって、株の二十パーセントをウォーレン・バフェットが所有する名門機関。そのCEOが、クィーンズ出身のヴィンセント・ダニエルに、ぼんくらか、さもなければ詐欺師だと言われたのだ。
「格付け機関はCDOの格付けで、ゼネラル・モーターズの債券を格付けするときの十倍以上も稼いでいた。そういう季節が完全に終わろうとしていたんだ」
「証券化の専属部隊がウォール街の巨利の中心で、そこの機能が停止しかかっていた。そして、それが現実となったときは、投資銀行の収入がたたれるときだ」とアイズマン。
「連中は知らなかった。自分が経営する銀行のバランスシートのことを、知らないんだよ」
「世界で五本の指に入る投資銀行を、からっぽ頭の男が経営している!」とアイズマン。
マイケル・バーリの息子はアスペルガー症候群と診断された。そして自分自身もそうだとさとる。
”視線を合わせることなど、言葉を用いない多様な行動に、著しい欠陥が見られる・・・”
”同年代の友人関係が築けない・・・”
”楽しみや興味、あるいは達成感などを、他人と分かち合おうという自発性に欠け・・・”
”相手の目つきから、社会的もしくは情緒的もしくはその両方のメッセージを読み取るのが困難・・・”
”怒りを表現するための常道の調節や制御機能が不完全・・・”
”コンピューターに強く魅力を感じる理由のひとつは、話しかけたり、打ち解けたりする必要がないというだけでなく、コンピューターが論理的で、整合性を備えていて、気分に左右されない存在だからである。それゆえ、アスペルガー症候群の人々にとっては、理想的な興味の対象となる・・・”
”多くの人が趣味を持っている・・・アスペルガー症候群に見られる奇行が、正常なものと違う点は、そういう楽しみが、孤立した特異なものになり、本人の時間と社交性とを奪ってしまう場合が多いことである・・・”
オレも全部当てはまるなぁ・・・。オレもアスペルガーなのか?
サブプライム・モーゲージ市場が下がり始めているのに、しばらくは逆にCDSの価格も下がったと書かれている。このあたりが、プライシングまで証券会社に依存するCDSのむつかしさだな。
JPモルガンは、CEOのジェイミー・ダイモンじきじきのお達しで、すでに2006年の晩秋、サブプライム・モーゲージ市場から退いていた。ドイツ銀行は、リップマンがいたおかげで、常にゆるく網を握っていた。それに続いたゴールドマン・サックスは、単に網を手放すだけでなく、方向転換して、サブプライム市場が下げるほうに大きく賭け、その動きによって、気球の致命的な上昇をいっそう速めた。
モルガンスタンレーのハーウィー・ハブラーが残していった損失額は、90億ドル強と報告されている。ウォール街史上、飛び抜けて最大の損失額だった。
最後のカモ、みずほ証券
アイズマンは、グリーンスパンを軽蔑にも値しないほどの人物だと見ていて、こんなふうに評した。「アラン・グリーンスパンは史上最悪の連邦準備制度理事会議長として、評判は落ちる一方だろうな。あまりに長いあいだ、あまりに低く金利を設定したことなんて、序の口だよ。サブプライム市場で何が起こっているか知りながら、目をそむけてたのは、消費者がどんな目にあおうと痛くもかゆくもないということさ。ほんとうは頭がいいのに、何もかも根本から思い違いをしているんだから、気の毒な人間だと言ってもいいね」
「(アメリカの金融システムが)循環型のマルチ商法に見えるとしたら、それは、ほんとうにマルチ商法だから、そう見えるんです」
「わたしはウォール街の大手投資銀行内で良心の呵責に悩んでいる人に一度もお目にかかったことがありません。誰の口からも、『これは間違っている』という言葉を聞いたことがありません。」
世間では専門的知識の持ち主だと評される人間たちが、じつはメディアのご機嫌取りに時間を費やす人間たちであるという現状に、バーリは憤慨していた。マネー・マネジャーほど客観的な仕事はないはずなのに、その業界内ですら、事実と論理が、あやしげな社交的手腕に凌駕されてしまう。
まだ残っている顧客宛に、マイケル・バーリはこう書いた。
「今やかくも大勢の人間が、自分はサブプライムの終末や、商品取引ブームや、斜陽経済の到来を予見していたと言っているのには、まったく呆れてしまいます。そういう面々は、テレビに出演したり、インタビューに答えたりして、必ずしも明確な裏付けもなく、次に何が起こるかを自信たっぷりに、耳障りな声で予測しています。この前起こったことについて、とんでもない思い違いをしていた人間に、次に何が起こるかを人前で話す資格などないと思うのですが、どうでしょうか?さらにいえば、わたしの記憶によると、当時わたしの意見に賛同してくれた人間は、そんなに大勢はいなかったはずです」
あるトレード業界紙が、2007年度の優秀なヘッジファンドを75社紹介する特集号を出したが、サイオンは(利回りでいえば、最優秀かそれに準ずる地位にあるのに)掲載されなかった。
初のモーゲージ・デリバティブを作り出した元ソロモンの著者の友人はいまだに、「デリバティブは銃みたいなものだ。問題は道具じゃない。道具を使う人間のほうだよ」とよく言う。
メザニンCDOは、1987年ドレクアエル・バーナムのマイケル・ミルケン率いるジャンク・ボンド部で発明された。モーゲージに裏づけされたCDOの第1号は、1980年代と90年代にソロモン・ブラザーズのモーゲージ部で修練を積んだあるトレーダーが、クレディ・スイスに転職後、2000年に創り出したものだ。アンディ・ストーンという名のそのトレーダーは、頭脳面ばかりでなく、人事面でも、サブプライム危機と因縁を持っていた。ストーンは、ウォール街でグレッグ・リップマンの初の上司となった人物なのだ。
ウォール街では、強欲は前提条件であって、見かたによっては義務に近い。問題は、強欲への流れを創る報酬システムだろう。
もしかしたら「投資」の定義とは、”自分に有利なオッズで行う博打”かもしれない。「世紀の空売り」の勝負の奇妙かつ複雑な点は、敵味方に分かれた重要人物たちのほぼ全員が、財布をずっしりと重くしてテーブルを離れたということだ。ハーウィー・ハブラー(MS)は、単独のトレーダーとしてはウォール街史上最大の損失を出したが、それでもなお、みずから稼いだ数千万ドルの金を懐に入れることが許された。ウォール街の大手投資銀行のCEOたちもまら、博打の負け側にいた。その全員が、ひとりの例外もなく、自分の経営する企業を破産に追い込むか、さもなければ、アメリカ政府の介入によって破産を免れた。そして、全員がやはり金持ちになった。
賢い決断を下す必要がないとしたら、つまり、お粗末な決断を下しても金持ちになれるとしたら、どれくらいの数の人間が賢い決断を下そうとするだろう?ウォール街の報奨制度は、全面的に間違っていた。今でも間違っている。
金融危機を解決する立場にあった人々とは、もちろん、事前に予見できなかった人々にほかならない。ヘンリー・ポールソン、ティモシー・ガイトナー、ベン・バーナンキ、ロイド・ブランクフィン、ジョン・マック、ヴィクラム・パンデット・・・。たいていのCEOが現職にとどまり、よりによってその面々が、密室の中の要人となって、次に何をすべきかを考え出そうとしていた。そこには、ひとにぎりの政府高官も参与していた。その全員の共通点は、アメリカの金融システムの中心にある基礎事実を把握する能力が、アスペルガー症候群を患った隻眼のマネー・マネジャーに遠く及ばなかったということだ。
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