2010年10月9日土曜日

ザ・クオンツ(5) ルネッサンスのメダリオンなど


P348: MITのアンドリュー・ローとアミル・カンダーニは、2007年10月のマーケット崩壊についての研究成果を、「クオンツに何が起きたのか?(What Happened to the Quant?)」という報告書にまとめた。

P385: 「ルネッサンスは、いくぶん型破りな投資運用会社です。我々のアプローチは、数学者という私の経歴が土台になっています。我々は数式によって決定されたトレーディングによって、ファンドを運用しています。・・・我々は非常に流動性の高い上場商品しか運用しておりません。つまり、CDSやCDOには関わっておりません。我々のトレーディング・モデルは、最近になって下落した株を買い、最近上昇した株を売るという、逆張りの傾向があります。」

P395: その年、すべてのヘッジファンドが損失を出したわけではなかった。2008年、ルネッサンスのメダリオン・ファンドは高速コンピュータを駆使し、マーケットの極端なボラティリティに乗じて、80%という驚異的な運用成績をたたき出した。ジム・シモンズがその年のヘッジファンド界の最高報酬額、25億ドルを手にした。
ユニバーサ・インベストメンツのファンドは、ナシーム・タレブの長年の共同研究者でもあるマーク・スピッツネーゲルが運用しており、2008年には、ほとんどのクオンツ・モデルが予測しているよりもはるかにマーケットのボラティリティが高くなる方向に投資し、150%もの利益をあげた。ファンドの「ブラック・スワン・プロテクション・プロトコル」は、大きくアウト・オブ・ザ・マネーになっている株や株価指数のプット・オプションを買い、リーマン破綻と市場の暴落時に確実に利益をあげた。

P412: 2008年の終わりには、(エド・ソープの)そのストラテジー(システムX)は、レバレッジなしで、18%の利益を出していた。その一年のあいだに、週次ベースでマイナスを出したのは一度きりだった。

P399: 多くのクオンツ、いやほとんどのクオンツは、一人でじっと考え事ばかりしている役立たずだ、と彼(ポール・ウィルモット)は言った。彼らは社会性に欠けた頭でっかちで、荒っぽくてガツガツした金融の世界とは全く相容れない、水晶のように美しい数学の世界に自己陶酔しているだけだ。難しいのは人間の心理や行動の部分だ。我々はマシンではなく、ヒューマンのほうをモデル化しているのだから。
銀行やヘッジファンドは金融市場での経験が全くないクオンツを採用してモデルを作らせている。そして、予想もしなかったようなことが起きたときにそのモデルが有効なのか、科学的な検証もないまま、モデルを導入している。それなのに、モデルが機能しなくなって損失を出したことに驚くとは!
かつて金融市場は昔ながらの信頼関係によって運営されていた。しかし最近は、数学や物理学の博士号取得者だけが、複雑な金融市場を学ぶのにふさわしいと見なされている。それが問題なのだ。博士号取得者はサインとコサインの違いは分かるかもしれないが、割高な株や債券と割安なそれとを見分ける方法については、ほとんど何も分かっていないことが多い。自分たちが作ったすばらしいモデルの精緻な部分にばかり目がいって、全体をみることができなくなってしまう。さらに悪いことに、彼らは自分たちのモデルはマーケットの仕組みを完璧に反映していると信じ込んでいた。彼らにとっては、モデルがザ・トゥルースだった。このような盲信はきわめて危険なものだ。
ウィルモットと(ウォール街を往く物理学者)エマニュエル・ダーマンは共同で「フィナンシャル・モデラー宣言」と題する論文を書いた。
「物理学は、物質の未来の形や動きを驚くほど正確に予測することができたため、それが金融モデルの設計者にもインスピレーションを与えた。物理学者は、同じ実験を何度も何度も繰り返し、物質の力関係や魔法のような数学的法則を発見することによって、研究を行っている。・・・しかし、金融や経済はそれとはまったく別物である。貨幣価値という、心理的な部分が関わってくるからだ。金融論では、金融の基本的な法則を発見するのに、物理学の手法や正確さを模倣しようと努力してきた。・・・しかし、金融にはそのような原則はない、というのが本当のところなのである」

・私は世界を創造したのは自分ではないことを、そして世界は数式のようにはいかないことを、肝に銘じる。
・私は価値を予測するために堂々とモデルを使うが、数学に偏りすぎない。
・私は正当な理由なしに、エレガントさを重要視して、現実をないがしろにすることは決してしない。
・私はまた、私のモデルを使う人に対し、モデルの正確性を過信させるようなことを言わない。
・私は、自分の仕事は社会や経済に対して、自分が思っているよりもはるかに大きな影響力を与えうることを理解する。

P409: 53歳のとき、(ピムコのビル・)グロースは連続してマラソンを走ることを決めた。5日連続で、5回のフルマラソンを走ったのだ。5日目、彼の腎臓が破裂した。橋に差しかかったとき、血が脚を伝って流れているのが見えた。でもグロースは走るのをやめなかった。彼は完走し、ゴールの向こうで待機していた救急車に倒れこんだ。

ビル・グロースもハンパないな。

0 件のコメント: