2010年10月26日火曜日

マクロモデル分析の新潮流 塩路悦郎 一橋大学教授

日経新聞の「やさしい経済学」のコーナーで塩路教授が解説していた。
「新しいマクロモデルとは、旧来型における機械的な家計・企業の前提を、将来についての予想も考慮しながら最適な行動を選ぶ家計・企業の前提に置き換えようとする試みなのである。
これまでのマクロ経済学では「古典派」対「ケインズ派」の対立と見られてきた。古典派モデルの特徴は価格が完全に「伸縮的」だと想定する点にある。もう一つの特徴は実物変数が名目変数とは無関係に決定される、という性質。
新しい動きの最初が、1980年台前半にプレスコット米アリゾナ州立大学教授らが提唱した実物的景気循環(リアルビジネスサイクル=RBC)理論。古典派の流れをくんで価格は完全に伸縮的とされ、名目変数は重要な役割を果たさない。古典派との違いは家計・企業は将来の経済状況や政策を予想しながら現在の行動を決定すると想定した点にあった。比度日とは経済の構造や政府の意図を理解して合理的な予想を立てるとされる。
重要な要因は生産能力である。生産能力は生産要素(生産設備と労働時間)の量とそれら生産要素がどれだけの生産性を発揮するかで決まる。生産性の高い経済ほど起業は生産設備の増強に積極的になり、高くなった賃金につられて家計もより長い時間働こうとするからである。RBC理論では景気変動の主な源泉は生産性の変動と考えられた。好景気とは通常以上の勢いで生産性が伸びているときで、生産性が通常の伸び方に比べて一時的に鈍ると不況になる。
ケインズ派では価格は短期的には粘着的とされ、生産は基本的に需要で決まると考えられていた。ケインズ派の多くは『長期的には生産性がGDPを決めるが短期的には価格の粘着性によって需要がGDPを決める」という話を展開する。
RBCは「長期も短期も生産性が大事だ」とする。
1990年代中ごろから「人々は将来について予想を立てつつ最適に現在の原則を尊重しつつ、価格の粘着性という新しい要素を加えた研究が盛んになった。これが「ニューケインジアン」。景気の将来予想が悪いときには現在の物価上昇率も低めになる。
ニューケインジアンのモデルは次の3本で表せる。第1が総需要を決定する式、第2がフィリップス曲誠意、第3が金融政策ルール。
DSGE(Dynamic Stochastic General Equilibrium)「動学的確率的一般均衡」。DSGEはこうした特徴を持つマクロ経済理論全てを含む点に注意。現時点で有力なDSGEはRBCとニューケインジアン。
3つの困難がある。第1は、金融政策の効果が「個別企業はたまにしか価格を変えない」という仮定から導かれている疑念。第2はこのモデルが現実のデータにうまく合うには、労働市場に何か不完全性があるとみなすことが大事。第3は、現在のモデルでは、今回の金融危機のような大きな出来事の原因を説明する力があまりない。」


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